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神妖クルセイド  作者: いかろす
-神鬼邂逅ノ章-
6/32

五章 天邪鬼の物真似

「……どうしてこんなことしたんスか」

「できれば、優機さんのことは傷つけたくない……」

 その時、優機の中でなにかが切れた。

 (たが)の外れた思考が走る。衝動が心を突き動かす。

「会話噛み合ってないッスよ? 私の言ってることわかりますか?」

 優機の言葉は、怒気の塊だった。

 優機は、とてもよく出来た人格者だ。とても優しくーー故に、自分の中でマイナスなことは溜めてしまう。

 そして、堪忍袋の尾が切れた時、その全てが爆発する。その結果がこの豹変した優機だ。

 スラスターを噴かせ、優機の身体はレイへと近づく。

 そしてーー

「C、変換」

 ブレードへの変換と同時に、振動する刃がレイの首元に突き付けられる。

 レイは抵抗せず、ただじっと優機の方を見つめて来る。まるで、なにかを待っているかのようだ。

「さっき……任務、とか言いましたっけ? あなたの任務はここに溜まってたゴミの掃除でしょうが。それがなんで私の仲間を……仲間を……」

 優機の声は、震えていた。

 怒りと、悲しさと、失望が混ざり合って、更なる怒りを生み出している。

「……私は、与えられた任務をこなすだけ」

「ああ、そうッスか。じゃあ私も、与えられた任務をやらせてもらうッスよ。ゴミ掃除って任務をね」

 両者の間に緊張が走る。近づけば、雰囲気だけで殺されてしまいそうな空間。

 命の奪い合いを予感させる、殺気混じりの空気がメインホールを支配した。


「ごめんなさい、優機さん」

「私はあんたを殺しますよ、レイさん」


 それが、合図となった。

 優機がブレードを振るう寸前、レイは下方へのスラスターを噴かせて強引に態勢を沈めた。

「なんで私の神装使いこなしてんスか」

 無感情な声音。同時に、振っていないもう一方のブレードを振るおうとしたーー瞬間、妖装の砲塔が優機に狙いを定めた。

 この際、ガトリングを撃つことにしていればレイの勝利は確定していた。

 しかし、レイが放ったのはビーム砲。放つまでは一瞬の溜めを要する。

 優機は空中に身を投げ、空間を薙いだ光線を回避。そのままガトリング神装をレイに向けた。

 乱射。

 神力が舞い飛び、レイを狙う。だが、弾丸は地を砕くばかりでレイに当たらない。

 スラスターを噴かせてレイは移動を開始。銃口で追いかけるも、弾丸はレイを贔屓(ひいき)するようにその移動に追いつかない。

 レイはその身を宙に投げ、降り注ぐ弾丸を鳥のように空を駆けて、優雅に避ける。

 そして、空中で対峙した二人。視線が重なり合うと同時に、思考までもが重なり合う。

 接近戦の間合い。

 両者共に装備をブレードへ変換。同時に、突きの構えを取りーー衝突。

 振動する刃は両者の「力」を色濃く表し、拮抗。やがて、許容を越えた力はその空間を弾けさせた。

 両者の身体が空中へ投げ出され、近接の間合いからは遠退いていく。

 そうなれば、成すべきは一つ。遠距離からの射撃のみ。

 レイはビーム砲の砲塔。優機はガトリングの砲塔。

(マズイッ!)

