16 末永くお願いするわ
「おかーさんもユーリカちゃんも、ご主人がちゃんと覚えてるかわかるまでは秘密よって言ってたのよぅ〜。本当はアタシ、クンクンってしてペロペロってしてナデナデしてほしい欲求が凄かったんだけど! 耐えるの辛かったんだからぁ!」
以前感じた悪寒はそれか!
青年の姿のままでやられたらひとたまりもないぞ、俺のメンタルが。犬耳姿でもキツイけど、前世の犬姿に脳内変換でなんとかっ。犬耳とモフモフの髪の毛だけを見て、あの可愛い小型犬をイマジネーーーション!
「よしよし」
ナデナデ、もふもふ。
脳内変換しても、撫でるのが精一杯である……。
「普段は耳と尻尾は隠してるんだけど、興奮すると出ちゃうのよね」
撫でられて、サリーナの尻尾はご機嫌に揺れている。
この辺じゃ魔族ほどじゃないけど獣人への偏見もまだ強いのだとか。エルフやドワーフは受け入れられているらしいが。複雑だなあ。
魔王領で生まれ、家族が流行病で亡くなったため孤児院で育ったサリーナは、ある時「おかーさん」に会って前世の記憶を思い出した。「おかーさん」から俺とユーリカの転生を知らされてからは、俺たちに会うために冒険者を目指したとのこと。
「無事冒険者になって、まずはユーリカちゃんに会ったわぁ。それから、ご主人の居場所を見つけたの!」
「サリーナは村の中では見かけた事がないと思うけど、中には入らなかったのか?」
「間近で見ちゃったら我慢できなくなっちゃいそうだったんですもの……。すくすくと育つ姿を遠くから見守っていたのよぉ〜」
幼児の頃からずっと見守っていて、母親の気持ちと忠犬の気持ちが混じっているそうだ。だからオネェってわけじゃないよな?
「んー、わざわざ耳と尻尾を隠したりとか……サリーナは魔王領で暮らす方が良さそうだよな。まあ申し込んじゃったし、明日試験だけ受けたら早めに魔王領に向かうか」
「ご主人、アタシと一緒に行ってくれるの?」
「うん? 魔王領に向かう予定だったし、俺たち家族だろ? あれ、転生してるんだからそういう認識じゃおかしいのか? すっかり一緒に行動するつもりになってたよ」
「ううんううん、アタシっ、嬉しい! 一緒に行けなくてもついて回る気だったけどぉ!」
それはストーカーではなかろうか。いや、純粋に忠犬気質だからいいのかな?
俺に異存がないんだから、問題ないってことで。
「会えて嬉しいよ。でもご主人はやめてくれないかな?」
「はぁい、ハルっちって呼ぶわねぇ!」
ニッコリ笑顔で答えるサリーナ。
「あー、俺見た目はずいぶん年下だし、態度これだと不自然だよな? はじめの敬語モードがいいかな?」
俺は自分の服装を見下ろした。どう見ても金持ちには見えない田舎くさい服装。年上のサリーナに対して偉そうに聞こえるこの話し方はおかしいんじゃないかな?
「ハルっち、大丈夫よぉ。母子……じゃないわね、兄弟っぽく振舞うわ! はじめの敬語の感じはもうイヤよぉ、他人行儀で寂しいもの!」
イヤイヤ、と頭を振りながらサリーナは言う。
「んじゃそんな感じで、よろしくな、サリーナ」
「末永くお願いするわねぇ! ご主……ハルっち〜!」
サリーナが仲間になった!(お好きなゲームの効果音で)
翌朝、朝食を食べている時の俺たちの態度を見て
「成就したのね、そして君が攻めなの!?」
給仕の女の子が悶えていた……。




