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パラドックス・プレゼント  作者: 芝森 蛍
七福即生の未来邂逅
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第一章

 繋いだ手のひらの感触がなくなって。体や感覚が周りに同期する感覚を抜けた先に。

 確かな実感と共に重く感じる瞼を開けば────そこは見知らぬ未来だった。

 想像していた通りの世界と、想像の更に上を行く景色と。

 近未来と言う言葉では言い表せないほどの技術発達。

 大きな影を落とす摩天楼のような 銀色の建物が地面から生えるように伸び。その隙間を縫うように飛び交う──楕円形の箱。原理はよく分からないその未確認飛行物体は車のような速さで頭の上を行き交う。

 車……その想像が、頭の中でその飛行物体を未来の車だろうかと納得のようなものを生み出す。

 (かなめ)の生きている時代では事故を起こさない技術として、衝突被害軽減ブレーキ……いわゆる自動ブレーキや自動運転などがあるが、それとは比べ物にならない異界の景色。

 空飛ぶ車は、一瞬だけ見えたその車内にハンドルのような物は見当たらない。恐らく人工知能などのシステムが加減速や操舵の処理を行っているのだろう。

 また、車だけでなく二輪車のような細長い機体も宙を踊っている。それらに共通している事は、人が乗り、空を走っていること。

 空中を走ることで道路の必要性がなくなり、地上は歩行者天国のように人々が行き交う。辺りは高層建造物が立ち並び、人と太陽の空気に少しむせ返りそうになる。

 そんな、まるでSF小説や映画の世界のような、科学技術の発達した世界。

 充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。とはSF作家クラークの三法則の一つだったか。

 よもやその世界をこうして自分の目で見る事になるとは思わなかったと、その圧倒的な技術の結晶に首が痛くなるほどに空を見上げて。

 ここが、未来(みく)の世界……彼女が生まれ育った未来。

 零れた溜息は諦めだったか、それとも人々への賞賛だったか。

 判別のつかない高揚感と畏怖に体の奥を擽られながら、そうして今度は同じ目線の辺りを見渡す。

 傍を通り過ぎる人々は、見た限り日本人らしい見た目の者達。黒い髪に黒い瞳は東洋人らしい身体的特徴。

 時折聞こえてくる言語も、要が理解できる日本語。

 つまりここは未来の日本。歴史の変遷で科学技術の発達した未来。

 今更ながらに遠くまで来てしまったと考えながら視界の情報を更に追う。

 黒髪に混じって点在する……色鮮やかな頭髪。赤、青、黄色、緑、紫、橙、白……。まるでファンタジーのような髪色はこれまで要の隣に居た少女、未来にも会った特徴。異能力保持者の証。

 あの人たちが全員異能力保持者……いや、見た目に変化がない人も居るはずだし、ただ髪を染めているだけと言う可能性もある。それを判断基準にするのは確証に欠けるか。けれども彼らのうちの幾人かが異能力者なのだろうと考えて。途端、周囲を異能力に囲まれているような錯覚に陥って冷や汗を掻く。

 全員が正しくその力を使うなんてのは幻想だろう。もしかすると今にもその矛先がこちらへ向くかもしれないと。

 少しだけした想像を、けれど直ぐに振り払う。

 もしそうならここまで暢気に人は出歩いていないと。ならば基本的に大丈夫なはずだ。それこそ要の知る事件のように衝動的な理由で起こる物が殆どなのだと。例えば人を殺す道具が、包丁から異能力に変わっただけなのだと自分に言い聞かせて。

 一つ深呼吸をすると共に落ち着いてそもそもの目的を思い出す。

 未来を、助ける。彼女の過去を歴史にある通りに紡ぐ。

 先ほどまで繋いでいた手のひらの温もりがまだそこにあるような気がしながら見つめて、拳を一つ。そうして足を出す。

 未来の事だ、少し余裕を持ってこの時代に送ってくれたに違いない。だったら今のうちに雰囲気に馴染んでおくに限る。いざと言う時に動けないのでは意味がない。

 考えつつ視界を回しながら色々なものがある事に気付く。

 要の記憶にもある道端のあの構えは店だろうか。売っているのは軽食。と、そこで思い出す。

 この時代の通貨はどうしようかと。これでは買い物が出来ない。必然この時間にいられる時間が限られる。

 早くに(らく)を見つけて捕まえないと、未来と一緒に居た時のように休憩などを挟んでいては飢えで倒れかねない。


 ────何かあったら昔の私を頼ってね


 あぁ、いや。彼女の言葉を信じるのならば未来さえ見つければその辺りはどうにかなるだろうか。もちろん、見つけたからといって彼女の協力を得られるとは限らないのだが……。

 どんな風に話をつければいいだろうか……。馬鹿正直に過去から来ましたなんて、幾ら未来が時空間移動に慣れ親しんでいたとしてもそう簡単に納得してくれるとは思えない。警戒されるのが落ちだ。だったらどうするのがいちばんいいだろうかと……そんな事も考えつつ更に色々な景色に自分なりの納得を見つけて行く。

 人が集まっているあの一角は……あぁ、丁度やって来た飛行物体から察するに旅客用のバスか。人の乗り降りするその形状はやはり要の知るバスとは違うものの、大きさで言えば同じかそれ以上。大きく違うのは音が殆どないと言うこと。要の知るエンジンとは別系統の動力で動いているのだろう。

 それからその隣の公衆電話のような物は……中に入って行った人物が姿を消した。

 驚いて、直ぐにそのアーチ状の上の辺りを見れば、そこに書かれた文字になるほどと納得する。

 トランスポーター。要の知識通りなら、関連付けられた座標同士を異空間で繋げて行き来する瞬間移動ゲートだ。

 そうだ、ここは未来、異能力が有り触れた世界なのだ。ならばその力を便利な技術として利用していたとしても不思議ではない。

 気付いて見渡せば、要の知らない施設が幾つか見受けられた。あれらの内一体どれだけが異能力によって成り立っているのだろうか。と、同時に閃く事が。トランスポーターのように人の意思によって異能力をある程度制御できるのならば、空飛ぶ車だって異能力で動いているのかもしれない。だとしたら一体今要が目にしている景色の中で異能力に関係しないものが幾らあるというのだろうかと。

 まるで異世界に迷い込んでしまったような錯覚に囚われながら、それからふと気付く。

 トランスポーターのような施設があるのならば、時空間を観光するような娯楽があってもいいのではないだろうか。

 トランスポーターは恐らく場所だけを移動する瞬間移動のようなそれ。時間が掛からないだけで、要の知る車や飛行機とそれほど変わらないはずだ。

 だとすれば世界旅行や宇宙旅行なんて金持ちの娯楽として有名なそれらよりも更に先の技術……時空間を渡る者が先導する歴史体験なんて物があってもおかしくはない。

 少なくとも、要が真っ当に異能力を利用しようと思えばそれくらいの事は思いつく。

 ならばトランスポーターのゲートのように専用の発着場のようなものがあるだろうか。そこに行けば、これから過去へ向かう未来と出会えるのではと。

 ……そうだ、要の目的は、この時代に居る未来が楽に狙われるのを阻止すること。そのために今ここにいるのだ。つまり、何よりも先に彼女の元へ向かわなければならないのだ。

 こんなことなら何処にいるのか未来に聞いておくんだったと少しだけ後悔しつつ視界を回して、それから看板を見つける。どれ程の未来なのかは分からないが、ここは日本で、日本語が使われている。当然、看板や案内板も日本語、要にも読める。

