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神妖クルセイド  作者: いかろす
-神鬼邂逅ノ章-
22/32

二十章 顛末と安らぎ

 空港制圧戦は、想定の何十倍も犠牲が少なく終了した。もちろん負傷者は想定以上だが。

 様々な事後処理があり、それを終えてからは国の上層部で今後に関する議論が行われた。

 妖術士が敵対し、こちらへ危害を加えて来たことへの対処。厄災バランスの存在と術士の数を減らすか否かということ。

 結果的に、妖術士はすべからく敵として扱うことと、厄災バランスへの配慮として多くの人員削減が神術士の下層部で行われることになるのだがーーそれは、秋になってからの話だ。


 ◇


 残暑の日差しが窓から入り込む中、秘李と昏人は一人の少女と対面していた。

 否ーーその少女は、見た目からは想像することすらバカバカしいほど年齢に差がある。

 妖術士、ローリエ。

 でいだらぼっちの力を扱う彼女は、力を使っていない場合に幼女になってしまうのだ。

 ピンク色のツインテールに、今日は見た目相応の服に身を包んでいる。いつもは変身後のために大きい服を着ているのだが。

 ソファに座るローリエの態度は酷く悪い。親の顔が見てみたいものだが、そう思ってしまうのは見た目がちんちくりんだからだろうか。

 雑念を捨て、本来の目的に秘李は集中することにしたーーつもりなのだが。

「あんた、その見た目でブラックコーヒー飲むのね……」

 思わずツッコんでしまった。

「むっ、あたしの見た目にとやかく言わないでもらいたいね」

 それを聞くと、横の昏人が口を挟んできた。

「捕虜の分際でなーに言ってんだか」

「うっさい昏人チャン! あたしはこれでも被害者だよ!」

「……被害者、か」

 ローリエは空港制圧戦の時に突如現れて昏人に加勢し、そのまま術士の集まりに付いて来たのだ。

 間違いなく、この幼女のような彼女には面倒な事情が絡んでいる。

「ローリエ、簡潔にでいいからなにがあってこうなったのか教えてくれる?」

 ローリエはカップのコーヒーをグイッと飲み干して頷いた。

「どこから話すかな……戦いが起きる前くらいに妖装がブッ壊されたって話があっただろ? それから少しして妖術士は集められたんだよ」

 行方を眩ました妖術士たちはバラけたわけでなく、未だ完全に繋がっているということだろう。

「そこで千羅が言ったのは……妖術士は独立勢力と化し、何者にも邪魔されない暗黙の正義を行う、みたいなことだったかな」

 暗黙の正義。しかし、今回敵対勢力として現れたフィメルとセツユキは一方的に攻撃を仕掛けて来た。正義とはほど遠い行為である。

「ふざけてるわね。千羅のやってることのどこに正義があるっての」

「話は最後まで聞け。千羅の行う正義には魔術士の排除も入ってる。そこの点では神術士ともやることが一致してるんだ。ただ、神術士も減らせって言ってるのが一番の問題でね。あとコーヒーおかわり」

 おかしな話だ。神術士が減れば、厄災バランスへの影響があるかもしれない。まさかとは思うが、妖術なんてものを従える人間でありながら厄災バランスという事象を信じていないのかも。

 ただ、神術士の存在が無くなれば妖術士の存在は大変な価値を持つだろう。

 千羅がその勢いで国のトップに立ち、国の舵取りでもするのだろうか。そんな野心があるような人間だった覚えはない。

「んーっ……わっかんないわ」

「……魔術士も排除して、神術士も排除して。そうなりゃ、独立した妖術って力が最強。日本どころか世界を従えましたーって、出来すぎたシナリオだな」

 昏人が語ってみせたそれは、案外的を射てそうなシナリオだ。

 術を扱わない戦闘なら技術力のある日本が有利となるし、妖術の強さが際立つ。

「案外そんなもんなんじゃない? まあ、考えたって仕方ないことだけどさ。……核ミサイルが抑止力になるいつぞやの時代と違って、今は人がミサイルに成り代わってるわけか。嫌な話ね」

