第十四話「爆発魔法・結界魔法」
今回は少し短めです
〜トルマ視点〜
「おいトルマ、聞こえたか?」
「ああ、ドラゴンの声だ。それも三頭とはな」
トルマ・ザリアペアも異変に気づいた。
ドラゴンの声である。
こんな島に住んでいるはずのない、ドラゴンの咆哮が聞こえたのだ。
しかも鳴き声からして、三頭はいるようだ。
「おそらく、ありゃカミルの向かった方角にいるな」
「どうすんだよザリア、助けに行くか?」
「いや、そうも言ってられないようだぜ。構えろ、トルマ!」
ザリアはそう言うと、全身に魔力をこめて構えの体勢をとった。
何でテメェに指図されなきゃいけないんだよ、とぶつくさ言いつつ、トルマも前方に集中して魔力を両手にこめる。
途端、目前数メートルの所で小さな爆発が起きた。
「トルマ!」
「ああ。雪風・スノーウィンド!」
トルマは雪魔法で煙を散らす。
「ハッハ!察しの良いガキ共だねぇオイ!」
すると、煙の奥から嫌みったらしい顔をした男が出てきた。
右目はひんむかれており、ノースリーブの黒服から伸びる右手には、大きなタトゥーが入れてある。
黒髪は爆発したように散らばっていて、見ただけでトラウマを植え付けて来そうである
「紋章を見るに、二人共Bランクか。ただの雑魚じゃねえか。俺ぁSランクくらいの奴と戦いたかったんだがなあ」
男はつまらなそうに欠伸をすると、やれやれと首を振った
ふざけた事を言う奴だ。
Sランクの魔導士なんて、そうそういるもんじゃないんだぞ。
「さっきの爆発もコイツの魔法みたいだな」
ザリアは構えをとりながら言う。
「物を爆発させる魔法……ってことか?」
「だろうな。かなり特殊な魔法だ」
トルマの問いに、ザリアは応える。
目は真っ直ぐに男を捉えていた。
「なあなあ、Bランクのガキ共よぉ、お前らのパーティにSランク以上の魔導士いねえの?」
二人にはまるで興味がないとでも言うように、男は尋ねる。
ザリアは挑発に乗っていしまい、怒りを顕にして叫んだ。
「テメェごとき、俺一人で十分なんだよクソヤロー!」
「ザリア!突っ込むな!」
トルマの制止も聞かず、ザリアは右手に魔力を纏い、男へ向かって突っ込んでいった。
バカが、接近型の魔導士にどうにかできる訳ないだろ!
「はあ、これだから嫌なんだよガキは」
男は面倒臭そうに右手を払い、爆風でザリアを吹き飛ばす。
ザリアは数メートル吹っ飛び、勢いを殺せないまま地面を滑った。
「ザリア!」
トルマはザリアの体を抱え、両足で踏ん張って勢いを殺した。
ザリアの体に火傷はないようだったが、ところどころから血が流れている。
トルマは男を睨みつける。
「話を聞けやクズ共」
男は怒りの形相でこちらを見ていた。
ザリアは体に魔力を纏って打撃攻撃をするのを得意としている。
故に接近戦ではかなり強いが、魔法相手だと相性が悪すぎる。
魔法を打ち消すことは出来るものの、爆風となるとまた別である。
ここは自分がやるしかない。
トルマは立ち上がると、右手に冷気を発生させた。
「雪弾・スノーショット!」
右手を前に構え、無数の雪弾を発射する。
「お前なあ、雪で爆破魔法に勝てると思ってんのか?」
男はまた爆風で雪弾を防御する。
爆風を浴びた雪は成すすべもなく溶け、男の前に小さな水たまりを作った。
「さあてそろそろ片付けるか。よっと」
男は飛び上がり、トルマとザリアが立つ地面を次々と爆破させ始めた。
次々と土煙が上がり、地面に大きな穴を作っていく。
トルマはザリアを抱えながら、必死に右へ左へ走る。
「オラオラオラオラァ!」
「くそっ!雪倉・スノードーム!」
トルマは立ち止まって大きなカマクラで二人を覆い、ほっと息を吐く。
外で大きな爆発音がする度、内部の雪がパラパラと音を立てて落ちていく。
このカマクラも少ししたら崩れるだろう。
今のうちに作戦を考えなくては……
いや、それよりも、
「おら、起きろザリア!」
ゴツンとザリアの頭を殴る。
何も考えず突っ込んでいったこのバカを起こさなければ。
「痛って!何すんだよ!」