 と、そうして見つけた案内板に見つけた時空間センターの文字。

 幾ら未来でも関係のない場所の近くには飛ばさないだろう。そもそも彼女の過去を要が助ける事が目的なのだから、その近くに降り立つのは当たり前だ。だとすればそのセンターが目的地に違いない。

 道幅一杯を往来する人の数に軽く眩暈さえしながら、頭上を通り過ぎていく楕円形の物体に意識をそがれつつ。それからしばらく歩いてたどり着いた時空間センターと銘打たれた建物。見た目は大きな古時計のようなそれで、時空間を司るのならばそのデザインも確かに意味があるのだろうかと益体もなく考えて。

 見上げた高い建造物を前に、また少し考え込む。

 未来を助ける、とは単純にして分かりやすい目的だが、前提として彼女の近くにいないとそれは要には不可能だろう。

 もし時空間を移動するための特殊な部屋などがあったりして、事が全てその中で行われたのであれば要には手出しが出来ない。

 …………いや、冷静になれ。視点を逆に。もしこの建物の中で未来が過去へ向かうのならば、楽だってそう簡単に手出しは出来ないはずだ。例えそれが要を誘う演技だとしても、要がここにいる以上未来を襲う景色は成り立つはず。ならば楽が未来を襲うためには、楽の手の及ぶ場所に未来がいなくてはならない。そしてそれを、要が目撃できなければ介入など出来ない。

 幾ら楽が『催眠暗示(ヒュプノ)』を持っているからと言って、それ一つでどうにかなるとは思えない。セキュリティだって要のいる時代とは比べ物にならないだろうし、そもそもこれだけ普及している異能力に対して対策をしていない方がおかしな話だ。

 ならば施設内で『催眠暗示』を使うことは出来ない。『催眠暗示』が使えなければ楽は潜入など出来なくて、やはり外で何かしらが起きるのだろう。

 だったらそれは要にとっても好都合だと。未来が来るまで待てばいい。

 消去法からやるべき事を見出して近くの物陰に隠れて様子を伺う。そうしてしばらくすると、建物の中から見知った顔が姿を現した。

 自動ドアが開いて、吹き抜けた風に揺れる綺麗な紅の髪と黄色いリボンに括られた兎結び。人形のように精緻なつくりをした顔立ちと、そこに嵌った橙色の双玉に確信する。

 未来だ。そしてその隣には、一人の女性。腰まで伸びる長い白髪に黒い瞳。背丈は未来と余り変わらない、美しく年を重ねた婦人。見た目で判断するのは失礼かもしれないが、70代ほどの淑女。

 彼女は誰だろうかと。見覚えのある気がする顔立ちを少しだけ見つめて、けれどそれより早くに進む景色にようやく着いて行く。

 遅れて建物から出てきた男性。180以上ある背丈に黒い髪黒い瞳。要個人ではそこまで言葉交わして居ないが、実直にして堅実な印象を受ける人物。未来の父親である明日見(あすみ)透目(とうもく)だ。彼には、事件を一緒に追わないからこそ助けられた部分が多くある。

 未来と一緒にやってきて、遠野(とおの)家と去渡(さわたり)家に警戒の目を向けてくれていた。だからこそ、家の周囲には敵は姿を現せないだろうと彼に全てを任せていられた。彼のお陰で考慮すべき可能性を減らすことが出来ていたのだ。

 そこにいるからこそ意味を持つ役割と言うのも確かにある。縁の下の力持ちとも言うべき存在だ。

 そんな彼も当然、未来と一緒に時空間事件の起きるあの過去へと向かう。

 未来と透目。その二人がいて、傍には物腰柔らかそうな女性が一人。少しだけ考えれば、彼女が誰なのかは簡単に想像がつく。

 未来たちはどうやって要の目の前に現れた? その時彼女に掛かっていた制限は?

 その答え合わせ。要にしてみれば新たな発見の一つ。

 彼女は、由緒(ゆお)だ。だからこそ分かる事が一つ。

 ここは……未来のいた時代は、由緒がまだ生きている時代だと言うこと。

 彼女が幾つなのかは分からないけれど、少なくとも百年以上未来と言うことはない。70代だと仮定すれば約半世紀後か。

 半世紀でこの技術革新……いや、科学だけではないか。異能力があってこその景色と言うわけだ。

 となればその時の流れから考えて……未来は要達の娘か孫の世代。どちらかと問われれば微妙なところだが、透目が見た目40代であることから恐らく孫の世代だろうかと。

 そんな事を考えつつ、追い求めた更なる可能性は要自身のことへ。

 由緒が生きているのだとしたら、要も……。彼は今何処へ?

 けれどそんな疑問はすぐさま捨て去る。考えるだけ無粋で、ここに要を送り込んで任せてくれた未来も、この時代の事を探られるのはいい気分ではないだろう。

 気になりはする、が、未来の事だから分からないならそのままでもいいと理由を丸投げして。なにより知ればその分だけ変えられない事実を知るのだ。己の未来くらいには理想を描いておきたい。

 そうしてどこか外れていた焦点を彼女達に戻して、それから気付く。要から見れば対角線。時空間センターの角に隠れるようにして身を潜める人影……。その人物の服装と、視線の先と、何より間違えようのない金色の髪に。要の中の衝動が体を突き動かす。

 そうして足を出してからそれが正しいのだと悟る。

 未来は明言しなかったが、彼女の過去は要によって助けられると言った。それはつまり、未来の過去に不都合が起きてそれに巻き込まれたということだ。それが未来視点での楽の襲撃。

 視界の先で、要が駆け出すのと同時楽が建物の影から飛び出す。それはまるで示し合わせたように。どこかで交わった視線のまま二人が間にいる三人目掛けて疾駆する。

 最初に気付いたのは透目。彼がこちらに顔を向けて訝しげに眉根を寄せる。次いで未来が透目に言われてこちらを見て、最後に由緒が振り向く。

 と、そこで違和感が胸の中に渦巻く。

 楽が未来を襲うのであれば、この出来事を通して未来と透目は楽の事を知っているのではないだろうか? だったら要のところへ来た時に楽を警戒対象にするはず。けれどそんな事実は、多分ない。もしそうであれば要はあそこまで振り回されていない。

 だったら……楽は未来や透目にその顔を見られていない?