 咄嗟の判断で射撃態勢から回避へ移行。全力でスラスターを噴かせ、空を駆けたーー瞬間、背後を走る光の柱。

 安堵も束の間。勢い余って下降した優機は床へ着地。同時に砲塔をレイへ向けた。

 撃つぞ、と思ったその時、視界に幾つもの光の弾丸が映った。

 死を覚悟、とまではいかない。自分の攻撃の威力は自分が良く知っている。

 ガトリングは広範囲へ弾丸がばら撒かれ、確実に当てて動きを止める、もしくは遅らせることを目的として扱っている。

 当たれば、絶対に痛い。

「それでも、好機ッスね」

 構えた砲塔はそのまま、優機はガトリングを撃ち放った。

 弾丸と弾丸が衝突し、粒子と化す。中には、交差し、突き進む弾丸も存在する。

 レイは優機の行動に驚いたような表情を見せた。

「これくらいで驚かれちゃ困るんスよ」

 優機の身体に直撃する幾つもの弾丸。その箇所に重く突き刺さる打撲のような痛み。

「っ……痛えッスよこいつは」

 何故自分が、痛みを(こうむ)っているのだろうか。

 疑問は勝手にかき消させれる。湧き上がる気持ちが鼓動を逸らせ、思考をクールに落ち着かせる。

 戦いの中にある冷静な思考の中に秘められた怒り、熱意、復讐、殺意。沸点を越えた思いは冷めることなく衝動を走らせる。

 その不快でしかない思念の海から抜け出すには、目の前で驚嘆する罪に染まった女を消さなければならない。

 銃弾がレイの身体に当たり、空中で態勢を崩した。

 その瞬間に、脚部機構から柱を伸ばして砲撃準備。

 両腕の砲塔が唸る。同時に、優機の心も逸って唸る。

「やったか!?」

 優機の位置からでは事の顛末が見えずーーその時、光の線が弾けた。

 そして、視界の奥に優然と宙に立つレイの姿。しかし、先程よりも焦りの色が表情に見える。

「ま。そう簡単にはいかないッスよね」

「……そろそろ、気分を変えましょう」

「……? 戦闘中に気分転換なんて、余裕ッスね。そんな芸当、私も出来るようになりたいッスよ!」

 砲撃。

 光の線は容赦なくレイを撃ち抜かんとーー

「着装、変換」

 突き進むが、レイは空中へ身体を投げ出してそれを回避。

 宙を舞うレイには、色違いの優機の神装は無い。

 だがーー漆黒の足場が、レイを受け止めた。

 黒い三角形の足場の頂点には、六角形の黒い物体が浮いている。

 紛れもなく、汎用提携神装のビット型。

「なんで……ビットを」

「これが私の力だから。それに、これは見ていて一度使ってみたかった」

 レイの妖装に宿る妖怪は、天邪鬼。

 天邪鬼というのは人の特徴を表す言葉として用いられる。意味としてはひねくれ者、という意味になってくるが、それを宿すレイがひねくれ者なわけではない。

 天邪鬼という妖怪は、物真似を得意とする。伝承としては声真似が象徴的だが、レイの能力はそれを拡大解釈。よく観察し理解した力を、フルパワーを出せる状態までコピーし、扱うという能力となっている。

「えっと……束ね縛り」

 三つのビットが優機に向けて滑空を始めた。そして、吐き出された黒い束ね糸が解かれる。

 しかし、ビットは元を辿れば神装であり、優機はそれを扱ったこともある。

 避けるのは、容易い。

 糸が優機に触れる寸前、強くスラスターを噴かせて身を空へ。

 同時に砲塔を向け、狙いを定める間も無く発射。

 優機の視界が金色で塞がれる寸前、焦りに表情を歪めるレイが見えた。

「今度こそッ!」

 だがーー渾身のビーム砲は、レイが足場から跳び、空へ身を投げ出すことで回避された。

 これではレイが最初にビットを出した時と状況が被る。優機はまったくもって成長していない自分自身にも腹が立ってきていた。

 レイが乗っていた足場を構成するビットは散り散りになり、戻っていた余りのビットが障壁形成で足場となってレイを着地させた。

 ビーム砲は絶えず進み、二階の一部を破壊。床面は崩れ、瓦礫が地面へと落下する。

 そこに、レイは一瞬だけ視線を投げてから、

「解き、緩め、縛り」

 と呟く。

 すると、散り散りになったビットからいくつもの糸が発射。瓦礫を受け止め、空中で止めた。

「投石」

 ビットが遊ぶように回りだし、糸も勢いをつけて回転する。

 そしてーー目にも留まらぬスピードで瓦礫が空間を駆け抜けた。

 遅れた反応が招くは、強烈な痛み。それを身体に受けたことで、優機は痛感する。

 このままでは、負ける。

 飛んできた瓦礫は頭に直撃。痛みは怒り一辺倒の思考を鈍らせ、流れる血は視界を塞ぐ。

(ダメッスね……もう)

