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神妖クルセイド  作者: いかろす
-神鬼邂逅ノ章-
5/32

四章 空港制圧戦

 7月6日 午後18時58分


「皆さーん準備オッケーッスかー。大丈夫なら早く隊列に付いてくださいッスー」

 神術士も妖術士も共に優秀な者ばかりで、隊列はすぐに組み上げられた。

 本格的に、戦いの幕が上がろうとしている。

(……やっぱり緊張するッスね)

 優機は、これ程の規模の作戦を遂行したことがないのだ。戦闘も、数多くこなしてきたとは言い難いし、数少ない経験もそれ程激しいものではない。

 しかし、今回の戦いに関しては、ある程度激しいものになることは誰でもわかることだ。

(私に……この部隊を導いて勝利に持っていける技量があるんスかね……)

 不安に押し負けそうになる。

 常に重りを背負わされているかのような、そんな気分だ。

「優機さん、大丈夫? もう十九時になってるんだけど……」

 レイに肩を叩かれ、そこで我に帰った。

「えっ!? ああ……ごめんなさいッス! えっと、あの……」

「もしかして、緊張してます?」

 的確に胸中を貫かれてしまった。

「はい……ちょっとだけ」

「……大丈夫ですよ。私も、居ますから」

「あ、ありがとッス」

 優機の態度を見て、レイは優しく微笑んだ。


 ◇


 メインゲートから侵入した優機一行。警戒は怠らないが、敵対者らしき者は一行に現れない。

 電気設備が全て使用不可になっており、周囲は暗い。このままでは、行動に支障を来す。

 そのため、ビットに可視化神力を灯らせ、明かりとして利用している。

 ここで部隊員を消耗させるのは得策とは言えないが、現状を考えれば妥当な判断だろう。

「まあ、この程度の消耗ならなんともないと思うんスけど……照明役はよろしくッス」

「了解です、隊長」

 部隊員は皆頼もしい。実を言うと、優機は部隊員のことについても心配している一面があった。なにせ、これまで関わったことのない人間がほとんどなのだから。

(そもそも、なんで私が部隊率いてるんスか……。こういうのはもっと適任が居るでしょ)

 しかし、現在進行形のことを悔やんでる暇は無い。この役目を請け負ってしまったのだから。

 歩みを進めて行くと、ここに敵対者が存在する、という事実が小出しにされてきた。

 砕けた壁や、焼け焦げた地面。

 明らかに、この施設では生まれない筈の傷跡だ。

「皆さん、そろそろメインホールが近くなってきたッスよ。戦闘準備は整えといてください」

 メインホール。この施設で一番の広さを誇る場所であり、優機はここが戦場の中心になると踏んでいた。

 メインホールは、この空港にある全ての利用可能施設への移動のために絶対に通らなければいけない仕様となっている。

 構造は、一階の大広間と、その壁面を一周する形の二階。それに、地下一階の三層構造。

 アクセスは東口からの道と南口からの道しかなく、それも繋がっているのは一階の大広間。これは、大広間に来た部隊が上から一気に叩かれるという可能性を持っている。それに、地下からの増援にも警戒しなければならない。

 敵勢力がどれだけの規模か不明なのが、今回は重い支障となっている。

「見回りとかが居ない辺り、あんまし敵は居ない……と思いたいんスけど」

 歩くこと約十分。一行は、メインホール前の通路に到着した。

「ビットを飛ばして偵察するッスよ。やっちゃってください」

 神術士隊の数人がビットを起動させ、メインホールへと飛ばした。

 ビットから映像を映し出す、なんて機能があれば便利なのだが、残念ながらそんなものは存在しない。

 ただの囮として、ビットを機能させる。それが戦力の消耗に繋がるとしても、総員突撃などという無謀なことをするよりは何百倍も良い。

 計二十のビットが宙を舞う。遊び回るような軌道を描きながら、メインホールの隅々まで展開。

「ここでどう出てくるかで動き方も変わってきますよ」

 沈黙。

 浮遊するビットに対し、攻撃の類は一切行われない。敵も警戒を厳にしているのだろう。

「……有能な敵で良かったッスね。おかげで侵入が楽になりそうッス。束ね糸を全て解いて出来る限り多くの方向へ糸を飛ばします。それで牽制……になるかわかんないスけど、そこで一気に侵入します。幸いにも南ゲートから二階への階段が近いので、二階に少し多くの人員を割いて一気に制圧。その前には奇襲部隊を呼んでおいて、一気に終わらせます。神術士は腕甲使いとビット使いの二人一組で動くこと。妖術士隊には一階を任せてもいいッスか?」

 レイは首肯で返事をした。

「じゃあ行きますよ……カウントゼロと同時に状況展開ッス。3……2……1……ゼロ」

 瞬間、メインホールに展開されたビット群から無数の糸が展開した。

 メインホールからは「なんだ!? なにが起きた!」というような、動揺の声が聞こえてくる。作戦は大成功だ。

「状況開始ッス!」

 優機が先導し、部隊全てが動き出した。完璧、とまでは言えないが、統率された動き。

 優機がメインホールへ足を踏み入れたーー瞬間、空気が変わった。

 殺気にまみれた薄汚い空気感。出来る限り、そんな所には居たくないと思う程でーーそのような空気は、優機の背後からも伝わってきた。

(まさか、敵の増援!? それとも……もうっ! 本当に増援だったとしても、どうすればいいかなんてわかんないッスよ!)