 未来を襲うのにそんな事が可能か? こちらに駆けて来る楽は、素顔を隠すようなものを付けていない。

 ……何かがおかしい。

 けれど駆け出した足は止まらず、目の前に三人の姿を捉える。そうして、未来を守るために伸ばした腕が、横から割り込んできた透目の手に掴まれて。


「ふんっ」

「っどぁ!?」


 そのまま倒されその場に組み敷かれる。

 僅かに揺れた視界。いつの間にか構える未来が由緒を背後にこちらを睨んで……そうして次の瞬間由緒の背後へと這い寄る楽の姿に、要はようやく真実を知る。

 違うっ、楽の再現は、未来を狙って時空間移動を阻止することではない! 彼の目的は、由緒を攫うこと……!


「まっ……が!」

「動くなっ。何が目的だっ」


 咄嗟に伸ばした腕が、けれど更に強くその場へと押し付けた透目の力で遮られる。

 ……失敗した。未来が襲われるものだと思い込んでいた自分が恨めしい。

 けれどならば、ここからやるべき事を修正するだけだ。後悔に囚われていても何も始まらないっ。


「っ、由緒……!」

「……っ! ……え、あれっ、由緒さんが…………!」


 そうして零した要の言葉に、未来が慌てて振り返って彼女がいない事に気付く。……えっと、だったらここから俺が楽を追い駆ける口実を作るには…………。


「貴様、何者だ! 吐け、彼女を何処へ連れ去ったっ」

「……違うっ、俺は、彼女を助けようとしただけだっ」

「何?」


 怒号のような透目の詰問に僅かな隙を生み出す。そうして緩んだ拘束に地面に押さえつけられたまま矢継ぎ早に捲くし立てる。


「彼女が狙われてたから、俺は助けようとしたんだっ。そんな俺を拘束して何になるっ。事実彼女は連れ去られた、違うかっ」

「っ……!」


 彼に色々助けられた身で不遜な言葉で言い返すのは余り気分がよくないが、こうでもしないと透目の剣幕に押し切られる。だったら今は仕方ないのだと胸の奥で謝りつつ噛み付く。


「俺はあいつを追ってたんだっ。今からなら協力も出来る!」

「……その言葉を信じられるだけの根拠がどこにある?」


 融通がきかないと言うか、『Para Dogs(パラドッグス)』として正義に忠実な彼らしいと安堵さえしながら見え透いた着地地点に足を下ろす。


「ポケットに、『捕縛杖(アレスター)』が入ってる。『スタン(ガン)』もな。それで信用には値しないか?」

「………………立て」


 沈黙の後、固定されていた関節が解かれて体が自由になる。全く、酷い失態だ。もう少し可能性を考慮すればよかった……。

 考えつつ立ち上がって汚れを払うと未来から借りた『捕縛杖』を取り出して見せる。過去に未来に聞いた。『捕縛杖』は『Para Dogs』に所属する証だ。未来と透目も同じで、ならば仲間だと証明できる。

 もちろん借り物でその場限りの嘘だが、今回ばかりは見逃してほしい。でないとこの先の予定が大いに狂うのだ。


「……しかし見た事のない顔だな?」

「未来の事は禁則事項、でしょう?」


 方便を振り翳しながら、そうしてようやくいつもの要を取り戻す。

 言葉遣いを元に戻せばどうやら納得した様子の透目が静かに頭を下げる。


「……すまない、襲撃犯かと勘違いをした」

「いえ、ただ知られる前に事を収めたかったので、もう少し連携を取っていればよかったですね」

「……味方、なんだよね? 名前は?」


 嘘を上っ面で塗り固めて都合のいい仮面を演技する。この辺りは慣れた事。演劇部員でよかった。

 直ぐに被った空想の誰かの皮に、それから未来が問うて来る。逡巡は、けれどこれ以上の嘘を嫌って正直に。


「……遠野要」

「え……?」

「偽名ではあるまいな?」


 そんな返答に返ったのは尖った声。未来の驚きの瞳と、鋭くなった透目の視線に思考を最速回転。そうして見つけた可能性を確認するために音にする。


「違いますよ。……もしかして知り合いに似た人がいましたか?」

「…………さぁな」


 未だ警戒の抜けない声色に確信する。

 当然だ、これから過去の要を助けに行こうとする二人なのだから、護衛対象のことくらい知っているだろう。その対象と同じ名前の人物が目の前に現れれば疑いもする。

 けれどそんなの、こちらからしてみれば当然だ。だって彼女達が助けた要がこうしてここに来るのだから。それを知らない二人からしてみれば違和感でしかないのだろうが……。

 

「それで、どうされますか? 俺はあいつを追い駆けますけど」

「もちろん私達もだ。先ほどの礼も含めて協力しよう。明日見透目だ」

「明日見未来です」

「よろしくお願いします」


 上っ面の挨拶をして、それから手を握り返せばようやく面と向かって言葉を交わす。


「とりあえず迷惑を掛けたからな。私達は君の援護となる形で力を貸す事にしよう」

「そうだね……どうすればいい?」


 未来に問われて、それから少し考える。

 ここまではどうにか流れを引き寄せた。そうならなければ都合が悪いと、都合のいい未来へ着地するように強引に話を進めた。

 それでもついてきてくれる辺り、歴史の修正力というか、そうあるべき歴史を知らず紡いでいる事に少しだけ怖くなりながら。

 僅かの沈黙の後に、ならば出来る限り理想を描こうと全知全能の神様のように理想を叩きつける。


「……由緒、さんを追い駆けることって出来ますか? 例えば、『Para Dogs』の力を使ったりして」


 それはこれまでのどこか受身な考えから一歩進んだ力。

 そうなるだろうと歴史を描くのではなく、自分がそうするのだと周りを自ら巻き込んでいく暴挙にも似たやり口。宛らそれは主人公を中心に物語が展開していく冒険譚のように。自分が要だと知覚した上で無理を可能へと手繰り寄せる。

 自分の言動で歴史を作ろうとする、どこか独善的な方法論だ。


「可能だ」

「彼女が連れ去られたのなら、人質としての意味があります。だったら逆に利用して、彼女を連れ去ったあいつの居場所を突き止められる……」

「そっか……」


 要の時代の技術知識で言うなら、GPS。この時代ならもっと高精度な位置情報探査システムがあるのだろう。

 それこそ『Para Dogs』職員は個別信号を発する何かを携帯していて、そこから割り出すのかもしれない。

 それを利用。楽の事だ。ここまで来て由緒を攫ったという事は、彼女を巻き込んだ上で歴史再現をする事が正しいのだと既に気付いているはず。ならば今更あと少し引っ掻き回す事を躊躇わないだろうし……何より前の交錯で気付いてしまった。

 彼の思惑は、歴史再現だ。そこにはきっと、本当の悪意なんてない。だから由緒を巻き込んだところで、彼女が楽の傍にいるのならば安全は保障されている。その責任を楽が背負う事までを勝手に押し付ければ、彼は由緒に目が届くところにいる。ならば由緒の位置さえ分かれば、楽を捕まえる事も出来るだろうと。


