十九話〜盲目〜
*1*
――今からおよそ二五〇年程前、大樹の元で争いを続ける四つの部族がいた。
生まれながらにして大樹の力を持ち合わせ、強靭な肉体と精神、残虐さを有していた”力の部族”。発達した頭脳を用いてあらゆる道具や武具を生み出し、その技術を駆使し存亡をかけていた”知識の部族”。力こそ無いが、誰しもが思いもつかない思考や機転、策略を己の武器としていた”知恵の部族”。そして、自らの身体を犠牲とし、それと引き換えに強大かつ多様な大樹の力を取り入れる事の出来た”能力の部族”。
その中でも、”力の部族”は他の部族の力を遥かに凌駕していた。その強靭な力による残虐非道な殺戮によって、”知識の部族”と”知恵の部族”は大きな損害を受けた。そして今にも、部族の壊滅が目の前まで迫っていた。
そんな時折、”能力の部族”の長である者が、劣勢だった二つの部族の長を呼び寄せ三部族の同盟を図った。四部族の中でも、”力の部族”と同等の力を有していた”能力の部族”は、本来争いを望まない部族であった為、この争いでの犠牲者を最小限に食い止めたかったからであった。
知識と知恵の部族は、この提案に賛成し、後に”力の部族”を制した。
そして、三部族は自らの力を駆使し、恐るべき速さで文明を築き上げて言った。
*2*
一人の少年は、部族の会合の場にいた。
そして部族の長は、戦士である皆の前で力強く話していた。
「諸君、聞いてくれ。知識・知恵・能力の三部族が同盟を組んだ。我々の部族を滅ぼさんとする為にだ。」
戦士一同はどよめき、辺りは騒がしくなっていた。
そして部族の長は声を荒げた。
「聞け!我が兄弟達よ!」
辺りが静まり返り、部族の一同は長の方を見て黙り込んだ。
「この戦で全ての力をかけ、我々は徹底的に奴らに対抗する。情けなど持ち合わせるな。女、子供とも構う事無く我々の力を振るうのだ。」
一同はは覇気と狂気に満ち、決戦の日に構えて士気を膨らませていた。
「よし。諸君らの健闘を祈るぞ。」
長がそう言うと、会合は終わり一同は解散して行った。
一人残った少年は、長のそばで嘆願を表した。
「俺も、戦いに参加させてくれ。」
その少年は部族の長である自分の父に強い眼差しを向けていた。
「ならん。お前はまだ若すぎる。若いが故に力も無い。戦に出向いてもみすみす命を落とすだけだ。奴らの力を侮るな。」
少年は悔し涙を堪え、自分の足元に目をやっていた。
「いいか、良く聞け。この戦で、我々は敗れるかも知れぬ。皆には伝えなかったが私の本来の目的は、部族の存命である。」
少年は涙を堪え、父を見つめた。
「私達は己の命が尽きるまで戦う。それが戦士である我々の役目だ。だが、お前にはお前しか出来ない事がある。」
「俺にしか出来ない事…?」
長はゆっくり頷き、息子に想いを託した。
「あぁ、そうだ。我々が奴らと戦っている間、お前は戦士で無い者を匿ってくれ。大樹の根の先にある、あの秘密の抜け道を使うのだ。その間は、我々が何としでも奴らの気を引く。お前はその隙に皆を逃がしてくれ。」
少年は自分に課せられた使命を果たそうと心に決め、父に力強い眼差しを向けた。
そして父は、息子の頭を撫で久しぶりに笑って見せた。
「頼んだぞ。」
*3*
決戦の日、俺たちの部族は既に三部族に包囲されていた。
そして”能力の部族”の長である女が俺達に向かって言葉を発した。
「私たちは同盟を組み、争いを終わらせる決意を致しました。殺戮を止め、皆で力を合わせて共存して行く事を誓い合いました。もう、争いは望みません。どうかあなた達も、これ以上の犠牲を払わ無くて済むよう、我々に賛同して下さい。」
そして”力の部族”の長、少年の父は戦士である一同の前で言った。
「賛同だと?笑わせるな!貴様らは我々に降伏しろと言っているのか?笑止!我々は生まれながらの戦士だ。戦いながらこの地に生きる決意をした!よって、この命果てるまで我々は抗い続ける!」
戦士一同は、今までに無いほどの士気を上げ、叫び出した。
「行くぞ!そして我々の力を奴らに思い知らせてやるのだ!」
長を先頭に、戦士一同は一斉に走り出した。
「仕方ありません…。」
その長の女が合図をした瞬間、戦士達に向けて何千、何万と言う砲撃が放たれた。
その砲撃に倒れる戦士達、だが戦士一同は怯む事なく向かって行った。
戦士は力を存分に使い、人間とは思え無いほどの速さで移動し、同盟部族を次々に倒して行った。だが、相手の数は数倍以上。数では勝ち目が無かったのだ。
そして、少年の父は敵の攻撃を掻い潜り、とうとう同盟部族の長である女の目前に迫った。
彼は刃を女に向け、突き刺そうとした。
刃の切っ先が女の胸に突き刺さろうとしたその時、父はピクリとも動かなくなってしまった。
「き、貴様…何を?」
女は大樹の力を使い、全ての戦士達の動きを封じた。やがて戦場は静まり返り、最後にもう一度女は話した。
「もう、あなた達の勝ち目はありません。どうか、争いを止め我々と共に平和な世の中を築き上げて下さい。」
少年はその様子を見ていた。気付けば、自分も体を動かす事が出来なかった。
「くっ…その能力。何と引き換えに手に入れた…?まさかその目…貴様、目が見えてい無いのか…。」
女はぼんやりと一点を見つめるだけだった。淡いイエローの瞳が、悲しげに何かを物語っていた。
「残念です…。」
女がその一言だけ言った後、動きを封じられた戦士達が一斉に苦しみ出した。
辺りからは戦士達のもがき苦しむ声が響き渡った。そして戦士達はぐったりと倒れこみ、息を引き取った。
しかし、少年と戦士以外の部族は何も起きなかった。それはまるで、逆らう事の出来ない程の力を、少年や残りの部族に見せしめるかの様にも思えた。
少年はただ立ち尽くし、父親にの死にゆく姿を見つめるだけしか出来なかった。
あえなくして、”力の部族”は戦に敗れた。そして真っ白の髪をした”能力の部族”の長の女が少年の元へ歩み寄ってきた。
少年はその女を睨みつけ、怒りと憎しみを露わにした。
「よくも…よくも父さんを…。」
少年の目からは涙が溢れていた。だが、女は何一つ表情を変え無いまま語った。
「あなた達の命までは奪いません。ですが、もうこれ以上争いを起こす訳にはならないのです。あなたは今後、”力の部族”の長となる器です。従って、この地に留まる事を許す事が出来ません。」
少年は自分の体に異変を感じた。足の先から頭にかけて、少しずつ痺れるような感覚を覚えた。
「な、何をしたんだ?ちくしょう…。」
女は少年の頭に優しく手を置き、小さく語りかけた。
「あなたの力を奪います。そして、あなたを永久にこの地から追放します。ごめんなさい、こうするしか出来ないのです。さもなくば、誰かがあなたを殺しに来てしまうから…。」
女はそう言うと、グッと力を手に込めた。
そして少年は、この世界から姿を消し、別の世界へと送られた。
その後、残りの部族は大樹の力の及ばない絶海の孤島に送られ、そこで生涯を過ごす事になった。




