表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウ・スピーカー  作者: ナレソメ
15/25

十五話〜対峙〜


*1*


シンは目を瞑り、意識を集中させているままだ。


俺たちはひとまず体力の回復をさせる為、座り込んで休んでいる。


土岐田は寝てしまっているようだ。そしてエミもその土岐田の肩に頭を乗せて寄り添うように、寝ているようだ。


俺はそんな二人を見つめていた。


ーー結婚式、呼んでくれよな。


そんな事を思い、俺も瞼を閉じて少しの間寝てしまった。


「皆さん、起きて下さい!奴が動き出しました!」


シンの声に一同は一斉に目を覚ました。


「かかりましたよ!奴は捉われた影達を探し出しています。場所は、ここからすぐ近くです!」


シンの慌てた様子が、事の重大さを物語る。何せ、すぐ近くまで敵のリーダーが来ているのだから。


「詳しい座標は追ってあなた達の意識へ送ります。そして奴は恐ろしく強大な力を持っていますので、先ほどの様にはいきません。」


「で、ではどうやって奴を捉えるんですか?」


俺はシンに問いかけた。


そしてシンは二つの小瓶を取り出した。その小瓶の中には、モヤモヤとうごめく黒い煙の様なものと、淡い緑色の煙の様なものが入っていた。


「奴に対抗するには、物理的に攻撃を仕掛けなければなりません。そこでこの小瓶を使います。」


「この小瓶の中には、一時的に影と影を繋げる”擬似影”たるものと、あなた達の力を実体化させる事が出来る”濃縮大樹エネルギー”が入っております。黒い方が擬似影、緑の方が濃縮大樹エネルギーです。」


「使い方は、奴の影を目視で見つけた後、自分の影と重ねてその影の上で擬似影の瓶を割ります。これは土岐田さん、あなたにやってもらいます。」


土岐田は無言で頷く。


「そして土岐田さんの影と奴の影が繋がったら、すぐにこちらの濃縮大樹エネルギーの瓶を割り、先ほどの佐藤さんのイメージした鎖で奴を捉え、エミちゃんの剣のイメージで奴の影を断ち切ってください。」


俺たちはシンの話しを聞き、先ほどよりも密な連携が必要になると感じた。


「この作戦は、非常に危険です。私はあなた達の命を優先しますので、もし誰かの命の危険が迫った時には、構わずその場から離脱してください。最悪、擬似影だけでも使えれば、私の力で奴を食い止める事くらいは出来ると思います。」


土岐田が口を開く。


「つまりだ、擬似影を使う俺だけは何としてでも残らなきゃいけないって事だな。」


エミは心配そうな顔で土岐田を見つめる。


「土岐田くん…。」


「土岐田…。」


「大丈夫!心配すんなって!俺だってそうそう簡単にはやられないよ。」


土岐田は笑顔で俺とエミに言った。


「おっし、そろそろ行くか!今度もきっと上手く行くさ。」


土岐田の言葉に、俺は奮い立った。何があっても、俺がお前を守ってやる。


そうして、俺たちは扉を開けビルの階段を下りて行った。


「どうか皆さん、ご無事で…。」


シンは祈る様に、俺たちの後を見送った。




*2*



俺はサエが気になったが、まだ体力が回復していないかも知れないと思ったので、しばらくそっとしておいた。


サエは俺たちと違って、こっちの世界に来て力を使っている。つまり、こっちに来るだけでも相当の体力をつかうのだ。


ーーサエ、君はギリギリまで体力を温存しておいてくれ。


そして俺たち三人は、ビルを出て歩き出す。俺と土岐田が前で、その後ろをエミが付いてくる。


しばらくして、シンは俺たちの意識に直接座標のイメージを投影してくれた。


「人が多いな…こんなんで見つけられんのか?」


少し不安げに土岐田は言う。


「確かにな。影を探すって行っても、どんな姿をしてるか分からないし。」


そしてシンからのメッセージが俺たちの意識に送られる。


ーーみなさん、奴は近いです。私が感知する限りでは、単体で移動している様です。


俺たち三人は、シンの言葉に意識を集中し、奴の存在を探した。


すると土岐田は何やら思い詰めた様な感じで、口を開く。


「あのさ…気のせいならいいんだけど、何かここまで上手く行きすぎだと思わないか?俺が感知した影達も、特に抵抗する様子も見えなかったし…その、なんつーか…あっさりと捕まってくれたって感じ。」


