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パラドックス・プレゼント  作者: 芝森 蛍
聚散十春の誕生日
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第一章

「…………何を企んでるの?」

「あ……?」


 《傷持ち》としての歴史再現。二度と着る事のないと思っていた黒尽くめに身を包んでやってきたのは由緒(ゆお)がまだ誘拐をされていた時間の廃ビル。

 時間軸的には未来(みく)がやってきて三日目の昼を過ぎた後だ。

 五時間の空白。既に一度経験したその過去に、今度は(かなめ)としてではなく《傷持ち》として立つ。

 そうして足の裏の感触に目を開ければ、同時に聞こえてきた声。

 聞き慣れた響きと既にしたかどうかも曖昧な記憶のやり取り。未来の糾弾の言葉に、どこか不満そうな(らく)の声が重なる。

 視界にはこちらに背を向けた過去の自分と未来。そしてその奥に悪役の仮面を被った楽の姿を捉えた。


「貴方のことよ。こんな事になってもまだ諦めてない……それどころか、まだ何か隠してる……。そうじゃないと、脅されてそこまで冷静には振舞えないでしょ?」

「さぁて、どうだろうな?」


 楽はきっと、この瞬間を待ち望んでいたはずだ。一度は欺いた過去に追い詰められ、自分を偽って要を話の根幹に巻き込み始める。その始まりがこの瞬間であり、楽にとってはようやく自分の目的に手を掛けた始まりだ。

 過去の要は、まだその事に気付いていない。ここで楽を捕まえれば全てが終わりだと思い込んでいる。

 それを憐れだと笑うつもりは無い。ただその先の未来には、楽を捕まえるよりも遥かに正しい理想が待っている。

 本当の悪役などいない……けれど正義に溢れた未来が。


「だがまぁ、そうだな……。なぁ要、こんなところまで来たら逃げるなんて選択肢があると思うか?」

「……何をしたって、結末は同じだ」

「あぁそうだな。全て俺の思い通りだ……そうだろ────《傷持ち》っ!」

「っ……!?」


 割り当てられた役割。貼られた記号の名を呼ばれ、一度は捨てた筈の悪役の仮面を再び被りなおす。

 そうしてこちらへ振り返った過去の瞳が驚愕に見開かれる。


「なん…………!」


 それもまた、当然だ。

 この瞬間の彼にとって《傷持ち》は既に過去の事。悪事を再現してきて、その中身が自分だと知っているから、これ以上の介入はありえないと考慮の外においていた存在。

 しかし、それは過去の都合で、彼より未来で真実を知ったこちらには確かな理由が存在する。

 これは、過去の為であり、楽の為であり、そして要自身のため。

 彼が俺のように同じ未来に至る為に必要な茶番にして助言。

 まだ何も終わっていない。始まりにすら気付いていない。

 そう告げる、黒き衣の正義だ。

 けれどもそれを口にするほど野暮でもなければ、自分の役割を忘れたわけでもない。

 だから踊れ、と。

 思考の処理が未だ追いついていない様子の過去に向けて鉄板の床を蹴る。

 一足飛びに距離を詰め、勢いに乗せて放った回し蹴り。


「ぁ、が……!」

「っ、この!」


 寸前で反射的に働いた防御反応が彼の腕を挟んで蹴り飛ばす。ブースターを忘れてきてしまったが、準備の整っていない相手に急襲をすればこうも容易く攻撃できてしまうのかと。

 それとも慣れない戦いを幾度も経験した所為で無意味な力のコントロールが身についたか。

 振り抜いた一蹴はそのまま過去を吹っ飛ばして鉄板の上を転がす。

 直ぐに現状を把握した未来がその小さな体に意思を滾らせ殴りかかってくる。

 幾ら歴史再現で必要なこととは言え、流石に自分の事を好いてくれる女の子を殴り飛ばすなんて要には出来ない。だからせめてと巡った思考が、迫った左の拳に同じ左の手のひらを宛がって外に往なし、そのまま彼女の腕を滑る様に首筋へ向けて手刀を放つ。

 が、一度スイッチの入った未来も『Para Dogs(パラドッグス)』で鍛えられたエージェント。近接戦闘の冴えは当たり前のように鋭く、気絶狙いの甘い一撃を開いた右の掌底で弾く。

 相も変わらずその体の何処にそれだけの力が入っているのか不思議に思いながら、弾かれた勢いを利用して右回転。未来の気鋭に乗せられて振り向き様の右の肘を振るう。

 それを持ち前の小ささと俊敏さを活かし屈んで交わした彼女は、追撃を恐れてかこちらの右手首を左手で掴む。

 ならばと回転に追いついた左の手刀を未来の頭に振り下ろせば右手で外へと軌道をずらされた。

 言ってしまえば要の戦闘技術は未来譲りだ。単純に考えれば師匠である彼女にたった数度の交錯で上回れるはずは無い。

 加えて今はブースターと言う想定外を現実にする力もない。きっと未来には、そこまで手応えのない攻撃に思えていることだろう。

 と、そんな逡巡も刹那。変わらない調子で未来の得意な蹴り技が腹部に伸びる……その出を微かに感じて咄嗟に右足を上げて防御。それとほぼ同時、まるで最初からそこにあったようにいきなり生えてきた彼女の蹴りが見事なまでに襲い掛かり、覚悟していたにも関わらず蹴り飛ばされ、足には鈍い熱さが広がっていくのを感じた。

