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Z E R O g a t e 〜白き髪の 色無き追憶〜  作者: シン風
立つ鳥、羽ばたく
8/27

校長室

 陽が落ち、空には闇が覆い、次第に静黙(せいもく)を増幅させる。

 外には、月や星と言った夜の世界を彩る輝きが点々と姿を現し始める。

 ここは浮ぶクエアランスの島。

 故にか、その景色は地上で見るものとは違った、幻想的な壮観であり、地上では見られないものまでそこにはある。

 わ

 やはりここから見るのは少し勿体無い気持ちがする。目で見ているのは、その一握(いちあく)、窓越しの世界。故に空の全体が見れないのは、少し心を痛める。


 ここは室内である。上、左右、下は天井、壁、床と言った建物ならではの空間が、外との区別を付けている。巨額の金が流れて出来たのであろうか。窓は規則的に並んでおり、広縁(ひろぶち)で豪勢な作りとなっていて、床には弾力のある絨毯(じゅうたん)が広々と快適を運んでいる。


 そんな中を勒露(ろくろ)率いる4人ーー天翔 暁、冬天奏 凛、不知火 美羽は、目的地へと向かうため、足を歩ませていた。

 ここへ来る途中では、目を躍らせる程の叙景が広袤(こうぼく)の幅を()かせ、双眸はひっきりなしに賞翫(しょうがん)する。

 夜桜の道。奇抜なデザインの建物、などなど。

 どれを取っても素晴らしい、まるで絵本から来たかのような景観が、そこには作られていた。


 また、先程用いたハイテクである、最先端の科学技術を応用した『ワープ・テレポーテーション・ディバイス』も同じく、斬新なもので心を躍動させた。


『ワープ』と聞けば、知られる要因となった、日本ではアニメの『宇宙戦艦ヤマト』、海外ではSFドラマの『スタートレック』を思い浮かべる事だろう。


 ーー しかし。


 この『ワープ・テレポーテーション・ディバイス』ーー通称、WTDi(ダブリューティディ)


 は、そのような原理で瞬間移動を可能にしてはいない。

『フォトン・コア』と呼ばれる、人類が使う事の出来る光の玉を用いる事で、人のそのような移動を可能にしたのだ。決してアルクビエレ・ドライブのような空間に作用してするのではなく、人を光の粒子にして飛ばすのである。


