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パラドックス・プレゼント  作者: 芝森 蛍
四面楚歌の循環解明
22/70

未来より

 俺はお前を知っている。

 何度同じ言葉を繰り返してきただろうか。この言葉にどれ程の意味があるだろうか。

 この身は一つしかない。世界に一人しかいない。

 彼だって同じだ。だから本来ならばありえない。

 誰かが誰かの全てを知っているなんてありえない。

 ありえない、からこそ、意味を持つ。

 その通りになる歴史に苛立ちさえ募らせる。

 過去干渉。その通りにしか流れない歴史への干渉。

 与えられた名前は《傷持ち》。右手首の甲の側に走ったその切り傷が由来の、識別記号。

 誰でもなく、《傷持ち》だ。

 この傷を付けた人物に、少しだけ同情する。

 彼は被害者だ。そしてこの身も、被害者だ。

 ならば本当の加害者は何処にいるのだろうと考えて、けれど曖昧な動機に尻尾を追いかける。

 何がしたいのだろうと。何が目的なのだろうと。

 《傷持ち》として振るってきたこの力は、一体何を刻んだのだろうと。

 何の意味があるのだろうと。

 世界に肯定され、否定される言動は、けれどもう止められない。

 《傷持ち》と言う名前を……その概念にも似た役割を与えられたときから、全ての行動に意味なんて感じなくなった。

 この身は《傷持ち》。それ以上でも以下でもない。

 過去の遠野(とおの)(かなめ)を襲い、未来の遠野要のために戦う。その間を繋ぐ、識別記号。

 今この身は、誰でもなく、《傷持ち》だ。

 だからこそ意味を見出す。《傷持ち》としての言動が必要なのだと自分を騙す。

 本当の理由など分からなくとも。この身が世界に肯定され、歴史に承認されるのならば、演じよう。

 《傷持ち》としての本分を。《傷持ち》としての了見を。《傷持ち》としての意味を。

 この存在に、それ以上の意味などない。

 だからこそ、何度でも繰り返そう。

 その至るべき時が来るまで紡ぎ続けよう。

 そこにこそ自分を見失わないように必死に縋りながら、手を伸ばして、音にしよう。

 俺はお前を知っている、と。

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