表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風色ファンタズム〜cherry blossom of the rainbow〜  作者: シグ
第一章:キメラ転移編
7/18

第六話「カレンの閃光眼」

「一人で行くと言ったはいいものの、やっぱり怖いわね…」


 一丁前名ことを言ってタンドラの家を飛び出して来たものの、数歩歩くと一気に不安が押し寄せてきた。

 いやいや、とカレンは首を振り、両手で頬をパチン!と叩く。


 弱気になってどうするのだ。

 ここへ来る途中だって、カミルの助けがあったとはいえ、Bランクの魔獣を倒せたじゃないか。

 自分に自信を持つのだ。

 慢心ではなく、自信を。


 タンドラの家を出て北に向かう。

 道中では相変わらず妙な視線を浴びる。


 暫く歩いていると、道のど真ん中で土下座をしている女性を見つけた。

 仁王立ちした男にひれ伏すように、頭を地べたに擦りつけている。

 男は容赦なく女性の頭を踏んだ。


「駄目だ。てめーんとこの男は、うちの大事な労働力なんだ」


「お願いします!主人がいないと稼ぎがないんです!このままでは娘が…」


「知ったことか。だったらてめーが働けばいいじゃねーか」


 男は嫌らしい笑みを浮かべ、まるで楽しんでいるかのように女性を踏み続ける。

 女性は必死に頼みこんでいたが、お構いなしである。


 …許せない!


