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神妖クルセイド  作者: いかろす
-神鬼邂逅ノ章-
8/32

七章 曇天が誘うは慟哭の夜

 静音と別れて鮮音が向かったのは、駅周辺の繁華街。

 ここで、鮮音はなにかを買いに来た。買う物がまだ決まっていないから、「なにか」と表現するしかないのだ。

 しかし、なにかはなにかでも、明確な意図はある。

 それは、買う物が静音の誕生日プレゼントになるということ。

 先程鮮音が言い残して来たように、今日は静音の輝かしい誕生日なのだ。

「どうしよっかな……」

 鮮音は、とにかく考えていた。

 なにをプレゼントするか考えてはいたのだが、今の鮮音の状態はなにも考えないでとりあえず街に来ればなんかあるだろ、という安易な発想の人とそう変わらない。

 つまるところ、なにも決まっていないのだ。

 適当に街をぶらつこうにも、それではいつまで経っても決まらないだろう。

 もしかしたら、今日の授業時間を睡眠ではなくこの考えに回していれば、今頃ベストなプレゼントを買って帰れていたのではないか。

 そう思うと、自分の行動が悔やまれる。行動というよりは欲求に負けてしまったわけだが。

「はぁっ……どうすっかなー」

 明らかにテンションの低下を感じさせる深いため息。賑わう雰囲気の繁華街には少しばかり似合わない光景で、だからこそ、その存在に気づいた者が一人。

「もしかして、鮮音か? あぁやっぱり! どうしたぁそんなため息なんて」

「その声は……狼銀(ろがね)さん?」

 周囲を歩く人を優に越す長身。だが、その人も列記とした女性であり、神術士である。

 荒々しく見える刺々しい銀の髪は狼のたてがみを思わせ、険しく鋭い眼光や長身と合間って、恐怖心を抱かせる。

 しかし、鮮音は彼女のことをよく知っている。見た目よりはまだマシなくらいにはいい人であると。

「おう、愛しの狼銀先輩が後輩のピンチに駆けつけてやったぞ。どうかしたのか?」

「別に愛した覚えないんですけど……てか狼銀さんもこんな所来るんですね。こういう所は今を行く乙女が来るべき所ですよ」

 言い終わった瞬間、握り潰す勢いで狼銀は鮮音の頭頂部を掴んできた。

「おうおう威勢がいいじゃないか鮮音くん。男みたいな女同士仲良くやろうぜ?」

「いい痛い痛いです! すんません!」

 鮮音が狼銀に対して好意的でないのは、少しばかり前の出来事まで遡る。

 神術士になりたての頃、神装を使いこなす為の訓練が行われた。鮮音は才能に溢れていたため、一度の訓練だけで訓練過程を終了出来たのだがーーその時の訓練教官が狼銀だったのだ。


