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Z E R O g a t e 〜白き髪の 色無き追憶〜  作者: シン風
立つ鳥、羽ばたく
5/27

クラス編成試験〜上〜

出だしから、凛を中心にした主人公目線の文になります故、御理解をお願いします。

 高らかに響く言葉。

 それは『開始』と言うたった一言。

 しかしその一言で、この場の状況は一変する。


 すかさず私は有りっ丈の力を足を込め、体を前へと前進させた。


 足場は、一面に広がる白いタイル。


 履いている白桃(しらもも)色の靴は、足を着かせるや否や、コツコツと甲高(かんだか)い音を響かせる。


 私は出せる限りの力を使って、更にスピードを高めた。

 足の指先もバネのように弾ませながら、その加速に更なる加速を加える。


 手に添えてある黒い刀ーー『零影』を定位置に置き構えと成し、型に収まったのを感じるや、集中を前に迸らせた。


「私にまた力を貸してね。」


 そっと神器を握り締め、その想いを相方の神器に込める。


 ここは普通の、現実と変わらない所だ。

 地面の石のタイルにしろ、自分の手や足にしろーーー

 違和感というものは全くもってない。

 しかし、ここは仮想空間中だ。


 ここが現実と言われたら疑わないだろう。

 寧ろ仮想空間だと言われたら疑いたいぐらいだ。


 でもそうかといって、ここが完全に現実と同じとは言え無い箇所もある。


 痛覚が無い。


 ここには暑いや寒いといった温度が無かった。また足の着地の感覚もまるで雲の上を歩いているような、そういった感覚を覚える。


 やはりここは、心底からは仮想とは思えないにしろ、確かにアンリアリティーではあった。


 この妙な感じを受ける空間に、私は体を馴染ませながら、走る。



 目の前には此方を向く男性の姿。


 顔は遠くてハッキリとは見えないものの、確かにそこには一人の男性がいて、悠然にも杖を突かせ、立ち構えていた。


 足が義足で、半分から先が見えない片腕だ。


 彼は天雲(てんくも) 駿河(するが) と言った。


 彼は、私のクラス編成試験の相手を担当してくれるここーークエアランス学園の教師だ。


 彼は見ると分かるのだが、体は五体満足ではない。


 義肢(ぎし)に眼帯と言ったように、至る所に痛々しい程の戦いの重痕(じゅうこん)が見て取れ、幾多(いくた)とない修羅場を通って来たのだろう事は、彼を一目見ただけで、その生々しい有り様を感じずには居られない程だった。


 彼は動き回る事もままならない程に、体を痛めている。


 しかしそれだからと言って戦闘が出来ない訳が無いだろう。彼は教師だ。伊達にここの黄色のゆえに何かしらの事が出来るから、ここにいて戦闘に参加している。


 でなければ、ここにいる意味が無いのだから。



 ここに悠然と立つからには、戦闘も出来るのだ。



 実力者であることは間違い。

 外見から出る威圧感満載の特異なオーラからも、それは読み取れる。



 天雲は何もせず、銀の杖を片手に一歩たりとも足を動かさず、大山のように私が来るのを待ち構え、立っていた。



 外見から考えるに、遠距離タイプの神器の持ち主である線が一番高い。

 動けなければ、動かなくてよい神器を使えばいいだけの話。


 私は頭で状況の把握に入り、分析をする。


 ともなれば近距離戦に持ち込めば、私の勝利が確実となる。遠距離タイプの神器ならば、近距離戦ではどうしても劣ってしまう。なぜならば、遠距離タイプの神器は近距離戦に合わせて使われるものではなく、寧ろその事を排除した上で遠距離に特化させるから。例外はあるものだが、一先ずこの線で推し量るのが妥当な所だろう。