 変に悩むことよりも、現状やるべきと思ったことを最優先に進めるべきと判断し、優機率いる部隊は二階へと繋がる階段を登り始めた。

「Cコード、変換」

 走りながら、優機が言った。

 すると、優機の腕に装備された、ガントレット型の神装から先端を黒、それ以下が金色の柱状物が生えた。

 優機の神装は様々な顔を持っている。これはその中の一つで、柱は砲塔。

 神力をビーム砲、もしくはガトリングガンのようにして放つ物。

 これだけ見れば、優機は遠距離適合の神術士だ。

 しかし、優機の神装は様々な顔を持つ。

 自分自身を深く理解し、ギリギリAランクに留まるほどだったそこそこの才能と実力を趣味と好奇心の力でSランクまで昇華させているのだ。

「隊長! 上です!」

 階段を登り切った時、突如部隊員の声がしたーーその時には、階段の中腹で稲妻が炸裂した。

 後方へ視線を投げると、階段を無防備に走る部隊を上から狙う魔術士の集団。

 それが優機の視界に入った瞬間、優機の脚に装備された神装から柱が伸び、床を貫いて優機をそこに固定した。

 優機の脚に装着されているのは、攻撃の際にある反動に対し、安定直立を補助するための機構。

 優機の身体は屈強とは言い難い。スタミナに関しては相当なものだが、体格が小さいため、ビームを放つ際の反動が身体を大きく仰け反らせてしまう。

「この距離なら……届けーッ!」

 刹那ーー金色の光が唸りを上げ、暗い世界を照らし、標的を薙ぎ倒した。

「二階でのビットの展開を急いで! 敵は思ったより少ないッスよ!」

 ビット装備の術士隊は数人規模による結合障壁を生成。腕甲装備を後ろに連れて通路を進み、魔術を防ぎながら進行。

「よし、これで二階はなんとかなりそうッスね。ビット持ち一人は私と一緒に居て下さいね。障壁で少しの間私を守ってください」

 言われた通りに、術士は障壁を展開。下から突き上げる形のド派手な攻撃でも無い限り、優機は安全だろう。

「そろそろ来てもらいましょうか……」

 通信機器を起動させ、呼び出すのは、待機を命じられている秘策達。

「奇襲部隊、順次行動開始してくださいッス!」

『…………』

「 …………? おーい! どうしたんスか! 応答してください!」

 返答が、返って来ない。戦闘の音は大きいが、それでかき消される程奇襲部隊隊長の雑司の声は弱々しくない。

「どういうことなんスか……でも、一応は伝えたから、あとはどうにでもなれ!」

 その時、後方から殺気。

 視線を投げると、近接特化らしき魔術士達が非常用通路を使って階を移動し、奇襲を仕掛けて来た。

「なっ……そんなとこに道があったんスか!?」

 遠距離で戦うことが生業の優機は、これに対して有効な対処がーー可能だ。

 優機は跳躍した。しかし、敵の攻撃を避けるには()ぶ距離が足りない。

 だがーー優機は、()んだ。

 優機が背負う神装は、スラスター機構を搭載したバックパック。

 可視化神力を推進力に変え、それを力強く吹かせて空中での自由自在な戦闘を繰り広げられるようにするもの。神力消費が大きいことが唯一の難点だ。

 空中に身体があれば、ビームによる隙を無効にすることも可能。これもまた、優機の体格をカバーする神装となっている。

 魔術士たちの攻撃は炸裂。しかし、優機はそれを優に避けた。

「C変換!」

 そして、腕部砲台機構が変形。

 可視化神力の塊ーー超振動ブレードが姿を現した。

 遠距離での戦闘は確かに得意だが、近距離戦が出来ないとは一言も言っていない。

 空中から一気に推進。そして、斬り伏せた。

 しかし、襲ってきた全員を斬るまでには至らず、優機を守っていたビット装備術士に敵の攻撃が直撃。堪らず、術士は膝から崩れ落ちた。

 躊躇い無く優機は魔術士を斬り捨て、倒れた術士の元へ向かう。

「大丈夫ッスか!? 死んじゃダメッスよ!」

「はははっ……隊長、大袈裟すぎです。俺のことよりも、自分のことを……」

 そこで、意識を失った。

「息はある……心拍は……よくわかんないけど、大丈夫そうッスね」

 しかし、安心は出来ない。

 優機は下から術士を呼び寄せ、気絶した術士を下がらせた。

「さっさと終わらせるッスよ!」

 術士隊を追いかけ、戦闘を支援。