 取った距離。息を整えるように顔を上げれば、視界の先で詰めていた呼吸を吐き出す未来がその仕草に兎結びを僅かに揺らすのが見えた。

 次いで彼女の瞳に宿ったのは後悔の様な、否定のような感情の色。まるで寂しく焦がれるような遣る瀬無さ。


「なんで……だって《傷持ち》はお兄ちゃんで…………!」

「…………俺、なのか……?」


 過去を騙す事に罪悪感を抱かないわけは無い。理想の未来を知ってしまったのだから仕方ない。

 けれどもこれは必要なことだと。胸に小さく蟠った感情に蓋をして過去を見据える。


「どうしてだっ! お前は……誰だ!?」

「……………………」


 答えたところでどうなると。

 質問の答えをこちらに丸投げする過去に、同時間軸が告げる相容れない嫌悪と共に意思を燃やす。

 敵か味方かなんて、それこそ考え方一つだ。その思考の反転に早く気付け。そう諭すように、ヒントたる武器を取り出す。

 『捕縛杖(アレスター)』。『Para Dogs』に所属するものだけが持つ事を許される正義の証。これ一つでさえ、《傷持ち》が正しく歴史の味方なのだと証明できる。

 同時に、構えた景色の中で《傷持ち》が《傷持ち》である証を彼に見えるように誇示する。

 右手首の切り傷。俺はきっと、この傷を後悔と同等に誇りに思い、一生慰め続けるのだろう。


「お前…………!」


 唸る要の向こう側。悠然と笑みを浮かべる楽の姿に今なら心の底から協力する。

 彼の行き着く先は正しい未来だ。それは彼自身の為でありながら、歴史に肯定される要のためでもある。

 その想像に追いつく為に、今は《傷持ち》の仮面を大いに利用しよう。


「っ、楽!」

「さぁ踊れ過去がっ! 俺こそが歴史に認められし存在だ! 俺の手が、歴史に届くっ!」

「待ちなさいっ!」


 楽との繋がりにずれた視点で気付いたらしい要が彼の名を呼ぶ。だが残念かな、その手は彼には届かない。

 未来が撃ち放った『スタン(ガン)』の弾も、由緒の力で過去へと向かった楽のいた場所を通過するだけ。

 楽は歴史通りにこの時間を再現した。ならば後は目の前の二人に《傷持ち》と言う存在を今一度焼き付けるだけだ。

 直ぐに床を蹴って要へ向けて接近する。と、ほぼ無意識に少し距離を取りつつ、彼が抜いた『スタン銃』をそのまま撃った。

 咄嗟にそうなることを確信して『捕縛杖』を振るえば、僅かに手に残る何かを弾いた感覚。『スタン銃』に対する防御。最早摂理とも言うべき流れ作業。

 迎撃を確認するより先にバックステップで距離を取る。流石に撃たれながら未来との近接戦闘は避けたい。

 後ろに下がり続ければ、着地を狙うように連射される『スタン銃』を弾く為に、過去の思考と重ねて着弾地点に『捕縛杖』を滑り込ませる。連続で弾けばその感触さえも遠い過去のように懐かしく思いつつ《傷持ち》である事を取り戻す。


「……俺が誰であろうと、歴史はそうある通りにしか流れない。俺が未来のお前ならば、今更危機感など抱かないだろう?」

「…………そうだな」


 同意のような何かを求めれば、苦々しく呟く過去の声。

 確かに認め難いことだろう。既に一度経験した事を未来で、また楽の味方について過去を襲うのかと。そんな事をして何になる、と。

 その通りだ。歴史再現である以上そこに行動以上の意味は無い。これはただ帳尻合わせの再演に過ぎない。けれどこの時間を紡がなければ、彼は俺には辿り着けない。そうする事が過去の自分への手がかりになる。必要なことだからと割り切れる。

 今度こそ、本当にやるべき事を見つけるのだ。


「俺はお前を知っている」

「あぁ、そうだな……」


 何度その言葉を口にしただろうか。嘘も偽りもない。ただそうあるがままの信実に、自嘲の声を聞いて取り出した『音叉(レゾネーター)』を鳴らす。次の瞬間、折り重なるように鳴り響いたラの音階に目を閉じれば、足元の感覚が一瞬消えて、再び固い地面を踏み締める。

 目を開ければ直ぐ目の前に要と未来の背中。と、そうして気付くのと同時、気配にか振り向いた要の顔に緊張が走る。

 この瞬間の要は先ほど廃ビルから過去へ向けて移動した楽を追い掛けてやってきた時のものだ。もっと詳しく時間軸で言えば、子供の要が迷子になった時間で、由緒にもまだ再会する前。そこに掛けた急襲だ。

 考えていると握った拳をこちらへ向けて突き出す要。その手は白い手袋に覆われ、そう言えば『抑圧拳(ストッパー)』を着けていたのだったと思い出す。

 直ぐに右手の『捕縛杖』を反撃に用いれば、接触から無力化される事を嫌ったか、僅かに動きが鈍った。当然それを見逃すわけもなく、防御でも攻撃でもない甘い体勢の過去へ向けて蹴りを放つ。

 しっかりと捉えた一蹴だったが由緒に鍛えられた受身が発動してダメージは殆どない。咄嗟とは言え受身を取れる過去の自分を見ているとなんだか悲しくなってくるのは仕方のないことだろう。まぁお陰でこれまでにも何度か助けられたのだ。幼馴染への感謝……よりは少しだけ理不尽さが勝つか。

 考えていると並んで構えた二人に過去のやり取りを重ねる。


「待てよ。意味ない力を使って何になる……。無駄な戦いで力を消耗するなんて非合理的だろう?」

「……だったら何か教えてくれるってのか? それこそ無理な話だろう」

「あぁそうだな。それに未来のことを知ったところでどうなる。それはただ、変わらない歴史と認識するだけだ。ならばまだ、自由な想像で都合のいいように脚色している方が楽しめると言うものだろう?」


 ノイズ交じりの声で答えれば、過去の顔に嫌悪と焦燥の色が濃く浮かぶ。

 彼にしてみればいつだって経験のした事がない未来の出来事。だから想像で補って理想を追いかけ続けている憐れな道化を演じているのだ。

 語られない部分を自分に有利に解釈する。モチベーションの為には必要なことだろうが、そう言い聞かせていないと自分を見失いそうで怖いのだろう。

 過去は全て決められている。歴史を変えてはならない。だから自分には何も出来なくて、何かをする必要もない……自分には理由も意味もないのだと気付いてしまうのが怖くて。

 しかしそれは、知ってしまった過去を見つめなおしているからこそ抱いてしまう恐怖だ。

 要は歴史改変によって理想の未来を手繰り寄せる映画の主人公とは違う。何より異能力が絡むこの歴史再現で、異能力を持たない誰よりも無力な存在だ。

 ……でも、そう悲観することでもない筈だ。綺麗事で飾れば、何も持っていないのだからどんな物でも詰め込める。

 それをこれから彼は見つけに良くのだ。俺は、見つけた。


「いや、なに。どうせ変わらない未来ならば無駄は不必要だろうと言っているまでだ。ここで争って何になる。お前は自分の体を痛めつけたいか?」

「……生憎と、そんな特殊性癖は持ち合わせてないのはお前がよく知ったことだろう?」

「違いないっ」


 言って笑えば、構えた『スタン銃』を下ろす要。こちらだって幾ら不甲斐ない過去とは言え、自分自身を転がして遊ぶ趣味もない。性格こそ歪んでいると自覚しているが、いじめをしたいわけではないのだ。


「互いに納得できてよかったな。お陰で久しぶりに暇を持て余さなくて済む」

「お前と分かり合うなんてごめんだ」


 本心に近い部分を音にすれば、返った声に僅かに楽しそうな色が乗る。認めるのは癪で。けれど認めるほかなくて。

 自分自身だと言うのなら闘う意味が何処にあると正論で自分を騙す。

 まったく、酷い茶番だ。


「……それで、貴方の目的は何。…………彼の目的は、何?」

「歴史干渉……それ以外に言葉が必要か?」


 未来の疑念の声に……そこに宿る確信染みた響きに惑わされない自分を今一度しっかり掴む。

 少し前に聞いた話では、未来はそもそも尋問等の取調べの方を専攻していたらしい。つまり下手な事を言えばこれまで語った言葉の矛盾から真実に辿り着いてしまう。

 もちろん未来がこちらの味方になるのは構わないが、それはここからもう少し未来の話で、それまでは過去の要の側に立っていてもらわなくてはならない。楽を追いかける為にも、彼女には嘘の理由に振り回されてもらう必要がある。