俺は土岐田の発言に、一瞬身震いした。確かに、上手く行った。俺たちの連携プレイも良かったが、それ以上に奴らは何もしてこなかったからだ…。


「確かに。そう考えると何かおかしな気がするな…。」


「う、うん。土岐田くんの言う通り、私もそう思う…。」


俺たちは三人は何か不吉な予感を感じながら、奴の存在を探していた。


そして、少し路地に入った所で思いがけない人物と出会った。


「おやおや、珍しい所で会ったね。どうしたんだい?三人揃ってお出かけか?」


「ど、どうして社長がここに?」


俺たちの会社の社長だった。


「どうして?って、仕事に決まってるじゃないか。君達がいない分、私がこの足で営業をしているのだよ。」


俺はバツが悪い顔をして、社長に謝った。


「そ、そうでしたね。ほんと、すみません。」


「はは、まぁ気にするなって。」


社長はいつものような笑顔だった。しかし、土岐田の様子がおかしい。何か、社長を睨んでいるかの様に見えた。


そして土岐田は、強い口調で社長に問いかけた。


「社長…今、なんて言いましたか。」


「ん?急にどうした、土岐田くん。」


土岐田はまだ警戒していた。だが、この後の土岐田の一言で俺は一気に背筋が凍りついた。


「社長。どうして今、”三人で”って言ったのですか。何故、社長がエミちゃんの事を知っているのですか?」


確かにそうだ…。エミは俺と土岐田の後ろを歩いていた。エミの事をを知らない社長なら、俺と土岐田の”二人”で歩いているように見えるからである。


そして社長は、不気味な笑みを浮かべた。


「やはり、君はなかなか勘の鋭い奴だ。」


すると、社長はズボンのポケットから鈍く光る小さめのサバイバルナイフを取り出した。


「社長っ…!?」


「ふ、二人とも、気をつけて!」


不気味な笑みが消え去ったその瞬間、社長は俺を目がけナイフをかざし襲い掛かってきた。


俺は間一髪の所でで社長の振りかざすナイフを避けた。


そして社長は振り返り、エミの方へナイフを向け近寄った。


「こ、来ないで…!」


社長はすでに別人の様な形相で、エミに襲い掛かる。そして、そのナイフがエミを襲う瞬間、土岐田が間に入った。


「うあっ…。」


ナイフは土岐田の肩を切った。そして傷口からは、じわじわと血が滲み出てきて土岐田のシャツを赤く染める。


「と、土岐田くんっ!」


「土岐田っ!」


俺は勢いをつけて社長に体当たりをした。その衝撃で社長は倒れこんだ。


土岐田はエミを庇う様に、覆い被さる。そして、エミに向け土岐田は笑顔さえ見せた。


「大丈夫、エミちゃん。何も心配いらないよ。」


「で、ても土岐田くん…土岐田くん。」


エミは泣きながら土岐田の傷口を必死で抑えた。痛みを堪える土岐田を見て、何も出来ない自分に苛立ちと悔しさを覚えていた。


「ごめんなさい…私のせいで…ごめんなさい。」


土岐田はもう片方の腕で、そっとエミの肩を抱いた。


その時だった。社長は人間とは思えない速さで起き上がり、獲物を捕らえた獣の様に走り、そして俺に向かってきた。


ーーダメだ、間に合わない。


「賢治っ!逃げろっ!」


土岐田の声が聞こえた刹那、俺は目を瞑ってしまった。


急に辺りが静かになった。俺はゆっくり目を開けると、社長は俺の目の前で小刻みに震え、ナイフをかざしながらその場から動かなかった。


そして、俺の影が細く伸びて社長の影とくっついていた。


「賢治に手ぇだしたら…アタシが許さないんだからっっ!」


ーーサエっ!?