 カレンは怒りを顕にして、男と女性の元へ近づいた。


「ちょっと!その足どけなさいよ!」


 自分より遥かに体格の大きい男を睨みつけながら、カレンは言った。

 男は笑いだした。


「ははは、誰かと思えばお子様じゃねえか!腹が痛えや!」


 女の、しかも子供であるカレンが睨んだところで、男には何の威圧もない。

 ただ滑稽なだけだった。


 カレンはため息をつくと、鞘から白銀の双剣を抜いた。


「聞こえなかったの?足をどけなさい」


 冷たく低い声で、カレンは言った。

 それを見て、男も戦闘モードに入る。


「生意気なクソガキだな。殺すか」


 手を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。

 落ち着け、落ち着くのだ。

 目を閉じ、深呼吸をする。

 そしてカッと目を見開くと、カレンは男へ急接近した。


「うおっ!?」


 急に動き始めたカレンに気を取られ、男は一瞬動揺した。

 その隙を、カレンは見逃さない。

 瞬時に男の後ろへ回り込む。


「ハアッ!」


 両手に持った白銀の刃で、男の背を切り裂く。

 大きなバツ印が刻まれた。


「ぐああっ!痛え!」


 男はその場に倒れ込み、悶え苦しんでいる。

 カレンは男の頭を柄でぶん殴り、気絶させた。


「大丈夫ですか?」


 女性の手を掴んで起こす。

 女性はボロボロで、切り傷や痣がそこら中にあった。

 きっとこの男にいたぶられたのだろう。


「お強いんですね、ありがとうございます。でも残念ながら、この男を倒しただけでは何も変わらないのです」


 女性の目は絶望に満ちていた。


「数年前、夫が急に姿を消したんです。話を聞くと、あの訳の分からない連中に攫われたそうで…」


 女性の目から大粒の涙が溢れる。


「もう何年も稼ぎ手がいないまま暮らしてるんです…!食事だって、2日前にパンの欠片を口にしたくらいで…このままでは娘も私も飢え死にしてしまいます!」


 女性は顔を手で覆い、声を上げて泣き出した。


「大丈夫ですよ。私がアジトを壊滅させてきますので」


 カレンは穏やかな口調で告げる。


「だから、もう泣かないで下さい」


「でも、あなた一人じゃ…」


「確かに、心配でしょうね。でも、一応これでもギルドのメンバーなんです」


 カレンは苦笑しながら、女性に右手の甲の紋章を見せる。


「絶対に旦那さんを連れて帰って来ます。約束しましょう」


 それだけ言うと、カレンは先を急ぐべく、駆け足で北へと向かった。


 20分ほどかけて辿り着いたのは、周囲のものと比べてもかなり大きい、石造りの建物だった。

 4階ほどの高さはありそうだ。

 扉は崩れているので、侵入は容易そうだ。

 試しに小さな炎を壁にぶち当ててみたが、すぐに吸収されてしまった。

 どうやら耐魔物質でつくられているようだ。

 接近戦を挑むしかない。



 …怖がるな、戦うのだ。

 カミルがいない今、戦えるのは私だけなのだから。


 意を決したカレンは、両手に双剣を構えながら、建物へと侵入した。



 ―カミル視点―


 気がつくと、俺はベッドに横になっていた。

 何故こんなところに?


 ああ、また発作が起きたのか。

 最近はなかったから油断していた。


 …夢を見ていた気がする。

 内容は思い出せないが、どこまでも暗い、とても嫌な夢だった。

 ひたすら叫び声が聞こえていた気がする。

 何故か嫌悪を感じる金属の音も聞こえた。


 果たして何の夢だったのだろう?思い出せない。


 キリリと痛む頭を抑えながら、俺は立ち上がった。

 カレンはどうしているだろうか。

 そう思い、タンドラの寝室らしき部屋から出た。


 廊下を渡って先ほどいた部屋に戻る。

 そこには頭をかかえたタンドラと、カレンの姿が…


 あれ?


「タンドラさん」


「おお、目が覚めたかの。どうじゃ、具合は…」


「そんなことより、カレンは?カレンはどこです?」


 俺はあたりを見回す。

 まさか、どこかに隠れてるってことはないだろう。


「彼女は…単独でアジトに向かったよ」


 なんだって?


「何で!どうして!」


「お主の回復を待っている間にも、不幸な人は増える。それが我慢できないと言って、飛び出してしまった」


 俺のせいだ。

 こんなくだらない発作に負け、呑気にベッドで寝ていた俺のせいだ。


「爺さん、アジトは町の北側でしたよね?」


「そうじゃ。早く向かってやれ」


 タンドラは俺の武器入れを手渡す。


「はい、行って来ます!」


 俺はドアを蹴り破り、全力で走って北へ向かった。


 生きていてくれ、カレン…!



 ―カレン視点―


 建物に侵入したはいいが、まだ昼とはいえ、中は薄暗い。

 火属性の魔法で明るくすることは出来るが、すぐにこちらの居場所がバレてしまう。

 ちなみに、カレンはまだ光属性魔法を使えない。

 目が慣れるまで少し待ち、ある程度見えるようになったところで、一歩ずつ音を立てないように歩を進める。

 

 耳を澄ますと、男数人の会話が聞こえてきた。


「どうだ、陶器の売上げは」


「順調そのものって感じっすよ、アニキ!」


 いるのは…男が7人くらいだろうか?

 アニキと呼ばれた男は椅子に腰掛けており、「アニキ」の前方に6人程の男が整列している。

 きっと、「アニキ」とやらが親玉なのだろう。


「そうか、ガキや労働力が減ったら、随時補充しておけ。それと…」


 親玉はゆっくりと立ち上がり、カレンのいる方を向いた。


「誰かいるな。テメーら、行ってこい」


「「うす!」」


 カレンは心臓が止まりそうになった。

 しっかり気配を消して隠れていたのに…!