『鮮音です、よろしくお願いします!』

『おお、元気があってよろしい! あたしは狼銀。今回の訓練教官を務めさせてもらう(もん)だ。よろしくな』

 その時、怖そうな印象を持たせる見た目とは違って、優しそうな人だ、と思った。

 しかし、次からの言葉で世界は逆転する。

『じゃあ始めていこうと思うんだが……先に言っておきたいことがある。耳の穴かっぽじってよーく聞いとけ』

 狼銀の声に張りが出た。耳の穴はかっぽじらないが、鮮音は姿勢を正し、その言葉を聞き逃さんとする。

『あたしは……才能っていうものがそれほど好きじゃない。でも、才能のある人間ほど綺麗に羽ばたいて世に出るべきだと思う』

 中々良い事を言うではないか、と鮮音は思った。

『というわけで……この訓練一回目を最初で最後の訓練にして、お前を即座に羽ばたかせ、期待の超新星にしてやるから、覚悟しとけ』

 これ以上無いほどの笑顔で、狼銀はそう言った。

 そして行われた訓練はーー思い出しても笑えて来る程に辛いものだった。


「んで? どうしてそんな辛気臭い顔してんだい鮮音くん」

「……今日、静音の誕生日なんです。だからなにかプレゼントしてやりたいんですけど、なにあげたらいいか決まんなくて……」

「はーん……んなことで悩んでんの。乙女かお前は!」

 こんなんでも、鮮音は齢十六の乙女である。

「じゃあさ……静音ちゃんの好きなもの、とかわかる?」

「好きなもの……あいつ、あんなんでも結構かわいいものとか好きなんですよ」

 ふーん、と狼銀は興味があるのか無いのかわからないような相槌を返した。

「じゃあさ、静音ちゃんの欲しがりそうなものの話は一旦置いとこう。鮮音くんが貰って嬉しいものはなに?」

「貰って、嬉しいもの……?」

 考えてみる。するとーー何故だか、静音の顔が浮かんできた。静音が欲しい、とでもいうのだろうか。

「まあそれはそれでいいんだけどね。あたしから言えることは、鮮音くんが貰って嬉しくないものは、静音ちゃんが貰っても嬉しくないと思うぜ。あとは……気持ちの込もったもんなら安物でも人の心は揺れ動いてくれる、とか」