「ガッハッハ。人がミサイルか。面白いことを言うなぁ」

 ローリエの言葉に、秘李はため息一つ。

「全然面白くないわ。それよか、あんたの妖術士トンデモ騒動の続きを聞かせてよ」

「トンデモ騒動って……あたしこれでも結構困ってんだけど。まあ、なんやかんやあってあたしとフィメルたちは空港の戦いに駆り出される。バラバラに行動するってのがラッキーで、あたしはなんとか昏人チャンに合流。そのまま逃げてこれたと」

「ふーん……ローリエはなんで逃げてきたの?」

 問いかけると、ローリエは顔をしかめて首を傾げた。どこからどう見ても答えに迷っている仕草だ。

「……あたしは、あたしの思う悪だけに力を使ってきた。でも、神術士と戦うってなったときにあたしには神術士が悪には思えなかった。だから、こっちに来た」

 不安そうな顔でコーヒーを啜るローリエ。

 対して、秘李は勢いよく立ち上がってローリエの頭を撫で回した。それも、髪がボサボサになるくらい豪快に。

「了解した! あんたの身柄はこっちで丁重に保護する。信念を曲げないその行動、敬意を称するわ」

「本当か! 良かった……正直、どうなるか不安だったんだ。まさか、職を失うなんて被害に会うとは思わなかったしな」

「あ、保護とは言ってもちゃんと働いてもらうわよ。肉体労働ね」

 がっくりと肩を落とすローリエを尻目に、秘李は考える。

 ーー結局、なにが目的なんだか。

 国家組織から一転、世を暗躍する術士集団と化した千羅率いる妖術士。

 千羅は、なにを思ってその決断に至ったのだろうか。比較的近くに居た秘李にも、それはわからない。

 人ある限り、戦は無くならない。

 それをわかっているから、秘李はこの状況も仕方ないものとは思っている。

  とはいえ、一つの国が手綱を握って平等を作り上げているのに、どうして戦の火種がどこぞから出てしまうのか、と疑問が生まれているが。

 そんな大スケールなことを悩んでも、秘李にはなにも変えられない。

 今は、目先の案件を片付けるべきなのだ。


 ◇


 一番に思ったのは、心配して損したということだ。

 先の戦いで邁華の腹にはセツユキの放った氷柱が突き刺さった。

 細い氷柱で、かつ処置を素早く行えたので命に別条は無いという。だが、薙姫は心配せずにいられなかった。

 しかし、病室で会うと、そこには元気いっぱいの怪我人が居たのだ。

「……邁華は強いですね」

「そうですか? ありがとうございます! でも薙姫さんほどじゃないですよ」

「お世辞はいりませんわ」

 薙姫はキッパリと言った。もちろん、そういった意味で言っていないのはわかってはいるのだが。

「いやいや、そんなんじゃないですよ。お医者さんにはあんまり怪我しないでくれって言われたし、もっと強くならないと」

「怪我をしないで……どういうことです?」

 術士の派手な任務には怪我は付き物。それをしないでと言われるのは、中々辛い話だ。

「今回の処置ですこーし血が出過ぎたとかで、輸血することになったんですよ。でも、珍しいタイプの血らしくて大変だったとか」

「へえ……それなら私が用意させますわ。なんたって、邁華のことですもの」

「えぇ!? いいですよ、そんな!」

「今回のことで、私は邁華を気に入りました。戦う前とその最中でここまで成長した人間は初めて見ます」

 邁華は頬を染めて顔を俯かせた。

「自分だけの強さを持って、それを圧倒的な力を前にしても振るえる。それは本当に強い人間が出来ることですから。あなたは、自分の強さを誇っていい」

「そ、そんな……私はそんなんじゃないですよ。それより、私が気絶しちゃった後のこと、聞かせてもらえませんか」

 邁華に言われて、薙姫は戦いの顛末を話すことにした。

 邁華が気を失い、場は薙姫とセツユキの一対一に。そこで薙姫も神装を解放し、戦場を破壊しかねない程の激闘を繰り広げた。

 その破壊の大部分はセツユキが起こしたもので、最終的にはセツユキが劣勢に。