 その上で、要にだけは楽が悪者の役割を背負っているのだと伝えなければならない。

 未来に気付かれずに傍にいる要だけに真実を伝えろだなんて、楽も大概無茶を言ってくれる。


「……歴史はそうある通りにしか流れない。それは正しいだろう? 結局は主観だ。錯覚は勝手に想像と現実の溝を埋める。それが正しい歴史だと思い込めば、覆すのは簡単なことじゃない」


 その錯覚に振り回されて真実を見失うのがどれほど恐ろしいか。足元さえ見えなくなって振り向くのも怖かったのは、誰よりも要自身だ。

 結果として要の右手首には証の傷が刻み込まれている。今となってはこれも必要なことだったのだと割り切って、だからこそこうして彼らの目の前に立っているのだけれども。


「だからこそ策が策として成り立つ。……同様に、俺が俺として成り立つ。今更答え合わせなんてしたところで何になる? 知らない未来だって知ったところで何も変わらないのはお前が一番分かってることだろう? 今まで利用してきたことだろうっ?」

「だったら未然に防ぐために……これ以上意味のない事を続けさせないために、止めるための手立てを見つけようとするのは間違いじゃないっ」

「それが意味のない事だとしてもか?」

「…………そこまで分かってて、だったら何でまたそこに立ってるんだ……。お前のやるべき事は、俺と同じはずだろ?」


 確認のような響き。確かこの時の俺は可能性を列挙していたのだったか。

 もしもの景色……《傷持ち》が未来の要ならば、遠回りでも手助けをして楽を追い詰めさせるのが正しい筈だ、と。だから楽に振り回された被害者として助言をくれてもいいはずだ、と。

 もちろんそれは簡単な話だ。だがそれは何より楽が悪役だと嘘を吐く事になる。

 要は《傷持ち》として楽が悪役などと一度も言った事がない。そこだけは最低限守り続けた役割だ。

 ならば今回もそれに則って、ついでの様に遠回りなヒントくらいはあげてもいいだろう。言葉の裏を読む事は楽にも言われた通りに得意分野だ。


「……勘違いをするなよ? 何をしたって歴史が変わらないから仕方なくそれに甘んじているだけだ。ここで助言をしたところで、それで歴史が変わるなんて事はない。映画やドラマのタイムトラベルものと一緒にするな。だからこれは、ただの歴史再現に過ぎない。過去に希望を抱くなんて、おかしな話だろう?」

「…………助言をしないのが、正しい歴史に結びつくってことか……」


 勘違いをする暇などどこにもない。《傷持ち》は要で、要が味方していて、悪役などいない。

 悪者がいなくたって正義を語る事は出来るのだ。

 今回に限れば未来は理想のハッピーエンド。それについていけないからといって主観を曲げてしまうのは勝手だが、たった個人ぽっちの意見を歴史の正論のように振り翳すべきではない。

 主人公であるならば、そうありたいのであれば。自分が正しいなどと思わないことだ。

 本当の正しさとは、悪役が認めたときにこそ意味を成す。

 だから過去は過去らしく、未来に縋って盲目に今を追い駆け続けていればいいのだ。そうして悪役のような何かを追いかけているうちは、彼が正しいのだと肯定してあげよう。

 そのために《傷持ち》と言う仮面だ。


「好き好んで騒動に首を突っ込みたくはないだろう? だったらただ静かに、敷かれたレールの上を走っていればいい。その方が随分と簡単なことだ。思考と決断と言う二つの面倒事を放棄できるのだからな」

「……それに背きたくなるから、こんな事件が起きるんだろう?」

「感謝をしている癖に」


 けれどそんな楽しい時間も直に終わりが来る。俺もそうだが、若い要はどうあっても利用し巻き込まれた被害者だ。

 それはまるで物語を読む読者のように。流れ行く話に一喜一憂しながら振り回され続ける蚊帳の外の存在でしかない。

 この経験を主人公だと胸を張るには、五十年は早い。その境地に至れば彼も気付くだろう。主人公でありながら主人公でない矛盾と遣り切れなさに。

 そうして今と言う時間を飲み下すのだ。

 繰り返していれば、やがて五十年も直ぐに経つ。その時になってようやく俺は過去の清算を行えるのだろう。

 それまでは耐えて、騙して、感謝をし続けるのだ。

 ありえないほどに鮮烈でどうしようもなくありえた現実を。忘れることなど到底出来ない、誰に理解されることもない時空間の旅を。

 未来と、由緒と、楽と、加々美(かがみ)と……そして何よりも人間らしい経験に、彼女達の先達として笑い話として笑みを浮かべるのだ。

 あぁ、なんと物語染みた幻想を紡いだのだろうと。


「……さて、余興も終わりにしようか。やるべき事を成してあるべき歴史をその通りに…………付き合ってもらおうか、歴史再現に」

「悪いなっ、俺にとってはただの未来への挑戦だ」

「ならその鬱憤。吐き出せるだけ吐き出せばいい。それでお前の気が晴れるのなら、その先に夢でも追いかけて死ね」

「…………最後まで、俺の名前を呼ばなかったな、《傷持ち》」


 せめてもの仕返しにと彼が紡いだ言葉にヘルメットの奥で小さく口端を歪め、ついで大地を蹴る。

 一足飛びに詰めた距離。演技の戦い……殺陣を過去の記憶に重ねて再現する。

 ブースターなしの、想像が形になる戦闘。気負わず、流れに身を任せて足を振るえば、今までで一番自然に全力を乗せた一蹴が放たれた。

 今更に戦いの勘を掴みながら要に向けて迫った一撃は、けれど彼もまたそうなると疑わないままに振るわれた拳によって相殺される。

 丁度ぶつかったのが膝の下の辺りの骨。いわゆるファニーボーンと呼ばれる、無意識でぶつけた際に電気が走ったような痺れと共に一瞬だけ感覚が麻痺する人体の不思議。

 放った一蹴と返しの拳が倍の速度で的確にぶつかって、思わず片足の感覚が奪われる。

 足と拳ではどう考えても向こうの方が痛いだろうに。それを覆してしまう反射には幾ら覚悟していたとしても抗えない。

 咄嗟に距離を取るようにバックステップ。が、直ぐにそれを詰めて未来が疾駆すると、握った拳を突き出してくる。

 やっぱり未来相手に乱暴な事をしたくないのは男としての手心か。力を逃がすように往なせば、しかし止まらない様子の彼女は拳の勢いそのままに大地を蹴って跳躍。体を丸めて運動量を抑えた斜め回転の後に、するりと伸びた未来の足が頭の上から襲い来る。

 斜め前宙からの踵落とし。さすがの要も女の子一人とは言え技術に勢いと体重を乗せた一点集中攻撃を受ければ、一回限りの打楽器が体のどこかに出来てしまう。ブースターのない俺は歴史に流されるだけのひ弱な男子高校生なのだ。