 防御、攻撃、支援の三点が上手く働き、効率的に戦闘が進む。

 程なくして、二階の制圧はほぼ完了した。

 優機は次の行動に移ろうとするが、その時、優機の耳に入る神術独特の推進音。

「ん?」

「隊長、ちょっとおかしなことが起きてるんですが……」

 腕甲型装備の術士が、跳躍からの二階の落下防止柵に掴まる形で乗り上げてきた。今にも落ちてしまいそうで、優機は少し不安になる。

「……なにかあったんスか」

「地下に行かせた数人との連絡が途絶えました。なにかあったと考えていいかと」

 その言葉には引っかかるものがあった。先程も、奇襲部隊が優機からの通信に応じなかったことだ。

「全部が全部上手く行くなんて思ってなかったけど……少し、気をつけた方がよさそうッスね」

「隊長も下に来てもらえると助かります。ではーー」

 術士が下へ降りようと手を離したーー瞬間、稲妻が術士の身体に直撃。その身体はなす術無く床へ落下した。

「隊長ーッ! 地下から増援、多勢ですッ!」

 この状況では重すぎる報告。瞬時の判断が出来ず、優機は頭を抱えた。

「っ……悩んでても仕方ない! 戦わなきゃ始まんないッス!」

 優機は勢い任せに一階へ飛び出した。

 辺りを見回せば、地下から現れた魔術士がみるみる内に薙ぎ倒されながらも、神術士や妖術士側を少しづつ押し始めている。

 優機はここから一気に撃ち抜いてやりたいと思うが、今のまま撃ってしまえば味方をも撃ち抜きかねない。

「もうっ! 私はどうしたらいいんスか!」

 堪らず、声を張り上げてしまう。激しい戦闘音はその声すらもかき消した。

「仕方ない。近接戦で私も……C変換」

 ブレードを展開。そして、駆け出すーー刹那、地下からの敵と戦う集団の中から黒い服に身を包んだ人間が優機の方へ向かって駆けて来た。

 その姿は、まぎれもなくレイだ。

「レイさん! どうしたんスか!」

「後ろ、見て」

 言われるままに後方へーーすると、東ゲートから現れた数人の魔術士。増援である。

 そこで、確信した。

「奇襲部隊が……やられた?」

 やられた、というのが過大な見方だとしても、増援が来たということは、奇襲部隊はここに来れない状況にあるということだ。

 隊長としての判断と、術士としての戦闘。

(どちらをーー)

 優機も、ここで深く迷う程無能では無い。

 東ゲートからの敵を虐げるのが優先すべきと判断した優機は駆け出そうとするが、

「着装、天邪鬼(あまのじゃく)

 すれ違いざまに、レイは呟いた。

 そしてーーレイの身体に、優機の神装を黒に塗り替えた物が装着された。

 迷いなど存在せず、一直線にレイは駆け抜ける。スラスターを噴かせ、加速する勢い。

 飛んで来る魔術をスラスターによる上下左右の移動で華麗に避けて見せる。

 刹那ーー漆黒の超振動ブレードが悪を断ち切った。

「なんで……私の神装を?」

 疑問を抱くのも束の間。レイは妖力と思われる力による推進力を爆発させ、地を滑るように駆け抜ける。

 そして、ブレード部を砲塔へ変換した。

 脚部の反動を抑える機構も完全再現されており、柱が床へ突き刺さる。レイは完全なる固定砲台と化した。

 そしてーー撃った。

 敵味方関係なく、撃ち抜いた。

「……あれ?」

 見間違いではないか、とも思った。しかし、レイの行為は全て現実のもの。神術士も、妖術士も、魔術士も、そこには倒れている。

 集団の中に動揺が走った。それは、優機の思考にも伝染し、動揺が思考を支配する。

 呆然と、見つめてしまっていた。

 レイはブレードへの変換を行い、集団の中へ飛び込んで行った。

 そしてーー斬り刻む。

 立っている命も、転がっている命も、躊躇いなく刻んでいく。

 舞い踊るような、殺戮。

 それに見惚れていたのかもしれない。優機は、そこから一歩も動けずにいた。

 どうすればいいのか、考える。しかし、思考は走らず、脳の処理が追いつかない。

 そして、全てが終わったその時、一つの言葉が口から勝手にこぼれた。

「……なにやってるんスか」

「…………任務」

 見つめ合う二人。

 沈黙が、世界を支配した。


<Tobecontinued>

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