 私は思わず笑みを顔から零してしまう。



 そう色々と思案している内に、天雲との距離が始めの半分くらいになった。



 私は体を引き締め、柄を握る細い自分の指を再度握り直す。その際、刀から共鳴音とおぼしき低音が僅かながらも聞こえた。


 そろそろ彼からの攻撃が来てもいい頃合いだ。いつ戦いの狼煙が上がっても可笑しくはない。


 ーーだが。


 天雲は何も次なる動作をせず、ただじっと私を見てそのまま、硬直したままだった。


 私は少し動揺しながら、彼を注視した。彼は顔色一つだに変えず、ただ杖の上に手を両手を乗せたまま、仁王立ちしていた。


 私を舐めて、そうしているのだろうか。


 私は唇を噛みしめながら、動かぬ像に視線をやった。



 *


 私の体はピクリと、その身を震わせた。


 天雲が刀の頭身の届く範囲に入った。


 私はすぐさま刀を持つ手に力を込める。


 するとそこでようやくの事だ。天雲が動き始めるが目に付いた。


 彼は杖の上に乗せていた片腕を黙々と上げる。


 そしてその修羅場を潜り抜けだろう手は、私の方を向いた。


 だが。


 それはもう手遅れもいいところだった。


 時は既に私の手中にある。もはや私より先に攻撃などと言った事は出来ないし、まして防ぐ、除けるといったことも出来ない。


 もう私の刀は走り出しているのだ。

 刀は一直線に彼の胸を目掛けて斜め下から、光の速度で弧を描く。



「はあああああああ!!」



 私はあらん限りの声を出し、刀を握り締めた手に渾身(こんしん)の力をこめ、振るう手に精神を集中させた。


 刀の軌道は思い通りの線を描き、行く手は順調に相手を捉えてゆく。


 そして。


 刀は目と鼻の先の距離になった。


 私はそこで勝利を確信する。もう勝負はついた。このまま軌道を辿れば、彼の体は上下に分断され、首と体は別々となる。戦いはこれにて終了……


 私は冷徹な目を彼にやった。

 彼はこちらを顔色一つ変えずに、ただ此方をまるで私を哀れんでいるかのような目を向けていた。


 それを見た私は、不愉快で煮え切らない炎を胸に灯すのだった。


 と、そんな中。


 一つ、私の脳裏に疑問が過る。



 ーー 何故彼は今だ、神器を出そうとはしないのだろうか。



 ふと、私はそんな事をこの状況下でそんな事を思った。


 また、『何故神器を出さずに手を高々と胸の前に上げたのだろうか』、少し疑問に思った。


 今となって、その事が妙に私の頭を刺激する。



 次の瞬間だった。

 目の前に驚愕のワンシーンが辺りに流れた。



  私の描いた未来図は、儚くも桜の花びらのように呆気なくホロホロと、その身を散らす。


 私は驚いた。


 また私は疑問と驚きの感情を同時に感じ取った。


 目を力ませながら、私は刀を持つ手に視線を移す。


 すると、そこには。


 天雲を目の前にして、振り翳した腕は動きを止めていた。そこには ーー 額縁はまったかのような動かない腕の静寂があった。それは微動だにせず、またそこから離れない。


 私は突然の事に頭を困惑した。


 刀は勿論届いていない。刀は彼を、後残す所、微生物の大きさ程度の距離で、フリーズして固まってしまっているのだった。


 恐怖へ誘うその異常事態は、私をパニックに陥らせる。思考が徐々に自我を失い、感情だけが前に押し出て来た。


 食いしばる唇からは多分、流血があったに違いない。


 懸命に腕に力を入れている積りだが、やはり自分の腕は動かなかった。


 感覚がないためだろうか。

 力が確かに入っているのかすら分からない。

 今となっては、私の精神状態がそうさせているのか、システムが強制的にそうさせているのか、どちらか分からなくなってしまった。


 兎に角、今はまるで磁石の力を受けているかのような、私の空想だけが動いていて、実際は動かないといったような、そう云った状態に私はなっていた。


 まずは腕を何とかしないといけない。


「………っ!!っ!!……っ!!」


 目を大きく開いて、何度も何度も、何度も何度も。

 私は力を動かぬ腕に注いだ。


 ーーだが、そんな私の気持ちとは逆に、やすやす切り抜けられるような状況では、今は無かった。


 額から流れる汗が私の視界を歪める。


 と、そんな中であった。


 私は、ふと天雲に目を向かわせる。


 するとそこには手のひらを地面に向けながら、指先を私に向けている彼の姿がまだ、あった。


 だが、私はそんな彼に驚愕する。


 何故なら、彼のその手の奥には不気味にも詠唱しているのか、口がパクパクと動いていた。


 そして案の定であろうか。私の脳裏に予感した事が現実となる。


 彼は攻撃を繰り出してきたのだった。勿論その攻撃とは、魔法攻撃だ。


 ズガン、ズズズズズズズズズズズズズズズズ


 彼の足下から急に出現し、私の方へとものすごく速いスピードで伸びて来る鋭く尖った岩棘(いわとげ)


