未来より
俺はお前を知っている。
何度同じ言葉を繰り返してきただろうか。この言葉にどれ程の意味があるだろうか。
この身は一つしかない。世界に一人しかいない。
彼だって同じだ。だから本来ならばありえない。
誰かが誰かの全てを知っているなんてありえない。
ありえない、からこそ、意味を持つ。
その通りになる歴史に苛立ちさえ募らせる。
過去干渉。その通りにしか流れない歴史への干渉。
与えられた名前は《傷持ち》。右手首の甲の側に走ったその切り傷が由来の、識別記号。
誰でもなく、《傷持ち》だ。
この傷を付けた人物に、少しだけ同情する。
彼は被害者だ。そしてこの身も、被害者だ。
ならば本当の加害者は何処にいるのだろうと考えて、けれど曖昧な動機に尻尾を追いかける。
何がしたいのだろうと。何が目的なのだろうと。
《傷持ち》として振るってきたこの力は、一体何を刻んだのだろうと。
何の意味があるのだろうと。
世界に肯定され、否定される言動は、けれどもう止められない。
《傷持ち》と言う名前を……その概念にも似た役割を与えられたときから、全ての行動に意味なんて感じなくなった。
この身は《傷持ち》。それ以上でも以下でもない。
過去の遠野要を襲い、未来の遠野要のために戦う。その間を繋ぐ、識別記号。
今この身は、誰でもなく、《傷持ち》だ。
だからこそ意味を見出す。《傷持ち》としての言動が必要なのだと自分を騙す。
本当の理由など分からなくとも。この身が世界に肯定され、歴史に承認されるのならば、演じよう。
《傷持ち》としての本分を。《傷持ち》としての了見を。《傷持ち》としての意味を。
この存在に、それ以上の意味などない。
だからこそ、何度でも繰り返そう。
その至るべき時が来るまで紡ぎ続けよう。
そこにこそ自分を見失わないように必死に縋りながら、手を伸ばして、音にしよう。
俺はお前を知っている、と。