間一髪の所でサエが来てくれた。そしてサエは社長の影を捉え、サエの力で社長を拘束していたのだ。


「サエ!来てくれたのか!」


「あったりまえよっ!アタシだって強いんだから!」


だが、社長は腹の底から響く様な唸り声をあげ、サエの力に抵抗した。


「なに…これ…。」


サエは社長との攻防の中、信じられない程の恐怖のイメージを読み取った。


そしてサエが一瞬怯んだ。その隙を社長は見逃さなかった。


社長はまた唸り声をあげ、そしてサエの力を振り切り動き出した。


「アイツ、すごく変な力を持ってる…賢治、ちょっとヤバいかも……。」


サエは今までにないくらいの恐怖を感じたように、怯えていた。


俺がサエに気を取られていると、社長はまた俺に襲い掛かって来た。


油断した俺は押し倒され、馬乗りの状態にされる。その反動で俺の上着から小瓶が一つ転がっていったのを社長は見落とさなかった。


社長は物凄い速さで仰け反り、小瓶を手にした。


「ククク。コレだよ…私が探していたのは。」


社長が手にしていたのは、濃縮大樹エネルギーの小瓶だった。


そして社長はその小瓶を振り上げ、勢いよく地面へ叩きつけた。小瓶は粉々に割れ、緑色の煙が社長の影へ吸い込まれていった。


「やっと、やっと手に入れたぞ。この力…。」


社長は不敵な笑みを浮かべ、また俺たちを見回した。


その時だった。


社長は苦しみ出し、もがいていた。


「ぐうぅっ…うぅ…あぁぁあ…貴様…。」


すると社長はガクッと力が抜け、肩の力が抜けたような格好になった。


そして俺たちへ顔を向けた。そこには涙を流した社長がいた。


「佐藤くん…土岐田くん…本当に済まなかった。奴が戻ってくる…今のうちに逃げて…くれ…。」


社長は憑依されていたのだ。そして社長は今、持てる力を全て使って抗っているのだ。


「社長…どうして…。」


そして社長はまた苦しみ出し、あの不気味な笑みを浮かべ、血のついたナイフを構えた。


「ククク。残念だったな。」


そして社長はナイフの刃を自分に向け、心臓をめがけ自らナイフを突き刺した。


「うぐっ…。」


社長からは大量の血が流れだしていた。心臓から溢れる血液が、社長の腰、そして脚へと伝っていく。


地面に溢れ出た社長の赤黒い血の海は、まるで自分の影の様だった。


俺はすぐさま社長の元へ駆け寄った。だが、もう既に社長は息をしていない。


青ざめた肌に、真っ赤な血の色が強いコントラストを描いていた。


そしてその時、社長の影のがズルズルと動き出し、地面へと消えていった。


「社長!しっかりして下さい!」


社長はピクリとも動かない。ついに、社長までもが影の犠牲になってしまったのだ。


俺は社長を抱きしめていた。流れ出した社長の血が、まだ温かかった。


「と、取り敢えずここを離れた方が…。土岐田くんの怪我の手当てもしなきゃいけないから…。」


エミの言葉に俺は我に返った。そして土岐田はエミに抱えられ起き上がった。


「賢治、ほら早く!」


「社長…ごめんなさい…。」


社長の亡骸を残し、俺たちは急いでその場を後にした。



*3*


その頃、シンは何やら不吉な予感がしていた。


ーー急に感知が出来なくなった…?


シンの脳裏に三人の姿が浮かぶ。


「何かあったのかも知れない…。」


シンは三人の事を案ずるかの様に、部屋で待っている。その時だった。


”ガチャリ”とドアノブが回り、そしてゆっくりと扉が開いた。


「こんな所にいたか。探すのに苦労したよ、全く。」


扉からは見知らぬ男が入って来た。


「あ、あなたは一体…。」


そう言いかけた所で、男は銃口をシンに向け、何も言わずに放った。


”タンっタンっタンっ”と三発の銃声が部屋に響き渡る。硝煙の臭いが、部屋に充満した。


だがシンは、何事も無かった様に椅子に座っていた。


「…あなたが誰かは存じませんが、そんな物は無駄ですよ。」


銃弾はシンの体をすり抜け、背後の壁にめり込んでいた。


その様子を見た男は、不敵な笑みを浮かべ拳銃を下ろし部屋の隅に投げ捨てた。


「やっぱりな。こんな物でお前を殺せるなら苦労しないぜ、ホント。」


シンは三人に意識を集中するが、どうもおかしい。全く感知出来ないのだ。


「無駄だぜ、そんな事。」


ーーこの男が何か結界の様な物を張っているのか…?


シンは目を見開き、男を見つめる。


「あなたは誰ですか?ここへ来た理由は…先ほど分かりました。」


シンの問いに男は笑みを浮かべたまま答えた。


「俺はただの人間さ。とは言っても、こっちの生まれじゃないけどな。」


ーーまさかっ?


シンが何かを言おうとした束の間、男は一瞬にしてシンの目の前に移動して来た。


シンは、この男の恐ろしいほどの力に危険を感じ、一旦向こうの世界に戻ろうと試みた。だが、何も起きない。向こうの世界にいる本体に意識を戻せないのだ。


「どうした?もしかして、戻れないのか?」


男がそう言うと、シンの体に右腕を突き刺した。


「…ぐっ…な、何を…?」


シンの顔が苦痛で歪んだ。


「この日を待っていた…。」


男はその一言だけを言い、シンに意識を流し込んだ。


「ま…まさかっ、あなたは…。」


「あぁ、そう言う事だ。」


そして男は、シンに突き刺した掌を強く握って引き抜いた。


「これで貴様は終わりだ。」


「残念だったな。」


シンの体にと影がみるみるうちに小さくなっていく。そして、部屋にはその男一人になった。


男はシンの消えた後の床を見つめ、何も言わずゆっくりと振り返り、扉を開けて出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