 どうやらこれは『グランド・エッジ』といった所の魔法攻撃だろう。


 この攻撃は、三階級に分類される魔法の中程に位置する魔法だ。


 魔法とは、神器を手にする際に、あるいは日々の中で非科学的に起こる突発性の超常現象である。

 皆、魔法を使うに至るまでは、ある種の儀式を行う。


『精霊の間』


 これは、時を持たない空間で、精霊が居る場所だ。ここでは、一切時の流れを受けない。つまり、そこへ入った時間は、ここでの生活には一秒たりとも、一切、干渉しない。時計の針は、全く進まないのだ。


 ここで、人は精霊と出会う。精霊とは属性を司る者といったらいいだろうか。


 精霊は属性によって多々存在する。


 精霊は属性の数だけある。つまりその数は多いという事だ。単純に6つだけではなく、八百万の神のように、万物、地上に存在するものの数だけ、属性は存在する。

 これがここでの魔法の事情である。


 彼のこの魔法は土属性である事は、間違いない。


 つまり、それが意味することは、土の精霊と彼は契約関係にあると言う事だった。



「うっ………くっ!!」


 食いしばった歯の隙間から、声を出す。

 動かない腕に有りっ丈の力を注ぐ。それはもちろん、この、わけもわからない状況を、何にが何でも力づくで、強引に、打破するために。

 速くこの状況を打破しなければ、攻撃に当たり致命傷では済まないだろう。


 と、そんな時だ。

 願いが叶ったのかであろうか。

 完全ではないが、硬直した腕は動き始めた。

 歓喜の衝動が胸の底から込み上げてくるのを覚える。


 しかし今はそう悠長に、その感情に浸っている場合ではなかった。


 目の前には、猛突してくる岩棘がある。


 すぐさま私は、動きを取り戻した腕を振るい、その魔法攻撃を防ごうと、行動に移った。


 彼と相打ちの線でも良かった。


 だが、もう今となっては私の刀先は彼には届かないのは、一目瞭然だった。

 今は彼の攻撃の方が速い。


 私の刀は自分の方に引いた勢いで彼から遠ざかって行っていた。



 私は刀を振るった。



 これはコンマ7秒での話だった。



 当然のことだろう。

 私は呆気ない姿になる。

 無情にも、その無数に迫り来る攻撃を完全に対処し切れないのが終焉だった。


 どんなに手を速め攻撃に対処しようが、限界というものは存在する。


 私の攻撃による斬撃と、相手の魔法攻撃による突きとでの攻防は、悔しいながらもどうやら向こうに勝杯があった。


「………くっ!!」


 私の耳には、斬れる岩の砕け音と、体の数箇所に攻撃が当たったであろう鈍い音とが、響き渡った。


 宙には、赤く広がった血飛沫が舞った。


 既に蜘蛛の巣に罹った蝶だ。


 滑稽ながら、私は自分の哀れさを身に沁みて感じる。



  『グサッ!!』


 左腕に鋭い岩が直撃する衝撃音。

 耳触りの悪い音。骨と肉が千切れる音。そして骨が折れ、擦れたりしている音がそれに伴う。


 私は攻撃を喰らったのではあるが、ふと、痛みを感じないのに気づいた。


 体には痛烈な電撃が縦横無尽に走り渡っていることだろう。だが私は痛みを感じない。


 でも、感じないだけであって、攻撃が当たった箇所に発生する衝撃ーー引っ張られているだとか、押されているだとか。そう言った感じは無くは無い。いや、あるのだった。


 私は刺さる岩棘の衝撃波に身を揺さぶられながら、惨めな自分を客観視した。


 ああ、なんて愚かな選択をしてしまったのだろうか。と…


「………うぐはっ」


 何だか胸の奥から吐き気のような物に襲われ、口からドバッと液体を吐き出した。


 私は視界がぼやける目を震わしながら、自分の今の状態を見回した。


