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6.千尋の《ちかい》


「本当、何だったんだろうなあ」

 桜並木を歩きながら、千春(ちはる)は呟きます。最近、桜を見ると蘇るのは、あの日の桜。子供の頃毎日見ていた桜ではなく、大人になってからただ一度だけ見た桜でした。

 なにしろ、もう一度見たくても、あの桜どころか、公園自体がもうどこにもありませんでした。


「まるで、いずみさんに異世界にでも連れて行かれたみたい」

 それではまるでファンタジーですが、本気でそう思ってしまいます。

まるでファンタジー、思いが起こした、桜のように儚げな一瞬の幻。小さな、小さな奇跡。



――その割に壮大なプロジェクトだった……。


「え、何か言った~?」

「別に。っていうか、最初桜だけじゃなかったっけ? 今回の依頼」

 

 いい加減下ろせと暴れた黒い犬――カガがニヤニヤ笑いの相棒に突っかかってみせます。意味もないことはもちろん分かってはいますが。すっかりいずみは、依頼主の粋な計らいにご満悦です。

「いーじゃん、楽しかったんだからあ」

「やっぱり、大勢で押し掛けてご迷惑でしたわね……」

「ほらほら、お客さまが気にしちゃってるじゃない!」

「お前が気にしろ」いずみはそれには取り合わず、

「やっぱり、大人数はやりがいがあって楽しかったなあ」

「本当にごめんなさいね。私一人、こちらに参りましたら、怒られてしまいまして……」

 苦笑したその人は、少し前に並べられた熱弁を思い出して、口に出します。


「お宅だけじゃない。自分もずっと聴いてた。毎回あの子の重みを感じて、あの子の軽さに……いつも耐えてた」


 その言葉で、いずみは察します。

「あー、ベンチですね」

「はい……」

 カガも頷きます。「あれは凄かった」


 どれだけの人間が腰掛けたか分からない古いベンチ。公園がなくなる際、一緒に取り払われていきました。


「確かに、あの子が話していたのは桜相手だったけど、自分も全てを一切、聴いていたって……」

 カガの話をいずみが引き取って、「うん。たまにいるんだよね。人間に自分の表情が見えないことに感謝しちゃうタイプが。――見えなくて良かった、って。ベンチはそのタイプだった」

 水車堂に訪れるお客さまは、大方が見えないことを悔しがって依頼してくるけどね、といずみは続けます。

 

 モノにも感情があって。使われている間に培われていったそれが、モノの形がなくなってしまった後でも残ってしまった時に、水車堂は初めて役に立ちます。未だ使われていた頃、人間相手に感じた無力感。それを感じたモノたちが水車堂を訪れるのです。

 人間相手に言葉を発することの出来ない彼らが。使われ、愛されて、人間を愛したモノたちが。―-今回の桜のように。


「普段悪ぶっていますけどね、きちんと愛しているんです」

「お祝い事があった際、一人、遠くで仏頂面で影でこっそりガッツポーズするタイプですね」いずみがクスクス笑いながら言い当てます。「あなたのような――つまり桜のように、人間に直接好かれることの中々ないモノたちに多いんですよね。つまり――縁の下の力持ち? 的な?」

「的、というよりほぼ文字通りだろ?」

 言葉は立派なように聞こえてきますが、大分ふざけて言っているので、念のため、カガが釘を刺します。「でも忘れないものなのか?」


「え?」

 ――忠告は聞こえないくせに、独り言は聞こえるんだよな。カガは内心ため息をつきます。

「十数年経って、今さら帰国してきて。それを待っていたように」

 いくら、自分たちには時間の感覚がないといっても。約束を果たさなかったのは千尋(ちひろ)の勝手だろ?「本当に帰国するかどうか……」

「なさいます」


 カガの後を引き取ったのは、いつものようにいずみではありませんでした。

「ええ、いずれここに帰って来ます。――たとえ、何年かかっても」

 はっきりと言い切った桜色の着物を来た女性――そう見えるだけなんですが――を、カガは驚いた顔で見ます。「それが、千尋君が自分で決めた約束なんです」

「千尋君は最初から、そのつもりだった」いずみが口を開きます。


「桜の木の下にもう一度戻って来る。それが千尋君の約束(ちかい)だった。――多分、最初の年に戻って来たかったんだろうけど。それが千尋君の願いだったけど」

 ずっと穏やかな表情をしていた女性がハッとした表情を一瞬見せます。


「? 願いと誓い――?」カガには訳が解りません。

「何、その違いってって?」いずみのふざけた口調にカガはカチンときます。(訳が解らない人は読み上げて下さい)

「だから、何でその年には?」

「多分体調崩しちゃったんじゃない? 外国行って、最初は環境の変化に対応できなかった人っているみたいだし。最初から病気だったのなら、尚更」

「――え?」

「そうですよね、桜さん」

「……ええ」

「病気……?」


 桜はなにやら深刻そうな顔をしています。カガはいきなりテンションが変わったいずみと(まあ、いつもの事ですが)桜を見回していました。


うん、やっぱり終わらなかった。「少女の願い」追い越すかも知れません。しかしすっごいシリアスな理由の本編の後に描く内容じゃないなあ。と今回は余計に思います。作者の遅れる理由は特に何もなさ過ぎて。

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