表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウ・スピーカー  作者: ナレソメ
12/25

十二話〜トリップ〜


*1*


作戦決行は明朝6時、それまではそれぞれ好きな様に待機との事だった。


土岐田は俺と少し話した後、エミと一緒に部屋を出て行った。なんだか、羨ましい後ろ姿だった。


「ふふっ。先越されちゃったね。」


サエはチクリと意地悪な事を言う。まさに、その通りだが…。


「まぁ、仕方ないさ。アイツは昔から結構モテてたからなぁ。全部終わったら、アイツら結婚でもするのかな。」


俺は切ない気分だったが、そうなって欲しいと心から思った。


「アイツらは、俺が守ってやらなきゃな。」


「じゃあ、アタシはアンタを守ってやらなきゃな。」


「な、なんだよそれ?何か俺が頼りないみたいじゃないか。」


「ニシシシっ。」


そんなやりとりをしていると、シンが話を切り出した。


「お二人さん、ちょっと帰る前によろしいでしょうか?」


シンはニコニコしていて、何か言いたそうだ。


「あ、はい。なんでしょうか?」


「佐藤さん、一度こちらの世界に来ませんか?」


俺は影のサエの様に、目をまん丸くさせた。


「えっ?俺もそっちに行けるんですか?」


「えぇ、でもほんの少し、サエちゃんの影としてですが。どうです?」


俺は気分が高揚したのを全身で感じた。まさか、俺がもう一つの世界に行けるなんて思いもよらない事だったからだ。


そして何よりも、一度でも良いからサエの姿を見てみたかったからである。


「是非、是非ともよろしくお願いします。」


「了解しました。では、少し準備かいりますのでしばしお待ちください。」


そう言うと、うなだれたままの店長とシンはズルズルと地面に沈み、跡形も無く消えていった。


「アンタ、こっち来るの?」


何か不機嫌そうなサエだったが、俺は気にせず返事をした。


「あぁ、実は一回行ってみたいと思ってたんだ。変な話だけど、夢みたいな気持ちだよ。」


そう言うと、サエはまた向こうの世界に戻っていった。


「じゃあ、アタシは一回もどるね。」


やはりサエの様子がおかしい。何か、あまり気が進まない様な素振りだった。


そうして俺は一人でシンを待っていた。


数分後、地面から黒い影がムクムクと生えてきた。


「お待たせしました、佐藤さん。では、これから佐藤さんのDNA情報を取り込み、二つの世界に適応させる作業をします。あ、実はこんな事が出来るのは、産まれながらの大樹エネルギーを持ち合わせている佐藤さんだからこそですよ。」


そう言うと、シンは俺の手の甲にチクリと針を刺した。


そしてやたら曲線が目立つパソコンの様な機械にその針をセットした。


「これはですね、簡単に言えばパスポートみたいなもので、あちらの世界の大樹と直結していて、あなたの存在を大樹に認識させているのです。大樹エネルギーのない人間は、認識不可となってしまう為向こうの世界に行けませんから。」


そうシンが説明していた時、その機械を見ていたシンが画面を覗き込む様に見ていた。


「なんだ…?これって…。」


何やら問題でもあったのだろうか。俺は少し不安になった。


「ど、どうかしましたか?もしかして、認識不可とか?」


シンは首を傾げながら、画面を見ていた。


「いえ、認識は無事に通りました。ですが、こんなにもスムーズに認識が通るなんて…ちょっとびっくりしていただけです。」


俺はホッと胸を撫で下ろす様に安心した気分になった。


「まぁ、とりあえず無事に認識が通りましたので、さっそく私達の世界に来てみましょうか!」


「それでは、意識を自分の影に集中してみてください。あ、向こうではサエちゃんの影になっていますが、初めてなのですごく体力を使います。多分、向こうにいれて10〜15分程度かと。体力が尽きたら自動的にこちらへ戻って来ますのでご安心くださいね。」