 足音からなるべく逃げるようにしていると、パッと明かりがついた。


 見えるようになったが、見つかりやすくもなった。

 仕方がない、応戦するか。


 カレンは双剣を構え、足音のする方へと向かう。


「いたぞ!」


「殺せ!」


 二人の男を見つけた。

 やはり二人とも体格が良い。


 一人は拳を、一人は蹴りをこちらに放ってくる。

 カレンはそれを間一髪でかわし、その手足を剣で斬りつける。


「ぐあっ!」


「くそ、やりやがったな!」


 男達は反撃しようとしたが、既にカレンの姿はなかった。


「遅い!」


 突然背後から聞こえた声に、男達は思わず振り向こうとした。

 その瞬間、男達は腹部に鋭い痛みを感じた。

 カレンが、両手に構えた双剣で、それぞれの腹を切り裂いたのだ。


 男二人はその場に崩れた。



 カレンの青い瞳は、鮮やかな黄色へと変わっていた。



 もっとも、本人は全く気付いていないのだが。


 その後、残り4人を全て片付けると、親玉のいた部屋に向かった。

 親玉は依然として、椅子に腰掛けていた。


「ほう、その目…セフィリア家の人間か。閃光眼の持ち主が、こんなお子様だとはなあ」


 親玉は怠そうに腰を上げる。


「いいコレクションになりそうだ…魔砲・ウィンドブラスト!」

 

 いきなり親玉は風魔法をぶっ放した。

 カレンは咄嗟に身構えるが、あまりの風圧に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「…!ゲホッ、ゲホッ!」


 衝撃で内臓がやられ、カレンはたまらず血を吐き出す。

 すぐに起き上がろうとするが、痛みで体がうまく動かない。


「テメーのその眼は確かに強い。なんせ瞬時に短距離を移動出来るんだからな」


 親玉はカレンの元へ近づき、頭を掴んで持ち上げる。


「でも欠点がある。消費魔力がべらぼうに多いことだ。そんなことも知らず乱用した、己の愚かさを呪え」


 そう言うと、カレンの目もとに左手を伸ばす。


「その眼、もらうぜ?」


 カレンは何がなんだか分からなかった。

 自分の目がいつの間にそんな風になっていたのか。

 

 そして今、開眼したばかりの眼を奪われようとしている。


 カレンはギリギリと頭を握られ、その痛みで考えることすら困難だった。


 親玉のゴツゴツして太い三本の指が、左目の目もとに当てられた。

 ああ、このまま眼を引き抜かれて殺されるのだろうか。

 やはりカミルの回復を待つべきだったのだろうか。


 私は…結局何もできず死んでいくのだろうか。



 …嫌だ。

 

 こんなところで死にたくはない。

 死ぬ訳にはいかない!


 カレンはかろうじて動く右手にありったけの魔力をこめた。


「炎弾・フレアショット!」


 無数の火属性の弾を放つ。

 親玉はとっさに距離をとったが、2,3発をまともにくらった。 


「ははは、それでいい!もっと抗え!もっと俺を楽しませろ!」


 弾を打ち終えると、魔力が残り僅かなカレンは膝を付き、倒れ込んだ。


 否、倒れ込んではいなかった。


 

 カミルが、その腕でしっかりと抱きかかえていた。



「よかった、間に合った…」


 カミルはそう言うと、カレンを抱きしめた。

 ああ、やはり彼は自分を助けてくれる。

 悪人なんかじゃない。

 嫌なやつなんかじゃなかったのだ。


 体調はもういいのかと尋ねようとしたが、その前にカミルが口を開いた。


「後は任せろ」


 温かな安心感が、カレンの心を満たした。


「うん…」


 カミルはカレンを壁に寄りかからせると、親玉と向き合った。


「さて、大事なパーティメンバーをいたぶってくれたお礼をしますかね」


 カミルは背負った5本の刀を抜いた―

 カレンの閃光眼、果たして眼である必要性はあるのかという疑問が飛んで来そうなので、一応書いておきます。


 正確には「目ではっきりと視認できる範囲に瞬間移動する」という能力ですので、目標が曖昧になる遠距離の移動が出来ないのです。

 せいぜい3〜5メートルってところでしょうか?


 なので一般的には、今回のように「背後に回って、隙作って攻撃をする」といった使い方になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