未来より
よー君と加々美ちゃんが買出しに出て行って。残された面々は知らず視線を交わらせる。
今ここに残っているのは私こと由緒と、みくちゃん。そして先ほどやってきたがく君の三人。
一時……随分前にはなるけれど、みくちゃんが来たばかりの頃によー君と、それからみくちゃんのお父さんの五人でショッピングセンターに遊びに行った事がある。
あの時はこんな事になるなんて思わなかったし、異能力なんて知らなかった。
それが今私の体には宿っていて、みくちゃんにも、そしてがく君にもあるらしいって……。
そもそも異能力なんてどうして生まれたのだろうかと疑問が過ぎる。
「……ねぇがく君、みくちゃん。どうして異能力なんてものがあるの?」
「どうしてって……どういうことですか?」
「うーん、あんまりうまく言葉にならないんだけれどね。私が感じる限りでは、異能力なんて別に望んで手に入れたわけじゃあないんだよね」
今でも少し曖昧な記憶だけれども。この体には時空間を渡る異能力『時間遡行』が宿っているらしい。
けれどそんな力、私は欲しくて手に入れたわけではない。何かが噛み合って偶然……必然かも知れないけれど手に入れてしまった力だ。
だから都合がいいわけは無い。ただなんだか人とは違う何かに選ばれたという、ぼんやりとした覚悟のような、実感に似たなにかだけが渦巻いているのだ。
「勝手に使えるようになって、それはとても強力ですごい力なんだってみくちゃんは言ったけど。こんな力が無くたってどうにでもなる事は多いし、私には必要ないことだよ。だからもっと必要な人のところへいくべきなのに、どうして私なんだろうかなって。異能力って、なんなんだろうねって……」
みくちゃんたちにこんな事を言うのは間違いかもしれない。彼女達のいる未来ではきっと異能力は当たり前のことなのだ。だから私が何を言ったところで、それは筋違いなのかもしれないけれど。
「異能力の存在自体、曖昧な部分が多いんです。そもそもどうして発現するのか分かってない……突然変異の、病気ようなものなんです。ただその力が、皆が望んできた理想の一端である事は間違いなくて。由緒さんだって考えた事はありますよね。あの時ああすればよかったとか、こんな力があれば便利なのに、とか」
「そうだね。それこそ子供の頃はよく考えてた。童話の中に出てくる魔法のランプとか、漫画の中に出てくる何でも夢を叶える力とか。物語の主人公だって、お姫様願望だって、きっとその内の一つだよね」
けれどいつか、そんな力は手に入らないのだと過去の……子供の戯言として諦めて。目の前の自分の出来る事に一所懸命になって、夢を忘れた。
その夢の一端を叶える力が、異能力。子供の理想であり、人々が夢見た形の一つ。
「そんな夢の話を、なんだか少し現実的な知識で無理矢理人の体に押し込めたのが異能力なんです。人によっては神様からの贈り物とか、人類が進化した証だとか言ったり。異能力に関連するものの影響を受けたからだとか……色々推測されてますけれどね」
「けれどそのどれにも確証がなくて、ただ異能力って力だけが目の前にあるんだよな。まるで、魔法のように」
がく君が言葉を繋ぐ。
どこかに現実的な答えはあるのかもしれない。法則性や、確かな原因があるのかもしれない。
……そう言えば、似たような話をよー君に聞いた事がある。
「……科学の発展は、錬金術があったからだって前によー君が言ってた」
「魔女狩りとかにも少しは通じる話だな。根拠の無い不思議な力ってのは中々支持はされないけれど、何かしらの意味があって。それを毛嫌いする人たちも出てきて。錬金術って話も魔女狩りから逃れるための隠れ蓑だったってのを何かで読んだな。そうやって研究を続けてくれた人がいるから、今の科学技術の根底があったりするんだけどな」
「そういう意味では異能力は色々認められてるというか、そうなるように歴史が動いたというか……なんだか都合がいいんだけれどね」
かと言って錬金術が異能力だ、なんてのは少し飛躍しすぎだろう。
「もし少しでも同一視をするとするなら、夢を叶えると言う意味で、異能力は錬金術における賢者の石のようなものなんだろうな」
賢者の石。その話も前によー君から聞いた事がある。
錬金術を使う際に触媒として用いられる物質で、それを使う事で石を金に変えたり、人を不老不死にしたりと言う野望を果たそうとしたとか。石を金に変えるなんて、現代技術でも無理だけれど。
そう言えば炭とダイヤモンドは同じ炭素だから、その構成を弄れば可能なんだっけ……?
錬金術って言うのは、そういう何かから別の何かを作り出す技術の原点とも言うべき一つだ。
「そんな考察も、数ある論の一つでしかないけれどな。大体異能力の発現に誰かの意思が介在してるのかって話だよ。突然変異とか自然現象とか、そんな話の方がまだ納得できる説明だ」
「こんなに悩んじゃうくらいには、本当の事を誰も知らないの。だから由緒さんの質問には上手に答えられません……」
「ううん、その、本当に答えが欲しかったとかそういうのじゃなくてね。何ていうのかな……異能力って何をするための力なのかなって」
こんなややこしい面倒事を起こすこと。技術を発展させること。人を進化させること。そんなのは現代でも同じだ。
それが科学か、医学か、異能力かであるという違い。ただ分かっているのは、異能力は人が夢見た希望で、人が夢見たことしか叶えないと言うことだ。
「少なくとも、万能でもなければ魔法でもないって事だな。ただちょっと便利な力ってだけだ」
「……最初にこの力を手に入れた人は、どうしたんだろうね?」
不意に零れた疑問には沈黙が落ちた。
二人はきっと、未来からやってきた以上いつの時代の誰が最初の異能力保持者かなんて知っているのだろう。知っていても、それを伝えるような事はしないはずだけれども。
「…………その人はきっと、誰かにとっての特別だったんだと思いますよ」
「お姫様なのか、それとも王子様なのか……」
「由緒っちは大概ロマンチストと言うか、子供だよな」
「なにそれひどーいっ」
女の子はいつだってお姫様に憧れているのだ。それが叶わない事を知りながら、けれどどこかで望んでしまっているのだ。
それこそ、異能力があればいいと考えるのと同じくらい……夢のように。
「みくちゃんも何か言ってよっ。がく君みたいなリアリストが居るからこんなにつまらないんだってっ」
「あたしは別に……」
「うっそだぁ! みくちゃんだって王子様に憧れてるくせにっ」
「なっ……!?」
「…………あれ、本当だったの? ……ごめん」
「あ、謝らないでくださいよっ!」
どうやらその場限りの反論が彼女の確信を突いてしまったらしい。しかし、そうかぁ、みくちゃんもしっかり女の子だったんだねっ。
「で、でっ。誰っ?」
「言いませんよっ」
「それって誰か居るって事だよね? ね、誰っ!?」
可愛いほどに墓穴を掘っていく彼女を攻め立てながら追及する。そんな様子をがく君が楽しそうに眺めていて、心の中で私は気付く。
やっぱりがく君は、悪い人なんかじゃないっ!