十話〜集結〜
*1*
秋葉原でのシンとの会話を終え、俺は一度自宅のアパートへ戻ってきた。
まさかとは思うが、もう一人のシャドウ・スピーカーが土岐田だと言う事がどうも信用出来ない。もし、土岐田なら何らかの兆候があっても良かったのではないかと。
ーーいや、待てよ。そう言えばアイツ、前に”ビッグな秘密”が何とかって言ってたような…。
ーーまさか、アイツがそんな事言うか?
実は俺、影と会話が出来るんだよー!…何て事を言うわけもない。
ーーでも、俺の思い当たる人としたら土岐田、奥さん、そして社長しかいないしな…もしかして、社長?
俺はとりあえず、土岐田に連絡してみた。
「あーもしもし?今何してる?」
「ん?ゲームしてるけど。どーした?お前もやるか?」
ーーいやいや、さすがに土岐田じゃないだろ。こんな時にゲームやってる奴が世界を救う人間なのか?
俺はやはり信じられなかった。でも、シンは何故もう一人が誰なのかを教えてくれなかったんだろう。
そこが気になる所だった。
「あーそっかぁ、いや。何でもないわ。ゲーム中にすまんな。」
俺は電話を切ろうとしたが、土岐田の声が聞こえたのでもう一度電話を耳に当てた。
「ちょちょっ、なんだよ急にー。気になるじゃん。どしたのよ?」
とりあえず俺は、土岐田を誘ってみた。
「あ、あのさ。気が進まなかったらいいんだけど…ちょっと一緒にアキバ行かない?」
「アキバ?いいけど、何しに行くん?」
「メ、メイド喫茶…。」
俺は顔が熱くなった。まさか、俺からメイド喫茶に行こうなんて誘う事がこの人生の中であっただろうか。いや、無い。無いのだ。
「ど、どうしたお前?頭でも打ったか?」
「…いや、すまん。冗談だ。気にしないでくれ。」
「まてまてまて、ほんとは?ほんとは行きたいんだろ?いいぜ!付き合ってやんよ!」
残念ながら、土岐田はノリノリだった。俺が誘った事によって、火がついたのだろう。自分で誘っておいて何だが、仕方なく俺は土岐田と待ち合わせる事にした。
「おっす!やっと女に目覚めたか。しかもメイドとはなかなかコアなところ突くねぇ。」
「う、うるさい。は、早く行こうぜ。」
「へいへい。わかりましたよご主人さまぁ。」
俺は土岐田の肩を小突いた。だが、土岐田とのこんな会話も久しぶりで何だが楽しかった。
そうこうしてるうちに、問題のメイド喫茶へ到着した俺たちは、ゆっくりと店内に入る。
「おかえりなさいませっ!ご主人さま♪」
迎えてくれたのはメイド姿のエミさんだった。相変わらずオンとオフの差が激しい子だ。
そして、俺は一つの異変に気付く。土岐田の様子が妙におかしいのだ。
「あ…うそ。なんで…。」
「と、土岐田…くん…?」
ーーな、何と言うことだ。土岐田とエミさんが知り合いなんて…。しかも、何だが気まずそうだぞ。これはもしや…。
「な、なぁ、土岐田。この子、知り合いか?」
土岐田は気まずそうに俺を見て頷く。
「えっと、なんと言うか…俺の、彼女だ。」
土岐田からは一切そんな話を聞いて無かった。しかも昨日エミさんに会った時も彼女から何も聞かされていなかった。俺は驚きと少しばかりの嫉妬感を覚えた。
「なんで言わなかったんだよ!と言うか、い、いつから?」
土岐田はクルッと俺の方を向きなおした。
「スマン!黙ってるつもりは無かったんだ。ただ、お前最近、元気無かったから言うタイミングが…。」
土岐田が言うには、ほんの数ヶ月前にオンラインゲームで知り合ったのだと言う。ゲーム好きな土岐田ならありえる話だが…。
俺は少し不貞腐れ、なんだか俺一人取り残された様な孤独感を感じた。
「いや、良いんだ。プライベートな事だし、俺は関係ないし、俺は彼女はい無いし、別に寂しくないし…。」
「ほんとにほんと、悪かったよ!この通り。えっと、紹介するね!彼女は…。」
「佐野エミさんだろ。」
土岐田はポカンとした表情で俺を見ている。
「へ?なんで?なんで知ってるの?」
そう土岐田が俺に問いかけたその時、非常ベルの音が店内に鳴り響いた。
「お客様、火事です!速やかに非常階段から避難して下さい!」
そう慌てて声を上げてやって来たのは店長だった。
土岐田は慌てて避難しようとしたが、俺が土岐田の腕を掴んで引き寄せる。
「なんだよっ!早く逃げようぜ!」
土岐田は声を荒げて俺に言った。だが、落ち着いた俺の顔とエミさんの顔を見た土岐田は、何かを感じた様にその場に立っていた。
「どう言う事だ?お前、何か知ってるのか?エミちゃんも…。」
土岐田はいかにも怪しんでいた。それも仕方ない事だ。だが土岐田は勘が良い。すぐに火事は嘘だと見抜いた。
「なあ、賢治。なんで俺をここに連れて来たんだ?なんか、訳があるんだよな?お前がここまでするには何か意味があるんだろ。」
「と、土岐田くん。秘密にしてて、その
、ごめんなさい…。」
エミがそう言うと、土岐田はは大きなため息をついた。
そこで非常ベルが鳴り止み、店長が俺たちの前に現れた。
