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Z E R O g a t e 〜白き髪の 色無き追憶〜  作者: シン風
始まるZ E R O g a t e
3/27

暁と凛。

 無限の広がりを見せる空海(そらうみ)は、雲という波を浮かび上がらせながら、静かにその青を澄ませていく。

 ()り輝く太陽の光は白がかった、水色に近い青の情景に混じり、点在する白雲に差仕込んでいく。

 雲の合間から漏れ出るようにして大地に差し込む斜光は、端から見れば神秘な世界を創造しているかのようである。


 凛と暁を乗せる昇降盤(しょうこうばん)はその景色の中を音を立てずに、上昇していた。

 行き先は言わずと知れる空中都市『クエアランス学園』__________


 昇降盤は周囲を煌びやかな光の壁で覆われ、天井には魔法陣の紋章が浮かび上がっていた。

 これは魔法科学にのっとる装置で、使われている原理は一言でいうとーー 密度変換の類の魔法だ。

 昇降盤上の物体の密度を下げ、浮遊させるといった原理だ。

 わかりやすく言えば、風船で中に空気よりも軽い気体を入れることにより、浮遊させるのである。

 もちろんこの類の魔法以外にも体を維持するための魔法、重力低減させるための魔法ならびに質量変換の魔法と、幾度となく折り合わされた高度な複合魔法によってこの装置は成り立っている。

 またこの装置には変わった事情があり、操作しているのは確かに昇降板の上に乗る人間だが、肝心の発動している魔法は人間によって展開させているものではないのである。

『ユルベール』ーー 【フォトン・コア】の特性を利用した装置だが、この昇降板はその装置によって魔法陣を作り出している。

【フォトン・コア】は魔力を感知すると形状を流動的なものへと変える性質がある。

 これを『液状化』といい、その形状を取ることで【フォトン・コア】は次に周囲に存在する魔力源【フォトン】を吸収し始めるのだ。

【フォトン】とはありとあらゆるものを形成、生成するために必要となるものの総称で、細分化すると『創造イザナギ』、『消失イザナミ』、『再生スサノオ』になる。

 これら三つの源の配合具合で、万物は形を成している。

 魔法とはつまるところ、錬金術に似たものといっても過言ではない。

 配合しだいで使用が多岐に渡っていくのである。


『ユルベール』はそんな【フォトン・コア】の特性を用いて、特定の魔法を展開させる。

 【フォトン】はただ吸収するだけでは、それは空気、つまり何もないものを吸収しているに過ぎずそれでは魔法は意味をなさない。

 そこで用いるのが『ユルベール』に搭載されている『スプリット・マジック・ボックス』--通称SMBと呼ばれるフィルターシステムである。

 この機能によって特定の【フォトン】の抽出を可能にするのである。

 あとはその【フォトン】を用いて魔法陣を形作るだけで魔法は完成するといった次第だ。

【フォトン】は磁気に反応しやすいため、魔法陣の形成方法までは説明しなくとも分かるだろう。

 この磁気を用いて魔法陣の形を形成するのである。


 凛はそれを暁から聞きた時、大層目を丸くして驚いた。

 まさかこんな方法で空を駆け上がろうとは思ってもみなかったことだったからだ。

 凛はてっきり魔法陣を記憶させる水晶のようなもので動かしているのだと思っていた。

 暁が言うには確かにその方法の面も検討されていたが、それでは維持の面で大変なことになるというのである。

 確かにこの世界には魔法を記憶することが出来る水晶という存在がある。

 しかしそれは有限なのであり、使用に限りがあるのである。

 魔法陣というのは肝心の【フォトン】があってこそできるものだ。

 しかしその【フォトン】というのが肝で、長時間魔法陣保つには持続的な供給を必要とする。

 魔法を記憶することが出来る水晶は一時的に魔法陣を内にとどめることが出来るが、その魔法陣への供給はできないのである。


 だが、そのような原理だけで浮遊が可能になるのではない。

 中には例外も確かに存在する。

 いま凛と暁が向かおうとしている場所はクエアランス学園というおとぎ話にでも出てきそうな天空城のように浮遊大陸の中に位置する学園都市だが、この大陸が浮遊している理由は実はいまのところまだ解明されていない。