 身体の全てを支配する脳。それを守る頭が痛覚に揺らされ、堪らず優機は地面に膝を付いた。

「……降参とか、してくれますか」

「なに言ってんスか? 殺しますよ?」

 飽くまでも、攻めの姿勢は崩さない。ネガティブへ向かうことを強制的に前へ向かせるための手段。

 しかし、身体は動かない。

「そう……残念」

 レイの周囲を遊び回るビットは総じて優機の周囲へ。

 レイはビットによる足場を降り、そのビットも優機を囲う。

 逃げ場は、優機の視界には無い。

「束ねしばーー」

「視界に無ければ作ればいいんスよ」

 その時、優機の膝をつく地面が割れ、穴が空いた。

 砲撃で、優機は穴を開けたのだ。そして、そのまま地下へ逃げ込んだ。

「っ……着装」

 レイは装備を優機の神装に戻し、高く飛んだ。それは、優機の視界外からの攻撃を避けるためだろう。

「ここらへんッスね」

 検討をつけーー砲撃。

 光の線は地を割り、空間を駆ける。向かう先は、幸運なことに、空を舞うレイだった。

「忘れてたッスよ……自分のフルパワーを忘れるなんて、Sランク術士失格ッスね」

 その声は、レイには届かない。

 レイは優機と同じようにして砲撃。同じ位の力をぶつけさせて散らせるつもりだ。

 それが、勝機。

 金色と漆黒が衝突する寸前。

「神装解放ッッッ!」

 叫んだ。

 同時に、バックパックと脚部機構が変形し、砲台が現れた。砲台は光を貯めーー発射。腕の砲台からのビーム砲の威力を更に高め、光の線は暗い空間を駆け抜ける。

 漆黒を塗り潰し、駆け抜けた先のレイを、包んだ。

 あまり喋らないレイの、悲痛の叫びすらも包み込み、塗り潰した。


 ◇


 地面に横たわる瀕死のレイを、優機はゴミを見るような目で見据えた。

「あっ……あぁっ……」

 痛みに悶えながらも耐えている様は酷く、見続けることを拒む程のもの。

 しかし、優機は視線を逸らさない。

「……なに喘いでんスか。私の攻撃で気持ち良くなっちゃったんスか? そりゃあ困りましたねぇ」

「ゆ、優機、さん……」

「言い訳は地獄とかでしてくれますかね? 私もう疲れたんスよ」

 優機は砲塔をブレードへ切り替えた。そして、完全無防備のレイを見やる。

 ブレードを振り上げてーー

「任務、お疲れ様でした」

 断罪。

「その身で償っても、まだ足りねーッスよ」

 血の花びらがひとひら、地に落ちた。

「かっ……ぁああ……」

 かすれた声で鳴くレイ。それは、優機にとってただの不快な「物」でしかなかった。

「……今日くらい、ポイ捨てしても許されますよね」

 ゆっくりと、レイの身体にブレードを突き刺した。

 地面に咲く赤い花は、地球上に存在するどんな花よりも汚く、どんな花よりも、咲くための糧が大きい。


 ◇


 全てを終えて、優機は地面にへたり込んだ。疲労が身体を包み込み、動きたくても動いてくれない。

 これが、神装解放の副作用だ。

 神装解放。それは神術士の最後の手段であり、切り札。強制的に約ワンランク分上の力を得て、一定時間の戦闘を可能とする。しかし、効果が切れた後は体力を使い切り、身体の自由がはっきりと効かなくなる。

「もし今襲われたりしたら……一溜まりも無いッスね」

 そんなことを言っていると、メインゲートの方から足音。

 やっとのことで動けそうな優機だがーー集団の足音は、もうメインホール内へ入ってきた。

「隊長! 大丈夫ですか!」

 安堵で、身体の力が抜けた。

 駆けつけたのは、神術士の援軍だったのだ。どの術士も、メインホールの惨状を見て唖然としている。

「隊長、これはどういう……」

 これは、言っていいことなのだろうか。優機は躊躇う。

 レイの言う任務とはなんなのか。それが引っかかり、優機はーー

「……私以外、この戦闘で皆死傷。とりあえずは、そういうことにさせてもらってもいいスかね」

「そ、それはどういう……?」

「意味がわからないならそれでいいんスよ。それより、まだ息がある隊員の手当を……って、もうやってるみたいッスね。じゃあ……私を、東ゲートの方へ連れてってもらえますか。連れていけるだけ仲間は連れて行きたいッス」

 隊員たちはすぐに了承。一行は東ゲートへと向かった。

 近づく程に、少しづつ増して行く感覚。それは、妖術を使用した痕跡。

 視界が開け、全てが明らかになった時ーー優機も含めた一同は、唖然とする他になかった。

 視界いっぱいに横たわる遺体。そこは戦いの後ではなく、大量殺人の現場でしかなかった。神術の使用痕がない事からもそれは確かな事実。

 死因は殴殺、絞殺が多く、武器による傷跡は見当たらない。

「一体……なにがあったっていうんスか……」

 それは、薄々わかっていることだった。しかし、認めたくない気持ちが優機の目から涙をこぼす。

 嗚咽を漏らして涙を流し、優機は静かに闘志を燃やす。決意という名の指標を胸に、空を見据える。

「絶対……許せないッスよ」



<Tobecontinued>

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