「土岐田遼さん、エミちゃんからあなたの事は伺っております。さ、みなさんこちらへ。」
土岐田は腑に落ちない様子だったが、おとなしく店長の言う事を聞いた。
そして俺たち三人は、店長の後に続き店の奥の扉へと歩いて行った。
*2*
俺たちはあの重たく大きな扉を開け、薄暗い部屋に集まった。
俺、土岐田、エミさん、そして店長の四人はあの簡素な椅子に向かい合わせで座っている。
「さてと、土岐田さん。まずは自己紹介を兼ねて今までの経緯をご説明しますね。」
シンはそう言うと、土岐田の額に手を当てた。
土岐田は一瞬ピクリと動いた後、10秒ほど微動だにしなかった。
シンが土岐田の額から手を離すと、土岐田はパチパチと瞬きをして俺たちの方を見渡した。
「…何だったんだ?今の…。」
俺はシンに問いかけた。
「今、土岐田に何をしたんです?」
シンはニッコリと笑い、俺にこう言った。
「今、土岐田さんに私たちの事や二つの世界の事など、今までの経緯を映像として直接記憶に投影しました。」
そして土岐田はしばらく黙り込んだ後、俺たちの方を見て言った。
「お前とかエミちゃんの様子を見る限り、冗談って事じゃなさそうだな。」
土岐田は既に理解していた。さすがに飲み込みが早い。
「つまりだ、俺たちの力で悪い影を捕まえて世界を救おうって事か?」
「簡単に言えば、そう言う事になります。土岐田さん、あなたも力を貸して頂けますか?」
土岐田は黙り込んでいた。こんな表情をしている土岐田は久しぶりだ。
だが、こう言う時に頼りになるのが土岐田遼という男だ。
俺は土岐田を連れて来たことに、安堵の思いだった。
「…嫌だ。」
俺は耳を疑った。まさか、あの土岐田からそんな答えが返ってくるとは到底思えなかったからだ。
「嫌だ…って、どう言う事だ?土岐田…。」
俺は土岐田に問いただした。しかし、土岐田は何やら考えている様だったので、俺も少し間を置いた。
そして土岐田の口が開く。
「あの、シン。仮にもだ、俺がこの作戦に参加しないとしたら、みんなははどうなる?俺無しでも作戦を決行するのか?」
意外な質問だった。俺は土岐田なら必ず参加してくれると思っていたからだ。
「いえ、あなた無しではどうにも出来ません。この作戦は一人でも欠ければ実行出来ませんので。」
「つまり、この作戦を実行しない限り我々は今後、影の脅威から逃げ続ける事になります。」
土岐田はまた黙って俯いている。何かを言いたいようだ。
「土岐田…一体何があったんだ?いつものお前らしくないぞ?」
すると土岐田は俺を見て、いつもとは違う表情で俺に言った。
「お前、もしかしたら今回の事で死ぬかも知れないんだぞ?相手は俺たちの想像もつかない奴らだ。俺がこの作戦に参加すればお前も、そしてエミちゃんも死ぬかも知れないんだぞ?俺は、お前達をそんな目に合わせるくらいなら…。」
そう土岐田が言いかけた瞬間、エミが土岐田に近寄り話しかけた。
「あ、あの、土岐田くん。私たちの事を考えてくれて、ありがとう。確かに、この作戦はとても危険…。でもね、土岐田くん。私は土岐田くんや佐藤さん、そしてシンの事を信じてるの。」
「もし…このまま何もせず、いつか影に襲われた時、一人ではきっと負けてしまうわ。もしかしたら、私が土岐田くんの目の前で死んでしまうかも知れない。そんなのは、嫌。だ、だから、私たちは力を合わせて戦い、そして生き抜いて行かなきゃならないと、私は…思うの。」
「あの…だから土岐田くん、わ。私たちと一緒に頑張ろう?もし、土岐田くんや佐藤さんに危険が及ぶなら、私が二人を守るから。」
あの、大人しそうで地味なエミからは、俺たちの想像もつかない力強い言葉だった。
しばらくの沈黙の後、土岐田は何かを決心したかの様な素振りを見せた。
そして土岐田は、エミの言葉を聞いて両手で自分の頬を2、3回叩いた。
「あーーーっ、ちくしょう!わかったよ。エミちゃんがそこまで言うなら、俺だってやってやるさ!このままじゃ男としてカッコわりーし。よし、決めた。俺がお前らを守ってやるよ!」
土岐田からいつものような元気が戻って来た。
俺は土岐田に手を差し出した。
「土岐田、よろしくな。俺もお前とエミさんを守ってみせるよ。」
俺にも自身が湧いてきた。今までにない程だ。きっと、土岐田やエミさん、そしてシンの想いが大きいからこそ、俺も強くなれた気がした。
「あなた達を見ていると、なんだかこちらの世界がとても好きになりました。私も生きてて良かったと感じます。皆さん、本当にありがとう。」
シンは俺たちにお礼を言うと、三人に手を差し伸べ硬い握手をして行った。
俺は嬉しかった。これから死ぬかも知れないと言うのに、俺たちは笑顔でいられたからだ。
「あのさー、ずいぶんと楽しそうだけど、なんか忘れてない?」
俺の影が細目になって俺たちを睨んでいる。
「サ、サエ!いやいや、忘れてないよ!ほんと。一緒にがんばろう!」
「…ふんっ。知らないっ。」
サエはまた、どっかへ行ってしまった。
ーー何だかかわいい奴だな、全く。