「寝てんじゃねえよ!お陰で避けるの大変だったわボケ!」
非常時でも、二人の不仲は相変わらずであった。
〜ライル視点〜
「はぁ、はぁ……」
「もう終わりっすか、Aランクも大したことないっすね。それ!」
「……っ!ぐあっ!」
ライルもまた、謎の男相手に苦戦を強いられていた。
でっぷりと太った男は、その体型に似合わず結界を駆使した魔法を使ってくる。
男の付近に魔法が発生したと思えば、途端思いもよらない所から攻撃が飛んでくるのだ。
おそらく空間魔法の一種だろう。
「休んでる暇はないっすよ。それそれ」
攻撃魔法自体は大したことないのだが、どこから来るか分からなければ防御も難しい。
的確に死角を突いてくるため、見てから避けるのでは間に合わない。
「くそっ、魔鏡・リフレクター!」
ならば、と、ライルは自分の周囲に鏡を作り、攻撃を跳ね返そうと試みる。
しかし、魔法は鏡とライルの間にできた僅かな隙間に発生し、そなまま炸裂した。
「ぐあっ!」
「あっしの空間魔法、防御は不可能っすよ」
男は皮下脂肪だらけの醜い顔で、ニタリと笑う。
戦闘が始まって約十分、防戦一方どころか、一方的に攻撃されている。
ライルの強さは鏡による防御性能にあるため、攻撃用の魔法があまり揃っていない。
相手の魔法を跳ね返していさえすれば、たいていの戦闘では勝てるからなのだ。
しかしその防御が通じないとなると、ライルに成すすべはない。
「トルマ達の心配をしている場合ではなかったな」
ライルは自重的な笑みを浮かべ、立ち上がる。
日光もないため、ソーラーブラストも使えない。
結界を張った張本人はきっとこいつなので、こいつを倒さなければ日光は現れない。
しかし、ソーラーブラストを使えなければ、勝つのはかなり厳しくなる。
「魔法の発生場所を見切るしかないか」
ライルはそう言うと、目を閉じた。
魔力を感じるのに、目はいらない。
むしろ邪魔だ。
感じろ、察知しろ。
「おお、目を閉じるっすか。余裕っすね」
男は相変わらずケタケタと笑っている。
ライルはそれを無視し、走り出した。
「終わりにするっすかね。そらよっと」
さて、どこから来る?
右が、左か、それとも……
「正面!魔鏡・リフレクター!」
ライルは正面に鏡を作り、魔法を跳ね返す。
よし、初撃はなんとかなったか。
「チッ、それそれそれ!」
ライルは左右から飛んできた魔法をしゃがんでかわし、その体勢のまま前転をして下からの魔法を避ける。
前転を途中で停止して正面で炸裂した魔法をやり過ごし、そのまま鏡を構え回転して様々な方向から飛んでくる魔法を弾く。
動きながらよけることで、向こうも狙いが定まらないのだ。
これなら!
「行けると思ったっすか?」
ライルが着地すると同時に、足元に魔法が飛んできた。
一瞬の隙を狙われ、ライルは咄嗟のガードができず、右足に魔法をくらった。
「ぐっ……くそっ!」
回転着地の勢いを殺せず、ライルはその場に倒れ込む。
失敗か……いや、次こそは!
「諦めが悪いっすね。鏡魔法程度で、このゴルバス様に勝てると思うっすか?」
「さあ、どうかね。やってみなきゃ分からない」
ライルは痛む右足を庇いながら立ち上がる。
「ハッハッハ、もうまともに立てないじゃないっすか!よくそんな状態で戦おうと思えるっすね!」
ゴルバスは指を差して笑うが、ライルは全く動じない。
「パーティリーダーとして、私が負けるわけにはいかないのでね」
そう、ランクではカミルの方が上でも、一応リーダーはライルなのだ。
名ばかりなのは分かっている。
自分が強いことを示す訳ではないことも。
しかし、情けない姿をメンバーに晒す訳にはいかないのだ。
助けを待とうなんて考えは、微塵も浮かばなかった。
否、浮かんだがすぐに打ち消した。
「面倒なプライドっすね。それが自分を苦しめるんすよ!」
ライルは再び目を閉じ、次の攻撃に備えた。
キャラクターの外見イメージ
・爆破魔法の男:爆発したようなボサボサの黒髪、細身、右目をひんむいている。
・ゴルバス:デブ。黒髪短髪で細い目。