15 撫でて、ください……っ
「えーと、サリーナさん、ちび太って名前に聞き覚えはないですか?」
部屋に戻るなり、俺は単刀直入に尋ねた。
「!」
瞳を大きく見開いて、サリーナが一瞬固まった。
あ、これ間違いなさそう。
ちび太とは俺が前世で飼っていた犬の名前だ。トイプードルと雑種犬の子を貰ってきて育てた。娘が小さい頃に死んでしまったのだが、クリクリした茶色の毛が走り回るたびにフワッフワッと踊るようだった。
ちび太にジャーキーをあげる時や、おもちゃを与える時にクネクネと体を揺らして喜んでいたのだが、
クネクネクネクネ
サリーナの今の動きが、もうちび太なのだ。
そう認識したら、体の大きなワンコにしか見えない……。
娘も妻も転生してるんだから、犬もじーちゃんもばーちゃんもご先祖様もいてもおかしくないんじゃないかと思う。ただ、通常は魂の洗浄リサイクルされるだろうから記憶はないだろうし、この世界と前世の世界以外にも転生先があるのだとしたら、これは偶然ではなく何かの作為があるんじゃないだろうか?
「覚えてたのか?ちび太の時のこと……」
「ハルっち……いいえ、ご主人っ。アタシ、15年くらい前にご主人の奥様に、おかーさんに会ったの。おかーさんとお話ししたら思い出したのよっ!」
「えっ」
15年前に?アイツもユーリカと同じく先に転生していたのか……?そして話したということは少なくとも無機物じゃないんだな!
「それで、ご主人を探して守るために冒険者になったの……アタシ、ご主人を見つけてすごく嬉しかったけど、でもこの見た目だし怖がられちゃうかなとか覚えてないかもとか思ってずっとずっと会いに行けなかったのよっ!」
うるうると、サリーナの目が潤んできた。
「ずっとずっと、って……もしかして俺の村を守っていたのか?」
「ウンっ。ご主人が小さい頃ユーリカちゃんに会ったでしょ?その時までアタシも一緒に旅してたんだけど、ユーリカちゃんに頼まれて残って、村はずれで危ない魔物や盗賊が来たりしないようこっそり見守ってたのよぉ……。ご主人が旅に出るっていうから今度は付いて行こうって思って、一緒の馬車に乗ったらもうもう我慢できなくなってぇ〜〜!」
クネクネ、ざわざわ。
サリーナが興奮して来た。揺れる体に合わせてフワフワしていた髪の毛が逆立って来て、
「こ、興奮してきちゃった……!ダメぇ、出ちゃうっ!」
にょきっと耳と尻尾が出てきた。
「ああ〜ん、出てきちゃった〜」
「獣人……?」
憧れのもふもふがゴツイ男。美形だとは思うけど、犬耳青年には萌えられない…。こういうのって美少女じゃないの?あるぇー?俺は遠い目をした。
ちなみにちび太はメスだった。当時妻が命名したのだが、太はいらないんじゃないかという俺の意見はスルーされたのだ。
そうか、こっちでもワンコだったのか。
「ご主人。な、撫でて、ください……っ」
うるうる、パタパタ。もふもふ青年が床に座って俺を見上げて言う。尻尾が遠慮がちに振られている。
俺のHPがゴリゴリ削れていく幻聴が聞こえた。
「ウン」
ぎこちない手つきで、俺は忠犬を撫でてやった。




