未来より
夢に見た景色に自分の手のひらを見つめる。
あれは現実? 真実?
今目覚めた体はそれが夢だと示しているのに、そこに感じたあの感覚を夢だと割り切れない。
夢遊病と言う話を聞いた事がある。けれどあれは確か寝ているときにしただろう、覚えていないことだ。
だとしたらこれは夢?
けれど肌で感じたあの温もりを、夢だと言い切るのは少しだけ躊躇があった。
考える事が怖くなって立ち上がる。そうして見回した景色が知らない部屋だと認識する。
ここはどこだろうか。明かりのない暗闇を見回して、それから視界が暗さに慣れている事に気付く。
薄らぼんやりと見える何かの存在。足元に注意しながら静かに手を伸ばせば手のひらがそれに張り付く。
冷たい。それ以上の情報が欲しくて腕を動かせば、少し下に突起物がある事に気付く。思わず握ればそれが下に傾いで目の前の何かが奥に動いた。
突然の事にびっくりして体に力が入る。
そうして変化した景色。奥に動いたその何かが隙間を生じさせて、そこから光が漏れる。
目には飛び込んできたのは、壁と、廊下と……。
見回した視界で、その景色に見覚えがある事に気がつく。
ここは、要の家だ。では今までいた部屋は一体?
振り返って、そこが前は物置になっていた場所だと気付く。
前は。その記憶がやがて未来と言う言葉と少女を思い出させて、これが現実だと認識する。
何故かは分からない。ただ今の私は要の家にいるということ。
要。彼の顔が脳裏を過ぎって視界を動かす。見据えた先は彼の部屋。今までに何度も訪れた幼馴染の部屋。
そこに彼が────
過ぎった想像は確信に変わって躊躇いもなく戸を開ける。
そうして目にした室内。記憶と相違ない景色の中に、見慣れた幼馴染の顔と、異世界の住人のように現実離れした髪色を持つ少女がいる事に安堵する。
あぁ、そうだ。
これは夢なんかじゃないない。正しく、ありのままに現実だ。
気付けば頬を滑り落ちる温かい感覚。
それが涙であると言う事を納得するのと同時、足は彼に向けて歩みを進める。
それから飛び込んだ彼の胸に泣きながら問う。
「……本物、だよね……?」
当たり前だ。この感触が夢だ何て思わない。この匂いが。この声が。
私の当たり前のこの感情が、嘘だとは思わない。
「もうあんなことしないでっ。あんな要、やだよぉ……」
近くで聞こえる戸惑いの声に安心しながら思いの丈をぶつける。
先程見た、夢のような何か。
その中で断片的に残る彼の姿。
あんな要を、見たくは無い。認めたくは無い。
例え人間らしくなくても──そんな事をする男の子じゃないのは知ってるから……。
「約束、する……?」
「あぁ、約束する」
今だけは頷いてと、彼の瞳を真っ直ぐに見つめて告げれば、幼馴染は優しい顔で理想通りに答えてくれた。
思わず胸の内の感情が溢れて子供っぽく振舞ってしまう。
けれど今はいいのだ。この事実を噛み締める事が出来れば、それでいいのだ。
あんな要は嘘なのだから。
あんな──悪事を働く、要なんか、私の夢なのだから。