表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

第十二話「朝が来ない村」

12/19改稿

 カミルとライルが向かった方向を逆にしました。

 目的地は、大陸の南にある小さな島「キリバス島」だった。

 土地の6割強を山が占めていて、残った土地に小さな集落が存在する。

 自然に恵まれた、とてものどかな島である。


 だが、この島は2つ問題を抱えていた。


 一つは、今年の春頃から不審者の目撃情報が入るようになったことである。

 四人ほどの怪しい影を森で見たという話が飛び交うようになったらしい。


 もう一つは、同時期から日が昇らなくなったことである。

 何やら怪しげな結界に覆われているらしく、来る日も来る日も夜が続いているらしいのだ。

 ……まあ俺達が到着したのは夜だったので、違和感はなかったのだが。

 しかもその結界は魔力を吸収するようで、魔法による破壊は不可能だそうだ。

 しかし、何故か作物が枯れる等の被害は起こっていない。

 森の木々も生き生きとしているし、花も鮮やかに色付いているのだ。

 ただずっと夜が続いている、という、なんともおかしな状況なのである。


 ……というのが、この集落の長老さんの話だ。


「では今回の以来は、その不審者とやらの確保及び結界の破壊ということでよろしいでしょうか?」


 ライルはにこやかに尋ねる。

 おいおい、破壊って簡単に言うけどね、この結界には魔法が効かないって言われたばかりでしょう?

 というか内容もよく知らずにクエスト受けるとか、あんたら正気?


「そういうことになるな。そなた達の衣食住はこちらで保証するが、なるべく早めに頼む」


「承知しました」


 ライルはペコリと一礼した。



 昇進試験の怒りを全て魔獣にぶつけようということで受注した今回のクエストだが、なんと成功報酬は400万JのSランククエストであった。

 但し、内容は一切不明。

 場所と賞金のみが記されたこのいかにも怪しいクエストを、トルマ、ザリア、クィール、ライルの4人は大喜びで引き受けたのだ。

 こんなことばっかやってるから毎回危ない目に遭うんだろうが……

 いやそれに賛同したカレンも、やれやれと付いてきてしまった俺も同罪なんだけどね。


「報酬もかなりのものだし、内容も不明ときた。きっと大物魔獣を討伐するクエストに違いない!」


 とは、ライルの談である。

 因みに、この島までは港へ一ヶ月、そこから船で二週間かかっている。

 もう試験中止のイライラも収まってしまった。

 ……というか俺誕生日過ぎちゃったんですけど?


 道中は地獄絵図だった。

 魔獣がひょっこりと飛び出しては、全員で八つ裂きにした。

 しかも嬉々とした顔で、である。

 もうどちらが悪者なのか分からないレベルで魔獣が哀れだった。


 そんな地獄絵図が終わったかと思いきや、今度は船酔いである。

 トルマ、ザリアは仲良くゲロをぶちまけ、カレンもクィールもずっと体育座りだった。

 ライルと俺は無事だったが、この4人を看病するのには骨が折れた。


 そんな紆余曲折あってからの、このクエスト内容である。

 マジで結界どうすんの……


「……ということだ。ひとまず寝泊まりさせてもらう家で準備を整えて、早速山に入るぞ」


 ライルは相変わらずの笑顔で俺達に言う。

 どこにそんな余裕が残っているのだろうか。

 俺の顔見てみ?死にそうだろ?

 しかし、他の連中は声を揃えて返事をする。

 元気いっぱいですね、よかったね。


「では、儂の息子に案内をさせよう。ガリア!」


 長老は息子のガリアを呼ぶと、そのまま集落の方へ戻って行った。

 筋骨隆々のガリアは一言「ついてこい」と言うと、そのまま身をひるがえしてズンズン進んでしまう。

 俺達六人は慌てて追いかける。

 

 小屋は、集落から少し離れた空き地にあった。

 木造で、六人が寝泊まりするには若干狭いが、決して小さくはない。

 入り口は地面から少し高い所にあり、階段がついている。

 いわゆる「高床式」ってやつである。


「へえ、なかなか立派ね」


 カレンは嬉しそうだ。

 そりゃラノスの町長の家に比べりゃとんでもなく立派だもんな。

 チラと横を見ると、ガリアが若干ニヤけている。

 ガリアさんお手製なのかな?


「……何か不都合があれば言え」


 ガリアはそう言うと、さっさと集落の方へ行ってしまった。

 照れ隠しだろう。

 中に入ってみると、新鮮な木の香りが漂っていた。

 うんうん、癒されるな。

 部屋は大きいものが一つ、小さいものが三つあり、計四部屋となっている。

 因みに、二階はない。


「この大部屋は荷物置き場兼居間にしよう。そして残りの三部屋を寝室にするのが良いだろうな」


「ライルさん、俺もそう思うんですけど、そうなるとペア分けが面倒ですよ」


 ライルの提案に、俺は意見する。

 トルマとザリアを同部屋にしたら、きっと夜もドッタンバッタンうるさくなるだろう。


「俺、コイツとは死んでもペアにならねえからな!」


「こっちこそお断りだクソ野郎!」


 トルマとザリアはまた喧嘩を始めた。

 相変わらずうるさいなあ……


「ふむ、そうだな……」


 ライルは顎に手を当てて、ふむ……と暫く考えてから言う。


「ではカミルと私、カレンとクィール、トルマとザリアのペアにしよう」


「「人の話聞いてんのかアンタはー!」」


 俺、トルマ、ザリア、クィールの大合唱が響き渡る。

 ねえ、本当に馬鹿なの?喧嘩真っ最中の二人をペアにするとか!正気なの?