 学園が造られる前から存在した大陸ということ以外、なぜ質量のある密度の高い物体が浮かんでいるのかは謎に包まれたままだった。

 奇妙なことにどこを調べてみてもどこにも魔法を用いている痕跡はなく、まるで大陸が勝手に世界の理を排して存在していたのである。


 ここ【アース】とは、そんな常識外れのことさえも起こるパンドラの箱と化していた。



 ******************




 ____ 天翔(てんしょう) (あかつき)



 彼は先ほどの話で紹介に挙がった美男子で、凛の婚約者になっている人物だ。

 しかし、凛はまだそれに承諾したというわけではない。


 彼女の父親である ーー 大将が言うには、これはあくまでの話で決定事項ではないらしい。

 簡単に云えば、これは仮の取り決め、印の押されていない契約書ということだ。

 つまり凛が嫌なら、いつでもこの縁を切る事が出来るのである。

いざ辞めようと決めた時はそれこそ大将が言うように、相手の(ほほ)を赤い紅葉が出来る程に()てばいいだけの話。

そう、ハンコの押されていない契約書を破るように破ればいい話なのである。


 ーー しかし。


 婚約が嫌であったとしても、控えめな彼女の性格故にきっぱりと断ることはできない。

自分の意見よりも、他人の意見を簡単に優先するタイプの人間だった。

 凛は成り行きということで流されるままに、仕方なく今こうしてクエアランス学園へと向かう昇降盤の上で一緒に行動していた。

二人はそれ以来何の進展も無く今もこうして口数の少ないままお互い背を向け合っている状態でいる。


 暁は無い知恵を絞り会話のきっかけをつかもうと試みるが、肝心の発端が見出すことが出来ない。

 頭の中の意思と現実との間には大きな見えない壁というものが立ちはばかっており、それ故に無言の時を過ごしていた。

話すタイミングをつかみ損ねては暁の拳は何度も空を握る。


 一方凛はというと元々話す気すらなかったため、外の景色に視線を向かわせていた。

暁が苦労しているとは知らず、一人外の景色を眺めつつ雲の中に自分がいるに信じられないでいた。

 凛は今を楽しんでいた。


 しばらくして、二人を乗せた昇降盤ががたんと大きな音を立てる。

 いきなり衝撃と共に、何やら奇妙な音が凛達が乗っている昇降盤から起こった。

 振動は体が少し揺れるぐらいの微弱。

大事には至らないが、何か異変が起こったに違いない。

 凛は辺りを一度見回し、その後の異変がないか辺りを見渡す。

 だが、辺りは依然として変わった様子はなく、問題の個所はない。

 しかしそれはただ一点を除いてのことであった。


 気づけば周囲の景色が見えなくなっていた。

 今まで辺りを見渡せるほどに丁度いい透明さを持っていた周囲の壁が辺りが、今では見えないくらいにまで色が濃くなっていた。天井に映し出されていた魔法陣見えるが上空は周りの壁と同じく色の濃さで見ることすらかなわない。

辺りは黄色い世界と化してしまっていた。


「到着だよ、凛さん」


 暁は落ち着いた口調でそう凜に告げる。

 凛は初めてあった時から、彼に抱いた印象があった。

それは同世代とは思えないほど妙に落ち着いているということである。

これは彼が特殊な人間だからのかそれとも男の子が皆こうであるのか今の凜には分からなかったが、それでもそんな彼の姿は少し不思議に思うところであった。


「到着したの、ですか」

「うん、到着したよ。クエアランス学園にね」

「……では、あの振動は一体何なのです」

「あ、あ。……これ、ね。これは一時的に起こった衝撃だよ。この昇降盤が終着点に(はま)った際の」


 暁は手を入れながら、凛にそれはそれは分かりやすい説明をした。


「なるほど、それでですか」


 凛は一連の騒動に納得したところで虚ろな目を、胎動しているかのように明度を変える昇降盤に視線を流した。


 周りの景色が変化をし始め、今まで壁で見えなかった外側が上から次第に光の粒となって消え始めることにより、姿をあらわにし始める。

光は蛍が飛ぶが如くに不規則な行動を取りながら四方八方へと散っていくかのように儚く消えていった。


 天井にあった魔法陣はフェイドアウトするように自然と消えていき、それと同時に大きな大空が目に飛び込んできた。


 そこには空飛ぶ学園都市、クエアランス学園の世界が広がりも見せていた。

 目の前には草原の先に一本の(そび)え立つ巨木。樹齢は2万年と言った太古の寿樹が凜たちを最初に出迎える。

 そしてその奥にみえるのは大地の境。そこから向こうには、雲が川のように流れる情景が広がっていた。


 ここがクエアランス学園、全校生徒数7800人を有する名門校の世界だった。


「じゃあ、行きましょうか」


 暫くこの場を満喫し終えた凛の元へ、暁は声をかける。

凛はその言葉をすんなり受け入れる。

二人がいる場所は学園から少し外れたところで森と言って差し支えない所だった。


「これから何処に行くのですか」

「合流点だよ」

「合流点って事は、私達以外の他の入学生と一緒になるってことですか」

「そうだよ」


 ここの入学生は、凛達とは別のルートでここーークエアランスの大地を踏むことになっていた。

 皆と一緒にここに来るーーこれが本当の行き方だった。

 しかし二人はそれとは別に離れて行動をしていた。


 整備されていない道を道を徒歩で進みながら、二人は無垢敵地へと向かうのであった。

6/6 本文全体を改訂


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