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風色ファンタズム〜cherry blossom of the rainbow〜  作者: シグ
第一章:キメラ転移編
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第十話「報告」

 花畑からイーリスまではそう遠くない。

 3日程度で到着できた。

 馬車も返却し、ネメシアを抜けていつもの大通りを通り、ギルドへ戻る。

 何故か馬車レンタル店の人が変わっていたのだが、どうしたのだろう。

 俺のせいでクビになった?いやいやまさかね……


 大通りの両脇に咲いてた桜は既に散ってしまい、青々とした葉が芽吹き始めていた。

 道には散った花びらが大量に落ちていて、ちょっとしたカーペットみたいだ。


「帰ってきたわね」


 カレンも若干嬉しそうだ。

 まあ、今回の旅はそこそこ長かったからな。

 戻れて嬉しいのは俺も同じだ。


「アンリさんの鍛冶屋にも行きたいところだけど、今はとりあえずギルドに向かおう。今回のことを報告しなきゃ」


「そうね」


 出発前にアンリに頼んだ、氷河龍の心臓を使った剣の出来栄えが気になるのをグッとこらえつつ、俺はカレンと共にギルドへ向かった。



「爺さん、帰ったよ!」


「マスター、只今戻りました!」


 開口一番、俺とカレンはギルドの扉を開けると、そう叫んだ。


「おお、帰ってきたか!遅かったのう。お主等で最後じゃ。クレハもエストラも、もう既に別のクエストにでかけてしまったぞ」


 え、マジか。

 まあ遠かったし、仕方ないよね。


「でもクレハさんが向かったのも相当遠くなかったか?確か山脈一つ超えるルートだったと思うけど」


 そこで俺は、山脈が真っ二つにぶった切られた話を聞いた。

 クレハさん……何やってんの。


 爺さんは、俺とカレンを連れて適当なテーブルに座らせると、自身も腰かけた。


「さて。早速じゃが、今回の成果を報告してもらおうかの」


 俺たちは交互に、全てを話した。


 ラノスの町は暗く、どんよりしていたこと。

 男たちが囚われ、稼ぎ手を失った女性がたくさんいたこと。

 それは全て、ラノスの陶器を独占して利益をあげようとした組織のしわざだったこと。

 キメラ事件を受け、その組織は子供を捕らえて兵士として訓練しようとしていたこと。

 俺が倒れてしまい、カレンが一人でアジト殲滅に向かったこと。

 閃光眼を開眼したこと。

 ぎりぎりで俺が助けたが、傷の治癒に一週間かかってしまったこと。

 調査したところ、転移ポイントの付近には禍々しい魔力が漂っていたこと。


 爺さんは何も言わず、目を閉じて全てを聞いていた。


「なるほど、そういうことじゃったか。皆の調査結果を話す前に、一つ説教をせねばなるまいな」


 爺さんは目を見開き、険しい顔で、持っていたマグカップをテーブルに置いた。

 その「コトリ」という音が、やけに響き渡ったような気がした。


「カミル、今回の任務にSランク魔導士入りのパーティで向かわせた意味は分かっておるな?」


 険しい顔で爺さんは言う。


「パーティメンバーを危険から守るため、だよな。分かってるよ」


 俺は俯いて応えた。


「なのにカレンは全治一週間の怪我を負った。貴様は何をしておった!」


 爺さんはテーブルをバンと叩く。

 数人がこちらを振り返ったが、そんなことはどうでもいい。


「ちょっとマスター、そんな言い方はないでしょう?カミルが倒れたのに単独で行動したのは私なんですから、カミルばかり責めないで下さい」


 カレンは抗議するが、ジルは構わず続ける。


「Sランクという称号を軽く見とる証拠じゃ。Sの字を冠するものとしての自覚が足らん。お前がたとえ9歳であろうと、甘くするつもりはない」


 そうだな、少し浮かれていたかもしれない。

 降格かなあ……

 ガキだからと舐められないように、必死にここまで這い上がったのに。

 