「な、なるほど……勉強になります。ありがとうございました!」

 言い残して、鮮音はどこかへ行ってしまった。

「ったく……鮮音は器用なんだか不器用なんだか、よくわかんねーな」


 ◇


 前々から、鮮音は思っていたことがある。お揃いのアクセサリーを付けることは、友人関係の更なる向上が期待できるのではないか、と。

 つまるところーー鮮音は、二つの、同じストラップを買った。かわいいくまのストラップだ。

 これなら鮮音も嬉しく、静音も嬉しい。それに、あまり高くない買い物でも気持ちは込もっている。

「狼銀さんの言ったこと、どこまでも完ッ璧に忠実じゃないか! 」

 一人歓喜に震える鮮音。意気揚々と来た道をひた駆ける。

「静音、喜んでくれるといいけどな……」

 小さな不安と胸の高鳴りを同時に、鮮音はもやもやする心境のまま。それでも、今は気にしていられる余裕は無い。

 その時、一粒の雫が鮮音の頬を打った。

 見れば、空はいつの間にか暗い雲に覆われ、鮮音の行く先の空は更に暗くなっている。

 まるで、こちらへ来るなと空が告げているかのよう。

「雨か……? 早く帰らないと」

 曇り空の警告など知る由もない鮮音は、また駆け出す。待ってくれている人のために。

 しかし、鮮音が進むことをまたしても阻まれた。

「ひっ……!?」

 思わず声を上げてしまう程の、不快な感覚が背を這う。悪寒ともまた違う不快感に、鮮音は足を止めてその場で膝を付いた。

 自然と息が切れ、心臓の鼓動が早まる。同時に、強い疲労感が身体にのしかかり、動こうという意思を荒々しく剥ぎ取られてしまいそうになる。

「またこれか……こんな、ときに……」

 鮮音は、この感覚を知っていた。

 これに襲われるときーーそれは、決まってその後になにか嫌なことが起きる時。

 人生、嫌なことなど多々ありすぎて、数え切れない。その度にこんな感覚を味わっていては鮮音もやっていけないが、これが起きる時は極めて大きい嫌なことが起きる時。

 過去に、二度鮮音は経験している。それは、どちらも家族を亡くした時。

「っ……これからなにがあるってんだよ」

 雨粒が音を立てて地面へ落ちーー本格的に雨が降り出した。土砂降りとまではいかないが、そこそこ強い雨だ。

 雨に打たれていると、身体を流れていく雨粒と一緒に落ちていくかのように、嫌な感覚が消えていった。

「どうすればいいんだ……」

 また、嫌なことがあるのかもしれない。前へ進むべきか、後ろへ戻るか。現実を見るか、現実から目を背けるか。

「……行こう」

 鮮音は、降りしきる雨の中、歩き出した。

 いつの間にか疲労感も消えていた。しかし、心に引っかかるものは消えない。

「……寒い。少し急ぐか……」

 身体の異変を察知し、鮮音は走り出す。

 しかし、自分の身体から感じる異変よりも、進む先から感じる異変を、鮮音は強く感じ始めていた。

 そしてーー交差点を曲がった瞬間、鮮音の視界に飛び込んで来た衝撃。

 雨の中、濡れることも厭わないと言わんばかりに棒立ちでいる人影が一つ。

「……静音?」

 人影は、人形のように力無く地面へ崩れ落ちた。


 ◇


 静音は、落胆していた。

 その心境を表すかのように、空は暗い雲に包まれている。

「私の誕生日だってのに……用ってなんなのよ」

 男勝りで、女の子っぽい趣味など無い鮮音が向かったのは繁華街の方向。暮らしに必要な物などは、そこまで行かずとも手に入るため、鮮音がそういった場所へ行くのは珍しいことだった。