 相変わらず小さな体で恐ろしい事をする少女だと、恐怖なのか諦めなのか分からない感情と共に、彼女の視線の先から狙いを逆算。首筋へ向けての一撃だと悟ると、そこに防御を挟みどうにか体勢を整える。同時、宙に浮かぶ小柄な彼女の下にもぐりこむようにしながら体を屈めて、彼女の背後へ抜ける刹那に小さな未来の背へもう片方の手を宛がう。

 流石にそのまま受け止めるのは要の体が持たないと。仕方無しに前傾したそこから思い切り体を持ち上げ、攻撃を未来の体諸共背後へ投げ飛ばす。

 形としては跳んだ未来の踵落としを自分の頭上を通して後ろに投げた形だ。


「お、った……!」


 しかし未来もさるもの。受け流され頭から落ちる体勢になった彼女は、直ぐに両手を地について側転。勢いを殺さず右を軸足に流麗なるハイキックを放つ。

 振り向き様に見えた綺麗な弧を描く爪先に、迷う暇などない即決で前に一歩。足を踏ん張り、腰を落とし、首に力を入れて思い切り頭を振り被る。

 次の瞬間、要が放った頭突きと未来の回し蹴りがぶつかって互いを弾き飛ばす。

 視界が揺れ、僅かによろめいたのも束の間。隙を潰すように背後から駆けて来る過去の要に応戦する。

 とは言ってもそう簡単に定まらない感覚の中どうにかできたのは防御だけ。刹那に蹴り飛ばされる感覚と共に硬く熱いアスファルトの地面を何度も転がりながら、体に染み付いた受身を複数回に分けて使い、どうにか衝撃を緩和した。

 最後には、道路脇の側溝……そこに嵌った鈍い色のグレーチングと呼ばれる、鋼材を格子状に組んだ蓋の上に座り込んで止まった。

 まったく、痛いなんてものじゃない。事ここに至って生傷を増やすなんて無駄な立ち回りに……けれどどこか楽しくなっている自分に小さく笑いながら呟く。


「厄介だなぁ、その強制力……。まるで異能力染みた攻撃……偏差反撃か」

「悪いな、異能力者じゃなくて」


 不謹慎なのは承知の上だ。歴史の再現と言う目的あるのだからそれからは逃れられない。

 ただその端で、この胸に渦巻く感情は誰に左右されるものでもない。

 あと少ししかない非日常だ。それに溺れて何が悪い。理想を追いかけて何が悪い。

 想ったところで言動は全て歴史に承認され、管理されている。要に出来ることなど何一つない。

 ないからこそ、本当の意味で自由に振舞う事ができる。歴史は一つで、何も起こせないから、何をしてもいいのだと驕れる。

 歪んだ自分の気持ちを肯定できる。


「それに、例えそんな力があったとしても、反撃である以上こっちからは何もできないんだから打開の手段にはならないだろう?」

「意味のない異能力だな。お前にぴったりだ」

「そっくりそのまま返してやるよっ……!」


 話しながら整えた体の感覚。立ち上がって、すぐさま駆け出す。向かった先は未来。

 俺はただ、物語の主人公になりたいだけだ。例え空想のそれになれなくとも、自分の人生を自分の思うままに謳歌したいだけだ。

 現実なんてつまらないことの連続だ。有り触れた日常の代わり映えのしない繰り返しだ。だからこそ自分の生き様にくらいは自信を持たなければ……生きている実感がなければいけないはずだ。

 物語の主人公に自己投影するならば、彼らのように現実で成功を収めるべきなのだ。満足を見つけるべきなのだ。そのために俺は、《傷持ち》である事を誇りに思いながら今この瞬間に全力を賭して心を躍らせるのだ。

 数歩で距離を詰めた中で握った拳を繰り出す。未来相手なら全力以上を()ってしても適わない。けれど全てをぶつけるには丁度いい。その後で自分自身と言葉にならない何かを交わすのだ。

 鋭い攻撃。相変わらずの足癖。要が真似て言葉なく師事した彼女の戦闘スタイルは、数日で身につくような生半可なものではない。それは分かっている。

 ただそれでも、自分を主人公だと信じたいから。ジャイアントキリングが如く格上に無謀にも挑戦状を叩きつける。

 もちろんこれは歴史再現で、どうなるか分かっているからそんな無茶が押し通せるという諦めもあるけれど。

 考えていると過去からの横槍。それを無粋とは思わない、自分ややった事だ。援護や多対一の状況を作るのは戦いの鉄則。彼がそれで楽しいのならいいとしよう。

 組み合っていた未来との戦いを弾き飛ばす事で一旦切り上げ、死角から迫る要に対処する。

 振り向き様に目の前にいた彼は顎を打ち抜くような素早い蹴りの一撃を繰り出してくる。それを僅かに横へ逸れてかわせば、振り上げられた足をそのまま真下へ方向転換した踵落とし。さらにバックステップで避けて、反撃に下ろされた足へ向けて体勢を崩す為の足払い。基本立った状態から攻撃を繰り出す事が多い単純思考だ。倒してしまえば組み敷く事も可能。

 が、それを跳んで避けた過去の自分は、その跳躍に予め回転を加え、駒のように左足での回転蹴りを放った。

 確かこの時の要はブースターを飲んでいない素の状態だ。それでいてこんな曲芸を思いつく辺り、歴史に依存した戦い方だろう。

 しかしその攻撃はあまり勢いが乗らなかったのか、上げた右腕で簡単に防御。直ぐに着地した過去はそこから右の拳を握り右拳廻打を放つ。ただのジャブではなく視界の外から抉るように迫る一撃(フック)

 ブースターを飲んでいないひ弱な体で全てを受け止めるほど馬鹿では無い。今までもそうしてきたように、受け止めるでなく威力を逃がす。同時に内側から手首を掴み、そのまま自分の方へと引っ張って相手の勢いを利用した相気紛いの投げで距離を無理矢理に取る。

 そのすれ違い様、彼の振り回した足の先がヘルメットを掠って僅かに視界を揺らした。

 別にヘルメットを取られたところで困ることは無い。右手首の傷も見られているだろうし、この体が要自身のものであることは疑いようは無い。

 ただ、そもそもの話ヘルメットとは防護帽……分類上では兜だ。だからこそ頭や顔を守る防具としてそれなりの耐久性を誇る。これがあるだけで未来達の攻撃を首より下に制限できる。結果攻撃が読みやすくなり対処の幅が減るのだ。

 考えていると、隙を潰すように次いで襲い掛かってきたのは未来。『スタン銃』と『捕縛杖』を両手に構えた彼女は、それらを駆使した近接戦闘……ガン=カタに持ち込んでくる。直ぐにこちらも同じものを抜き放ち応戦する。

 特殊警棒のような銀色の『捕縛杖』。当てれば相手を気絶させる事が出来る異能力を内包した未来の武器。殴る、突く、投げると使い方は様々で、だからこそ対処にもそれ相応の判断力が試される。

 加えてもう片方には『スタン銃』。相手を無力化する弾での攻撃は、撃たなくとも向けるだけで牽制程度にはなる。もちろん作りは金属性。いざと言う時は殴打する武器にもなる。