「まあまあ、いいではないか。はい決定」


 ライルはパンと手を叩くと、荷物の整理を始めた。


「俺は絶対嫌だぞ!なんでこんな奴と!」


「それはこっちの台詞だトルマ!」


 ほら喧嘩が加速した……

 頭を抱えていると、ライルはいきなり壁をドン!と叩いた。

 ゆっくりとこちらを向く。


「決定事項だ」


 笑顔を崩さないまま、静かなトーンでライルは言った。

 沈黙が流れた……



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ライルさん、何であの二人をペアにしたんですか?」


 荷物の整理も終わり、部屋に布団を並べながら、俺は尋ねる。


「彼らは一見仲が悪そうに言えるけどね、実は信頼し合ってるんだよ」


 ライルは敷き終わった自分の布団に寝転がりながら応える。

 

「うーん、僕がこの間参加させて貰った時はそんなことなかったように見えましたけど」


「あの時はな。だがこの間のクエストでザリアが死にかけた時、真っ先に血相を変えて敵陣へ飛び込んだのはトルマだったんだよ」


 な、なんだってー!?


「私とクィールのサポートがあったとはいえ、ザリアを背負った状態で戦ったトルマは凄いと思ったよ」


「え、じゃあ普段喧嘩してるのは……」


「恥ずかしいんだろうね」


 ツンデレかよ!需要無っ!

 まあそれならそれでいいんだけどさ、それでもやっぱり、


「隣の部屋うるさいんで黙らせてきて下さい」


「ふむ、仕方ないな」


 ライルは布団から起き上がり、隣の部屋へと足を向けた。

 うるさいもんはうるさいのだ。


 しかし、クィールとカレンは仲良くやっているようだ。

 互いに初めての女性メンバーということもあり、道中でも話が弾んでいた。

 少し嫉妬してしまう。

 いや、好きとかそういうことではない。

 むしろギルド内で居心地悪そうにしていた彼女に新たな友人ができたのは、喜ぶべきことなのだろう。

 分かってはいるが、すこしモヤモヤするな。


 悶えていると、隣の部屋の喧騒がぴたりと静まった。

 きっとライルの怒りを直に浴びたのだろう。

 やっぱあの人怖いよ、ああ見えてAランクだしな。

 因みにトルマ、ザリア、クイールは三人ともBランクである。


 少しして、ライルは何事もなかったかのように部屋へ戻ってくると、そのまま布団に潜り込んだ。

 疲れているのだろうな。


「ときに、カミル」


 いきなり声をかけられた。


「何です?」


「君はカレンのことをどう思っている?」


 いや、どうって言われても……


「少し乱暴なところはありますけど、仲の良い友人になれたかなあと……っていうかギルドでも言ったじゃないですか」


「そうか、9歳だものな。まだ早いか」

 

 なんか子供扱いされてるようで腹立つな。


「何のことか知りませんけど、もう9歳ではありません。先日10歳になりました」


 そう言うと、ライルは珍しくええ!?と驚いた。


「なんだ、言ってくれれば祝ったのに……」


「昼はひたすら魔獣狩り、夜は寝床でグーグーグーな生活の中でいつ言えと……」


「す、すまない」


「いやいや、責めて無いですよ。というか何でいきなりカレンの話が出てきたんですか」


「いやいや、何でもないんだ。君が自分で気づいたほうがいい」


 ライルは布団を被ってしまった。

 何のことかさっぱり分からん……



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さて、いよいよ山の探索に入る訳だが、その前に……」


 翌日。

 ライルは小屋の外に全員を集めて話し始めたのだが、一旦止めてトルマとザリアの方を向く。


「……何で二人は痣だらけなんだ」


 二人は目元に大きなくまが出来ており、手足にはところどころに痣があった。


「トルマが!」


「ザリアが!」


 互いに互いを指さし、自分の潔白を訴えようとしている。

 だが、そんなものはライルには通じない。


「一晩……と言っても今も夜だが、休憩をとった意味を分かっていないのか馬鹿者」


 相変わらずの笑顔のまま、低いトーンで二人に告げる。

 二人は怯えた顔で黙り込んだ。


「気を取り直して。では、今から山の探索に向かう!昨日同室だったペアで行動するように!」


 クィールとカレンは仲良く手を繋いで山へ向かい、トルマとザリアは互いに睨み合い、時にはどつきあいながら山へ向かった。


「さて、私とカミルは別行動だな」


「その方がいいですね。ライルさんもお気をつけて」


 俺とライルは、無理にペアを組まなくても充分戦える。

 よって、分散した方が効率的だと考えたのだ。

 山は島の北部に連なっている。

 クィール・カレンペアは東北東、ライルは北北西、俺は北北東、トルマ・ザリアは西北西へ向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 一方、山の頂上には、四人の不気味な姿があった。


「ウヒョヒョヒョヒョ、奴ら山に入って来ましたぜ」


 一人の男が高笑いをする。


「どうする?リーダー。私ぶっ殺したい!」


 一人の女が物騒な台詞を吐く。


「そうだな。俺は北北東に単身で入ってきたあのクソガキを狙おう。―は東北東、―は北北西、―は西北西の連中を狙え」


 リーダーと呼ばれた男はそう告げると、さっさと行ってしまった。


 「りょうかーい☆」


 「おっしゃ!やるぜ!」


 「うす!」


 男二人と女一人も返事をすると、それぞれの方角へ向かった。

キャラクターの外見イメージ

 ・長老:めっちゃ小さい爺さん。ハゲ。

 ・ガリア:筋骨隆々の大男。


豆知識

 パーティ内にSランク以上の魔導士が一人でもいれば、Sランククエストを受注できます。

 他ランクも同様です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