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風色ファンタズム〜cherry blossom of the rainbow〜  作者: シグ
第一章:キメラ転移編
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第二話「緊急会議」

 結局、ギルドに戻ってくるまで少女は終始じっとしていた。

 先ほど怒鳴ってしまったのが効いているのだろう。

 悪いことをした。


 途中で血相を変えて走ってくるギルドメンバー数人とすれ違ったが、「魔獣は片づけた」というと、「お、おう。そうか」とだけ言い、ギルドへ帰って行った。

 抱えている少女には触れられなかった。


 「爺さん、怪我人だ!医務室と治癒魔法使える奴を一人呼んでくれ!!」


 ギルドの扉を勢い良く開き、俺は叫んだ。


「よかろう。抱えているのは…カレンか。入団直後に不幸なもんじゃ」


 ジルは悲しそうな目で少女を見つめた。

 名前はカレンというらしい。


「大通りにキメラが現れたんだ。何が起こってる?」


「そのことも含め、今夜会議を開く。準備しておくのじゃ」


「おっす」


 返事を済ませると、俺はすぐさまカレンを医務室に運んだ。

 少し遅れて、治癒魔法の使い手レイラが入ってきた。

 レイラはすぐにカレンの元へ駆け寄ると、体を調べ始めた。


 …俺、出ていった方がいいかな?


「どうですか?」


「あばら骨が3本折れてるわね…あとは右足を捻ってる。まあ治療すればすぐ治るわ」


 良かった、大事には至らないらしい。

 もう少し気付くのが早ければ、彼女は無傷だったと思うと、悔しくて仕方がない。


「えっと、じゃあ俺は出て行きます。後は任せました」


「そう。脱がせるから手伝って欲しかったのだけど…」


「…同じセリフをギルド酒場で叫んだら、男十数人は釣れますよ」


 さらっととんでもない事を言う人だ。

 さすが天然。


 苦笑いしながら、俺は医務室を後にし、酒場へ向かった。



「強さをひけらかしてる人は嫌い…か」


 頼んだ料理を待つ間、カレンの言葉について考えていた(料理担当のレイラはまだ治療してるのだが)。


 強さをひけらかす…傍から見たらそう見えるのだろう。

 まだSランクなのにSSランクのクエストに出かけることもある、というのが最大の理由だと思う。


 入団してからというもの、俺は常に名が知れ渡るよう努力している。

 有名になれば、例え離れていても、本当の家族が俺を見つけてくれるかもしれないと思ったからだ。


 安易だと分かっていても、7歳の頃の俺にはこのくらいしか思いつかなかった。


 しかし、ここ二年間で家族らしき人は現れなかった。

 


 自分が何者なのか。

 どんな人間なのか。

 どこで生まれたのか。


 

 未だ何も思い出せずにいる。


「はいおまたせ、ビーフシチューよ」


 両肘をついて額を抑える俺の目の前に、コトリと銀色の皿が置かれた。


 顔を上げると、レイラがにこやかな笑顔でこちらを見ていた。


「あれ、もう治療は終わったんですか?」


「終わったわよ、30分くらい前に。」


 そんなバカな、と懐の懐中時計を見ると、医務室を出てから1時間が経っていた。

 考えていたらいつの間にかである。

 悪い癖だ。


「あと一日ゆっくり眠れば、元気になるわよ」


「よかった、ありがとうございます」


「それと」


レイラは、人差し指を俺の額にコツン、と当てた。


「考え込んでいたみたいだけど、もう少し肩の力を抜きなさい。貴方はまだ9歳なんだから。」


「まあ…でも考えないといけないことが山ほどあるので」


「老けちゃうわよ?」


 二人同時にプッと吹き出した。

 この人の癒やし力半端ない。

 恐ろしや。


「それじゃあ頂きますね」


 置かれたスプーンを手に取った。

 考えていたら腹が減った。


「ごゆっくり〜」

 

