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第十三話「操龍魔法・操木魔法」

 俺は山の北北東部を進んでいた。

 木々が生い茂り、しかも辺りは暗い。

 視界は最悪である。

 特に強いものはいないのだが、魔獣もかなりの数ウロウロしている。

 そりゃずっと夜なのだから、活発化するのも頷ける。


「……!風刃・ウィンドスラスト!」


 違和感を感じたため、右へ向かって風魔法をぶっ放す。

 発生した風の刃は木々をなぎ倒しながら進んでいき、目標にぶち当たった。

 少し遅れて、魔獣のものと思われる悲鳴が聞こえた。

 よし、命中だ。


「しかし、数が多いな」


 この道を進む間に、少なくとも20体は討伐しているのだが、襲われる頻度はむしろ増しているように思える。

 どう考えても異常だ。

 それに加え、俺達が山に入ってすぐ、頂上の方から嫌な魔力を感じた。

 禍々《まがまが》しいというか、とにかく気味の悪い魔力だ。


 あの長老の話を総合すると、おそらく「不審者」とやらと結界には、何かしらの関係があると見ていい。

 二つとも同時期に確認されたこともそうだが、この魔力と結界に使われている魔力の質が似通っているのだ。

 昼になると不都合なことがあるから、わざわざ結界を張って常に夜にしている、ということなのだろう。


「連中は四人、俺達それぞれにつき一人が当てられているとすると、カレン達が心配だな」


 この半年で成長したとはいえ、カレンはまだCランクだ。

 閃光眼も使用回数が限られているし、魔力もまだ低い上、剣術も指南中である。

 それに対し、クィールはBランクだが、治癒魔法以外はからっきしなのである。

 カレンを回復させることができても、本人が自分の身を守れなくては意味がない。

 

「……急ぐか」


 俺は他のペアの応援を急ぐため、とっととこの気持ち悪い魔力の持ち主を片付けることにした。



 〜ライル視点〜


「何なんだこの魔力は」


 同じ頃、ライルも異変に気づいていた。

 少なくとも、今まで感じたことのない奇妙さを持つ魔力である。

 何事もないかのように生い茂る木が、咲き乱れる花が、余計に違和感を演出する。

 失敗した、とライルは思った。

 カレン、クィール、トルマ、ザリアを別行動させるべきではなかったかもしれない。


 ライルは立ち止まる。


 あの四人はまだ未熟だ。

 Sランクであるカミルと、Aランクである自分は何とかなるだろう。

 しかし、BランクとAランクの差は大きい。

 ましてや、カレンはCランクだ。

 カミルや自分が守ってやらなくてはいけないのではないか?

 この気味の悪い魔力の持ち主を相手に、彼らは戦えるのだろうか?

 考えれば考えるほど、嫌な予感がしてならない。


「戻るか……?いや、そうするとこの先にいるであろう奴を逃してしまう」


 迷った挙句、ライルは歩を進めた。

 もたもたしていられない、とっととこの先にいる奴を倒して、他の人の元へ行かなければならない。

 急がなければ。



 〜カミル視点〜


 グォォォォォォォォォ!

