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風色ファンタズム〜cherry blossom of the rainbow〜  作者: シグ
第一章:キメラ転移編
13/18

間話「氷河龍討伐withカレン」

 俺とカレンは、二人でアンリの鍛冶屋に来ていた。

 俺が出発前に頼んでおいた剣を受け取りに来たのだ。


「はいはい、お待たせ!こいつだよ!」


 アンリがそう言って持ってきたのは、綺麗な水色の剣だった。

 表面はまるで水晶のように輝いており、柄には大きな結晶が埋め込まれている。

 そして、剣全体を冷気が包んでいた。

 もはや水属性というより、氷属性といっていいだろう。


「わあ、綺麗!」


 カレンは目を輝かせた。

 あ、あげないからな!


「凄いですね、これ」


 俺も思わず見惚れてしまう。

 俺が使うには美しすぎないか?


「へへへ、初めての素材だったんで張り切っちゃったよ!」


 アンリの目元には、大きなくまができていた。

 恐らく殆ど寝ていないんだろう。


「一週間の予定だったんだけどね、あんたらが暫く帰ってこないって言うもんだし、せっかくだから色々改良してみようと思ってね」


 ということは、制作期間一ヶ月ってことか?

 何その執念、すごいよアンリさん。

 自分のものになるって訳でもないのに。

 なんかちょっと申し訳なくなってくるな。


「30万Jじゃ少ないでしょう、倍は払いますよ」


 俺が袋をゴソゴソやると、アンリはそれを手で制した。


「いいんだよ、趣味だって言ったろう?完成品を見せた時のあんたらの顔だけで十分嬉しいさね」


 アンリはニカッと笑った。


「そ、それじゃお言葉に甘えて……」


 俺は30万Jだけ払うと、剣を手に取った。

 うん、少し重いが、とても手に馴染む。

 コレでコレクションは6本、六刀流の練習もしなくちゃな!

 俺が一人はしゃいでいると、カレンは羨ましそうな顔をしながらボソリと言った。


「いいなあ……私もこういうの欲しい」


「なら素材を集めることだね。この時期氷河龍は雪山で眠ってることが多いから、狙いどきかもよ」


 アンリはカレンに告げる。

 まあ確かに素材とアンリの腕があれば、この間カレンが貰った双剣を改良することもできるだろう。

 ん?ってことはまさかまさか……


「カミル、あんた手伝ってやんな」


 またやんのかよおおおおおおお!

 