「ならばそちらは私が引き受けよう。これを渡しておく。私のこれと繋がっている。情報が掴め次第連絡を入れよう」


 言って渡された通信機を着けながら考える。ここでもまた別行動かと。どうしてか彼とは一緒に行動する事が少ない。そういう星の元に生まれてしまったのだろう。仕方ない。

 要個人としては、彼は信頼に足る人物だ。だからこそもう少し仲良く……とまでは行かなくとも話はしてみたいとは思っていたのだが、どうやらその小さな夢は叶いそうにないと。

 少しだけ落胆しながら未来に向き直る。


「えっと、未来……でいいかな」

「うん。じゃああたしは要さんで」

「未来は俺と一緒に足で探索だな。透目さんが調べてくれた情報を元に動く、実動隊ってことで」

「うん」


 透目にも視線で確認を取れば、彼は少し考えるような間を開けた後一つだけ尋ねてくる。


「因みに、その誘拐犯について知っていることがあれば教えて欲しいのだが……」

「……余り詳しくは言えない……といいますか、時間移動をして来た本来別の時代の人物ですからね…………」

「ふむ、となると該当検索は当てにならんか」

「お力になれずすみません」

「いや、君にも理由があるのだろう。その不自由さは私達も分かっているつもりだ」


 未来も透目も、時空間移動をして事件解決に当たる者達だ。制限などについては嫌と言うほどに知っていて、経験もしている。だからこそ、言葉にしないところで互いの立場を知って少しだけ共感する。

 ……なるほど、これが未来たちが背負っている不自由さか。言いたい事と言えない事の上で揺蕩って。言えない事への申し訳なさと言いたいのに言えないもどかしさと。

 そんな共有できない記憶から生まれる不確かな感情を共有して。仕方ないものなのだと割り切れば呼吸を整えて言葉を告ぐ。


「それでは始めるとしますか」

「あぁ」

「うん」


 そうして頷き合うと、それぞれに足を出して進み出す。

 透目が向かった方角。そちらに少しだけ視線を向ければ、未来的な景色の中一際大規模な建物が天を貫いているのが見えた。目に見える力と言うか、重要な建造物と言うのは目を引く外観をしているもの。そこから考えるに、あの一番背の高い建物が恐らく『Para Dogs』……。そこまで距離もなさそうなので、どうやら要が今いるここは随分と未来の中核に近い場所らしいと。

 そんな事を考えつつ未来と二人肩を並べて歩き出す。


「それで、足で探すと言っても実際にどうするんですか?」

「色々あるけれど……やっぱり時空間事件だとするのなら公に動かない方がいいよね?」

「そうですね」

「だったら密かにやるべきだよ。と言うわけで連絡があるまでは文字通り地道に自分の足で。未来だって大事にしたくないでしょ?」


 少しだけ責めるような口調で尋ねてみる。

 未来たちからしてみれば由緒が攫われたのだ。彼女の異能力は未来のそれと同じように特異なものだ。

 時空間を渡る力。未来の話ではこの時代には二人しかいない希少な能力で、だったらその力は本来何処にあるべきなのか……。

 未来が『Para Dogs』にいるのならば、普通に考えて由緒も同じだろう。

 と前提を作って考えれば、『Para Dogs』に所属する稀有な異能力を持った人物が攫われた……。これは未来個人に限らず、『Para Dogs』全体の問題になりえる。

 そういう意味でも未来はこの件を秘密裏に片付けたいだろう。

 未来の境遇を探るようで余り気は進まないが……彼女の力は期待が大きい。となれば『Para Dogs』内でも崇められるような待遇のはずだ。神聖視にも似て祀り上げられ、普通とは少し違う待遇を受ける事になるだろう。

 そんな彼女と一緒にいたもう一人の特別な異能力保持者が目の前で攫われたとあっては、その面子に傷がつく。

 未来自身はそんな事気にしないかもしれないが、周りの目は違うだろう。

 そういう意味でも、その可能性を拭うべく今回のこれはやはり大事にせずに解決するべきだ。


「……何を何処まで知ってるんですか、貴方は」


 尖った語調に。やっぱり少し無粋だったかと反省しながら言葉を返す。


「知ってるって程じゃないよ。ただ色々考えた上で、その方が俺にとっても都合がいいかなって」


 訝しむような視線に、それから本心だと自分に言い聞かせる。

 例えところ変わった未来で見た目が違っても、由緒は由緒だ。要は彼女の事が好きで、何も出来ないながら男として守りたいと驕るくらいには大切だ。

 だったらその人の未来がより良くなるように願い行動する事は今の要にとっても正しいことだ。

 例え楽のそれが演技なのだとしても、どこかでこれ以上由緒たちを巻き込まないで欲しいと願っている。

 要に用があるなら要に話を付けにくればいいのに……。


「…………協力は、今回だけですから」

「気分を害したなら謝るよ、ごめん」


 言っては見るが顔を背けた未来はそのまま静かに歩く。

 ……なんと言うか、難しい。

 これが本来の彼女と言うのならばその通りなのかもしれない。

 過去を探られる事を嫌い、自分からそれを話すこともない。そんなプライベートをひた隠しにする彼女だ。不用意に踏み込んでくる相手には警戒心は高いだろう。

 けれど不思議な事に、そんな彼女が要の目の前に初めて現れた時は随分と友好的だったのだ。

 ならばと考えれば、今要がするべき再現が見えてくる。

 幾ら護衛対象だからといって初対面であんな風にフレンドリーだというのはそれこそ不自然な話だ。そう感情を抱くに足る根拠……例えば、今ここで未来と過ごす時間を経て要に対して友好的な関係を築けたのなら。そして未来が、これから護衛に向かう要と今ここにいる要が少し時間のずれた同一人物だと知るのなら……。ならば初対面で彼女があれほどに友好的に接してきた理由も納得できる。

 未来は過去に語った。未来にとっての再会……要の家の前で言葉を交わした際に、彼女は要のことを知っていたと。それはおそらく、護衛対象と言う情報以上に要の事を知っていたから、あんな風に警戒心なく接してくれたのだと。

 だったら要がここでするべきは、由緒を見つけ、楽を捕まえると同時に……未来と仲のいい関係を築く事も目的の一つだ。

 ……どんな風にアプローチをするべきかと。考えて異性相手に何処から話を広げればいいかなんてこれまで意識して考えてこなかった身だ。何よりも大きな壁にぶつかった気がしながら沈黙を嫌ってどうにか音を搾り出す。


「それから、目的を明確にしておこうか」

「……由緒さんの安全を確保する。貴方は、その追っている人物を捕まえる」

「そうだな。けれど個人的に、由緒さんの事は俺も大切なんだ。だから優先順位としては、彼女を助ける方が先。その上で、俺個人の問題は俺が──」

「それは駄目です」


 言って、意思を共有しようとしたところで未来が口を挟む。


「協力は、協力です。要さんがあたし達に力を貸してくれると言うのなら、それが協力と言うのなら見返りが必要です。あたしは、誰かを利用したまま借りを返さないなんて、そんな慮外者にはなりたくありませんから。だから例え優先順位があるのだとしても、要さんの目的にはあたしも協力します」


