17 逸材なのよ
試験の時間に遅れないように、気持ち早めにギルドに行くと、すでに数人が集まっていた。
試験会場はギルドの中庭で、体力測定と簡単な試合、そのあと室内で一般常識のテストだ。
著しく体力がないものや、試合において戦闘技術を全く示せない者、冒険者のイメージを酷く損なうほど品位が低いものは減点対象となる。個別に得点は公開されないが合格点を下回ると不合格となる。
父ゴンダロッドからは、『特にこれという突出したものがない』という太鼓判を押されています! 全体的にそこそこ何でもこなせるけど、秀でている一つがあるわけではない器用貧乏系、それが俺。
「体力は普通ですね。健康的でよく動ける一般人レベルです」
「戦闘技術なあ……筋は悪くないが、得意なものがなさそうだよなぁ。魔法も使えないんだろ? お前さんは、少し強い一般人レベルだな」
「一般常識は、一般的な感じでしたね」
試験管の皆様、評価ありがとうございました。
ザワッ、すごい新人がいるぜ!いきなりBランクだってよ!的な流れは一つもない。それが俺クオリティ。
とりあえず合格したので良かったよ……。
試験はマジで胃がキリキリするぜ。
受付で冒険者証を提出して、また魔法鉱石版にのせる。第1種取得の記載が増えた。
ロビーで待っているはずのサリーナと合流しようと歩きだしたら、横からぬっと男が現れた。
「おめでとう、新人さんよ。お祝いに俺たちのパーティーに入れてやろうか?」
男は、胡散臭い笑顔で話しかけてきた。
おお、こっこれはっ。テンプレ系の!?
トラブルがやってきたぜ……!
俺は身構えて、言い返してやろうと息を吸い込んだ。
「まぁたアナタ達ぃ? このお方はアナタ達のパーティーにはもったいない逸材なのよ! 諦めてちょうだいね!」
いつの間にかサリーナが俺の後ろに立ち、両手を俺の肩に置いている。
「げっ、お前昨日の!」
男がひきつった顔で退散していった。
「このお方」「逸材」という単語に、試験担当のギルド員や受付嬢が首を傾げているが気にしないことにしよう。普通です、分かってます。
「昨日って、俺がムルシウ支部入ろうとした時?」
俺はサリーナを振り返って聞いた。なんか聞こえた気がしたんだよね、あの時。
「あ〜ん、知ってたのぉ? 勝手なことしてごめんなさい、でもあいつらのパーティーは新人潰しの黒い噂があってぇ……」
サリーナが悲しそうな顔で言った。
「ん、守ろうとしてくれたんだよな。問題はないよ、怒ってもいないよ。ただ、危ない事はしなくていいから」
サリーナはAランク冒険者っぽいから、危なくもないんだろうけど。ぶっちゃけ俺の方が危なっかしいだろうしね。
まあ、しばらくパーティーに入るつもりはなくて、路銀稼ぎもソロ活動かなと思ってた。
今回、元妻が魔王領にいることが確定したのと、向こうに入ればサリーナがユーリカにすぐ連絡を取れるというので、とりあえず行ってしまえばどうにかなるだろうという行き当たりばったり作戦を決行する所存。
「あ、サリーナとパーティー組めばいいんじゃないかな?他からの勧誘も無くなるし、どうせサリーナ、俺と一緒に行動するだろ?」
俺はいいこと思いついた! という顔で言った。
「〜〜〜、はいっ!」
両手は胸のあたりで組んで、うるうるして顔を紅潮させているサリーナ。
まるでプロポーズされたかのようなリアクションはやめて頂きたいものである。また周りの視線が刺さってくる…。
サリーナよ、兄弟のようにっていう設定、1ミリもできてないよ!




