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シャドウ・スピーカー  作者: ナレソメ
16/25

十六話〜離脱〜


*1*


俺たち三人は、急いで人気のない路地裏へと駆け込んだ。


息を切らし、俺は壁にもたれ掛ける。そして土岐田の様子を伺った。


「土岐田、エミさんも、大丈夫か?」


エミは土岐田の傷口に手を当て、目を瞑っている。


「あぁ、何とかな。それほど深くない。」


幸いな事に、重症は避けられた様だ。俺はホッと胸を撫で下ろし、その場にへたり込んだ。


「それにしても、土岐田。あんなに血が出てたのにもう大丈夫なのか?結構深そうな傷に見えたけど…。」


土岐田も感じていた。あの時、社長のナイフは完全に土岐田の肩を切り裂いていたのだ。


「でもなんか、今はほとんど痛くないん…?もしかして、エミちゃん?」


土岐田は気付いた。肩を切り付けられてからずっとエミは傷口に手を当てていた。


「も、もう、大丈夫かな?あの、痛くない?」


エミは土岐田の傷口から手を離した。そして土岐田は傷口を見て驚きを隠せなかった。


「えっっ!?傷口が塞がってる…。」


土岐田は目をまん丸くさせてエミを見た。


「エ、エミちゃん?これ、どゆこと?」


エミは土岐田を見てニッコリと笑っている。だが、その手は土岐田の血にまみれていた。


「えへへっ。良かった、土岐田くん。じ、実はね…。」


エミが言うには、土岐田が切り付けられた後、”助けてあげたい”と強く意識をしていたらしい。


「そ、そしたらね、私の中で何かが起こって、それで…。」


つまりこう言う事だ。エミの土岐田を想う気持ちが具現化し、そしてその力が土岐田の傷を癒したのだと。


俺は何だか分かる様な気がした。誰かを本気で想う力は、時として形となり俺たちの目の前に現れる事が出来ると。


それは俺たちの様な能力者に限らず、誰しもが持つ”想い”その物なのだ。


形となって触れられる物でなくても、俺たちはいつも何処かでそれに触れているのだろう。


俺はこの二人を見て、そう思った。



*2*


俺たちは一度シンの元へ戻る事にした。


ビルに着き、階段を上って扉を開けた。だが、そこにはシンの姿は無かった。そして、いつもシンが座っていた場所の後ろの壁に、妙な物を見つけた。それは、あろう事か弾痕であった。


俺たちはこの、ただならぬ異変に周囲を警戒した。


そしてエミが部屋の隅の方で何かを見つけた。


「こ、これって…。」


エミは落ちていた拳銃を拾って俺たちの方へ持ってきた。


「け、拳銃だ…でも、どうして。」


そして土岐田は何かに気付いた様に話し出した。


「まず、俺たちの他に誰かがここに来たって事だろう。拳銃を使うって事は、恐らく普通の人間だ。」


「そしてあの壁の弾痕。おかしいと思わないか?弾痕はあるのに、誰かが負傷した様な痕跡が一つもない。もし、シンが撃たれたなら血痕くらいはあってもおかしくないだろう。」