 果断な物言いでそう言い切って、強い光を放つ橙色の瞳が要を射抜く。

 その真っ直ぐで綺麗な輝きに、思わず言葉を失ったのも一瞬。変わらない芯の強さに彼女らしさを見つけて安堵する。

 未来が未来以外の誰かなんて、そんな事はありえない。だったら要の知るよく笑ってよくドジをする彼女も目の前の女の子の一部なのだ。

 どこかで感じていた違和感。そこから遠ざけようとしていた記憶との差異を取り払って、未来は未来以外の誰でもないと納得する。

 誰だって、複数の顔を持っていて当然だ。裏も表もその人の一部だと。


「……そうだな、ごめん。その時になったら頼るよ。それまでは俺が協力するってことでいいか?」

「うん。……ふふ、よかった」

「何が?」

「あたしと同じ気持ちで」


 そうして崩れた相好。要のよく知る未来の顔に安心する。


「試すような事をしてごめんなさい。……ほら、よくいるじゃないですか。それでも自分の問題だからって抱え込んじゃう人」

「あぁ、そういう……。いや、俺もそうかもしれないけどな。これから一緒に行動するってのにつまらない意地を張るのもおかしいだろ? できることなら円滑に。楽しく、なんてのとは少し違うかもしれないけれど、気持ちよく事に当たりたいからな」

「それだとまるであたしの我が儘に要さんが折れたみたいな言い方ですね?」

「あれ、違った?」


 冗談のように茶化せば、少しだけ睨んできた未来。けれどその視線に批難の色はなくて、ただからかうような音と共に言葉は次がれる。


「……こんな事になっても冗談が言えるほどには背負い込んでいないんだな。だったらついでにもう一つ。その敬語はやめない? そこまで年も変わらないはずだし」

「初対面なのに警戒心が薄いね……?」

「気を遣うのが苦手なだけだよ」

「そうだよね。女の子に軽率に年齢を聞いちゃうくらいだし」


 別に聞いたわけではなかったのだが。彼女の感覚からしてみれば先ほどの提案はデリカシーに欠けるものだったらしい。その辺りも彼女の秘密主義ゆえか。

 とは言え段々と掴み始めた彼女との距離感に肩を並べて歩きながら歩調を合わせて。そうして響く音に心地よさを感じる。

 歩調が合えば、気分が合う。なんてのは何処で聞きかじった話だったか。合わせるわけでなく勝手に合う調子は波長が交じり合っている証だ。ならば最後に互いに遠慮を無くせば、それぞれが気を遣うでなく丁度いい空気を作り出せる。


「……気を遣うほど他人とは思えないだけだよ」

「……そうだったらいいのにね」


 せめてもの反論として零した音に、けれど返ったのは優しく響いた声。

 思わず視線を向ければ、未来は小さく笑って兎結びを揺らす。

 それは一体、どういう意味だろうか。

 警戒心が強い未来だ。きっと上っ面だと思っていた会話だったが、しかし今の言葉には彼女の本音の音が聞こえた気がする。

 彼女が知っている要なんて、護衛対象以上ではないはずだ。それなのに何かを確信したようなその微笑に、要の胸の内が少しだけ揺られる。

 彼女は一体何を隠していると言うのだろうか……。


 ────要よぉー、未来ちゃん何か隠し事してるぞ?


 不意に脳裏を過ぎったのは楽の言葉。

 彼が未来の何かを知っているとは考え辛いが、ここまで仕組まれた騒動ならその言葉にも何か理由があるのだろうかと。

 少しだけ考えてみたが、けれど結局分からずじまい。

 まぁもし本当に何かあるのだとしたら、それもいつか知ることなのだろう。知ったところで、結局最後には忘れてしまうのだろうけれども……。


「因みに、どれくらいで連絡来ると思う?」

「意外と直ぐだとは思うけど、それまでは足で探さないとね」


 そうして戻った話題。まだまだ曖昧な未来に、けれどその歴史は最後には笑えるはずなのだと自分に言い聞かせて足を出す。

 そういえば、だけれども。要には未来という協力者がいるが、楽はこの時代でどうやって歴史再現をするのだろうか。一人と言うのは存外心細いものだ。それは要もよく知っている。

