第六話 浮上する希望
逃げ始めて何分くらい経過しただろうか。
一泣きして少しは落ち着いたせいか、ふとそんなことを思った。
三十分位逃げていたかもしれないし、五分も逃げていないかもしれない。
しかし、隕石が落下してから落下地点に駆け付けるまで、さらに今も続けている全力ダッシュ。
加えて足元に瓦礫が散乱していて普通に走るよりも体力を使うので脚に限界が近づいていた。
(多分もうそんなに長くは走れない...。あの何かからは恐らく逃げきれない。そうするとどこか隠れられる場所が必要だ...。それも黒い粉塵が届かない場所...。)
早急に判断すると条件に当てはまる場所を模索し始める。
(煙の届かなさそうな場所......。密閉された所...風上...。
...密閉された所だと逃げ場が無くなるし、風上...風向きなんてすぐに変わるし...。常に風上な場所...。)
走り続けていると飲食店が建ち並ぶ通りに差し掛かった。
(常に風上な場所...あそこなら!!)
飲食店が建ち並ぶ通りに軌道を変えて適当な裏路地に入りる。
(あった!換気扇!!この下なら黒い粉塵は風に負けて近づけないはず!!)
換気扇の下に座り込み、疲労のたまった脚を休める。
(ここで少しでも情報を集めないと...。)
裏路地から顔だけ出して周囲の観察をする。
遠くには全力で逃げるたくさんの人々と、異常なスピードで彼らを追いかける何かが走っていた。
何かは次々に犠牲者を増やし、周囲に赤い鮮血を撒き散らす。
返り血で赤黒く染まった何かは悪魔としか形容しようがない見た目になっていた。
(あれ?なんか形が変になっているような...。)
疑問も束の間、何かが突然不可解な行動を見せた。
一番近くを逃げていた人でなくその前を走る人を襲ったのである。
(そういえば最初も一番近くの人じゃなくて前を走っていた数人を回り込んでから襲っていた...。)
(もしかしたらあの何か、襲う人に何らかのパターンがあるのか...?)
この惨劇のなかで、生き残る僅かな希望が見えた気がした。