 体中には鋭く尖った岩棘があり、至るところが貫かれている。痛みはないが、この状態ではどうやら身動きが真面に取れそうにもない。


 体を岩棘から離そうにも、貫く針先が遠過ぎる。抜こうにも長さがありすぎて、とてもじゃないが、それは出来そうにない。


 私は右手に何やら重たい感じを受けた。


 私はすぐ様それが何か、予想がついた。


 零影。


 それが何であるかを悟った私はすぐに、黒き刀ーー零影を持つ手に力を入れた。




 *



 この状況下、二つ問題点があった。


 それは


 ーー刀を持つ腕に三箇所刺さった棘岩。

 ーー首を動くものの右も左も邪魔をする棘岩。


 だ。


 視界が遮られていて、刀を持つ腕はもちろんのこと、他の体の部分さえも見れない。そして、肝心の腕が真面にうごかなかった。


 しかしそんな状況下ではあるのだが、刀を使い、自分に刺さった棘岩をどうにかして速く切り離さなければいけなく、まずそのためには、腕に刺さる棘岩を取り除かなければならない。そうしなければ斬ろうにも、動かすこともままにならない。


 そこで私は指先にまで神経を尖らせ、すぐさまその刀をゆっくり器用に動かし始めようと試みた。指の間間に物凄い集中力を注ぎながら、刀の取っ手の部分をもっていく。


 額には大量の汗が吹き出るのが分かる。


 私は人差し指と親指の間にその取っての部分を持たせ、次にクルリと、刀を回す。


 私はその願いを、「届け」という想いを、有りっ丈自分の指に、刀に送った。


 ゴクリと私は喉を鳴らした。


 ……………スッ……


 綺麗にスッと斬れる音。


 どうやら刃の部分が綺麗に刺さる岩棘を斬ったようだった。


 私の神器ーー零影は全てを斬る。それは切れそうにもない岩の塊や鉄の塊地面までも。


「…………はぁ。」


 少し安堵のため息が胸の奥から出て来るのが分かった。何せ極限状態でこの作業を行っていたのだ。失敗すれば終わり。そんな中で私は刀を回していたのである。


 私の極度に高められた集中力は、成功をもって、まるで海に作られた砂のお城が波に呑まれすぐ様崩れ落ちるように、無くなっていくのだった。

 私の指には大量の手汗をかいており、もう一回は無い状態だった。つまり既に私にはこの一回限りの勝負しかなかったのだ。


 私の腕はすぐ様動くようになった。どうやらあの一回で自分の腕ーー刀を持った方に刺さった3本の岩棘は綺麗に斬れたようだ。何とも奇跡的な事である。


 動けるようになった赤い重い腕。

 そしてそこには三つの岩棘の残骸が刺さっていた。


 もちろん動けるようになったからと言って、安心して訳にはいかない。そして私の腕にはまだ残る岩棘の残骸があり、他にもまだ刺さっている箇所がある。


 私は腕に動くのを確認するとすぐ様全身を貫く、他の箇所の岩棘の駆除にかかった。


 まずは顔の近くにあり視界を防ぐ岩棘を……


 スパッ


 次に、視界が良くなると次は辺りを見回し、体のどの部分に刺さったのかを確認する。何せ痛覚が無いものだから、感覚には頼れない。


 二箇所刺さる腕。一つ刺さる腹部。そしてそれぞれ小さいながらも一箇所ずつ刺さる両足。


 想像していたよりもそれらは小さな怪我だった。

 私はもっとこの攻撃を喰らっているかと思っていた。

 直前まで出来る限りその攻撃を刀で斬ったのと、当たる箇所を最小限までにした事が吉と出たらしい。


 ーーしかしとは言え。


 腹部に喰らった大きな岩棘は、見て見ぬ振りをすることが出来る程、少々な事でもなかった。相当なダメージになっている筈。推測するに、肝臓、胃。最悪のケース、肺などにもダメージがあるのではなかろうか。