 できることなら、そんな彼の力になるべく一刻も早く見つけなければ。

 要が気付いた通りなら、彼の夢は最早、彼だけの我が儘ではないのだから。




              *   *   *




 部屋の中へ駆け込んで扉を閉めれば、自動で掛かったロックの音に上がった息を整える。


「……綺麗なところね」

「そうですか?」

「えぇ、人を誘拐するには少し豪華すぎるかしらね」


 そうして響いた声に答えて顔を上げる。

 視界の先には部屋を見回す女性が一人。長く綺麗な白い髪。物腰柔らかな彼女は余り危機感を抱いていない様子で小さく笑う。

 誘拐。彼女の語ったその言葉に胸を痛めながら、それから用意しておいた飲み物を取り出すと彼女にも手渡す。


「誘拐って……分かってる割には随分落ち着いていますね」

「そうかしら? あぁ、ありがとう」


 言ってまた一つ笑みを浮かべる女性。彼女は由緒。過去で随分と振り回した少女の、その未来の存在。

 そんな彼女はどこか嬉しそうに飲み物を手の中で弄んで、部屋の中央に設えられたすわり心地のよさそうな椅子へと体を埋める。


「ふぅ……。それで? どうして私を連れて来たの? 理由を聞かせてくれる?」


 その落ち着きようは、まるで誘拐に慣れているかのような振る舞い。……それにしては随分と楽しそうに見えるのだが。

 少しの間を開けて、彼女の問いに答える。


「……先ほど貴女に向けて走ってきていた少年がいましたよね」

「えぇ、黒髪の」

「彼から貴女を助けるためです。彼は過去で時空間事件に関わって、ここまで足を運んできた。そんな彼を捕まえようと俺が追い駆けて、先手として貴女を保護したんです」


 するりと零れ落ちたのは真実の入り混じった言い訳。誰が悪だなんて、今更言い争うつもりはない。そんなのは既に分かりきったことだ。

 だからこそ、やるべき事を確かに見据えてこうして行動に起こした。これまでに騙した数は計り知れない。

 そんな事に胸を痛めるほど人間が出来ているとも思えないが。


「誘拐じゃなかったの?」

「見ようによっては誘拐ですよ。貴女を守るためとは言え、同意も得ずにここまで連れ去ったわけですから」

「だったら縛っておく?」


 からかうような響きと共に手首を差し出してくる彼女。その青み掛かった瞳には既に恐怖の色はない。誘拐されて恐れない人質と言うのは誘拐のし甲斐がないものだ。


「貴女を助けるために誘拐紛いをしただけです。傷つけるつもりはありません」

「私が逃げないってどうして言えるの?」

「俺は貴女を知っている上で誘拐しているんです。それが理由ではいけませんか?」

「ふふっ、面白い人」


 それは貴女の事だろうと。思っても口にせずに、それから部屋を見渡す。

 ここは通信機器一切から隔離される構造をしている。この中ならば居場所を特定される恐れはない。

 色々な可能性を考えた上で準備した部屋だ。これでどうにかなってくれと。

 考えつつそれから自分も少し休憩をしようと椅子に向かう。と、その途中で走った激痛。左の脇腹に感じる熱に膝を折って床へと倒れ込む。


「っぁ、いってぇ…………!」

「大丈夫? 怪我でもしてるの?」


 それに気づいた由緒が心配そうに声を掛けてくる。誘拐犯を心配する人質なんて、それもまたおかし話だが。ストックホルム症候群だろうか。

 仰向けに転がる体の傍に腰を下ろして額に手を宛がう彼女。その手のひらが冷たく感じて、そこでようやく自分の体の事を思い出す。

 ずっとしていた我慢が、緊張の緩みと共に解けたか。腹部の痛みに手を宛がいつつ自分の体温に息苦しくなる。


「……そう、ですね…………」

「医療センター?」

「いえ……、その棚に、医療用の、ナノマシンが……!」

「待ってて」


 ナノマシン。使い方によっては生物兵器にもなる技術。この時代ではナノテクノロジーとして医療や科学の分野で頻繁に使用されているもの。

 特に生物に影響を及ぼす分野として治療目的での技術発達が目覚しく、少し値は高いが一般向けに小さな傷なら直す程度の医療用ナノマシンも市販されている。

 これもまた準備しておいたものの一つ。流石に過去には持っていく事のできなかった歴史依存の技術だが、この時代では当然使える。

 そのナノマシンが入ったカプセルを由緒が持ってきてくれる。いわゆる錠剤のように服用して効果を発揮するタイプ。少し時間は掛かるが、傷などの快復促進や痛覚緩和の効果を持つ医療道具だ。

 水と一緒に飲み下して椅子の背もたれに体を預ける。

 そうして一息。それから回した視界で、安堵するように息を落とす由緒の姿を見つけて少しだけおかしくなる。


「……誘拐犯を手当てする人質なんて」

「いけない? それに、例え誘拐犯でも人よ。私は、目の前で傷ついている人を見てるだけなのが嫌なの」


 そんなのは、知っている。何より彼女を、知っている。

 彼女が誰の物で、どんな立場にいるのかも。知った上で、彼女を連れ去ったのだ。

 仕方のない再現だと割り切った傍らで、彼女を振り回すことへの罪悪感と、一緒にいられることの幸福感に満たされながら。自分を戒め僅かに零れ落ちた幸福を拾い集めているだけだ。

 分かっているからこそ辛い気持ちもあるのだと。けれどそんな事で一喜一憂できるくらいにはここまで頑張ってきたのだと。

 そうして自分を励まして、伸びていく体の感覚に瞼を閉じる。


「それ、眠いわよね。いいわよ、逃げないから。逃げられない、が正しいかしら?」

「…………どうして?」

「そうね。貴方が悪者に見えないから、かしらね」


 ナノマシンの体内活動が始まった副作用に意識が拡散して体が重くなっていく。いわゆる睡魔。自然治癒力を高めるための生理的反応。もちろんナノマシン内にも微量ではあるが睡眠導入剤の役割を持つものも含有されている。

 その所為で段々と思考のギアが減速していく。

 たしかに彼女の言う通りに、ここからは出られないだろう。出入りにはこの体の生体認証が必要だ。加えてあいつらがここへ入って来られないように異能力に由来するロックも掛けている。

 それでも彼女を信用するのかと少しだけ残った疑いの心が問い掛けて。逡巡にもならなかった疑念はやがて霧散する。

 知っているのだ、彼女を。だからきっと、その言葉に嘘はない。

 胸の内を埋め尽くす安心感は、彼女の声音が優しく響くからだろうか。まるで子供をあやし寝かしつけるように。纏った雰囲気は慈母のように柔らかく辺りの空気まで包み込んでくれる。


「だって、貴方は────」


 由緒が何事かを紡いで。けれどその先を聞き届けるより先に意識が眠りの淵へと落ちていく。

 声と一緒に、頭を撫でられた気がしたのは気のせいだっただろうか……。




              *   *   *




 静かに寝息を立て始める少年の頭を優しく撫でて小さく笑う。

 私は、彼を知っている。この記憶が間違いでないのなら、彼はあの時の少年だ。

 ずっと考えていた。彼があの時何をしに来たのか。一緒に何かを背負い込んで隠していた幼馴染の彼は終ぞ教えてくれなくて一人疎外感を味わったものだけれども。

 あの時の疑念が巡り巡ってようやく目の前にやって来た。

 だから少し、嬉しくもあった。

 彼についてはよく知らないけれど。それでも彼が何か大儀のために私達を振り回した事は薄々気付いていた。

 その行き着く先に誰がいるのかなんて無粋な勘繰りかもしれない。けれど彼の行いが必要なことなのだと言う確信はあって、ならば彼について行けばあの頃の疑問が何か分かるかもしれないと。

 あの時背後から近づいてきて私を攫った彼。抵抗しようと思えばその場で投げ飛ばすことも出来たのに。


 ────由緒さん、何も言わずに着いて来て


 耳元で囁かれたあの言葉に隠しきれない真っ直ぐな音を聞いて、私はされるがままに誘拐されてここまでやって来た。

 この先彼が私を導いて何処に連れて行ってくれるのかは定かではないけれど。少なくとも巻き込んでくれた以上私に関係のあることだろうから、今は黙って彼のために全てを分かった大人の振りをしていよう。

 私なんて、あの頃からちっとも変わってはいないのに。変わった周りに流されて自分の名前にも幸福と重責を感じながら、年を重ねただけ。

 そんな有り触れた価値観がすべてが狂ったのは異能力のお陰か。この身に宿った異能力を見つめるように自分の手のひらへと視線を落とす。

 『時間遡行(Re:タイム)』。異能力を発現したあの時から、私はきっと何も進んでいない。あのときから普通の人とはずれた場所で生きている。

 そんな私が何処に死に場所を求めるかなんて随分と遠いことのようにも感じるけれど。

 唯一つ叶うのならば彼の隣であればと切に願う。

 彼が導いてくれた道。手を引いて一緒に歩んでくれた過去と、これからまだ少しある筈の未来。

 こんな異能力があっても未来に起こる事を何一つ知らないのは、知ってしまう事を恐れているからか。だと言うのならばとても人間らしくて相応しいことだ。

 結局一人ではなにも出来なくて、いつも周りに何かを委ねて甘えてばかりだったと自分の事を思い返せば、寝ている彼に感化されたか私まで眠気が襲ってくる。

 柄にもなく走ったから疲れたのだろう。そういう事にしておこう。

 金色の少し硬い髪を撫で付けて。それから椅子へと体を預ける。少し遅れて形状が少しだけ変化して、体を包み込むように膨らむと椅子自体が段々と暖かくなっていく。

 思った通り。どうやらこれは少し前に流行った、座った者に合わせて形を変えてくれる椅子らしい。何と言う名前だったか……確か、椅座(いざ)式寝台。ベッド代わりにもなるという便利な椅子だ。