「カミル、次はないと思え」


 俺は驚いて顔を上げる。


「え?こ、降格じゃないの?」


「一度くらいは大目に見てやる。だが次は無いぞ」


 儂もそこまで鬼じゃないさ、と爺さんは笑う。


「ありがとうございます。二度とこんな事態が起こらないよう気をつけます」


 俺は頭を下げる。

 こういう時くらいは敬語を使おう。


「では今回の事件の調査結果じゃが、ほぼ全個所がラノスと同じような状況じゃった」


「……といいますと?」


 カレンが首を傾げる。


「悪党どもに選挙されたとか、作物の凶作で飢えているとか、そんな町ばかりじゃよ」


 爺さんはため息をついた。

 つまりあれか、不幸な人々のところにキメラが現れたってわけか。

 結果を見るに、偶然ではないだろう。

 フェザーモルテの奴らは何を考えているのやら……


「すると、奴らは位置をしっかり定めたうえで今回の転移事件を起こした可能性が高いな」


「そうじゃな。目的は分からんが、警戒を緩めてはならん。儂は今回の件を国に報告しに行くつもりじゃ」


 待て待て待て、もし今回の結果を受けて条約破棄なんてことになったら……


「戦争が始まりますね」


 カレンが言う。

 そうだ、戦争が起こるのだ。

 それは阻止したいが、フェザーモルテの奴らを野放しにはしておけない。

 うーん、どうしたものか。


「まあ戦争まで行くかはわからんがな。とにかく、お前たちは心配せんで良い。面倒事は全て儂に任せろ」


 爺さんは胸をドンと叩く。

 うんうん、やはり爺さんは頼もしい。

 俺だってちゃんと尊敬してるんだぜ?


「では、そろそろ儂も行くとするかの。二人はもう休みなさい」


 爺さんはそう言って席を立ち、会議室の方へ歩いていった。

 休めと言われたものの、俺にはやりたいことがある。


「カレンはもう家に帰る?俺はアンリさんの店に行くけど」


「私も行く!」


 即答だった。

 よほどアンリの事を気に入ったのだろう。

 とりあえず荷物が重いので、一旦自宅に帰ってから大通りに集合することにした。

 はいそこ、結局帰るんじゃねえかとか言わない!


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ギルドの正面の通りには、運河が流れている。

 水は青く透き通っていてとても綺麗だが、水深は5メートル程あるので注意が必要だ。

 運河には、いつも数隻の小型ボートが行き来している。

 おっちゃんが操縦するこの小型ボートは魔力が原動力となっていて、そこそこ揺れる。

 一度載せてもらったことがあるが、俺は完全に酔ってしまった。


 そんな運河を挟んだ向こう側には、住宅街が広がっている。

 住宅街といっても家が狭苦しく密集している訳ではなく、ところどころ広場があるくらいにはゆとりがある。

 その住宅街の一画に、俺の家はある。

 そんなに広くはないが、人を3人泊めることくらいはできる。

 鍵を開け、ギイとドアを開くと、よく見た顔のおばちゃんがいた。


「ひええ、ど、泥棒!」


 おばちゃんは血相を変えて殴りかかってくる。


「イタッ!おばちゃん、違いますよ。イデッ!俺です。カミルですごふうっ!」


 必死に弁明すると、おばちゃんはあっさり手を止めた。

 俺はクエストで家を開けることが多いため、こうして家の管理を任せているのだ。

 主に掃除をしてもらっている。


「相変わらず手荒いですね……これなら泥棒も入って来ないでしょうね」


 殴られた箇所に氷魔法で作った氷を当てながら、俺は言う。


「当たり前さね!私が担当した家に入ってきた泥棒なんかいないよ!」


 ふふんと自慢げに、腰に手を当てておばちゃんは言う。

 ちなみに名前は知らない。

 

「とりあえず、今までありがとうございました。これ代金です」


 そう言って、俺は代金の10万Jを渡す。

 ああ、結構痛手だなあ……

 というか爺さん、報酬くれてもよくない?今回タダ働きかよ。


「毎度あり!じゃあまた依頼して頂戴ね〜」


 おばちゃんはご機嫌な顔で去っていった。


 さすがというべきか、家の中はとても綺麗になっていた。

 行く前に脱ぎ散らかしていた服も綺麗に畳まれ、クローゼットにしまってあった。

 俺は荷物をリビングに降ろし、着替えて家を後にした。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「ごめん、待った?」

 大通りの入り口で暫く待っていると、カレンが慌てて駆けてきた。

 彼女は白いワンピースに着替えていた。

 うん、似合ってる。

 でも寒くないか?


「待ってないよ。服着替えたの?」


「汗かいたもの。へ、変じゃない?」


「よく似合ってるよ」


 そう言うと、カレンは若干顔を紅潮させた。


「そ、そう。早く行くわよ!」


 そう言ってどんどん先へ進んでしまう。

 照れ隠しだろう。

 俺も慌てて後を追いかけた。




今回で第一章完結となります。

間話として数話上げたあと、第二章が始まります。

キャラクターも増えますので、今日同時に上げた「登場人物紹介」をご覧になり、キャラクターの特徴など把握しておいて下さい。

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