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Z E R O g a t e 〜白き髪の 色無き追憶〜  作者: シン風
立つ鳥、羽ばたく
6/27

クラス編成試験〜凛〜(下)

 その先が全て鋭く尖ったナイフのような攻撃。


 その氷は透明な部分と白くなった部分が入り混じり、透明の部分は太陽の光を反射させて輝いている。


 そして加速しながら迫ってくる。




 ☆★☆★☆★アイス ブリザード☆★☆★☆★☆


 これは氷と風の精霊の加護の魔法「アイス ブリザード」である。


「アイス ブリザード」は、とても使うのに難しく、二つの魔法のコンビネーションの組み合わさりが必要であり、また氷を作るのに時間がかかるため、位置の計算など頭を使わなければ当たらない。

 しかし当たれば非常に致命的ダメージを相手に与えることができる。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 これで決まる!と、皆が思う状況だった。


 何せ死角からの攻撃で、多数の氷である。


 たとえ、氷の刃を防ごうとしてもーー

 凛の刀ーー細い刀では………



 しかし、少女は口元を緩ませる。

 まるでこの状況を楽しんでいるかのように……

 不気味な笑みが何も言わなくても伝わってくる。

 彼女の顔は上半分は黒い髪の影で見えないのではあるが。


 右足を軸にして、凛は体を捻らせながら、氷の刃を視界に入れる。

 その際周りには風が起こる。


 ーーヒラヒラと広がるスカートに、上に着た足の高さまである制服ーー羽織り。

 振り返る際には、血が凛を中心として波紋のように舞った。その血液は螺旋を描き、辺りを彩り始める。


 彼女の手にあるーー零影は血を浴びて赤黒くなっていた。


「はああああああああああああ」


 辺りに広がる彼女の胸の奥底から発せられる声。


 しゅぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ

 バリバリバリバリバリバリバリ バリン バリバリバリ


 凛はで氷の刃を斬り始める。

 ーー目にも止まらぬスピードの斬撃。


 辺りにはーー斬音に。

 それに追随する破裂し砕け散る破壊音。


 どんどん凛の前で消される氷の刃。

 ーー粉々に……きれいさっぱりと。


 破壊された氷の刃は細かい粒子となり、凛の周りでキラキラと輝きを放つ。


 その光景は何かしら神秘的。

 ーー煌めく世界に、舞う少女。



 言ってはいけないのかもしれないが、その光景は言葉もままに当てる事が出来ないーーー絶景と言わんばかりで、とても綺麗だ。


 太陽の光を反射しながら舞う砕け散る氷。

 ーーまさにこれこそ『ダイヤモンド ダスト』。*


 息を呑み、呼吸をするのを忘れる観衆。


 辺りで観戦していた者は、その光景に驚く。そしてその光景に……キラキラ輝いて舞を踊る少女に…心が惹かれるのであった。そのはず、この速い攻撃を斬る事態が難しいのに、それをあっさりとそして美しく斬るのだ。これに何故心惹かれないわけがあろうか。


