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パラドックス・プレゼント  作者: 芝森 蛍
聚散十春の誕生日
64/70

未来より

 ずっと夢を見ていた気がする。現実を生きながらに眠っていた気がする。

 そう思えるのは、踏み締めている足の裏が、鼻を掠めるにおいが、遠くの喧騒が、目に映る景色が…………その全てがあたしとは関係のない過去の事にして、あたしがあたしであろうとする現実だと実感できるから。

 あたしは、どこか流されていた。異能力と『Para Dogs(パラドッグス)』に振り回され、全ては終わった事にしてあたしは正義だからと高を括っていた。

 あたしはあたしの意思で過去に関わってこなかった。

 けれどどうにも、今回のこの面倒な時空交錯はそんな主体性のなさでは追いつけないものらしい。

 今まで信じてきた歴史が過去なる真実だと語った彼。目まぐるしい景色の変化の向こう側に、頭が痛くなるような循環解明を経て。知らない記憶の先にあたしが彼の為と尽くし、彼があたしの為に奮闘する夢の思い出を重ね。そうして果たした彼にとって未来邂逅はあたしにとっての追憶策謀。

 やがてその過去にして未来でさえも通り越してたった一つの贈り物の為に全力を賭す彼の横顔に、あたしはままならない感情を募らせる。

 あたしがあたしでなかったのは、自分以外に興味なんてなかったから。時空間を旅するから人とは違う何かだと決め付けていたから。

 そんなあたしにも、どうやら人間らしさと言うものは備わっていたようで。いつの日か恋焦がれた感情を目の前に見つめれば、許されない恋慕が募り苛む。

 あぁ、彼でよかった。あぁ、どうして彼なのだろう。

 生きる時間も、向いた思いも。全てがすれ違ってたった一瞬だけ交わった優しい瞳の色に遣り切れなさが痛みのない苦しさを胸に落とす。

 彼の事が好きだ。だからこそ、誰よりも彼の幸せを願うのだ。そうすればほら、彼はその気のない笑顔をあたしに向けてくれる。

 嫌になるくらいに大好きで……きっとあたしは一生彼に恋し続けるのだろう。

 彼から貰った『矛盾の先の贈り物(パラドックス・プレゼント)』を転がし、絶対に報われない『掛け違えた現実パラドックス・プレゼント』にあたしを焦がし続ける。

 報われない思いだ。でも、だからこそ、ずっと同じ気持ちでいられる。そうして飽きては哀しく思いながらまた彼との繋がりを貪るのだろう。

 ……ほんっと、ままならない…………。

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