 それらに彼女が得意とする足捌きを組み合わせた相手の息遣いさえ聞こえる距離での応酬。

 往なし、弾き、受け止める。一つが崩れればそこから全てが覆るほどの目まぐるしいやり取りは、やがて噛み合った『スタン銃』と『捕縛杖』を一つずつ宙へと舞い躍らせる。

 僅かに交わした視線。その間に互いに整えた息を詰め、振ってくる武器を空いた手に取る。

 こちらの手元に落ちてきたのは『捕縛杖』。ならばと未来を見やれば、先ほどまでこちらが持っていた『スタン銃』が彼女の手に握られ、二挺同時に虚を覗かせていた。

 刹那に湧き上がった集中力と焦燥の睨み合いより須臾(すゆ)の後──火薬での銃弾であったなら機関銃が如き爆音を辺りに響かせただろう怒涛の連射が襲い来る。

 一発でも当たれば終わり。けれど何発あるかもわからない。そんな弾幕に、けれど逡巡さえ許されないまま体が歴史を味方につけて動く。

 要は未来では無いから、何処を狙うかまでは分からない。ただ一つ分かっていること、それは──過去の要がこの時の《傷持ち》がどうなったかをしっかりと認識していること。それさえあれば、何も恐れることは無い。

 覚悟を決めて、それから両手の『捕縛杖』を無心で振るう。

 それに合わせるように、振るった先から『捕縛杖』を伝って何かを弾いた感覚が走り抜ける。けれど終わらない……終われない!

 何かを考えるよりも先に次を振るう。振るう。振るう。その度に小さな擦過音と何かを叩く感触。

 加えてこちらからは撃たせまいと両の手の『捕縛杖』を隙あらば攻撃へと転用する。呼応するように未来は打楽器の如く『スタン銃』で応戦。

 撃って、弾いて、叩いて、凪ぐ。後数歩近づけばその首さえも絞め殺せるほどの距離での攻防の応酬。

 そうして覚え切れないほどの交錯を重ねた一瞬に景色の変化。何度目かの銃弾弾きに左手の『捕縛杖』が手から抜ける。

 本来ならば焦るべき状態。けれど唯一つしかない答えに身を委ねて、足が静かに動く。

 続けて襲い来る弾を一発右の『捕縛杖』で弾き、同時に左足を軸にして右回転。先ほどまで体があったところを空気が割いていくのを肌で感じつつ、回転しながら落ちてくる『捕縛杖』を目視すらせずにキャッチ。再び未来を向いた瞬間に振り下ろした右の『捕縛杖』で迫る弾を叩き落す。

 けれどもう、動き出したのだから止まれない。次いで回る勢いに任せて左を振るうと、弾いた後に今度は意図的にその手を離す。

 投げるのではなく目の前に放るように。そうして宙へと漂った『捕縛杖』に五月雨が如く飛来する弾が当たっては弾かれる。次々に宙を駆ける弾丸が回転する『捕縛杖』の動きを止め、残ったのは盾にもならない宙を漂う棒一本。

 そうなると分かっているからこそできる手離しでの防御。それから『捕縛杖』が落ちるより先に右のそれをまた宙に投げて。先に投げた方を拾いまた弾く。

 傍から見れば不規則に回って落ちる『捕縛杖』でジャグリングをしているように見えるだろうか。

 どこか心地よいほどに弾を拒む防御。計算しているわけでは無い。ただそうなると分かっているからこそ、心のどこかに余裕があって、まるで芸術のようだとさえ思う自分に小さく笑いながら。

 やがて耳が捉えたホールドアップの音。見ればマガジンにあった弾を全て使い切ったらしい『スタン銃』が二挺、彼女の手の中にあった。

 数秒あったかどうかの壮絶な光景。少なくとも十発以上の雨を凌いで見せた事に生まれた少しの優越感。

 その間断に、無意識を貫くような飛来物。それが弾の空になった『スタン銃』本体だと気づいたのは、未来の手から離れて半分以上こちらに向かってきてからだった。

 思わず動いた手が先ほどの余韻のように『捕縛杖』を振るって、けれど入っていなかった力に負けてそれぞれが宙に躍り出る。

 投げてもいいとは考えていたが、それを未来も出来る事を失念していた……と言うか、忘れていた。刹那の交錯に少し呆然としていたのだ。

 お陰で僅かに手を離れた武器へ移った視線。しかし直ぐに気づいた体がほぼ無意識に回避行動を取る。

 気付けば そこにあった未来の右の拳。それが遅れた回避にヘルメットを掠らせる。この距離は、未来の距離だ……!

 巡った思考が次の瞬間現実になりかける。

 揺れた視界を補正する間に襟の辺りを捕まれ、ついで襲った重心の喪失。それが足払いだと気付いた瞬間、受身を捨てて我武者羅に突き出した左の膝蹴り。

 既にその時、相手が未来だという心配が頭から抜け落ちていて、思いの外体重が乗った一撃が彼女の右の脇腹を捉えた。

 少し無茶な反撃だったが、だからこそ不意をつけたのだろう。内側に響く横からの衝撃に顔を顰めた未来が逃げるように飛ばされる。恐らく転がって衝撃を逃がす為だろう。

 けれどそれは追撃チャンスだ。

 過ぎった未来。しかしそれを行動に移す寸前で、耳が背後から音を捉える。それが先ほど投げ飛ばした要のものだと気づいたのは、振り向き様の反撃を見舞った後だった。


「動────」

「残念っ」


 先ほど弾いた弾の入っていない『スタン銃』を押し当て制止を促そうとした彼に、感情を吐き出しながら裏拳を叩き込む。

 その反撃が対処の間に合わなかった彼の顎を捉えて振り抜くと、平衡感覚を狂わされたらしい彼が跳ぶように倒れたのが見えた。

 ブースターよりも強力な歴史の修正力足る再現。こんなのを相手にしながら未来に希望を抱くなんて、過去の自分はよくもそれで意欲を燃やせていたものだと感心する。

 そんな彼が側頭部に頭を宛がいながら呻くように零す。


「……大丈夫?」

「…………っあぁ。……くそ、少し揺らされた」


 最後の裏拳は狙ったわけでは無い。ただ少し焦ったのと、歴史の強制力に従って繰り出した一撃が偶然顎を捉えた……と言うのがこちらの主観だ。

 全てを見下ろして読者の視点から言えば、そうなるべき攻撃だったのだろうけれども。

 息を整えつつ張り詰めた緊張を僅かな耳鳴りと共に解いていると、悪態を吐くような諦観の音が彼の口から紡がれた。


「…………ったく、これだから融通の聞かない歴史なんてものに牙を立てたくなるんだろうな……」

「……その最初の芽を摘めたらどれだけ平穏になることだろうね」

「それこそ異能力が根絶するだろ?」

「あたしにしてみればなくてはならない力なんだけどね」

「そもそも異能力がなければ起きなかった事件だしな」


 何処に原因を求めるかなんて、責任転嫁とどれほど違うだろうか。ただ自分が納得したいがために正当化する。自分本位なのは誰だって一緒だ。他人に意味を見出すのだってそれが自分にとって最も納得が出来るからに過ぎない。

