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風色ファンタズム〜cherry blossom of the rainbow〜  作者: シグ
第一章:キメラ転移編
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第三話「旅支度」

「急じゃが出発は明後日、行き先は各々に伝える。では、解散!」


 爺さんはそう言って皆を解散させ、各パーティに行き先を指定していく。


 他のパーティはワイワイ喋っているのに対し、こちらは完全に無言である。

 頼む、何か喋ってくれカレンさん。 


「あの」


 そう考えていると、カレンが口を開いた。

 おお、神よ。

 祈りが通じたのですか。


「カレン=セフィリア。名前」


どっかのお姫様みたいな名前だな。


「俺はカミル=フォスキーア」


「知ってる」


 それっきり会話は途絶えた。

 無口というか、ぶっきらぼうというか。

 俺のことを心の底から嫌っているのが良くわかる。

 嫌われるのは勿論嫌なのだが、真相を話して同情されたくもない。

 ああ、なんと面倒な。


 それにしても、カレン=セフィリアか、綺麗な名前だ。

 葛藤と関心に満たされながら無言のままいると、爺さんがこちらへやって来た。


「さて、お前さん達にはここを調べてもらう」


 そう言って差し出した地図の左上あたりを指差す。


「えっと…遠くないですか?」


 カレンが尋ねる。

 確かに遠い。

 馬車を使っても、往復だけで2週間はかかりそうな距離である。


「確かに遠いが、道は整備されているし、危険な地帯も少ない。Sランクになったばかりのカミルと入団したてのカレンには、ここが妥当なんじゃ」


 確かに、実力はどうであれ、俺はSランクの中では序列最下位である。

 対するカレンも、丸腰とはいえ、昨日のキメラに苦戦していた事を考えると、あまり強くはないだろう。

 そう考えると、爺さんの意見は正しい。


「わかったよ、爺さん」


 俺は地図を受け取ると、折りたたんでローブの内ポケットにしまった。


「それとカミル、カレンはまだこちらに引っ越してから日が浅い。ギルド内や町を案内してやってくれ」


 この爺さん、マジで分かってないのか?俺が嫌われてると。


「ええっと…」


「結構です!」


 俺が返事に戸惑っていると、カレンはきっぱり断り、さっさと立ち去ってしまった。


「爺さん、何で俺とカレンをくっつけようとすんの?嫌われてるんだよ?」


「…あの子にはのう、お前と同じで身寄りがないんじゃよ」


 正確には俺は記憶を失っているだけで、身寄りが無い訳ではないのだが、まあ細かいことは置いておこう。


「幼い頃に両親を亡くして、祖母に育てられたんじゃ。しかし唯一の肉親だった祖母も先日亡くなり、稼ぎと住処を求めてグランハルトに引っ越してきたんじゃ」


「そっか…それでイーリスに」


「彼女は見知らぬ土地で、見知らぬ環境に囲まれながら稼いで生きていかねばならん。まだ10歳なんじゃ。お前に面倒を見て欲しい」


 俺も9歳なんだけどね。

 俺が入団した時はまだ爺さんの体調は悪くなかったため、面倒を見てもらった。

 しかし、この二年で爺さんは体を壊し、人の面倒を見る余裕はなくなっている。


 誰かが彼女を助けてあげなくてはならない。


 その役目は、年齢も境遇も似た俺が適任なのだろう。

 …嫌われてさえいなければ、だが。


 そんな訳で、俺はカレンの案内をすることに決めた。



 ギルドから出た俺は、大通りの方へ足を伸ばす。

 昨日キメラが出たばかりだというのに、相変わらず賑わっている。

 そういえば、キメラが現れた場所には異質な魔力が漂っていた。 ここは森からはなれているため危険はないが、他の値域はかなりやばいのではないだろうか? 


 …もたもたしてられないな。


 少し進むと、店の前で立ち止まってオロオロしているカレンを見つけた。

 恐らく、長旅はおろか、クエストも初めてだろう。

 準備といっても何を揃えれば良いのか分からないのかもしれない。

 やれやれと思いつつ、俺はカレンの方へ向かった。


 歩きながら、ササッとメモを書いていく。



 カレンはこちらに気づいてあからさまに嫌な顔をしたが、構わず近づく。

 そして無言でメモだけ渡すと、俺はその足でアンリの鍛冶屋へ向かった。

 支度といっても、揃える物は特にないのだ。



 ―カレン視点―



 先ほどカミルが押し付けてきたメモを片手に、カレンは大通りをうろうろしていた。

 あいつに助けられるのは癪だが、二人で行動するよりはマシだろう。

 そう思うことにした。

 ササッと書いたものであるのは間違いなかったが、それぞれの店の位置だけでなく、特徴も幾つかかいてあった。

 まるでちょっとしたガイドブックだ。


 保存の効く果実を購入しながら、カレンは考え続ける。


 9歳でSランク、素直に凄いとは思っている。

 カミルを嫌う理由の一つには、嫉妬もあるかもしれない。

 でも、あんな風に自分の能力を自慢しながら生きているような人間は大嫌いなのだ

 エストラとかいうナルシストも然りである。


 イライラしながら市場を回ること二時間、一通り必要なものは揃った。

 後は武器と簡易テントくらいか。


 カレンは剣術がからっきしなので、基本的に武器は使わない。

 しかしこのまま下手糞で居続ける訳にもいかないので、一応勧められた鍛冶屋に足を運んでみることにした。


 簡易テントはその後でいいだろう。



 カミルのメモに従って歩くこと20分、到着したのは、看板に「アンリの鍛冶屋」と書かれた、少し古臭い鍛冶屋だった。

 …これならギルドの鍛冶屋の方がいいんじゃないの?

