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パラドックス・プレゼント  作者: 芝森 蛍
七福即生の未来邂逅
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未来へ

 ずっと考えていた事がある。今俺のしている事にどれ程の意味があるのだろうかと。(かなめ)を振り回して自己満足を押し付けて。彼の優しさに甘えてやるべき事を成そうとする。歴史再現といえば聞こえがいい。正義のための決断だと胸を張れる。けれどその傍らで、俺のしているこれは何処まで言っても個人的な我が儘だ。そんな事を幾ら重ねて、一体それにどれだけの意味がある。結局世界なんて、有象無象の内の誰か一人が欠けたところで埋め合わせが起きてどうにか回るのだ。変化があるのは欠けたその周囲だけ。この手が及ぼせる影響の範囲は、そう多くない。例え異能力があったところで、それは既に知れ渡ったちょっと便利な力であって、特別ではないのだ。

 携帯電話が発明されて十年後には当然の如く普及したように。自動車が社会の一部になったように。歴史と言う長い月日から見ればどれも一過性の話題に過ぎないその場限りの特別だ。だったら人間が刹那的に起こす影響に、一体どれ程の意味があるというのか。人の生き死に、偉業の達成、技術の進歩……。たった一瞬の出来事が歴史に刻まれて、それが齎す効果によって優劣が付けられて。それは余りにも理不尽な気がするのは気の所為か。

 持つものと持たざるものの間に横たわる隔たり。力なき者が幾ら蛮行を成し遂げたとして、けれど後世には語り継がれることのないその場限りな結果。歴史から見れば同じ行いだと言うのに、そこに差異が生まれる事が納得が行かない。

 別に何かを残したいわけでは無いけれど。刹那にでもそうして自分を刻み付けて居なければ、存在意義さえ見失って自分が消えてしまいそうに感じるほどに薄弱で。だからあんな夢を掲げてこんな場所まで来たのかもしれないと。誰かを振り回す事に目を瞑りながら、そこに自分が居た証を残すように……誰かの記憶に残れるように。ここに生きた証として存在を刻み付けていたかったのかも知れないと。 

 もちろん、この胸に抱く歴史再現と言う名の夢は確かに大切だ。何物にも変えがたい、温かく大きな志だ。

 けれどいつしかそれを手段にして何かに溺れていたのではと考えて……。それはもしかすると非日常に憧れる彼と違わないのかもしれない。だから彼と手を取る必要があるのかもしれない。

 一人で何も出来ない事を噛み締めながら、それでもどうにか自分の手柄にしたくて。野心家と言うならその通りだろう。この性格は、仕方なく身に着いた生き様だ。誰の所為、なんて何かを責めるつもりもない。ただ単純に、そういう歴史だっただけだ。

 そんな事をずっと考えていると、どうやら時間が来たらしいと。待ち合わせもしていないのに。

 彼がここにやってくる事はきっと何かに決められたこと。それを歴史の修正力と言うならそうだろうし、決められた歴史だと言うなら間違いないだろう。何より、この身が望んだ理想の結末だ。ずっと虐げてきた彼に裁かれるのなら、少しは気分も晴れるというもの。迷惑を掛けた礼に、今度はこちらが彼の力になるとしよう。

 なにせこれは、俺の目的である以上に、彼の意思なのだから。

 エレベーターが昇って来る度に注意を向けていた視界に、階段から顔を見せる彼を見つけて小さく笑う。何と言うか、彼らしい。自らの足でここまで来るなんて、疲れはしないのだろうかと。

 ようやく並び立つ事が出来る高揚感からか、少しだけ動悸が高鳴る。

 あぁ、やっとだ。やっと、計画の本題に入れる。すべては彼と彼女のために……。

 そう願って始まった歴史再現が、最初の結実の音を響かせた気がした。

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