 要にしてもそうだ。未来や楽……何より未来の自分が居るからそれを理由に今を追いかけているだけのこと。

 これは、未来が過去に課した再現であり、過去が未来に送るプレゼント。そのどちらもが欠けては成り立たない、循環すべき歴史の一環だ。


「その異能力に恵まれず、振り回されている気分はどうだ?」

「……今となっては飽きるほどだな」


 『スタン銃』を持って立ち上がった要に向けて、確認のように問う。

 返ったのは飾る言葉もない素直な感情。諦めと、満足するような響きに、ようやく辿り着いた結論へと笑う。


「結局変わらないだろ。異能力があろうとなかろうと、起こるものは起こる。それが一つ増えるか増えないか、それだけのことじゃないのか?」

「世界は一つで歴史も一つ。知らない未来に想像したところで、意味はないがな」


 たった一時。戦いも、敵も、全てを忘れて共感を落とせば、ようやく心の底から目に見えない何かを手繰り寄せられた気がした。


「意味が無いから、希望なんて抱くんだろう?」

「違いないっ」


 零して。それから息を整えれば目の前の空間が歪む。

 それは時空間移動の予兆。傍から見れば何もない空間に黒い穴が開くような不気味な光景。

 似たような現象ならば、ブラックホールが近いだろうか。

 特異点を中心に空間に穴が開く。三次元的空間に何もない場所が現れるその歪み。赤方偏移とか青方偏移とか。そんな現象は見られないけれども、空間を割いて辺りを歪めるその異質さはいわれのない恐怖を抱かせる。

 何よりも恐ろしいのは、そんなわけの分からない力に頼ってここまでやってきたという事実。理解できる恐怖も大概だが、理解できないからこそ何に恐怖していいのかすら分からない自己言及にも似た本能には逆らえない。

 全くもって不可思議にして恐ろしい話だ。

 そんな納得のような何かと共に黒点を見つめれば、やがてそこに見慣れた後姿が現れる。

 ロングウェーブの黒い髪。柔らかそうに見える体の線。そこに居る事に忌避感さえ抱く、要にとっての正義。

 彼女を助け、彼女を守りたくでこここまでやってきた、要の目的。


「由緒っ」

「よー君!」

「しゃがめっ!」

「え…………?」


 彼が呼ぶ名前に安堵と嬉しささえ感じながら大地を蹴る。

 この時の由緒は多くを知らない。もしこのまま彼女が真実に至らずに、ただ利用されただけの被害者でいたのなら、要はこんなにも自分を責めることはなかったのかもしれない。

 けれど同時に、彼女が深く関わる事で要も救われた部分が存在した。共感と言う名の共犯者で要が由緒を守る口実も出来た。

 助けるはずの彼女に助けられる。情けない話だが、しかし一人で全てを背負い込んで自滅するよりはましかもしれない。


「由緒っ!」

「っぁ……がく君の…………」


 声にこちらへ振り返った由緒。その青み掛かった黒い双眸に反射する黒尽くめの姿に、今一度自分の立場を認識しながら手を伸ばす。

 それは、要として由緒を助けたいという思いなのか。それとも《傷持ち》として襲わなければいけないと言う使命感からか。

 触れれば分かる気がする。

 考えて伸ばした手が、彼女の肩を掴もうとしたその刹那──


「な……!?」

「お…………?」

「でぇやぁああっ!」


 思わず漏れた驚きに重なったのは過去の小さな呟きと、それらを掻き消す気合の入った由緒の声。

 気付けば伸ばした手の元を掴まれ引っ張られる感覚。次いで襟首へと伸びて来た彼女の手が、反転しながら前傾する動作に合わせて思い切り唸る。

 次の瞬間、浮いた足の感覚と共に世界が反転。それが由緒の得意技、一本背負投だと至った時には、既に哀しい性が反射的に受身を取った後だった。

 けれどこちらの勢いまで利用した投げを一度の受身で流しきれなくて、そのままアスファルトを転がり一回転。そうしてようやく落ち着いた勢いに膝を突いて止まる。最後に今の交錯で『捕縛杖』を手放した事に気が付いた。

 『スタン銃』も『捕縛杖』もない。ブースターを飲んでいるわけでもない。正真正銘何の力もない黒尽くめの状態だ。


「……無茶するなよ」

「いきなりだったから……。それにあの人、がく君の…………」

「…………そうだな」


 本当に、無茶だと思う。由緒にしてみれば目の前で楽を刺した人物で、異能力を利用した人物で、事故と言う危機にさえ追いやったというのに。それを飲み込んで体が反撃を放つなんてどうかしている。

 きっと由緒が一番図太い神経をしているのだろう。言えば彼女は怒るだろうが。


「……咄嗟であれだけの技が掛けられるとは…………。けれども次はない。そうと分かれば対策はして然るべきだろう?」


 言いつつ立ち上がって、先ほど過去の要を殴った際に彼が落としたのだろう『スタン銃』の銃口を由緒へと向ける。

 弾は空だが問題ない。要の記憶が正しければ、このあと《傷持ち》は一発も撃つ必要は無いのだ。だからこれ以上がない事を示すためにも……そしてこの後の景色の伏線のためにも、今以上の敵対行動はいらない。

 呼吸一つ。これ以上を望まない内心と、けれど相反する行動は目の前の彼らに《傷持ち》が悪だと突きつける。

 同時、由緒の視線を遮るように腕を上げた要。そう、それでいい。

 由緒には後催眠暗示が……『スタン銃』の銃口を見る事で意識を失ってしまう暗示が掛けられている。それを《傷持ち》が知っている……そう示す事で《傷持ち》が未だ敵だと彼らを騙す事ができる。


「由緒、目を閉じてろ」

「……どうして?」

「泥臭い戦いを見てて欲しくないだけだ。大丈夫、お前は俺が守るから」

「信じて、いいんだよね?」

「今だってしっかり迎えに来ただろ?」

「……うん。信じてる」


 気障なやり取りだ。聞いているこちらに虫唾が走る。

 けれどもその関係があるから、互いに動機が生まれるのだ。

 過去は今そこにある現実を守りたくて。未来は更なる次を手に入れたくて。

 貪欲で独りよがり。人間の本質なんてそんなものだ。


「…………待たせたな」

「思い出を作ってやるのも、敵の仕事の内だ」

「語るなよ、悪役の分際でっ」


 吐き捨てるような声に大地を蹴れば、倍の速度で距離を縮める。刹那に、繰り出された拳を接近の最中に拾い上げた『捕縛杖』で往なす。次いでこちらを睨んだ銃口は、同じ『スタン銃』で僅かに射線をずらした。直後、ヘルメットを異物が掠める感覚。既にそれほどでは驚かないくらいには感覚が麻痺してしまったらしい。

 それから殆ど考えることなく手首をを内側へ向ける。そうして向けられた銃口に、目の前の彼は体を曲げて射線から退避。流れるように体重を乗せたタックルを腹部へと叩き込んでくる。