 暫く走っていると、耳をつんざくような咆哮が響き渡った。


「この声は……ドラゴン!?いや、でもこんな島にいるはずが……」


 こんな小さな島に、ドラゴンが住んでいるとは到底思えない。

 だが、今のは確実にドラゴンの咆哮だ。

 そして、あの禍々しい魔力もかなり近い。

 俺は両手に魔力をこめ、気配の感じる方へ右手を向けた。


「誰だ!隠れてないで出てこい!」


 暫くの沈黙があった後、木の陰から一人の男が出てきた。

 長身で茶髪の男だった。


「フン、気配は消していたのだがな。ボルケノス!」


 男は右手を上に掲げ、何やらよく分からない言葉を口にする。

 その直後、辺り一帯を影が覆った。

 上を見てみると、赤黒い物体が空から降ってきていた。

 遥か上空なので大きさは分からないが、とてつもなく巨大だということは分かる


「……っ!なんだあれ!」


 俺は慌ててバックステップでその場を離れる。

 すると、ついさっきまで俺がいた場所に、その物体がとてつもない轟音と地響きを立てながら降ってきた。

 俺は咄嗟にガードの体勢をとるが、その風圧に数メートル吹き飛ばされ、木に打ち付けられた。


「がはっ!」


 しかし怯んではいられない。

 立ち上がり、顔を前に向ける。

 すると、視界にはとんでもないものが飛び込んできた。


 火山龍「ボルケノス」。


 名前だけは聞いたことがある。

 火を吐き、火を食らう、ドラゴンの中でもかなり強い部類である。

 赤黒く染められたその体には幾つかの亀裂があり、オレンジ色の体液がその姿を覗かせていた。

 何故こんなところに?

 いや、それより……


「何者だ、お前」


 俺は背の剣を構え、男へ向ける。


「名乗る義務はないのだがな、あえて言おうか。龍使いのゼルナードだ」


 龍使い?

 まさか、ドラゴンを使役してるのか?


「強い魔力のガキがいると思って来てみれば、やはりお前か。被験体05213。生きていたんだな」


 ゼルナードは相変わらずの無表情で言う。

 ちょっと待て、被験体やら龍使いやらで頭ごっちゃになってるぞ。


「何言ってるか分かんねーよおっさん」


「ほう、記憶を無くしているのか。転移の影響か?」


 ゼルナードが問いかけるが、さっぱりわからん。


「意味分からないって言ってんだろ!風魔・真空波!」


 俺は剣を構えていない左手で真空の刃を作り、相手に向けて飛ばす。

 すると、ボルケノスはゼルナードを庇い、その強靭な体で斬撃を受け止めた。


「血の気が多いことだ」


 ゼルナードはやれやれと首を振ると、こちらを睨みつけた、


「話の通じる相手ではなさそうだ。ボルケノス、片付けろ!」


 ボルケノスは大きく息を吸い込むと、オレンジ色の炎ブレスを放ってくる。

 間一髪でかわすが、ブレスは耳元をチリチリと焦がした。

 やはり、ゼルナードはこのドラゴンを操っている。


「操龍魔法だ。貴様には見せたことがあったはずだがな?被験体05213」


「……っ!だから何なんだよ被験体05213って!」


 何なのだろうか、こいつは俺の過去を知っているのか?

 被験体……操龍魔法……


 途端、俺を謎の頭痛が襲った。

 発作だ!


「くそ、こんな時に!」


「やはり記憶を失っているか。まあいい、邪魔をするようなら始末するまでだ。トネール!ノワール!」


 ゼルナードはさらに二つの名を叫ぶ。

 するとボルケノスの両隣に二頭のドラゴンが降ってきた。

 おいおいおい、まさか三頭も同時に相手しろってことじゃないだろうな?


「やれ、お前ら」


 ゼルナードの合図と共に、三頭のドラゴンは大きな咆哮をあげながら突進してくる。

 火山龍ボルケノス。

 雷龍トネール。

 黒龍ノワール。

 この三頭を一度に見れる機会なんぞそうそうないが、今は喜んでいる場合ではないな。

 発作の影響でキリキリと痛む頭を左手で抑えながら、俺は走って突進の起動から逸れる。

 そのまま木の陰に隠れると、息を整える。


「マズイな……」


 おもわず弱音が声に出る。

 相手は三頭のドラゴン。

 こちらは一人で、しかも発作で頭痛を抱えている状態である。

 いくらSランクとはいえ、かなり厳しいものがある。


 と、トネールがこちらを捉え、雷のブレスを吐いてきた。

 休憩もさせちゃくれないのか!

 

「土壁・アースシールド!」


 俺は地面を隆起させ、土の壁を作る。

 そのままの状態で耐えていると、背後から高熱を感じた。

 確認するまでもなく、ボルケノスのブレスだ。

 俺は慌てて前転をし、ぎりぎりでブレスを避ける。

 すると、今度は上空からノワールが急降下してきた。


「くそ、キリがない!土壁・アースシールド!」


 俺はまた土の壁を作るが、ドラゴンの体重をそう簡単に支えられる訳もなく、あっさりとヒビが入った。

 マズイな、崩れたら俺も下敷きだ。

 俺は魔法を解除すると同時に、バックステップで後ろへ下がる。


「はぁ、はぁ……!?くっ……!」


 俺はまた頭痛に襲われ、頭を抱えた。

 こんな発作さえなければ!