ーーーーーーーーーーーーーーー



 という訳で、俺とカレンは、グランハルトの遥か北にある「北神山脈」へ来ていた。

 そう、クレハが真っ二つにしてしまった山脈である。

 ここに来るまでに、既に一ヶ月が経過していた。

 あの人、どうやって一ヶ月以内に行き帰りしたんだろ……


「うう、寒い……」


 カレンはブルブルと震えている。

 分厚いコートを着たまま戦闘する訳にも行かないので、ある程度は身軽な服装でなくてはならない。

 そんな状態でこの雪山にいるのだから、そりゃあ寒いだろう。

 俺だって寒い。


 ブルブル震えながら山を歩くこと二時間、遂に龍の住処らしき穴を見つけた。


「はははは早く、ややややっちゃいましょしょしょうよ」


 おーいカレン、ちゃんと喋れてないぞー。


「ちょっと待って、この辺の地形が脆かったら危ない。でかい魔法ぶっ放したら俺らまで死んじゃうかもだしね」


 俺は、あたりを調べ始めた。

 雪は分厚く積もっていて、その下には土がある。

 試しにコンコンと叩いてみると、手に鈍い痛みを感じた。

 うん、これくっそ硬えや。

 魔法ぶっ放しても大丈夫そうだ。


「それじゃ、行こう。念のため武器は構えといて」


「う、うん」


 カレンには武器を構えさせ、俺は左手に松明、右手に火属性の剣を持って洞穴へ入った。


 氷河龍が息をしているのか、定期的に、体を刺すように冷たい風が吹いてくる。

 歩をすすめる度に天井のコウモリが騒いでいるが、起きないだろうか……


「カミル、あなたは一度倒したことがあるのよね?」


 松明の熱である程度温まったのか、カレンの震えは止まっていた。


「あるよ。あの時は近くの村に降りてくるところを待ち伏せして、何回かに分けて迎撃したんだ。だから討伐に二ヶ月近くかかったよ。怪我したし」


 そう、あの時は氷河龍が活発な時期であったが一人だった。

 今回は寝ているところに先制攻撃できる可能性があるものの、狭い洞穴の中だ。

 しかも、カレンを守りながらの戦いとなると、俺でも長時間保たせるのは厳しい。


 数発で沈んでくれればいいのだが……


 そんなことを考えていると、大きな氷塊が洞穴の奥の方にどてっと置いてあるのを見つけた。


「何かしら、あれ」


 カレンは興味本位で近づいていく。

 よく見ると、氷塊は定期的に動いていた。


 ……違う、アレは氷塊なんかじゃない!

 体を丸めてはいるが、あれこそ氷河龍「グラセア」だ!


「カレン、近づくな!戻れ!」


 俺がありったけの大声で叫ぶのと、グラセアが起き上がるのはほぼ同時だった。

 巨大な翼、触れただけで切れてしまいそうな鋭い逆鱗、氷塊をも簡単に噛み砕く牙、人間の身長の10倍の長さはあろうかという尻尾

……

 まさにグラセアの姿であった。


 大音量の咆哮が、洞穴に共鳴した。

 まずい、寝ているところに強い魔法をぶち込む作戦は失敗だ!

 カレンは慌ててこちらへ戻ろうとするが、腰を抜かして倒れ込んでしまった。


「カレン!くそっ!」


 俺は松明をしまい、左手にありったけの魔力を込めて走った。


「業火・爆炎弾!」


 魔力を溜めた左手から、直径二メートル程の火球を作り出し、グラセアに向けて放つ。

 見事命中した火球は爆散し、グラセアの強靭な腕を吹き飛ばした。

 同時に、カレンもその勢いでこちらへ飛んでくる。


「キャアアアアアアアア!」


 よし、計算通りだな。

 少し手荒いが、これが一番効率がいい。

 俺は剣をその場に置き、飛んできたカレンを両手で受け止めた。


「よっと。大丈夫か?」


「手荒いわね……まあ助かったから感謝するけど」


「まだ助かったとは限らないよ。ほら」


 俺が指を差した先では、グラセアが腕の再生をしようと氷を貪っていた。

 グラセアは、こうして氷を体内に取り込むことで再生する。

 なので、一気にカタをつけないといけないのだ。

 前回は先に顔面を攻撃し、口と歯を潰したので、氷を食べさせずにダメージを蓄積させたのだが、

 今回はそんな余裕は無さそうだ。


「さて、そろそろやるか。カレンはなるべく下がって、火の魔法で俺を掩護してくれ。じゃ、やるぞ!」


 俺は剣を取り、グラセアへ直進する。

 ちょうど腕の再生が終わったグラセアは、こちらに気づいて唸り声を上げた。


「炎弾・フレアショット!」


 カレンが俺の背後から小さな火弾を放つ。

 グラセアの顔面に命中するが、ビクともしていないようだ。

 やはりカレンの魔法ではダメか。

 なら。


「炎柱・ブレイズタワー!」


 俺は立ち止まり、グラセアの足元から火柱を出現させる。

 グラセアはそれをヒラリとかわし、こちらへ突進してきた。

 くそ、やっぱり強い!

 俺はすぐさま剣を握りしめ、迎撃態勢に入る。

 炎の斬撃を飛ばすが、グラセアはそれを右に左に避け、近づいてきた。

 相変わらず、カレンの火弾は効き目がない。

 仕方ない、接近して斬るしかない!