 微妙なラインだ。


 しかし今はその事を気にしている暇は無い。何せ彼は何か次の攻撃をして来るのは当然な事だ。

 こんな巧妙な攻撃をして来た彼だ。今度もまた私の思惑を逆手に取る攻撃をして来る筈である。


 私はそう考えるや、体からその岩棘どもを斬り、そしてその残骸を振り落とし、退避を試みた。

 振り落としたからだろうか……それとも私の体の一部が無くなったからであろうか。

 とても体が軽く感じる。言葉にすれば開放的だった。


 腕、腹部、足を見ても、そこには穴がクッキリと空いており、そこから大量に流れる血に、肉片の向き出た場所からは白いものーー骨がチラホラ顔をだしているのが分かる。


 私はそれを見るや、吐き気に襲われた。

 自分の腕ではあるのだが。


 と、そんな中、後退しようと試みる私の元へと二つの言葉が耳を燻る。


 それは余りにもキツイ二言だった。



 ーーー無駄だよ………


 ーーーもう、勝負はついた……


 もちろん天雲の言葉だった。


 何とも不思議な言葉を彼は私にかけきた。彼には私の姿が見えていない筈だ。


 だが、なのにも関わらず、このタイミングでの「無駄だ」という一言。


 こちらの様子が読み取れるというのだろうか。


 岩棘を斬った際に伴う音もそんな出てはいなかったし、体に付いた岩棘の残骸も振り落とした際にも、それ程音は立っていない筈だ。だが、無いとは言い切れないが。


 しかし、仮に聞こえたとさて、それだけで私がこの岩棘から逃げ出す事が出来たと考えられるものだろうか。


 またその後に発せられた「もう、勝負はついた」も同様に妙な感じを受ける。

 何故彼はそんな事を言ったのだろうか。


『勝負はついた………』


 私がこの岩棘に刺さってもう無理だと確信して物を言った言葉なのか。


 何をしてもこの攻撃から逃げる事は出来ない。

 終わったも当然だと。


 しかし、このタイミングで言う言葉だろうか。

 言うなら、攻撃をかます際に、言うのがいいだろう。



 私は天雲からひとまず距離を置くように体は天雲の方を向け遠ざりながらもう少し頭を回してみる。私の体からは相変わらず血が出ており、時間があまり無い無いのは分かる。

 私の活動時間には砂時計が立っている。


≪無駄だよ。もう、勝負はついた。かぁ……≫


 私はその一言を今度は自分で言ってみて、そこから考えてみる。私だったらどうするのだろう。もし刺さったままだったら………


 私はその時、嫌な予感を背中から感じた。


 後ろの方から聞こえてくる不気味な音。

 そして妙に体が震え始める。


 私は嫌な感じを予感しながら後ろをすかさず振り向いてみると、そこには氷の刃が多数こちらに向かって来る光景が、あった。



 逃げること不可な身。ならばここは自分の手で終わらせるまでの事はない。


「…………くっ!!」


 下唇を強く噛み締めた。痛みは無いが、血がそこから流れるのは何と無く分かる。


 私の予感通り、後ろから攻撃は来た。


 確認するや否や、私は眼光を光らせ、瞬時に刀を両手で持つ。そして体を捻らせながら、刀をその速く無数にある攻撃に持って行き対処に向かわせた。


「………私は、まだ諦めない。」


 この状況下では、落胆するのが普通なのだろう。手を止め、己の未熟さを痛感するのが普通なのだろう。


 足掻いても、それは決して奇跡を起こせるとは限らない。

 まして、命の僅かな身である。死にかけの一人の女が、ろくにできる事など、普通からしてない。


 だがそれでもなお私は、立ち続ける事を厭わなかった。

 私は立ち続けたかった。



「はあああああああああああああああ」


 私は、叫び声を全身の力を刀に注ぐ。


 刀はそんな私の気持ちを汲み取ってくれたのだろうか。


 刀は黒き光を輝き始めた。


 私は魂の叫びと共にその攻撃の対処に当たるのだった。

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