「それでは、また向こうでお会いしましょう。」


俺は目を閉じた。自分の影に意識を集中する。だんだんど足が重くなって行き、そこから一気に脳天へと重たい衝撃が走る。


ーー体が動かない。


ーーいや、少しは動くが、やたらと重い。重力が何倍にもなった様な感じだ。


そして俺は、目の前が真っ暗になった後、非常に多彩な色の光を受け、また暗くなって意識が薄れていった。



*2*


意識が戻ると、視界はとても狭く少しぼんやりとしていた。そして見慣れない壁のようなものが真っ先に目に入った。


しかしそれは壁では無く、天井だった。俺は、影になり真上を向いていたのだ。


「やった!成功したんだ!」


俺が声を上げると、更に声が聞こえた。


「あらま、ホントにきちゃったんだ。」


サエの声だ。俺は影であるから、自分の足元の方へ目をやった。


しかし、まだ視界がぼやけていてほんの少ししか見えなかった。


「サエ?サエなのか?」


「…うん、そだよ。」


サエの元気がない。視界が狭くぼんやりと霞んでいるので、全体を見渡すのが苦労する。


何とかして目を凝らし、だんだんと視界がクリアになって行った。


そこには、白いワンピースを着た透き通る様な白い肌、そして真っ白な髪の毛をした少女、サエがいた。


だが、様子がおかしい。俺は気付いた。


サエは目隠しをする様に包帯を巻いていた。


「サエ…君は、もしかして…。」


俺は言葉に詰まった。そして胸のあたりが締め付けられる様な感覚がした。


「うん。アタシ、生まれつき目が見えないんだ。」


俺はサエにかけてやる言葉が見つからなかった。


「大樹エネルギーを持ち合わせて産まれた人間とね、大樹エネルギーを取り込んだ人間は、その代償で体のどこかの機能が使えないの。それで、アタシは目が見えないんだ…。」


ーーそうだったのか…。サエはこんな自分の姿を見せたくなくて…。


「サエ…ごめんよ。サエの気持ちも知らずに、勝手に来てしまって…。」


「ううん。大丈夫。アタシこそ、なんかごめんね。こんな姿で。」


俺は大きく首を振った様にしたが、影の姿なので全く動いてなかった。


「実はね、影としてアンタの世界に行くと、その時だけ目が見える様になるの。だから、最初は色々な物が見たくて、アンタの影になってたの。」


確かに、俺の影はまん丸目玉がよく目立っていた。


「そっか…そうだったんだ、サエ。」


俺は少し疑問に思っていた。一見普通12〜13歳くらいの少女に見えるが、何故サエは俺の子どもの頃の夢にも出てこれたんだ?と。


「サエ、君は一体いくつなんだい?」


「うんと、今年で14の年になるかな。気にしてないからあんまりわかんない。」


「やっぱりそれ位か。あのさ、どうして俺の子供の頃の夢にも出てこれたんだい?だって、もう20年以上前の事だし。」


「えっと、アタシみたいな特種な人間は普通の人間よりも年を取りにくいの。アタシの場合は大体普通の人間の1/2くらいかな。」


「だから普通に考えると、アタシは28歳前後ってなるけど、そこらへんは気にしないでね。」


「まぁ、気にしてないから大丈夫だよ。」


「………。」


俺とサエは、少し黙り込んでしまって、気まずい雰囲気になった。ましてや俺はサエの影になっているものだから、その場を離れられない。


何とかして、今の空気を変えようと思い、俺は考えた。


「サ、サエ。その…なんだ。その服かわいいね!とっても似合ってるよ。」


サエはピクッと動き、自分の服をちょこんとつまんで見せた。


「こ、これ?ほんと?…よかったぁ。アンタが来る前にシンに選んで貰ったの!」


サエは少し元気が出た様だ。女性の服を褒めるのは生まれて初めてだったが、喜んで貰えて俺も嬉しい気分だった。こうゆうのは、土岐田の得意分野かな。と、土岐田を少し尊敬した。


「無事に来れたみたいですね。佐藤さん。」


何処からかシンの声が聞こえた。俺は辺りを見回し、丁度俺の頭上にいる事に気付いた。


「シン…あなたも…。」


シンの姿は、向こうの世界の店長とほとんど同じ見た目だった。


だが、シンは車椅子の様な乗り物に乗っていた。


「サエは目が、そして私は足が動きません。以前は普通に歩いていたのですが、大樹エネルギーを取り込んだ際、足が動かなくなりました。これが私の代償です。」


俺は深く考えていた。何故、大樹は代償を負わせたのか。この世界の為に立ち上がる人間に、何故こうも酷な仕打ちをしたのか。


「あの、この世界の技術があればサエの目も、その足も治るのではないのですか?」


「えぇ、確かに見えなくなった目や動かなくなった足は、今の私達の医療技術では治せます。ですが、大樹エネルギーの代償により機能しなくなったものはいかなる手を用いても治る事はありません。」


「大樹は、この世のバランスを司る存在であり、それは決して揺るがない物なのです。つまり、空を飛ぶ鳥は水の中では生きられない。そういう事です。」


シンの話は理解出来た。だが、俺はどうにかして彼らの代償を補うことが出来ないか考えていた。出来ることなら、サエにこの世界の全てを自分の目で見て欲しい。こんな小さな子が、これからもずっとこのままだなんて、認めたくなかった。