 暫くして、先頭を歩く勒露は首を回し、横目で見て、言った。

「なぁ、不知火や。こんなとこ来たのいつぶりやろな。」


 不知火は(あき)れた顔をする。


「いつぶりって………凛様を迎えに来る前に、ここに来たじゃないですか。」

「あ……あ………そや……な。そや、そや。あかんな、()はどうやら年取ると、頭の根っこまで衰えるらしいな。あはははははははは。」


 勒露はそうは言うものの、顔にかかる化粧ののりからして、体は、本心はそうは言ってないように感じる。高らかに鳴り響く笑い声とは違い、辺りは冷たい空気が漂う。


「貴方のそれは、ここに入学した時も言ってたじゃありませんか。」


 勒露のその台詞(セリフ)は、いつも言っている定型文だ。自分の落ち度を年のせいにする。これは幼い頃からだそうだ。


「おっ。見てみ、見てみ。」


 右奥に見えるは大きな扉。

 暗闇に紛れて、深海を思わせるような暗い影にその形を出す。


「ここや。ここ。」

「これが我々が案内を任されました終着点でございます、凛様。」


 今までの会話の流れと打って変わり、勒露は暁と凛を、不知火は凛を見る。


「……………ここが、到着場所ですか……」


 長く歩いた道のりもここで終わりのようだ。しかし距離的には長くとも、体内で感じる時間的には一瞬だった。

 何せ快くここまで足を進めたのだ。また寧ろまだまだ歩いていたい気持ちさえ、中にはある。


 ため息をつく。


 そして気持ちを整理し、一転し、扉の前に行く。


 ピポン……


 前に来るや、水が厳清された中、滴り落ちるが如くの音が扉から鳴り、暗い廊下を走り渡る。

 暫く立たない内に扉が開く。


「………っ!!」


 咄嗟(とっさ)の光に、大きく開いた黒い瞳は、収縮する。

 痛い。そう感じる。

 そのため、手を目の前に置き、光の行く手を遮る。


 するとそこから、別人の声が聞えて来る。


「勒露はん。あんたちゃんと連れてきたんやか。」


 清潔を感じさせる声。流れるように、口から空気に浸透する。

 そして白と黄に透ける和服は、まるで天使を思わせる。そして溢れるばかりの暖かな橙色の光は、ここが楽園ーー天国を表すかのようだ。


 すると前にいた勒露はその後に、言った。


「はれ欄、そんなに心配せんと、ちゃんと連れて来たわ。」


 欄は横目で、今度は不知火を一瞥。


「何なく、ちゃんと案内出来ていましたよ、欄。」


 どうやら欄が送った視線は、勒露の案内の内容を聞いていたようだ。


 欄はそれを確認すると、表情の乏しい笑顔のまま、こちらを向く。

 欄は目が合うと、口を開き……


「おいでやす。」


 一礼する。


「ご足労、ほまに申し訳へんと思うておるんや。そん事については堪忍つかーさい。」


 こちらも個性の強い、独特の会話で、人柄も見た目上、礼儀作法の宜しい人だと、伺える。着物に身を包み、きちんとたった背筋は尊敬に値する。


「はれ、暁や、凛や。紹介するで。」


 手をそっと指し、紹介に移る。


「この人は、(ななひかり) (らん)。 欄 言うて、ここ、クエアランス学園の教頭に就任しとるやっちゃ。」

「もうかってまっか。よろしゅうお願い申し上げます。」

「は………はぁ………」

 その場の空気に飲まれ、真面に言葉すらない。


「お初に掛かります、欄教頭。それより私達にご用のある方にお目通り頂きたいのですが。」


 その言葉を聞くや欄は、暁の方を向き、言った。


「暁はんんしゃべる通りやな。」


 そう言うと、白いツヤの大理石で出来た床に足をつかして音を立て、こちらに背中を見せる。


「こちらどす。ついて来てつかーさい。」


 案内に従い、奥にある部屋へと移動した。


 ◆◇__/\◆◇


 長い本室へと向かう。その長々とした廊下の中、凛は口を開き、質問をした。


「ここって一体何処なんですか。」


 素朴な質問。__ここは何処なのか。

 一向に何も知らされていない凛にとって、その答えは喉が渇いた人が水を欲しがるのと同様であった。


 欄はすぐさま、言った。

「うちは、校長室 言います。」

「えっ!!ここって校長室なんですか。」

「へーどす。ここ全体、校長室どすねんよ。」


 ここは校長室の中。どうやら足を進めた先にいるのは、状況から見て、校長先生と言ったところか。


(私って、とんでもない事になっているのね。)


 周りはどんどん奥に行くに従って景色を変え、辺りは黒と青のコントラスト。深海をイメージさせる場所になった。歩いているこちらは魚にでもなった気分だ。


 そんな中を歩き、凛達は校長室へと向かった。



 ◆◇______


 ここは変わって校長室の中。


「貴方が凛さんね。お会いしたかったわ。」


 ここにいた叔母さんが凛に向かって、言った。


 外見はおばちゃんと言ったところで、格好からも家政婦さんかと思った。そんな人が校長先生だと聞いた時は驚いた。


 彼女の名前は 月染(つきそめ) (あかり)

