二十五話〜えにし〜
崩壊の被害を受けた世界中の国は、今もなお復興の為に尽力していた。
だが、この世界は救われたのだ。
そして崩壊の危機から三年後、土岐田とエミはめでたく夫婦となった。
だが、土岐田は片目の視力を失い、今もまだ自力で歩くことが出来なかった。
車椅子の土岐田は、エミに付き添われながらある場所へ向かった。
そして、土岐田は体を伸ばし玄関のインターホンを押す。
「はーい!」
明るい声と、階段を勢い良く降りてくる音が外からでも聞こえた。
「あっ!土岐田!エミちゃん!」
そこには、元気な姿のサエがいた。
サエはあの後、亡くなった玩具屋のご主人の家で、その奥さんと暮らしていた。
「いらっしゃい、土岐田さん、エミさん。さっ、中へどうぞ。」
「どうも!こんな姿ですみません。」
「ふふっ、こんにちはサエちゃん。」
サエはニッコリ笑うと、また元気に階段を上って行った。
「ほんと、良かったね。サエちゃんが元気になって。」
エミが微笑みながら、土岐田に言った。
「ほんとだな、まったく。サエちゃん、賢治がいなくなってからしばらく元気無かったからな…。」
そう言って、土岐田はエミの肩を借りて二階へと上がっていった。
しばらくみんなでお茶をしたり、サエとトランプをして遊んだりしていた。
するとサエが土岐田とエミに、公園に遊びに行こうと言ったので、三人で近くの公園に行く事にした。
天気の良い午後、土岐田とエミとサエは公園に来た。
今だ至る所にあの時の被害を見受けられるが、とても平和な雰囲気であった。
「みてみてー!エミちゃん!ナメクジ捕まえた!」
「キャッ…。」
土岐田はそれを見て微笑んだが、エミは小さな悲鳴をあげて後ずさりしていた。
サエはあの頃から、殆ど歳を取っていない様に見える。もしかしたら、こちらの世界では更に歳を取る早さがゆっくりなのかと。
もしくは、賢治を失った後、サエの時間も止まってしまったのかとも思えた。
だが、サエは元気になった。今はそれで良い、そう思える程の眩しい笑顔のサエがいたからだ。
しばらくして、サエは大きな木の下でちょこんと座っていた。
土岐田とエミは、それを見つめていた。
サエは自分の影の頭の辺りに、丸い石ころを二つ置いた。
それは、影に出来たまん丸目玉の様だった。
サエは、その自分の影に話しかけていた。
「アタシね、みんなといれて、すごく楽しいよ。おばちゃんも優しいし、土岐田は面白いし、エミちゃんはかわいいし!」
「だからね、寂しくないんだ。…賢治は、寂しいかな?」
「でも、アタシほんとはちょっと寂しい。時々賢治の夢見ちゃうし。」
「でもね、アタシ泣かなかったよ。だって夢でも賢治と会えたから。賢治、笑ってたから。」
サエはお気に入りの白いワンピースについた土を軽くパタパタと払うと、スッと立ち上がった。
自分の影に置いた丸い石ころは、その影の顔から離れた所に来てしまった。
サエはその石ころを見つめて、ニッコリ笑った。
「じゃね!そろそろ帰るから!」
くるっと振り向き、サエは土岐田とエミの元へ駆け寄る。
その時、やけに強い風が吹いてサエはよろけて立ち止まる。
大きな木の葉っぱが、風に吹かれてざわめき出す。
サエは自分の影を見た。
だが、そこにはまん丸目玉は無く、ただ自分の影があるだけだった。
サエは急に寂しさが溢れ出てきて、涙を浮かべぼんやりと自分の影を見つめていた。
そして、そのサエの影の隣に少し大きな影が伸びてきた。
後ろからポンポンっと、優しく頭を撫でられた。
「その服、かわいいね。とっても似合ってるよ。」
サエはそのまま振り返り、泣きながら温かい胸へと飛び込んだ。
「…バカ賢治。」
おわり