「グオオオオオオオオオ!」


 叫びながら迫ってくるグラセアの突進をぎりぎりでかわし、お留守になった足元へ剣を振った。


「くらえ!」


 キィィィィンと音を立て、剣は右足を綺麗に切断した。


 突進の勢いを殺しきれないグラセアは、そのまま前に倒れ込む。

 よし、成功だ!

 おれは追撃を入れようと剣を構え、突撃しようとした。

 その時、グラセアの強靭な尻尾が俺の腹部に直撃し、そのまま俺をふっ飛ばした。

 洞穴の壁に激突した俺の全身を鈍い痛みが襲う。


「カハッ……!」


「カミル!」


 カレンは心配そうにこちらを見て叫ぶが、それどころではない。

 俺がふっ飛ばされたことで、グラセアの目標はカレンに定められた。

 くそ、動けない……


「カレン、目に魔法を当てて、それから逃げろ!」


 俺は全身の痛みに耐えながら、叫んだ。


「嫌よ、カミルを置いて逃げない!火球・ファイアボール!」


 カレンはそう言うと、火球をグラセアにぶつけた。

 きっと目に命中したのだろう、グラセアは低い唸り声をあげて怯んだ。

 ったく、カレンのやつ……

 俺はズキズキと痛む足で立ち上がる。

 こんなところでくたばってたまるか。


「カレン、引き続き目を狙え!」


 俺はカレンに命令すると、剣を片手に突撃する。

 俺に気づいたグラセアが、体の向きを変えてこちらを捉える。


「炎魔・爆炎乱舞!」


 俺は火球、火柱、斬撃、火弾を次々とグラセアにぶち込んだ。

 グラセアが怯んだ隙に、俺はさらにたたみかける。


「炎牢・バーニングプリズン!」


 グラセアは、俺が作った炎に囲まれ、たじろいでいた。

 俺は炎をだんだんと狭めていく。

 その間にも、カレンは着実に目を狙っていく。


「圧縮!」


 魔力を最大限使い、炎でグラセアを締め付ける。

 もう少し、もう少しだ!


「カレン、トドメをさせ!」


「了解!業火・爆炎弾!」


 カレンは、先ほど俺が慌てて作ったものよりも遥かに大きい火球を作り出し、グラセアの顔面にぶちこんだ。

 グラセアの頭部が吹き飛んだ。


「よ、よし!やったぞ!」


 俺が魔法を解くと、グラセアの胴体はその場に崩れ落ちた。


「カミル!」


 カレンは俺の名を呼びながらこちらに走ってきて、俺に飛びついた。


「痛えっ!」


「やった!やったわよ!」


 そういって顔を俺の胸にグイグイ沈めてくる。

 痛い痛い痛い!


「やった!やった……ぐすっ」


 え、泣いてる?


「怖かった……吹き飛ばされたとき、カミルが死んじゃうんじゃないかって、怖かったわよ……」


 俺はカレンの頭をポンポンと撫でる。


「大丈夫、俺は死なないよ。約束する」


「本当よね?もし約束破ったらぶん殴るから!」


「約束破った時はもう死んでるよ……」


 二人でクスッと笑い合い、その後グラセアの胴体から心臓を剥ぎ取った。


ーーーーーーーーーーーーーーー



「へえーっ、本当に倒してきちゃうとはね!」


 アンリは目を丸くした。

 いやいや、行かせたのあなたでしょう?


「危なかったわよ、カミルが尻尾で吹き飛ばされたときはもう駄目かと思ったもの……」


 それから、カレンによる氷河龍討伐話が繰り広げられた。

 アンリはニコニコして話を聞いていた。


 ……あ、そういえば。


「カレン、お前金あるの?」


「え?あ……」


 旅支度の時、カレンはお金がないお金がないと喚いていたのだ。

 鍛冶にかかる費用はかなりのものだから、きっと足りないだろう。


「か、カミル!今すぐクエストに行くわよ!お金稼がなきゃ!」


「え、昨日戻ってきたばっかりなのに……ってちょっと、カレン!待って!」


 俺はアンリにペコリと頭を下げると、走ってカレンの後を追いかけた。

 まったく、大変なパーティになったもんだ。


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