「傭兵と空に咲く華」
花火を見て思いついた短編です
「ねぇ、おじさん。今日はお仕事行かないの?」
「…………」
「おじさん。少しだけ、話してもいい?」
「…………」
「僕ね、いつか、空を見たいんだ。黒い雲じゃなくて、青い空が見てみたい。いつか、お隣の国とのケンカが終わったら……きっと見れるって、先生が言ってたんだ」
「……そうかい」
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「終わり、ですか」
「そうだ。隣国も壊滅まであと一歩というところだが……我が国も国力が底をついている。共に満身創痍の状況だ。ゆえに……」
「和平協定締結、と。しかし、よろしいのですか?戦況を鑑みるに、こちらの国が不利な状況かと思われますが」
「良いわけがあるかッ!……だが、ここが落としどころだ。水面下で進めていた交渉まで含めて、今の状況にようやくこぎつけたのだ。ここを逃せば、さらに不利な条件を飲まされることになる。それだけは、なんとしても避けねばならない」
「なるほど。差し出がましい真似を、失礼しました」
「貴様の気持ちもわからんでもない。だが、我々の取れる最善はこれしかないのだ。この国の未来を守るためにも、これ以上無駄な血を流すわけにはいかんのだ」
「……それでは、私は明日にでもここを引き払いましょう。金で動く傭兵が残っていると知れれば、何かよからぬ噂が立つかもしれません」
「ああ、よろしく頼む。別れというのに、満足なもてなしもできずにすまない」
「これも仕事ですから。また縁があれば、よろしくお願いします……無いほうが嬉しいですがね」
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「よぉ、もう行くのかい?」
「長居しても邪魔になるからな」
「次はどこへ行くんだ?」
「さぁ、な。急なことで特には考えていないが……もとより巣の無い旅烏。気の赴くままに旅立つさ」
「どうだい。旅立つ前にもう一仕事、していかないか?」
「…………」
「何、そう硬くなりなさんな。別に国家転覆とか、そういう類の話じゃないさ」
「……まずは、話を聞こう」
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「お見事。やっぱり、あんたに頼んで正解だったな」
「戦場に火事場泥棒は付き物だが……ここまでの規模は初めてだったな」
「もともと、ここいらには著名な盗賊団があってな。戦乱にかこつけて力を蓄えていたらしい。不穏な噂を追って来れば、ご覧の有様というわけさ」
「なるほど。これは、残しておいてはまずい代物だったな。この国の残存兵力じゃ、いたずらに被害を増やすことになっていただろう」
「そうだな。……んで、報酬の話なんだが」
「ああ。その話なら、こちらから一つだけ要望がある」
「わかった。話してくれ」
「―――、―――――」
「……なぁ。あんた、本当にそれでいいのか?」
「ああ。できそうか?」
「もちろんだ。我が神に誓って、約束を違えぬと誓おう」
「ではそれで。よろしく頼む」
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「ごめんくださーい」
「あ、先生!どうかしたの?」
「あ、いたいた。これを君に、と頼まれてね」
「手紙?……あ!おじさんからだ」
「なんて書いてあるんだい?」
「んー……『これからも頑張れ』だって!あと、『西の空を見ろ』って書いてあるんだけど……先生、西ってどっち?」
「こっちだよ」
「こっちか!ありが……」
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「しかしあんたも、酔狂な男よな。わざわざこんなこと頼むなんてよ」
「手伝わせて悪いな。俺一人じゃ、どうしても実現が厳しそうだったからな」
「いや、別に不満なわけじゃねぇんだ。……ただ、こういうのもあるんだなって、そう思っただけだ」
「前に立ち寄った国で、“空に花を咲かせる”という触れ込みの技術を見てな。本来とは違う形式になるが……ここにはおあつらえ向きの雲のキャンバスがある。不足はないだろう」
「それで『空に砲弾をぶちかまそう』なんざ、普通思わねぇって」
「どうだろうな。確かあの国の技術も、もともとは兵器転用から生まれたという話だった。やっていることはさして変わらんさ」
「ま、弾薬を消費して悪用されないようにするっつー発想は上手いと思うぜ」
「それもあるが……本命はそっちじゃない」
「?」
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「なぁ、少年。見てるか?」
傭兵の旅は続きます。
またどこかで、皆さんにお会いする日が来るかもしれません。