 ふと思い立って辺りを見回してみる。目に付くのは一世代前のものばかり。彼の年で新しい物が一つもないとなると、余程の骨董好きか、それとも……。

 少しだけ勘繰って、けれどその先はやめる。

 考えたところで結局は私には関係のないこと。無粋に踏み入って荒らされたくないだろう。自分がされて嫌な事をしようとは思わない。

 何より、心地いい。物こそ少ないが、落ち着いていて、最新式ではないからこそ年寄りの身からすればよく使ったものばかり。馴染みがあるからこそ安心できる。

 こんな場所で安心するなんておかしな話なのだろうが……。

 しかしまぁ、焦ったって仕方がない。今は彼に攫われている身だ。彼の目が覚めるまでは、私も静かに囚われているとしよう。

 何より、出られないし。




              *   *   *




 あれからしばらく歩き回りながら探しては見たが、流石に情報無しでは無駄足。見た目を頼りに幾つか聞き込みをしてみたが、近場には目撃情報がなかった。

 幾ら楽と言えどその後由緒を暗示に掛けて他の時間へ行った可能性は低いだろう。

 まず由緒には『催眠暗示』が効かない。正確には、要のいた時代で既に『催眠暗示』を掛けているから、これ以上『催眠暗示』にはかからない。

 それに、ここまで来て疑う事はしない結末として……歴史が一つでこの未来が現に存在しているのならば、やはり楽の行いでは歴史は歪んでいない。ならばきっとすべては歴史によって肯定された起こるはずの事で、この時代から考えれば遠い昔に既に解決したはずの騒動だ。

 楽の事だから全ての始末は付けていくはず。『催眠暗示』だって掛けたものは全て解いてからその後の処分を受けているはずだ。

 ならばこの時代にいる由緒は『催眠暗示』は解除されて、後催眠暗示にも掛かり辛い至って普通の彼女だ。流石に『催眠暗示』なしでそう簡単に後催眠暗示は掛けられないはず。もしできるのであればこれまでのどこかで使用してもっと単純に歴史が動いていたに違いない。

 以上から、ここにいる由緒は操られてはいない。彼女が要の知る由緒ならば、進んで悪事に加担するとも思えない。

 だったらやはり楽はまだこの時代のどこかにいるはずだと……。

 考えつつ、少し前に未来が買ってくれた飲み物を、緑溢れる公園の四阿(あずまや)にて(あお)る。

 彼女は今『Para Dogs』本部にいる透目と連絡を取っている。

 緊急の要件こそ要の耳に着けている通信機に話が来る事になっているが、調査の進捗などの情報は当たり前だが未来を介す。要は言ってしまえば部外者で、彼女達を騙しているに過ぎない。

 それに気付いているのかいないのか、しかし無粋なことまでは聞かずに協力をしてくれている未来たち。

 特に未来には、過去でも未来でも世話になってばかりだ。

 彼女のお陰で非日常に浸り、彼女のお陰でこんな場所にまでやって来た。これから楽を追い駆けて、彼を捕まえて……そうしたら要は何処へ行くのだろう。彼の思惑を手伝って、その後は──

 漠然とした寂寥感に胸の内を揺らしていると連絡を取り終えた未来が戻ってくる。


「どうだった?」

「だめ……今は位置を補足出来ないって。多分探査を困難する建物にいるか、妨害する道具を使ってるんだろうって」


 そんなものがあるのかと。思いつつ、けれど聞く事は出来ない。

 なぜなら要は未来達にとって未知の人物だからだ。『Para Dogs』の証である『捕縛杖』を見せて彼女達に取り入った。けれど当然この時代に要の『Para Dogs』としての立場なんてない。そんなのは調べれば分かること。きっと既に照会済みだろう。

 その上で要が『Para Dogs』足りえるのは……この時代よりさらに未来の『Para Dogs』の所属員である場合だけ。未来のことならば過去のデータベースには乗らない。歴史を監視する目的で設立された『Para Dogs』だ。未来の自分達に問い合わせるなんて事もしないだろう。

 だからこそこの協力関係を築き続けるためには、要はこの時代を知っている振りをし続けなくてはならない。例え要のその演技がばれているのだとしても、今ここにいるのだと言う虚勢と共に現実へ縋りつくために、何よりも要にとって必要な仮面なのだ。

 それに少しだけ冷静に考えれば分かること。

 透目は今、『Para Dogs』である事を利用して由緒を追い駆けている。きっと万ではくだらない数の人がいる中で特定の人物を探す……そんな事ができるのはやはりGPSのような技術があるからだろう。

 未来で発達したその技術と、先ほどの未来の言葉を重ねて類推する。

 妨害。つまりは電波のような何かを飛ばして位置を特定するのだろう。

 基本的に技術革新と言うものは軍事目的か医療目的である事が多い。それは人が生きるために必要なことだ。特に位置探査などの技術は軍事方面だろう。ならば使う側だけでなく使われる場合も想定して対抗策……ECM(電子対抗手段)のようなジャミング技術も存在する筈だ。

 その気になれば少し知識のある者が自作する事だって出来る代物だ。盗聴盗撮の防犯目的として家や個人でそういう類のものを常備もしていることだろう。

 そういう機器の配備された場所か、もしくは携帯型の妨害機器で探査を振り切っているということだろう。


「ただ、今過去の履歴を遡って途切れる前の位置情報を探してるって言ってたから、もう少ししたら進展はあると思う」

「そっか。……ならそれまで待機だな。無駄に動くと無駄な体力を使う。いざって時のために休息も必要だ」

「そうだね……」


 方便を並べて怠惰を振り翳せば未来も了承して隣に腰を下ろす。

 更に一口。飲み物を喉の奥に流し込んで更なる思考の渦へ落ちる。

 由緒を連れ去った楽は現状どこかへ隠れている。けれどそれは彼の思惑からすれば不合理で、仕方の無いことなのだろう。

 彼が巻き込みたいのは要だけ。だったら由緒なんて誘拐しなくても、この時代にきた要と落ち合って話を着ければいいだけだ。

 しかしそうはしなかった。由緒の誘拐が歴史再現の一部だと言うならそれもそうだろう。けれどそれ以上に、楽はまだ何かを隠している。まるでそれを追い駆けて来いとでも言う風に由緒を誘拐して見せたのだ。