 普通は当たるだけでも難しい。

 なのにその上、無数にあった全ての迫り来る銀色の攻撃を粉々ーー故に一層すごい。


 そして我に返った観衆は言葉を取り戻しーー試合のボルテージが上げる。


「すげぇ〜〜〜!!」

「あれが普通に出来るのかよ。」


 飛び交う歓声の応酬。



 そんな中凛は天雲の方を見る。

 頭には血が流れーーその血は彼女の額を、頬を、そして顎をどんどんと伝っていく。

 また髪越しの彼女の目は、強烈なインパクトを相手に与えるーー威圧感を放つ。ぞっとする目つきである。


 百獣の王が最後の死を覚悟しながらそれに抗い、相手を殺すその時まで力を尽くす。


 その鈍い黒色の光を放つその目はそういうものであった。




 ☆★☆★☆★☆★☆★


「どうやら見くびっていたのは私の方だったようです。貴方は始めからこれをーー私が硬直する一瞬を狙っていたのですね。」


 血を帯び、赤く傷付く私は静かに囁いた。

 そんな私の元に風が吹いて来る。私の着ていた羽織はバタバタと音を立るのだった。


 ーーーそう、私は彼の思惑にまんまと乗せられてしまった。


 黒髪を靡かせる私はそう思うと、胸の奥底から出て来る熱きものに体を震わせる。何せ相手の罠に自らハマってしまったのだ。これ程、私をムカムカさせる事はない。そしてそれはそんな罠にみすみす掛かってしまう自分にもである。あの時ーー天雲を見ていた時。いや、それ以前に、もっと早くに気づいて置くべきだった。


 ーーー相手が魔法を巧みに使うエクソシストだと。


 私は今まで屋敷の中から出た事は無い。全くである。しかしそんな私ではあるが、この刀ーー零影を使う稽古のようなものは何度もした経験がある。それらの中にはもちろん、対戦形式もあった。だがそれは全てを斬る程の力がある零影を使わず、別の刀ーー木製の刀を使っていたのではあるが。

 稽古の内容は全て、魔法系武器以外を使ったものである。もちろんながら魔法を使えない私という事もあるのだろうが、魔法を使うと危険ということもあって、魔法を使った対戦はしなかった。こう言うと負け惜しみのようになってしまうのだろうが、私はそれ故、対戦と魔法とは別個にしており、それが原因で今に至る。しかし今はどうこう言っている暇は私にはない。


 ーー下一面に広がる赤い血の水溜り。


 一刻も速く彼を倒さなければ、先にこの体が悲鳴をあげて終わってしまう。もはやこの私には一刻の余裕もない。


 ーーーしかしそれにしても彼の神器は一体何。


 彼の神器が今だに分からない。何せ魔法を使うにせよ、魔法陣が出る筈なのだ。杖ならばその何処かに。これは絶対である。魔法陣が神器の元に出て、始めて魔法が繰り出されるのだ。

 これはどんな時でも同じである。だけど彼にはそれが無かった。杖にも、である。おかしい。では一体どうして魔法が繰り出されたのか。

 ………全くもって理解が出来ない。


(でも、今となってはどうでもいい。そんな事で悩む暇は私にはないもの。)

 何せ戦える時間が限られている。体の砂時計は刻一刻と下に流れているのである。


 ーーーこうなったら、一かバチか。


 刀を持っている右手を上へ突き刺す。私の血濡られし刀は太陽の光を吸収し、黒い輝きを一層強く放つ。


 ーーー全力をもってあなたに向かうだけ!!!


「はああああああああああああああ!!」


 これから反撃に出ようと、体の底から全身を滾らせる。

 鼓舞の叫びは私の体をより熱くする。


 ーーー行こう。零影!!!


 そして私は天雲の元へと足を踏み出す。



 ーーだが。



「…………っ!!」



 地面の石は血でどんどんと、赤に染まっていく。



 カラン、カランカランカラン…………


 ーー手から滑り落ち、落下音を鳴らす黒き刀。


 血を帯た刀は、石に落ち弾んだあと動きを無くす。

 私の中にあった心の灯火は積み木のように下から崩れていった。


 辺りには再び静寂。



(あれれ、私の体が動かない………)



 手元から刀が滑り落ちたと思ったら、今度は全身が硬直し始める。力を入れているものの、体はビクビクと弦の糸のようになるだけで、前に進む事すら出来ない。


 ………バタンッ!!


