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パラドックス・プレゼント  作者: 芝森 蛍
六根清浄の夢の思い出
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未来へ

 ずっと、夢だと思いたかった。

 経験のない景色を見せられて、それが残酷で悪役染みて、許されなくて。

 そんな夢が、嘘であってほしいと思っていた。

 けれど、彼から──大好きなよー君から聞いてしまったその真実に、今ではよかったと安堵すらしている自分におかしくなる。

 彼ならいいなんて、すべてが許されるわけではない。よー君がした事は、例え言いなりだったとしても悪い事だ。それは覆らない。

 しかし、顔の知らない誰かではなくて、私が信じた幼馴染で。それに時折流れ込んできていた押し殺すような感情が、彼の本心なのだと知れば愛おしくも感じる。

 彼のして来た悪行……《傷持ち》と言うレッテルの業に、利用されたとは言え加担した私。私だって、許されるべきではない。

 けれどそれが絶対に悪いなんて、私には思えない。

 よー君の気持ちは、時々流れてきた。それと同じように、もう一つ感じた事もあったのだ。

 曖昧で、不確かな、判別のつかないものだけれども……多分それは、あの人の心。

 よー君は……みくちゃんも、何かを隠そうとしているのは分かってた。だって長くを一緒に過ごして、その上ずっと恋焦がれ続けた幼馴染の事だ。隠し事なんて、出来るはずもない。みくちゃんも、きっと何処までも正直で素直な人だから、嘘を吐くのが心苦しいのだろう。真実を言えないときの顔をよくしていた。

 だから、その隠し事はきっと私を傷つけないためのものなんだろうって、どっかで気付いてた。気付いてて、そのやさしさに甘えながら、一人胸の中で考えてた。

 まだここに残る、もう一つの心。私を利用したその人から流れ込んできた────純粋な後悔。

 あの人は、どうしてそんな事を思うのだろう?

 みんなを振り回して、迷惑を掛けた。きっと私はその半分も知らないのだろうけれども、それでもきっと沢山の悪い事をしたんだと思う。

 その度に、あの人は自分を騙して、ずっと謝っていたのだ。

 迷惑を掛けてごめんって。こうするしかないんだって、必死に自分に言い聞かせて……。

 その気持ちを、私は悪い事だとは思わない。それどころか、きっと誰よりも優しくて愛に溢れた温かいものだとさえ感じる。

 そんなあの人が、こんな事をした理由。まだまだ形のない不安定なものだけど、それが悪い事ではないと気付いて。

 あの人の──彼の、本当の気持ち……。

 考えるのは苦手だけど、それでも沢山考えて、どうにか見つけたたった一つの可能性。

 違うのかな……違うかもしれない。けれどもし、私の思ってる通りの──『パラドックス・プレゼント』なのだとしたら。

 矛盾と逆接の上の現実的な贈り物。

 よー君は、気付いたのかな。だからあんなに迷いのない顔で居られるのかな。

 だったらいいな。大好きな彼が、きっととても優しい贈り物をしようとしている彼に手を貸す……。そんな誰もが救われるようなハッピーエンドにも似た何かを幻視して、小さく微笑む。

 と、そこまで考え事をしていて切り離していた外の音が、納得と共に戻ってきて。時折体を反転させるような忙しない寝返りに少しだけイラっとして呟く。


「よー君うるさい……。眠れないよ……」

「…………ごめん」


 上の空で言葉だけな謝罪に小さく諦めて、それから今のうちにと瞼を閉じる。

 今度は、楽しい夢が見られるだろうか…………?

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