 クエアランス学園の最高責任者だ。


「貴方達をお呼びしたのは紛れも無い私よ。」


 月染は椅子に座っており、頬杖(ほおづえ)をつきながら、今度は凛を見る。何だろうか。焼けにこちらを見ている。


「凛さん、貴方を呼んだ理由は薬を投与するためよ。」

「…………!?」


 凛は月染が言った事に困惑する。


 薬……


 自分にはこれと言って思い当たる病気は無い。校長から呼ばれるような病気なら尚更だ。そんな大事ならば、知らない筈が無い。思い当たらない訳が無い。


 だが____


 自分にはこれと言った、思い当たる節は無い。その前に、病気になった事はないので、そもそもこの事自体、おかしな話である。


 ____では、病気ではないとして一体これはどういうことなのだろうか。


 凛は月染の近くへ寄る。月染の手には赤い注射があり、彼女はそれを打つとしている。何とも痛々しい赤色だ。


「あの…………」

「どうしたの………まさか薬が怖い?」

「いえ、そういう事ではないのですが。」


 月染は凛のもの言いたそうな顔から彼女の気持ちを察する。


「ああ……………この薬の事ね。」

「………はい。」


 凛はこの薬が何か気になってしょうがない。


「この薬は大した事ではないわ。これはここに来た時に、どうしてもこの環境に体が適応出来なくなって、異常を来す人がいて、それの人の為や、それにならないようにする為のものなの。つまり予防注射と思って頂けるといいわね。」

「やはり、ここにはそういった方はいらっしゃるのですか。」

「最初の時………わね。でも、それからこの薬が発明されて以来、そういったケースはゼロになったわ……」


 狙いを定めて、月染は真剣な顔で注射を打つ。打ち終え皮膚は赤い血を出す。それを指圧して呪文をかける。


 呪文をかけ終えた凛は、月染に礼を言って立つ。怪我の部分を大事に抑えながら。


 月染は皆の元へ向かう凛をとどめて、言った。


「凛さん、少しいいかしら。」

「………なんでしょうか。」

「貴方のその刀なんだけど…………」

「零影がどうかしましたか。」


 月染は何やら怪しい雰囲気を出しながら、下を向く。


「その刀の………いえ、何もないわ。気にしないで頂戴(ちょうだい)


 その言葉の意味は分からない。彼女は何かを、伝えようとしているのは分かるが。

 潤みを帯び、奥でモヤモヤと光る瞳には何かありそうだ。しかしこの時の凛には、到底気づきもしないことだった。



 ◇◆_____


 その後………


 凛は自分の部屋がある貼付(ちょうふ)寮へ、また他の人達も自分の部屋へと帰って行った。


「………コソコソ隠れて無いで、彼女に声かけるくらいしたらどうなの。」


 月染は校長室の暗い窓辺の影に向かって、言う。

 外は月が満月で、白々と光が差し込む。窓の世界は絵の世界になっている。綺麗な景色である。


「……今はその時じゃない。」

「…はぁ……あんた、そうやっていっつも……」


 それを聞くと、その影に隠れていた男は窓を見るため、反転する。


 ガチャン、ガチャガチャ


 腰元にあった両銃は音を立てる。


「それが俺だ。そしてこれからもそうだ。」

「そう………影で見守る事がねぇ………」

「ああ、それが俺だ。何せ俺はもう失いたくないからな。あの時のように………………」


 その男は、少し昔を思い出す。そしてそのあと、別人のように顔を引き詰める。


「だから俺に、こうして影からあいつをあの人を守りたいんだ。二度とあんな事をしない為にも……」

「だったら近くで守る方がいいじゃない。」

「近くには奴がいる、奴こそ適任なんだ。奴は近くを………俺は遠くを………それが俺たちだから。」

「あんたらしいやり方ね。」

「あの死に損ないにも宜しく言っとけ、頼んだぞ。」


 そう言い捨て、その男は闇へと消えて言った。

あ〜。

やっとここまで来ました。


疲れますね。(ーー;)


次回は、怪しげな影


__インビジブル◇◆ストーリーにに入ります。


生徒会長との出会いや木霊さん、謎の両銃の男などなど、見所沢山の章になると思います。


これからもよろしくお願いします。


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