 そう言って、レイラは厨房へ戻って行った。


 腹ペコの俺は、夢中で肉を口に頬張った。


ーーーーーーーーーーーーー


「それでは、S級会議を始める!」


 ジルが高らかに宣言する。


 医務室のある廊下の突き当りに、酒場の1/4程度の広さの会議室がある。

 俺を含めたS〜SSSランク魔導士が集い、時折会議をする。


「マスター、いったい何の会議なんだい?」


 SSランク、エストラ=マートゥスが尋ねる。

 常に魅了チャームの魔法を自分にかけており、女性陣からはモテモテのコイツ。

 因みに顔面偏差値はそうでもない。

 クサい台詞を吐いてカッコつけている、ちょっとウザい奴である。


「貴様は今日の事件を知らぬのか!たわけ!」


 SSランク、クレイガン=ギストが、険しい顔で爺さんの代わりに応えた。

 常に気難しそうな顔をしているおっさんで、何より頭が硬い。

 もう十数年前経てば、立派な老害になれるだろう。


「オゥ、ソーリー。今日のキメラの件だね」


 エストラが応える。

 うわあ…気色悪い。


「…早く進めろ」


 SSSランク、クレハ=シャーロットがぼそっと呟く。

 常にフードを被っており、素顔を見た者はごく少数である。

 因みに、俺も見たことがある。

 赤髪のすっげえイケメンだった。


「コホン…えー、今日大通りに突然現れたキメラについてじゃが、実はこの大陸の十数カ所で、似たような事例が起こったことが判明した」


 爺さんがそう言うと、少し部屋がざわついた。


「同時に…ですか?」


 Sランク、フェルア=ネストが不安そうに尋ねる。

 タレ目でいつもイジイジしているが、実力は折り紙つきの女性である。


「ほぼ同時刻じゃ。場所もほぼランダムで、規則性のない所に現れている」


 爺さんが続ける。


「これは勝手な推測じゃが、おそらくフェザーモルテ大陸の連中の仕業だろうと儂は睨んでおる。しかし…」


 フェザーモルテ大陸は、世界にある五大陸のうち最も面積の小さい大陸である。

 他大陸との交流を一切断ち切っているため、排他的意識と独自の文化が栄える…らしい。

 流石に俺も足を踏み入れたことはない。


「何故都市を直接狙わなかったのか、だな」


 俺は爺さんに続いて発言する


「うむ」


 ふと辺りを見渡すと、数人が机に突っ伏していた。

 なんなのこいつら…


「単なる実験だったのか、それとも単にミスをしただけなのかってとこか」


「そうじゃな。いずれにせよあの大陸が脅威となる前に、手を打たねばなるまいな」


 爺さんと俺の会話は続く。


「んん?待ちたまえ君たち。大陸間の争いは条約で禁止されているではないか」


 喋んなエストラ。

 気持ち悪い。


「あの大陸の仕業『かも』ってだけじゃ、条約破棄まで持っていくのは難しいだろう…ね」


 エストラが続ける。

 やめろ、吐きそうだ。

 言ってることが正しいから余計腹立つんだよキザヤロー。


「とりあえず、現場を見に行った方がいいのではないでしょうか?」


 レイラが意見する。

 因みに彼女はSSランクである。


「他ギルドが動く可能性があるとはいえ、Sランク以上の精鋭が集まるのはこのギルドだけでしょうし」


 ギルドには、SSランクが2人いれば良い方である。

 その点イーリスは特殊で、Sランクが10人以上いる上、SSランクは4人、SSSランクが二人いる。


 大陸一と言っていいほど有力、かつ少数である。

 調査にはもってこいだ。


「賛成だ」


「僕も賛成…さ!」


「わ、私も…」


「異論はない」


「爺さん、行こう」


 会議に真面目に参加していた他の5人は口を揃えて同意した。


 その後、キメラ出現事件についての対処方が次々と飛び交った。

 フェザーモルテと戦うべきだとか、各国に条約破棄を申し出ようとか言う意見も飛び交ったが、

 まだ奴らの仕業と決まったわけではない以上、下手に手出しはできないということで落ち着いた。


 とりあえず現場へ向かうことは決まったが、一人だと危険だということで、S級を含めた二人組のパーティで行くことが決まった。


 …俺、ソロなんすけど。


 若干しょんぼりしていると、爺さんが哀れんだ顔でポンポンと肩を叩いた。


「安心せい、パーティはこちらで決める」


 同情って一番傷つくんだよなあ…


 あかん、涙が出てきた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 次の日、クエストに出かけている者を除き、70人のギルドメンバーがクエストボードの前に集められ、昨日の会議の内容が伝えられた。


 どよめきが若干上がったが、皆真剣に爺さんの話を聞いていた。


「―と、いう訳じゃ。そして今から現地調査へ出かけず、ここに残るメンバーを発表する。まず―」


 爺さんは名を連ねていく。


「――、以上の50名はギルドに残ってもらう。では、パーティを発表するぞ」


 ついに来た。

 出来ればうるさくない人だと良いのだが…


「エストラとパルマ」


「よろしく…ね」


 エストラは決め顔でそう言った。


「は、はい!」


 気色悪い。

 チャーム卑怯だろ…


「次に…」


 爺さんは次々とパーティを発表していく。


 ふと、クレハの姿が見えないことに気がついた。

 何をやっているんだろう?


 …そして、最後の一組の発表の時が来た。


 え、呼ばれてないのって、俺と、あと…

 チラッとカレンの方を見る。

 彼女は嫌悪の表情でこちらを見ていた。


「最後に、カミルとカレンじゃ」


「待ってください!」


 カレンが叫んだ。


「何で私とこいつなんですか!」


 こいつとはなんだこいつとは。


「能力が均等になるように振り分けた結果じゃ。文句があるなら置いていくぞ」


 爺さんは冷静に応える。


「っ…!」


 カレンはそれ以上何も言えず、引き下がった。

 ただ、依然として俺を睨み続ける。


 嫌われてんなあ俺。

 どうにかして印象を良くしたいけど、自分から「俺は記憶をなくしてるから、手がかりを得るために名前広めてるんだぜ」アピールをするのもなあ…。


 

キャラクターの外見イメージ


・エストラ=マートゥス:若い。紺色の髪をしたフツメン。


・クレイガン=ギスト:ハゲ。おっさん。厳つい顔のマッチョ。


・クレハ=シャーロット:NAR○TOのサ○リ(中身)。


・フェルア=ネスト:頬にそばかすをつけた若い女性。緑色の髪。


・パルマ:モブです。エストラにメロメロな女性陣の一人が欲しかっただけなので、特に意識しなくて結構です。


登場キャラクターが増えてきましたので、こいつ誰?ってなったら遡って後書きをご覧ください。

イメージだけでも湧くはずなので。

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