 そう疑問を抱えつつ、年季の入った木製のドアをギィと押した。


「し、失礼しまーす…」


 萎縮しながら呟くものの、返事はない。

 ドアを閉め、中をうろついてみる。

 誰でも扱えそうな短剣から、果たして誰が使うのかと疑問を覚えるほど大きな両手剣、弓、槍、双剣など、様々なものが展示されている。


 すると、加工場があるであろう方向から声が聞こえてきた。


「で、本当のことは喋ってないの?」


「同情とか嫌いなんですよ。だったら嫌われたままでもいいかなって」


 知らない女性の声と、カミルの声だった。

 ちゃんと、嫌われている自覚はあるようだ。


 「本当のこと」って何だろう…

 カレンはこそこそと声のする方に近づき、壁に隠れて二人の書い会話を聞こうとした。


「健気だねえ…でも誰かに相談するのも大事だよ?その子、あんたと同じくらいの歳なんだろう?」


「10歳ですね。でも先入観ってのは強いもんですし、それに有名になりたいのは事実です。彼女の意見はもっともですよ」


 カミルはずっと、離れていても分かるような自嘲気味の笑みを浮かべている。

 カレンがこの二日間では見たことのない、弱々しい姿だった。


「まあ強要はしないけど、その子とパーティ組んだんだろう?お互いの信頼のために、そういった誤解は解いておいたほうがいいんじゃないの?」


「だから誤解ってのは間違いですってば、アンリさん。でも、うーん…」


 知りたい。

 いや待て、これもカミルの作戦の一環ではないだろうか?

 自分が勧めた鍛冶屋でこんな重要そうな話をするなんて、いくらなんでも間抜けすぎる。

 罠だ、信じてはいけない。


「あのー、武器が欲しいんですけど…」


 カレンは身を隠すのをやめ、アンリに話しかけた。

 

「カレン!?まだそんなに時間は経って…」


 カミルは驚いた顔で、壁に掛かった時計に目を向ける。


「もう二時間以上経ってたのか…」


 そう言うと、頭を抱えた。


「カミル、この子が例の子かい?」


 アンリはカミルに問う。


「ええ。カレン=セフィリア、僕のパーティメンバーです」


「あのー…」


「ああ、ハイハイ、武器ね!ついておいで!」


 アンリはどっこいしょと席を立つと、カレンについてくるよう促しながら武器庫らしき部屋へ入っていった。


「あ、待ってください」


 カレンは慌てて後を追う。


 横目でチラリとカミルの姿を見ると、彼は相変わらず頭を抱えていた。



 武器庫に入ってみると、そこには店頭とは比べ物にならない程の大量の武器があった。

 空のような美しい水色の物もあれば、マグマのように赤い物もある。

 見とれていると、アンリが口を開いた。


「明後日旅立つんだろう?新しく作ったんじゃ間に合わないから、この中から好きなのを選ぶといいよ」


 そう言われても、今まで武器なんて手にしたことがない。

 戦闘は極力魔法でどうにかしてきたのだ。


「えっと、アンリ?さん」


 戸惑いながら、カレンは口を開く。


「私、武器を使ったことがないんです。おすすめの物はありますか?」


「ほう、純粋な魔導師とは珍しいね。そうだねえ…あんたは手足も細いし、これなんかいいんじゃない?」


 そう言うと、アンリは白銀に輝く双剣を手にとった。


「双剣ですか?」


「軽いし、手軽だし、女性には使いやすいと思うよ。あんたは身軽そうだしね」


 カレンは手渡された双剣を握ってみた。

 握りやすい。

 柄は掌が馴染む素材で作られているみたいだ。

 そして何より、軽い。

 これなら長時間使っても疲れないだろう。


「気に入ったようだね」


 アンリは得意顔で言う。


「剣術指南はあたしにゃ出来ないから、パートナーさんに教えてもらうんだね。彼は本当に立派な魔導師だよ」


「でも、あいつは…!」


「言いたいことは分かるよ。というか、さっきの話聞こえてたんだろう?」


 カレンは黙って頷く。


「嫌いになるのは構わないけど、パーティならお互いのことをもっと知らなきゃダメだよ。何があったかは本人に聞きな」


 はい、この話はおしまい!とでも言うように、アンリは両手をパンと鳴らした。


「因みにこれ、おいくらなんですか?高そうですけど…」


「え?ああ、代金はいらないよ。あたしが昔趣味で作ったやつなんだ。カミルの紹介ってこともあるし、今回はタダでいいよ」


「あ、ありがとうございます」


 カミルがこの鍛冶屋を勧めた理由が分かった気がした。

 アンリさんはきっと、金にこだわらず、とにかく良い武器を提供しようと努力している人なのだ。


「あとはコイツを入れておく鞘だね。背中に背負えるのがいいだろうから…はい、これなんかどうかな?」


 アンリは暫く、綺麗に畳まれた背負えるタイプの鞘をゴソゴソと探し、サイズが合いそうなのをカレンに手渡した。

 黒龍の革を使った、滅多なことでは壊れないもので、通気性、伸縮性にも優れている。

 魔力耐性もかなりのものであり、かなり高級な部類だ。

 試しに背負ってみると、サイズはピッタリだった。


「おまけだよ。代金はいらないから大事にしてね」


「ありがとうございます!」


「ははは、また来てくると嬉しいな」


 カレンはアンリに続き、武器庫から出た。

 アンリさんは本当に立派な人だと、心からそう思った。

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