 自然落下で落ちる肉の塊。


 力を入れても、立たない、動かない、ピクリともしない。そんな私はただ息をするだけしか真面にすることが出来なかった。


(どういう事。私の体はさっきまで動いていたのに。どうして…)


 痙攣する私の体は次第に映画のワンシーンに変わる。


 ーーまるで自分の体の時間はここで止まったのかのように。


「…はぁ……はぁ…はぁ……はぁ」


 言葉も出ない ーー 動きもしない私。

 周りから見れば、ただ余命を待って雪の中で力を失い、身を天に捧げる死にかけの人のようだろうか。


 ーーー完敗。


 脳裏に過る雪辱な現実。

 そんな私はふと周囲に耳を向ける。


「うわっ。おいアレ骨じゃないか。」

「酷い。」

「エゲツないなアレ。」

「あいつ、もう終わりだな。」

「どうなってんの」

「へディだろ、アレ。」

 ※へディとは、出血多量での死を意味する俗語。または、それになりそうな人の事を指す。


 周りからこの光景を見ると、ひとりの少女が腕をえぐられ、骨と筋肉がさらけており、血がどくどくと傷口や体から流れ出ている死にかけの女。

 これが私なのだろう。


 なぜこんな事になったのだろうか。今だ疑問である。可能性としては、出血多量か、あるいは


 天雲が何かをしたか、だ。


 しかし、この二つの選択しはあるものの、私から言わせてもらえば、二つで一つ。もう私の中では答えは一つなのだ。もちろんそれは、後者の線である。


 そのリーズンは ーー タイミングである。


 これは余りにも良すぎる。これが必然に起こす事が出来るだろうか。


 否。


 やはりあり得ない。そのためその線はないだろう。


 コトン……コトン…コトン…コトン


 杖が石に当たる衝突音。


 これは彼 ーー 天雲 駿河の杖である。音が徐々に大きくなって行く事から、どうやら彼が私の元へ近づいてきているようだ。


 こんな事を必然的に起こせるとしたら。


 あのーー


 体を動かなくさせた「アレ」しかないだろう。


 天雲は近くに寄ってきた。


 天雲の神器、依然わからないままである。


 天雲

「いい腕はしてるんだけど、経験はまだまだだね。まあアドバイスとしては、斬る以外に何か別の攻撃が必要じゃないかな。あと、人は外見によらない。わかったね。」


 私はただ、地に伏して聞くことだけしかできなかった。


 ーー微動だにしない私。


 何とも不甲斐ない結末……


 しかし、ここで終わるのを何せずに待つほど、性根が座った自分ではない。


 (動いて、まだ…まだ…終わっていないの…お願いだから、動いて………私は、ここで負けるわけには………)


 私は、自分の体に想いを言い聞かせながら、懸命に力む。


 足。

 力を入れても震えるのが限界。


 ーーならば


 腕。

 左手は指が少し動くくらい、右手は見えなくて分からない。


 ーーじゃあ


 口。

 全くどうなってるのかわからない。


 何度試みても改善の兆しが見えない。


「動かない」のは、揺るがない事実らしい。


 ーーしかし。


 私は決して臆しない。


 一歩。1cmでも。1mmでも。天雲に抗う為にも。

 私自身に襲いかかる「不変の事実」だとしても。


 打ち勝つ。


 ーー私は変えてみせる。


 たとえそれが愚かな事だとしても。



 *



 しかし結果は同じで………


 動かない。


 これが凛が初めて体験した公衆の前での敗北である


 完全敗北。



 しかし血に染まりし少女は、あきらめずに倒れた体を動かそうし続ける…………


 一粒の可能性を信じて。


 何故ならまだ試合は終わっておらず…………


 ーー死んでいない。


 GAME OVERは、まだ宣告されていないのだ。



 しかしそれも長くは続かず……


「君の想いは、こちらにはビンビン伝わってくるよ。」

「…………」

 天雲をよく見てみると、肌には鳥肌が立っていた。

 彼女の放つオーラはそれ程である。


「だけど、それだけじゃ。駄目なんだ。」

「…………っ!!」

 すると天雲は凛に向けて手を伸ばす。

 そして……


「グランド スピア」


 凛に襲いかかるあの岩棘。


 そして彼女は血の磔と化すのだった。

5/27 前半を一部 改訂

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