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風色ファンタズム〜cherry blossom of the rainbow〜  作者: シグ
第一章:キメラ転移編
14/18

間話「絶望の少年①」

 かなりホラーですが、なるべく短くしました。

 物語の根幹に関わるものですので、頑張って目を通していただけると幸いですm(_ _)m

 少年は幸せだった。


 特に裕福な訳でもないが笑顔溢れる家に生まれ、のどかな村ですくすくと育った。


 母は、村唯一の医者だった。

 忙しいにも関わらず、休診の日にはつきっきりで勉強を見てくれた。

 治癒魔法も教わった。

 少年が、あれは何だこれは何だと聞くたびに、「それはね……」と優しく教えてくれた。


 父は、王国に勤務する兵士だった。

 毎日遅くまで働き、訓練をして帰ってくるのだ。

 休みの日には、少年の稽古に付き合った。

 魔法、剣術も父から教わった。

 少年は天才であり、めきめきと成長していった。


 そんな平和な毎日。


 少年は幸せだった。

 そう、幸せ「だった」。


 まだ雪が残っている、3月頃の話である。

 少年は、突然村から姿を消した。


「遊びに行ってくるね!」


 と昼過ぎに家を飛び出してからというもの、村で彼を見た者はいなかった。

 両親は夜の間必死に探し回ったが、とうとう見つからなかった。

 来る日も来る日も、両親は仕事を放り出して探した。

 幼い娘を交互に見ながら、必死に探した。


 山、村の井戸、畑の中、家の裏……


 探して探して、探しまくった。

 村の中は余す所なく、調べ尽くした。


 しかし、少年はとうとう見つからなかった。

 そして、数ヶ月の時が経った。


 すっかり疲れ果てた両親の元へ、王国の兵士が一人やってきた。

 ……少年の遺体を抱えながら。

 聞くと、謎の人間に手渡されたという。


 両親は泣いた。

 何故、どうしてと叫びながら。

 目から滝のような涙を流しながら。

 怒りと悔しさ、悲しみで顔を歪めながら。

 袋に包まれた少年の遺体を抱きしめながら。


 少年は、まだ五歳であった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 少年が目を覚ますと、そこは何やら薄暗い檻の中だった。

 服は全てなくなっており、全裸にされていた。

 吹いてくる風が刺すように冷たい。

 さっきまで、村で友達と遊んでいたというのに。

 悪いことをしたから捕まったのか、と少年は思った。

 きっと、両親の忠告を無視し、友達と山に入ってしまったから、罰として閉じ込められたのだと。


「おとうさん、おかあさん!山に入ってごめんなさい!ここから出して!」


 少年は鉄格子を掴み、ガシャガシャと揺らしながら叫ぶ。


「うるせえぞ糞ガキ!」


 その時、とても大きな声がしたかと思うと、ガタイのいい大男がのっしのっしと近づいてきた。

 手には金属製の何かを持っている。

 それには、赤黒い血がべっとりついていた。

 男は少年の檻の目の前までくると、しゃがんで目線を合わせた。

 少年は思わず後ろに飛び退く。


「ガキ、次騒いだら殺すぞ。分かったな」


 低く、脅すような声音で男は言った。

 泣いたら殺される……!

 少年は歯を食いしばり、嗚咽が漏れそうになるのを必死にこらえながら、うん、うんと何度も頷いた。

 

「よし」


 男は腰を上げると、またのっしのっしと歩いていった。

 歩くたびに鳴るカシャン、カシャンという音は、少年の耳にはっきりと残った。


 男が去ったので、少年は付近を観察してみた。

 どうやら建物の中のようで、窓はない。

 おかげで、今が昼なのか夜なのか、外は晴れているのか雨が降っているのかも分からない。

 壁や天井、床は、頑丈なグレーの石造りで、ところどころに赤いものがこびりついていた。

 ヒッと声が出そうになるが、叫んだら次こそ殺されかねない。


 必死に声を押し殺し、今度は檻の外へと目を向けた。

 狭い通路を挟み、向こう側にも檻があり、中では全身痣だらけの少女がうずくまっていた。

 左右に目をやると、同じような檻が延々と連なっており、中には一人ずつ子供が収容されていた。

 地獄のような光景だった。

 少年と同じくらいの年齢の子供が、1000人はゆうに超えるだろうと思われる数囚われている。


 違う、ここは悪いことをした人が入れられる牢屋じゃない!


 少年は悟った。

 恐らく、自分たちは攫われてしまい、こんなところにいるのだと。

 山で待ち伏せしていた盗賊か何かに、ここまで連れてこられたのだろうと。

 

 何とかして脱出しようと心に決めた丁度その時、遠くから声が聞こえた。


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


 幼い男の子の声である。

 泣きながら、必死に許しを乞う声であった。

 対する男は、若干の笑いを含んだ声で、あざ笑うように応える。


「テメェ、こんなメニューもこなせないのか。お仕置きだな」


「嫌だああああああああああ!」


 そして、恐らく幼い男の子のものと思われる悶絶が響き渡った。

 パチン!グチャッ!という嫌な音も聞こえた。

 ハハハハハと高らかに笑う男の声も耳に届いた。

 泣き叫ぶ男の子をよそに、男は楽しんでいるようだった。


 少年はガタガタと震えた。


 少しでもあの人に逆らったら痛めつけられる。

 騒いでも、逆らっても駄目だ。

 

 必死に耳を塞ぎながら、血の匂いが漂う檻の中で、少年はひたすらうずくまっていた。


 メニューってなんだろう?クリアしないとあんな風にされてしまうのか……


 そんなことを考えてはまた震えた。


袋に包まれた遺体……果たして本当に少年のものだったのでしょうか。

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