 ましてや、静音との下校をすっぽかしてまで、である。

 これまで鮮音と静音は一緒に下校しなかった日の方が少ないくらいだ。一緒でない日も、学校での用事があったときくらいである。

「ちょっと大胆に攻めてみたのに……ちょっと悔しいわ」

 男というのは、スキンシップにめっぽう弱い。おっぱいパワーがあれば、尚更である。

 それでも、鮮音は完璧には落ちないというのだろうか。

 貧乳を表すかのような高き鮮音という壁は険しく、とても堅い。

 そんなことを考えているとーー数的の雨粒が静音を打った。

「嘘……雨? 傘持って来てないのに」

 どうしようもないので、静音はカバンで頭を覆い、走り出した。

 次第に雨は強くなり、路面を、静音を、激しく濡らしていった。

 その時、


「そこのお嬢さん……神術士の静音さん、で合ってますか?」


 悪寒。

 雨に濡れた寒さとは違う感覚が背から、身体全体を舐め回すように這った。

 後ろにあるのは、強大な気配。振り向けば、そこに居るのはわかっている。しかし、心が怯えて振り向くことを必死になって抑えている。

「……誰ですか」

 後ろは向かぬまま、静音は問う。

「妖術士のキズカと申します……以後お見知り置きを」

 妖術士と聞いて、心に幾分かの余裕が生まれる。油断ならないのはそのまま、先程の悪寒に疑問を抱きながらも、静音はキズカの方を向いた。

 そこに屹立するは、禍々しさを纏った少女。

「キズカ、さん? なんの用ですか? こんな雨なので、早く済ませてしまいたいんですが」

 振り向くと、視線が重なった。重なったまま、離せない。こちらを見据えるその目は、纏うものと同じ禍々しさだけがある。

「そうですね……なにからお話していいのやら。そうだ、数日前の空港制圧戦の報告、聞いてますか?」

 空港制圧の戦いがある、という話は知っていた。同じSランク神術士の優機が作戦の指揮を取ると聞いていて、話題にした覚えがある。そして、成功したという報告は耳にした。

「いちおう聞いたけど……それがなにか」

「じゃあ……あの時の犠牲者がどれくらい出たか、知ってますかね」

 詳細な話を聞いていない静音は、そこまでは知らない。

「犠牲者が出たのね……そんなに激しい戦いだったんですか?」

「優機さんと数人の神術士を残して、全員死にましたよ」

 それを聞いて、思わずカバンを落としてしまった。それ程の、戦慄。

「嘘……そんな」

「嘘じゃありませんよ。私は嘘を吐きませんから」

 その事実には、静音は確かな驚愕を感じた。しかし、この話には、引っかかる点がある。

「何故……それを今、私に、伝えにきたんですか」

「お、鋭いですねぇ。私、こんなことをお話するためにここに来たんじゃないんですよ」

 これまで得体の知れない存在のキズカは、次の一言で、

「あなたの命、頂戴しに参上いたしました」

 スイッチが切り替わったように、その表情を変える。

 小馬鹿にするように笑いながら、キズカは告げた。しかし、その笑顔は次第に遊具を前にした子供のように、無邪気なものへと変わっていく。

 同時に、殺気が周囲へ蔓延。

 何人も寄せ付けない空間が完成し、空気が張り詰める。

 その空気を感じ取っただけで、静音は今、自分がどうすべきかをはっきりと理解した。

 鮮音はもう知っているであろう雰囲気で、静音には初体験の雰囲気。

 死の気配が舞い踊る、異形(いぎょう)の場。


「起動、対象ロック」

「着装、鬼」


 その言葉が、引き金。

 二人の言葉が交差する瞬間に、キズカは風を切って飛び出した。そして、勢い任せに拳を振るうがーーその拳は空を穿つ。

 しかし、静音にはそれが見えた。

 突き出された拳から発生し、こちらへと向かう靄のような拳が。

「C、四結障壁・核!」

 静音が腕を振るうと共に、四つのビットが四角系の障壁を形成。そして、残ったビットの中で、一つだけ色が違う物。それが、障壁の中心に張り付いた。

 靄の拳は障壁と衝突。力の波を発生させ、周囲を揺るがす。

「押し返せッ!」

 瞬間、障壁の中心から押し出す形の力が発生。靄の拳を突き返そうとする。

 これは、ただのビットによる障壁とは違う。

 特注製の核ビットを扱うことで、干渉してくる力を制御することが出来るようになるのだ。

「へえ……面白い」

 着地したキズカ。ダメージが押し返されることを知ってか知らずか、にやにやと笑っている。

「でも、やっぱり足りない」

 靄の拳は霧散し、同時に障壁も消し飛んだ。

 同等の力の神術と妖術がぶつかり合った時に起きるような現象。

「嘘……そんな」

 静音の中では、その事実への納得が許せずにいた。

 四結障壁・核はSランク神術士の技二つを合わせた形、ということになっている。

 つまり、Sランク妖術士の技と渡り合えば、相手側が崩され、ダメージを押し返せるーー筈だった。

 しかし、事実は違った。

 これでは、相手がSランクを超える存在である、ということになってしまう。

「静音ちゃん、君の思ってることはわかるよ。ランクだとか打ち消し合いだとか、そういうことだよね?」