土岐田の観察力はいつも正しい。だが、それだけではここで何が起きたのかは分からなかった。


「あ、あの、そう言えば、さっきからシンの意識を感じないと思わない…?」


確かにエミの言う通り、シンの気配が何処にもない。


そして俺はシンが座っていた場所へ近づいた。


「おい、これ見てみろ!」


俺は声を上げて二人に言った。


「なんだ?この黒くて丸いの。」


土岐田は首を傾げながら、その黒い物体を見ていた。


だが、俺はすぐに分かった。これは影だ。恐らくシンの。


「おい、土岐田。あの黒い方の瓶を貸してくれ。」


「お、おう。」


土岐田は擬似影の小瓶を俺に手渡した。


「シン…。」


そして俺はその小さな黒い影に自分の影を重ね、持っていた小瓶をそこに叩きつける。


パリンと言うガラスの割れる音と共に、黒い煙が床を覆った。


そしてその煙は俺の影に向かって集まって来る。


その時だった。まるでフラッシュバックの様に俺の意識へ流れ込んできた。


見知らぬ男の事、ここであった全ての事、そしてその男がシンに流し込んだ意識を全て知った。


「ま…まさか。」


俺はその衝撃の事実を知って、言葉を無くした。そしてその小さな丸い影は、役目を終えたかの様に消えていった。


「おい、賢治。一体何が起こった?シンは、シンはどうしたんだよ?」


土岐田は強めの口調で俺に問いただした。


「シンは…消えたよ。殺された…。」


三人は黙り込んだ。まさかあのシンが殺されるとは思いもしなかったからだ。


「一体、誰がシンを殺したって言うんだよ?だって、影はここに入れないんだろ?」


「影じゃない。人間だ…。」


「人間?じゃあ、やっぱりこの銃で撃ち殺したってのか?」


土岐田は珍しくパニックになっていた。だが、エミは意外にも冷静だった。


「人間…力を持った人間。私たちよりもずっと強力で、凶悪な…つまり…。」


エミは気付いた。そして恐怖に駆られて言葉を失った。


「あぁ、そうだ。奴だよ。社長に憑依したアイツだ。」


土岐田も冷静さを取り戻し、何かに気付いた様に話し出した。


「そう言えば、アイツはもう一つの瓶の力を使ってたな。濃縮大樹エネルギーを。確か、アイツはあの瓶を探していたって言っていた。そしてさっき、アイツは俺たちの前から消えた。」


俺は二人を見て、ゆっくりと話しをする。


「俺は、さっきの小さな影から全てを知った。あの影はシンが俺たちに、最後に残した物だったよ。」


「それで奴は、向こうの世界から直接俺たちの世界に来る事が出来る。つまり、影としてじゃなく、実体としてこっちの世界に来れるんだ。」


「そして奴は、シンと俺たちが繋がらないように防衛線を張った。結界みたいなものだよ。だからさっきからずっとシンと交信出来なかったんだ…。」


俺は歯をくいしばった。


ーーやられた。奴は最初からこれを狙っていたんだ。


奴はまず、俺たちに他の影達を捉えさせた。そしてシンと俺たちを引き離す為に、わざと自分の居場所をシンに見つけさせた。


つまり、俺たちが奴をおびき寄せる為に行った陽動作戦は、実は奴が俺たちに仕掛けた巧妙な”奴の陽動作戦”だったのだ。


「ちくしょうっ!」


俺は弾痕のある壁を殴った。俺の拳からは血が滲んで、一筋の赤い線となり壁を伝って行った。


「賢治…。」


その場に黙り込む三人の静寂を破るかの様に、サエが現れた。


「賢治…どうしよう…。シンが…シンが…。」


サエは怯える様に泣いていた。


「サエ…ごめんよ。シンを死なせてしまった…。」


「うっ…うえ…うぇぇん…。」


「サエ…。」


俺は何も出来なかった。奴の罠にまんまと騙され、挙句には社長とシンの命も救えなかった。


俺はただ、血の滲んだ自分の拳を握り締める事しか出来なかったのだ。




*3*


男は一人、街を歩いていた。


すれ違う人々、主人に連れられ散歩をしている犬、路地裏で声を上げながら喧嘩をしている野良猫、高層ビル、車、飛行機。


その全てが、自分の手の中でひしめき合っている様に思えていた。


一見、広い様に思われる世界も、その男にはほんの小さな箱に収まるくらいの物に感じられていた。


意識を集中するだけで、ありとあらゆる場所へ繋がる。


それはこの世界のみに留まらず、次元を超越した世界全てであった。


だが男は、敢えて自らの足でこの世界を歩いている。


僅かだが、思い入れのある街だったからだ。


そして男はふと、思い出したかの様に言葉を吐いた。


ーーこの街も、変わらないな。


男はただ一人で歩き続け、ある場所へと向かう。


そこは街から少し離れた場所で、都会の雰囲気とは打って変わる、木々の生い茂る閑静な場所だった。


男は足を止める。そして思いにふける様に言うのであった。


ーー久しぶりだな。由里子。


男は墓の前に立って、ただじっとその墓を見つめているだけだった。


そして、男は空を仰ぎ見て両腕を大きく広げて目を瞑る。




ーーさぁ、”終わりの始まり”だ。





男は目を見開き、その場で塵の様に消えていった。


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