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パラドックス・プレゼント  作者: 芝森 蛍
五里霧中の記憶の先に
29/70

未来より

 幾つもの景色が脳裏を過ぎる。

 それはこれまでに経験してきた記憶。

 由緒(ゆお)が攫われ、廃ビルで戦い、雅人(まさと)の事故を再現し、由緒を危険から救い、《傷持ち》との交錯の末に黒幕──観音楽(かんのんらく)に迫って…………。

 曖昧にして鮮明な過去の思い出が繰り返し頭の中を巡る。

 その内見慣れた景色へと変わって、どこか他人事のように紡がれていく。

 それは想像でしかないはずだ。由緒が攫われる場面は見ていない。けれど(あたか)もそこに居たかのように実感を伴って思い出したり。廃ビルで戦う際には、何故か黒尽くめではない自分が襲い掛かって来て。向けた銃口から放たれた凶弾が未来(みく)へと走って。どこかずれた視点のマジックショーの景色に、目の前には冬子(とうこ)の後姿があって。次いで変わった景色の中で、自分の感覚が曖昧になるほど乱れた戦いを幾度も繰り返すような感覚。

 やがて訪れるのは平穏にして異質な光景。

 耳元で聞こえる楽の声と、目の前に倒れる楽の姿と……。

 知っているはずの景色とは何かが違う知らない景色が幾度も記憶に刻み込まれていく感覚。

 自分の意思とは無関係に物語が紡がれていく違和感にようやく自分自身を見つける。

 そうだ、俺は、遠野(とおの)(かなめ)として時空間事件を解決するために、……それで…………。

 ようやく追いついた最後の景色には、《傷持ち》と嗤う楽の顔があった。

 そうして何があったのかをぼんやりと知る記憶が、段々と確かな実感を伴って覚醒していく。

 それはまるで目が覚めるように。けれど覚め切らない宙に浮いた感覚のまま、気だるげなままに紡がれる。

 僅かに開いた視界、霞んだ景色の中そうして見つける現実に、納得と共に小さく呼吸をする。

 そうだ、俺は、失敗したんだ。

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