 それが原因で未来や透目に追われるリスクも込みで。

 だったら彼の思惑に乗らなければ。再現するに足る理由……彼の目的のその詳細な部分まで。想像でいいから推理しろ。

 ……こちらの探査を分かった上で妨害しているのだ。ならば妨害することにも意味があるはず。

 妨害は時間稼ぎ。彼がこの時代で何かをするために時間が必要なのだろう。

 それからもう一つ発展して考えれば、未来や透目たちをこれ以上巻き込みたくないと言うのもあるのかもしれない。

 由緒を誘拐しておいて今更ではあるが、不慮の遭遇で彼女達の記憶に残るくらいなら最初から目の届く範囲において、その上で由緒に視線を向けさせ未来達の目から逃れる。

 そのためにはもちろん要が彼を追いかける事が必須。そこに彼女達を巻き込まない事が必要なことだ。

 だとすれば最後に彼を追い詰めるべき役割は要のもの。捜索までは手伝ってもらっても決めるべきところは全て要が背負わなければ。

 ここまで来て推理は疑わない。要の想像は全て楽に筒抜けだ。だからこそ彼も要が想像した通りに動いてくれるはず。

 ……だったらやっぱり由緒を巻き込んで欲しくは無かったけれども。


「ごめんな、こっちの事に巻き込んで」

「……いえ。感謝ってわけではないけれど、少し安心もしてるから」


 隣の未来に向けて言葉を零す。あの時楽の邪魔が入らなければ、彼女達は今頃護衛対象たる過去の要の元へと辿り着いていたはずだ。彼女達の予定を狂わせてしまった。それに対して謝っていなかったと今更ながらに音にすれば、彼女は言葉通りに棘のない声で小さく笑う。

 その場違いな気のする返答に思わず聞き返す。


「安心?」

「……仕事のことだからあんまり詳しくは言えないけれど、今回の事件は正直怖い部分があったの」

「…………愚痴くらいなら聞くけど」

「そうだね……。暇だし少し付き合ってもらおうかなっ」


 言って未来は青空を仰いだまま紡ぎ出す。


「……今回の事件……時空間事件なんだけど、実を言うとその護衛対象のこと、情報以上に知ってるんだよね」

「それはどういう……」

「言葉通りだよ。護衛対象として事務的な情報は貰ってる。どの時代に居て、どんな名前で、どんな家族構成で……。個人情報は仕事だと割り切ってるけれど、それでも今回は特殊なの。だって知ってるから。そんな書類上の無味乾燥な文字より、確かな記憶として」


 それは、彼女の記憶に要との思い出があるという話だろうか。

 ここへ来る前に未来は語った。これは彼女にとっての邂逅で、要にとっての再会だと。だから未来からしてみれば初めて会うはずで、ここでこうして時間を共にするから、次に妹として現れた彼女は要の事を知っている未来として再会を果たすのだと。

 けれど今の彼女の物言いだと、ここで要に会うことより更に過去に要に出会っていると聞こえる。そんな事、想像していなかったが……。

 いや、今になって考えれば可能性はあるのか。

 由緒が生きているのだ。ならばお爺ちゃんになった要もどこかに居るかもしれないし、その彼と彼女がどこかで出会っているのかもしれない。


「だから、そんな知ってる人の過去に会いにいく……。どんな顔をしていいか分からなくて、緊張してたの。そんな時にこんな事が起こって、その人に会いに行くその時が少しだけ遠のいて、安心した自分が居たんだよね」

「……未来は、その人の事どう思ってるの?」

「好きだよ? 大好き。けどだからこそ、知らない過去に会いに行くから緊張する。あたしの知っているその人と、これからで会うその人が全然違ったらどうしようかって」


 それは確かにその通りだろう。何かの機会に仲良くなった友人と離れ離れになって数年後、久しぶりに会って見違えるように変わっていたらと思うと少し怖く思う。

 それをただの価値観の押し付けだと言ってしまえばそうなのだろうが、他人に抱く印象なんて最初のそれを引きずる事が往々にして存在する。主観によっては裏切られた、なんて思う事だってあるかもしれない。

 けれどそうして期待をし、不安に駆られてしまうのはその人の事が自分の中で大きな存在だからだろう。それにさえ気付けば気の持ちようだとも他人事に笑えるのだが。


「例え違ったとして、未来が知ってるその人の事を嫌いになる?」

「それはないよっ」

「だったら悩むだけ無駄じゃないかな? それでも気になるなら他人だって割り切るとか」


 果断な否定に言葉を返せば、それから彼女は小さく笑った。

 そんな未来を見て、要も少しだけ安堵する。

 彼女に語った要の価値観は、今要が未来に対して感じているものと同じだ。

 要の知る未来と、要の元へと来る前の未来。そこに時間的な差異は殆どないはずだから彼女の本質は変わらないのだろうけれども。だからこそこれまで要が見てきた未来が演技なのではないかと少し疑っていた節があって。

 もちろんそれを口にするほど野暮ではないけれど。人を信じ切れないと言う意味では未来以上に捻れた気概を持つだろう要だ。その不安は(もっと)もであると言い訳をして。

 けれどそんな懸念はこれまでのやり取りで消え去った。未来は未来だ。要の知る彼女の本質は何も違わない。


「割り切れないから悩んでるのに……」

「だったら例え想像と違ったとしてもどちらもその人の一部なんだと自分を騙して納得するまでだな。他人を変えるより主観を偽る方が幾らか簡単だろ?」

「平気な顔で酷い事を言うね」


 呆れられた。しかし残念かな、要にはこれ以外の解決法が分からない。

 半眼で見つめてきた未来に視線を返せば、それから彼女は溜め息を吐いて自分の手のひらを見つめた。


「……分かった、そうする事にするよ。別に納得できないわけではないし」


 諦めのように零れた言葉。それはつまり要の性格はいつまでもこのままと言うことだろうか。だと言うなら自分というものを知っていて誇れる限りだ。

 と、未来の中の自分を意味もなく想像しながら胸の奥に肯定された自分を感じていると、不意に視界が紅に染め上がる。

 その景色が一瞬夕焼けに見えて、それから次に未来の髪の色を想起して。けれどそのどちらもが違うと気付いたのは隣で立ち上がった未来と、遅れて肌を振るわせた空気の震える音。

 呆気に取られた頭がぼぅっとその景色を見つめて、それから天に向かって昇っていく黒煙を見た時にようやく気付く。

 爆発、火災…………? 何だ、何が起こっている?

 想像外の事態に息を飲むのと同時、隣の未来が叫ぶように声を上げる。


「お父さんっ、爆発と火災! 現場に行くから応援回してっ! 場所は────」


 その逼迫した声にようやく我に帰った要も立ち上がって知らず胸の内を焦燥で埋め尽くす。

 しばらくして連絡を取り終えたらしい未来がこちらに向き直って告げてくる。


「近場にあたししかいないみたいなの、だから────」

「それじゃあ行くか」

「え…………?」

「……そういう話だろ? 確かに由緒さんの事は心配だけど、それだって次の連絡を待たないと動けない。だったらまずは目の前の問題を片付けるのが先決だ」


 覚悟なら今決めた。それにきっと、目の前で騒動が起きたなら、それを解決する事も要の歴史再現のうちだ。

 何より未来が関わろうとしている。理由ならそれだけで十分だ。


「……いいの?」

「問答してる暇があるか?」


 言って足を出せば、少しの間こちらを見つめていた彼女が追いついてきて小さく零す。


「ありがとう……」

「そういうのは全部終わってからでいいだろ」

「ん、そうだね」


 過去に未来に言われた言葉をそのまま返せば、彼女は静かに首肯する。

 それでいい。これでいい。未来との間に遠慮なんて今更必要ない。

 あるのはただの、信頼だけだ。

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