 ぶれた重心。立て直そうとしたところへ、その隙を逃さまいと急接近してきた未来が蹴りを見舞ってくる。

 最早アイコンタクトも必要ない連携。目に見える形で不利を突きつけられると諦めから哀しくさえ思えてくる。


「全く、心細い限りだよっ」

「だったら呼んで来たらどうだ? そろそろ来るんだろう?」


 要から放たれた言葉。それが指し示す人物に小さく笑う。

 確かにもうそろそろだ。言ってしまえば時間稼ぎの歴史再現。彼の為の悪役の仮面でもある。それが終われば大きな再現は全て終わりだ。別れと終焉が直ぐそこに迫ってくる。できることなら今からでも引き伸ばしたい……。それくらいには非日常で楽しかった時間だった。

 ……過去形で語ってしまう辺り、既に諦めているのだろうけれども。

 気付いてしまえばそれまでだ。目の前の景色が色褪せ、耳に届く音が別の世界の出来事のように思える。止まっていた現実と言う名の歯車が軋み、退屈で蒙昧ないつもへと感覚が戻っていく。

 今の要にとって自覚ほど恐ろしいことは無い。

 どうにもならない現実に小さく歯噛みして、襲い来る攻撃を往なし交わす。掴まれ投げられても受身で転がり、追撃さえかわして反撃に転じる。

 未来との交戦も一体何度目だろうか。既にその癖も、普段の力量も嫌と言うほどに知ってしまった。今更驚きもない。彼女との出会いもはじめは戸惑いばかりだったけれども。知ってしまえばそれまでだ。慣れは人を鈍くする。

 事務的にすら思える未来と交わす拳と足。既に彼女も割り切っているのか、その攻撃に明確な意思は感じられない。どうやら未来もここで捕まえる事を諦めているらしい。


「やる気が感じられないな……?」

「なんだか捕まえられる気がしないからね」


 後ろでは過去の要が由緒を庇いながら再会した楽と話をしている。その間、こちらはずっと戦い続けなければならないのかと少しだけ億劫に感じていたのだが、どうやら手を抜いてもいいらしいと返った未来の言葉に気付く。


「けれど、だからってまだ貴方の事を認めたわけじゃない。……ねぇ、どうして? もし味方なら《傷持ち》の格好なんてする必要ないよね?」

「それが歴史再現だからだ。過去の俺がこの姿を見ている。だから再現する。そんなの分かりきったことだろ?」

「再現…………。そう、再現なんだね?」


 今更失言を怖がるほどでもない。未来だって気付いている。これは歴史再現で、時空間事件ではない、と。

 ただ、気付いていることとそれを前提に動くことはまた別問題だ。どうあっても未来は『Para Dogs』の一員だから。任務……仕事として時空間事件の体裁がある以上そう振舞わざるを得ない。

 だから《傷持ち》が味方であっても、未来はその選択肢を取れない。

 難儀なものだと思う。

 けれど、ならば……こちらが未来のやり方に合わせればいいだけだ。


「…………いいや、歴史を歪める悪だ。だったらどうする?」

「……捕まえて、尋問しないとだねっ」


 どうやらこちらの意図に気付いてくれたらしい。言葉は物騒だけれども、まぁそれは目を瞑るとしよう。

 と言うか実際問題そろそろ疲れたのだ。歴史再現とは言え、その実態は過去を別視点から繰り返しているだけ。とは言え目まぐるしい戦闘だ。ブースターなしの体ではそろそろ限界に近い。

 何度も同じ時間を経験するなんて気が狂いそうになる。

 だからいつからか考える事をやめていた。理解される事を拒んでいた。結果それが《傷持ち》として正しい振る舞いに繋がって、自分の存在を肯定されている気がしたのだ。

 けれどそれももう必要ない。鍍金の仮面も剥がして信頼以上の疑心で肯定してくれる理解者がいるから。

 考えた刹那、距離を詰めた未来が見事な蹴りを放つ。相変わらず足癖の悪い。

 とは言えそれをまともに受けるほどこちらも馬鹿ではない。小さな女の子とは言え鍛え、洗練された一蹴だ。上手く捕らえれば気絶だってありえる。流石にそれはこの後に支障をきたす。

 繰り出される攻撃に合わせて防御と回避。先ほど以上に未来をの事を攻撃し辛くなった中で、交錯の中で落ちていた『捕縛杖』を拾い上げ次いで振るわれた未来の繰り出す『捕縛杖』と結ぶ。


「で、この後はどうする予定?」

「それは未来の大好きな髪飾りに聞いてくれ」

「っ…………!!」


 からかいと共に助言を落とせば、未来の肩が大きく震える。さて、沢山痛めつけてくれた御礼も出来たし、そろそろ幕を引くとしよう。

 結んだ『捕縛杖』を弾きバックステップで距離を取る。その刹那、ポケットから取り出した雅人の髪の毛が入ったビニール袋……警察がドラマなどでよく使っている証拠品袋を彼女の目の前に躍らせる。

 加々美が用意してくれた雅人のDNA。彼女が用意した袋なのだから『Para Dogs』でも使われているものなのだろう。なら最早何も言わなくとも未来は分かってくれるはずだ、と。

 そうして未来が空中を舞うそれをキャッチしたのを確認し反転。由緒を守るんじゃなかったのかと、放っておかれている彼女の傍を通り抜け、楽と交戦中の要へと駆け寄る。

 その足音に気がついたらしい過去がこちらへ振り返りながら『スタン銃』を構える。けれど──


「……狙いが違うだろ?」

「え…………?」


 銃身を優しく撫でるように射線を誘導。楽へ向けさせると、金髪の彼へ向けて疾駆する。

 全く、演劇部員なら演技かどうかくらい見抜いて欲しいものだ。


「撃てっ!」

「っ…………!」


 叫んで直ぐに頭を下げれば、頭上を飛翔物が駆けていく感覚。

 が、直ぐに現状を把握した楽が手に持った『捕縛杖』で銃弾を弾きながら唸る。


「っお前……!?」

「悪いが、そういうことだっ」


 全部お前の計画通りに事が進んでるよ、まったくなぁ!