「どうした?せっかくいい体にしてやったってのに、その程度なのか?」


 木の上から、ゼルナードが冷ややかな顔で見下ろしている。

 奴を倒せばドラゴンも我に帰るんだろうが、三頭の攻撃をかいくくって使用者を攻撃するなんて、無茶にも程がある。


 これは面倒なことになったな……



 〜カレン視点〜



 同じ頃、カレン・クィールペアも、敵と遭遇していた。

 鮮やかなピンク髪の、長身の女性である。


「あーあ、やっぱり子供かぁ。もっと手応えがあるやつぶっ殺したかったのになあ」


 女はやれやれと首を横に振る。

 つまらないと言わんばかりの顔である。


「クィール、私が突っ込むからバックアップお願い」


「分かったわ、無茶しないようにね」


 カレンは背負った双剣を構え、姿勢を低くする。

 クィールが後ろで治癒魔法の構えをとったのを確認すると、一気に突っ込んだ。


「ハァ、やっぱりクソガキねえ〜。それっ」


 ピンク髪の女が右手から魔力を発すると、木々がその形を変え襲いかかってきた。


「うわっ」


 カレンは間一髪でそれをかわすと、再び相手の方へ向き直る、

 見たこともない魔法だ。

 木属性の魔法……とはまた別物だろう。

 まさか自然に生えている木々を操るなんて!


「驚いた?私、自然の木を操れるのよ。操木魔法のシェルマールって、大陸じゃ結構有名なのにねえ」


 シェルマールは甘ったるい声で喋りながらも、木々を操って攻撃してくる。

 伸びてきた木を切断しても、また新たな木が襲いかかってくる。

 その木を防いでいる間に、先ほど切り倒した木は再生を終えている。


「キリがないわね……」


 そう呟くと同時に、また新たな木がカレンの腹を狙ってくる。

 カレンはそれを屈んで避けるが、右から伸びてきた木に足をすくわれ、吹っ飛ばされてしまった。

 数メートル転がったあと、岩に衝突して勢いを殺すが、骨が何本かやられている


「カレン!聖医・ヒーリング!」


 クィールは咄嗟に治癒魔法をかけ、シェルマールへと向き直る。

 もはや何本かも分からないほど大量の木々が、二人に迫って来ていた。


「業火・爆炎弾!」


 カレンは両手で巨大な火球を作り出すと、襲いかかってくる木々に向けて放った。

 カレンが今使える、最も広範囲に効果が及ぶ魔法である。

 火球は伸びてきた木々に直撃すると、耳をつんざくような轟音とともに炸裂した。


「ふうーん、意外とやるのね」


 このままでは防戦一方だ、何とかして突破口を切り開かないと!

 カレンは立ち上がり、眼に魔力を送る。

 カレンの眼はみるみるうちに黄色く染まった。


「閃光眼、発動!」


 そう叫ぶが早いか、カレンは瞬時にシェルマールの背後へ移動し、構えた双剣でその背中を斬った。


 否、斬ろうとした。


 カレンの手は、背中に届く寸前のところで止められていたのだ。

 木がカレンに絡みついていた。

 どんなに力を入れても、カレンの体は一ミリも動かない。


「閃光眼なんて珍しいわね。でも」


 シェルマールが右手をくいと上げると、カレンも持ち上げられ、宙に吊り下げられた。


「そんな甘っちょろい攻撃で、私を仕留められると思った?」


 そんな、とカレンの脳内を絶望が走る。

 剣ではそもそも近づけない。

 魔法は迎撃で精一杯。

 それに閃光眼を使っても駄目だなんて……


 こいつには、勝てない。

キャラクターの外見イメージ

 ・ゼルナード:茶髪のおっさん。クールな感じ。

 ・シェルマール:ピンク髪、ネイルゴッテゴテのギャルみたいな感じ。

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