 心の内を見透かされ、動揺が生まれる。同時に、四結障壁・核の重い力のコストが身体に負担となり、のしかかった。

「ヒントだけはあげるよ。ヒントは、代償簡略化のシステムの違い、だ」

 代償簡略化。それは、術士が力を行使することに絶対必要不可欠な事柄であり、術士達が神装や妖装を扱う理由。

 神術、妖術共に、別名として代償の力、と呼ばれることがある。こう呼ばれることは今となってはごく稀だが、神術と妖術は行使する際に、なんらかの代償を必要とするのだ。

 しかし、神装や妖装はその行程をカット。その代わり、純粋な神力や妖力を扱えず、術士基準でワンランク程下がった力を扱っている。

「……それの、なにが違うっていうの」

「それは自分で調べてほしいかなぁ。まあ、それが実現出来ればの話なんだけどねぇッ!」

 キズカは拳を振り上げ、地面へ叩きつけた。

「這え」

 告げた。

 すると、地を伝って妖力が(うごめ)くのを察知。相当な力が込められているのが、静音からでもよくわかる。

 静音は三結障壁を展開。それに乗り、空中へと退避するがーー

「バカと煙は高い所が好き……なんて言うけれど、あのことわざは間違いだと思うんだ。なんたって、静音ちゃんのような秀才が、上に居るんだから」

 静音の真下で、妖力が爆裂した。先程見たものと同じような靄の拳が天へと昇りーー障壁を容易く崩す。

 足場を失った静音の身体は落下。そして、下で拳を構えて待つキズカの姿。

 そのまま落ちれば、あの拳の餌食。

 静音が落ちーーキズカが身体を捻り、拳を突き出す姿勢へと移行。そして、拳が振り抜かれ、

「C、束ね縛り!」

 伏兵のビットが糸を吐き出し、キズカの振るわれる拳を止めた。

「むう、邪魔だなぁ」

 構わないと言わんばかりに、キズカは拳を突き出そうとする。

「ちょっと威力落ちるけど、まあ」

 千切れ飛ぶ糸。同時に、拳から飛ぶ強すぎる衝撃が静音を打った。

 声になら無い声は響かず、静音の身体は地を転がり、伏せた。

 腹部を痛みが支配する。

 感情だけでもなく、痛みだけでもない。様々なものがこみ上げてくる。

「かはっ……うっ……うぷっ……」

「吐いたっていいんだよ静音ちゃん。人間誰だって吐く時もあるし、それくらい痛かったんでしょう? 美少女がゲロ吐いたって誰も文句なんて言わないから。それに、雨だし」

 静音は、吐かなかった。しかし、目からは涙を流し、口からは血が流れる。

「よく立ったね静音ちゃん。正直、まだ物足りなかったんだ……楽しませて、くれるかな」

「……お前を楽しませるために私は戦ってるんじゃない。私は、自分が生き残るために。そして、私を待ってくれている人のために、戦うんだから。だから……こんな痛み、いくらでも我慢出来る」

 勇ましい姿勢を見せながら、静音は願う。

 鮮音、力を貸してーーと。


 そこから先はーー無我夢中。

 ただ、終わりはとてもあっけなくて、痛みよりも気持ちに押し潰されそうで。

 耐えられずにーー倒されてしまった。しかし、よく見れば、道の先に鮮音らしきものが見える。

 ああ、言っておけばよかったのかなあ。

 でも、女の子同士じゃ……って、鮮音は男の子みたいなものだし、大丈夫かも。

 私、鮮音のことーー

 暗転。


 ◇


 異常だ。

 それをいち早く感知して、鮮音は倒れた静音らしき人物の元へと向かう。

 なにが異常かといえば、妖術痕と神術痕。こんなにもはっきりと、それでいて強く、残されているのはそうそうないことだ。

 駆け寄ってみればーーそこには、ぐったりとして動かない静音の姿があった。

「静音、どうしたんだよ静音、こんなところで」

 抱きかかえてみると、静音の身体は恐ろしい程に冷たくなっていた。長い間雨に打たれたからであろう。

「ほら、起きろよ静音。こんな所じゃ、風邪引いちまうぞ!」

 返答は無い。

 雨は冷たく、鮮音を濡らし続ける。

 ただーー鮮音の頬を熱い涙が、流れた。

「なんで……なんでだよ。なんで、息してないんだよぉ……」

 冷たい身体を強く、強く抱き締める。

 苦しいよ、という静音の声は返ってこない。ならば、もっと強く抱きしめれば、静音は答えてくれるだろうか。

 決定的な事実は、鮮音の行動で示される。

 心臓の鼓動が、感じられない。

「なんでだよ……こんな……」

 いつしか嗚咽が漏れ出し、涙は絶えず溢れる。

 耐えられなくなった鮮音はーー声を上げて、泣きじゃくった。

 冷たい雨が降っていても、あたたかい涙は止まらない。

 それから、何秒後か、何分後か。慟哭する鮮音に、冷酷な声が降りかかったのは。


「君も、神術士みたいだね」

「……お前が、静音を?」

「ご名答」


 静音の身体を抱きかかえ、少しばかり遠く、なにも危害の加わらない場所へ。

 そして、踵を返した。

 禍々しい白髪の少女と、視線が重なり合う。

 雨は、次第にその強さを増していた。


<Tobecontinued>

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