 胸の内でそう悪態を吐きつつ下がる楽に食らい着いて拳を繰り出せば、往なしと防御の入り混じった反応。どうやら意表をつけたらしい。

 未来に続いて楽に対してもようやく《傷持ち》としていいように振り回された鬱憤を少し晴らせただろうか。


「お前は、未来の俺の差し金じゃなったってことか」

「いつ俺がお前の味方なんて言ったよ、楽」


 中身の無いその場限りな言葉を交わしつつ、回した蹴りが防御の上から横殴りに楽の体制を崩す。


「未来っ」

「あぁっもう! 分かってるっ」


 間髪入れずにその名を呼べば、どこか苛立たしげに答えた彼女が俺の背中を蹴って跳躍。鮮やかな構えと共に渾身の踵落としを楽へと見舞う。

 咄嗟にしたらしい防御は、けれど殆ど意味を成さないまま楽の膝を折らせた。


「っだぁ!」

「ぁぐっ!?」


 苦し紛れに体の横へとどうにか勢いの逃した楽が、逃げるように距離を取る。


「…………っはは。卑怯だな、三対一とは」

「全部お前が蒔いた種だろ」

「あぁ、そうだな。いいなぁ、認められない事をしてる……そこに意味があると感じられるっ。主人公らしくて良い事じゃないかっ。後は俺が正しいと証明するだけだっ!」


 嘯くように語る楽。

 確かに彼は正しかった。彼こそが歴史再現の執行者にして誰よりも正しい正義だった。

 けれどもその方法論にもの言いたくなるのは仕方のないことだろう。

 本当に、今更に。これまで何度もそう思ったように。やっぱりもっと別の方法があった気がするのだ。安全で、分かりやすくて、誰も傷つくことのない。そんな童話のような話が。

 嘆いたところで過去が変わるわけでも未来を手繰り寄せられるわけでもない。要は……俺は今この瞬間にしか生きていないのだから。

 ただ、まぁ。お陰で幾つか覚悟も出来て、夢見た非日常を体験できて、目標も定まった。と、そんな事を客観視して気付く。

 やっぱり要は主人公なんかでは無い。覚悟もなく、目標も夢も曖昧で、特別な力があるわけではない。最初から、主人公の資格たる、自分を持っていなかったのだ。

 だから日常をつまらないものだと諦めていたのかもしれない。有り触れた時間だって、視点一つで玩具箱にだってなりえたかもしれないのに。

 なんと勿体無い時間を過ごしたのだろう。…………いや、違うか。ここからもう一度現実と向き合えばいいだけのことなのだ。

 今こそ本当に大人になって、子供の頃大切だったものを寂しいガラクタにすればいいだけなのだ。

 ……だというならば、やっぱり子供のままでいたい気もするけれど。

 現実と言う言葉を知ったからにはもう後戻りは出来ない。例えそれが変えられない過去と決まった未来の間にある、掛け違えた現実だとしても。

 人間である以上何処を向いていたって、景色は過去にしか流れていかないのだ。だから必然的に、人は前を……未来を見据える。そうして前に進み、立派な大人になりたいと子供のようにいつまでも願うのだ。

 それは、親にとって我が子がいつまで経っても子供である事実を歪めようがないほどに真実だ。


「物語上の主人公は自分がそうだと知覚しちゃいけないんだよ。知らないのか?」

「だったら新しい主人公の形として、俺がそれを体現してやるよっ」


 今一度問おう。この騒動の主人公は誰だろうか。これが物語ならば、読むべき者は一体誰に感情移入をする? 誰の立場で、現実を紡ぎたい?

 あぁ、違うか。誰だっていいのだ。片親がいなくたって、恋に恋焦がれたって、現実から目を逸らしたって、大切なものを壊したって、特別の意味を履き違えたって────

 願わくば、誰もがその人生と言う名の物語で主人公を気取れますように。

 手首に傷があって悪役を気取るのも、それはそれで主人公らしい。楽もまた、楽の人生の主人公だ。正義の反対が別の正義であるように、正しく思いを貫くとしよう。

 刹那にこちらへ疾駆してきた楽。彼に向けて腕を振るえば、音と共に宙を待った『捕縛杖』が二本。けれどそちらを気にすることなく足技を繰り出せば、カウンターに拳を繰り出してくる。

 全く、本当に脇腹刺されたのかよ。自分でしておきながら疑うほどの攻撃の切れに思わず笑えば、楽もまたここに《傷持ち》がいる意味を知って笑う。

 

「歴史は我が味方なり……!」


 呟きはただその意味だけを辺りに波及して。

 次いで恐らく全力の回し蹴りが放たれる。怪我人とは言え彼もまた『Para Dogs』の一員。未来と同じく受けただろう訓練に、たった数日騒動を追いかけただけの付け焼刃が適うはずもない事を知りながら。

 それでも咄嗟に取った防御に覚悟を固めた直後、腹が貫かれるかと思うほど衝撃に呻き声さえ忘れて体をくの字に曲げる。

 蹴りにしては威力が高すぎる、それに防御をしたのに……。

 そう過ぎった思考が視界を腹部に向ければ、そこには先ほど宙を踊った『捕縛杖』の一本が腹から生えたように突き刺さっていて、その柄頭を楽の蹴りがきっちり捕らえていた。

 似た経験なら前にした。ブースターの力に踊らされて突っ込んで、待ち構えていた膝に自分から蹴り抜かれたあの一瞬。あれよりも更に威力が一点に集中した……面積にして指二本ほどの棒の先に全力のけりの衝撃が乗った、刺突とも言うべき一撃。

 気付けば足の感覚すら覚束ないほどに曖昧に、熱いアスファルトの大地に寝転がっていた。

 最後の最後に立ち上がれないほどの一撃を貰って痛感する。相変わらず格好のつかない。これで主人公だなんてどうして気取れようか。

 思わず零れてきた笑い声に、どこか心配そうな声が重なる。


「…………大丈夫、お兄ちゃん?」

「っ……あぁ…………。悪い、心配掛けた……直ぐに去るから、過去の俺をよろしく頼む…………」

「うん、気をつけてね」


 痛いかどうかすら分からない腹部の感覚に考える事を放棄すれば、目に入ったのはこちらに手を伸ばすどこか割り切ったような未来の顔。彼女は、仕方ないと笑ってどうにか立たせてくれた。

 恐らくこれ以上心配をしてもここでは意味がないと悟ったのだろう。意外とあっさりとした挨拶に、ヘルメットごしながら笑いかけて、それから『音叉』を鳴らす。

 次の瞬間、体を包んだ時空間移動の感覚。けれどそれも一瞬で、気がつけば再び《傷持ち》として歴史再現に乗り出した時間の病院近くに戻ってきていた。

 視界に捉えたのは未来達の背中。《傷持ち》を終え、帰って来たのだと安堵が体から緊張の糸を解いたか、ヘルメットを脱げば立っていたのが不自然なほどにその場へと崩れ落ちた。

 音にこちらへ気付いたらしい由緒が振り返って、泣き出しそうなほどに顔を歪めた彼女に頭を持ち上げられる感覚。目を開ければ、こちらを見下ろす幼馴染と視線が交わった。


「よー君っ、大丈夫っ!?」

「悪いな要、あの時は随分いいの入れちまって」

「よかったねお兄ちゃん、直ぐそこ病院だよ?」

明日見(あすみ)先輩、普通の病院は性格矯正までしてくれませんよ」

「……ひっでぇやつら……。一体誰の為に戦ったと思ってんだ…………」


 ようやくじんわりと痛みを覚えてきた腹に手を当てながら、後頭部の膝の感触に眠気すら感じる中で絞り出すように零せば、いつの間にか戻ってきていたらしい加々美も加えてそれぞれに笑ってくれた。

 と言うか励ましの一つくらいあってもいいんじゃないか? 報われない事が一番痛いんだぞ?

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