「賢治、さっきはありがと。アタシね、目が見えなくても大丈夫なんだ。だって、ちゃんとみんなの存在も感じるし、それにね、この力のお陰で賢治にも会えたしね!ようはケースバイケースってことよ!」


サエは強かった。見た目からは想像もつかないが、彼女には彼女の揺るぎない信念がある。俺は、そんなサエをこの危機から守ってやりたい。


今まで普通に暮らしていたが、これ程までに守りたい存在は特に無かった。だが、今ははっきりと分かる。俺にも守りたい存在が出来たのを。


「サエ、その…。」


「なぁに?どしたの?」


「いや、何でもない。サエに会えて嬉しかったよ。」


「な、何それ?ばっかみたい。ま、まぁ、アタシに会いに来てくれた事には感謝してあげる。」


ーーいつものサエだ。やっぱりこの感じが落ち着くな。



そうして俺はだんだんと意識が遠のいていく。


ぼんやりとだが、サエは笑っている様に見えた。



*3*


そうして俺は、また意識を取り戻す。俺の世界に戻ってきたのだ。


体がやけに重い。と言うよりは疲労感だ。ほんの僅かな時間だったが、かなりの体力を使った様だった。


「お帰りなさい、佐藤さん。」


ふと目をやると、店長姿のシンが立っていた。


「いかがでしたか?向こうの世界への旅は。」


シンは落ち着いた口調で話した。さすがに両世界を頻繁に行き来しているだけあって、シンの様子からはほとんど疲れを感じさせない。


「えぇ、かなり疲れましたが面白い経験でした。サエにも会えましたし。」


俺はあのサエの姿を思い出していた。そして、少し寂しい気分になった。


「佐藤さん、サエの事でお願いがあります。」


何やら深刻そうな雰囲気で、シンは俺に話をして来た。


「お願い?なんでしょう。」


そしてシンはゆっくりと話し出した。


「サエは今よりもっと幼い頃から家族がおりません。サエの父親は、私と同様に大樹エネルギーの適応者でした。」


「そして私と共に、シャドウ・プロジェクトの研究員として大樹エネルギーの研究をしておりました。しかし彼は、取り込んだ自らの大樹エネルギーの制御に失敗し、私の目の前で亡くなりました。」


「彼には妻がいて、その彼女はサエと同じ生粋の大樹エネルギー所持者でした。しかし彼女は、大樹エネルギーの代償によって生まれつき心臓の働きが普通の人間のおよそ1/3程度の機能しかありませんでした。」


「サエの父親が亡くなる前に、彼女はサエを身ごもっており、サエが産まれると同時に彼女も命を落としました。」


俺は、そんなサエの事を思うと俺と少し似たような境遇である事に胸を痛めた。


「そしてサエは、知っての通り生まれつき目が見えません。その為、しばらくは一人じゃ何も出来ませんでした。そして私はそんなサエを、ここの研究所で育てる事にしました。サエの父親が亡くなる前に、私はサエの事を聞かされ託されたのです。」


シンは悲しげな表情を浮かべ、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「サエは、目が見えない事から自分の姿も、外の景色も見た事がありません。そして何より、サエの様な生粋の大樹エネルギー所持者は、奴らに狙われる事が多く、サエは生まれてからずっとあの研究所の中で育ちました。」


俺は生れながら命を狙われ、そしてずっと匿われていたサエの事を思った。自分の世界を、何も知らぬまま過ごしていたのかと思うと、胸が苦しくなる。単なる同情などでは無く、もっと深い感情だった。


「佐藤さん、お願いです。あの子を、サエを守ってやって下さい。そして、サエがこれから安心して外を歩ける様な世界にしてください。」


シンは俺に深々と頭を下げた。彼の気持ちは真剣そのものだった。俺はシンの気持ちをしっかりと受け止め、この戦いを必ず終わらせると心に誓った。


根拠は何処にもないが、俺には出来る自信が芽生えていた。


「はい。わかりました。俺にはシンやサエ、土岐田やエミさん、そして亡くなったご主人の想いがついています。だからきっと、全て上手くいくと信じています。」


シンはゆっくり顔を上げ、俺にいつもの様なニッコリとした笑顔で言った。


「佐藤さん、ありがとう。サエの事、よろしくお願いします。」



そして俺はシンと硬い握手をして、この部屋を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