 そこに颯爽と現れたヨイカゼという少女。

 突如として巻き起こった竜巻のように場を荒らしたヨイカゼは、セツユキと共に撤退して行った。

 その時点で大半の戦闘は終了。事後処理が残った。

「動けないあなたを庇って戦うのは大変でしたよ」

 嫌味のように薙姫は言った。

「はは……すみません」

「これからは、捨て身は確信を持ったときに使いなさい。とは言っても……捨て身なんてしなくていい世界が、一番良いんでしょうけど」

「……薙姫さんらしくないこと言いますね」

「ふふっ……この時代に狂戦士(バーサーカー)は似合いませんもの」

 薙姫の笑顔は、なに一つ汚れのない純粋な笑顔だった。


 ◇


「疲れた……」

 鮮音が言えることは、とにかくそれだけだった。

 重責や、変態との遭遇は鮮音の身体だけでなく、メンタルにも圧をかけていた。しかし、変態の件はおまけのようなものだ。

 綾の腕の件は、自分ではどうしようもないことだ。鮮音には医療の知識などない。しかし、未然に防げたのではーーなど、考えてしまう。

 色々な思いの入り混じったため息が出た。その頃には、鮮音は帰るべき家の前に辿り着いていた。

「おかえりっ!」

 その瞬間、家のドアが開いて満面の笑顔の響歌が出迎えてくれた。屈託のない笑顔には、癒されるばかりだ。

「……ただいま」

「元気無いね。……当たり前か。早く入って入って!」

 今は自分の家だ。ためらい無く玄関に上がり、靴を脱いで廊下へーーその時、なにもない場所でつまづきそうになる。

 疲れているんだな、と心の中で納得しながら、倒れこむ。だが、柔らかい感触が鮮音の顔を包み込んだ。

「っと、大丈夫? 本当に疲れてるみたいだね」

「……柔らかいな」

 率直な感想が出てしまったそれは、響歌のそこそこ豊満な胸だ。自分の胸では出来ない芸当である。

「そんな直球に言わないでよっ、恥ずかしいじゃん!」

 高まる声音と共に、響歌は鮮音をキツく抱きしめてきた。胸に押し付けられて、良い気分なのに苦しい。

 その旨を訴えると、うへへ、と笑いながら響歌は鮮音を解放した。

「でも……ここは安心出来るな。居心地がいい」

「そいつは良うござんす」

「本当に……一緒に居てくれる人が居るっていうのは幸せだよ」

 ぼやくように言うと、響歌は後ろから鮮音を抱きしめた。本当にスキンシップが多い。

「あたしが一緒に居るのに、そんなさみしそうな顔しないでよっ。さあ、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」

「ちょっと休みたい。……響歌と一緒にな」

「喜んでっ! じゃあ服脱いで」

 突然の申し出に、鮮音は振り向いて二つ返事の後に響歌を二度見してしまった。

「服を!?」

「ラフな格好になりなよーってこと。ここは鮮音のホームなんだよ?」

 もっともである。さっさと服を着替えて、鮮音はリビングのソファにどかっと座り込んだ。

 その横に響歌も座り込んだのだが、

「あっ、今紅茶淹れるねー」

 と言って、すぐに立ち上がってしまった。

 そこまでしなくてもいい、と断ろうとしたのだが、響歌は言っても聞かなそうだ。

「……響歌は優しいんだな」

「んー? なにか言った?」

「いや、別に……」

 そこで響歌の方を見たとき、気づいた。響歌は既にパジャマ姿だ。それに、響歌のお風呂の時間が早いのは鮮音も知っていた。

 ーー待っててくれたのか。

 今日の鮮音の帰宅時間は、決して早くはない。それでも、響歌は一人帰りを待ってくれたのだ。

 感極まって、顔が熱くなるのを感じた。

「ティーバックでごめんねー」

 そこで、響歌がダイニングから戻ってきた。

 紅茶をテーブルに置いて、ソファに座り込んだときに鮮音の方へと視線を向けてくる。

 反射的に、顔を逸らしてしまった。

「どしたの? 紅茶ダメだった?」

「……私のこと、待っててくれたのか」

 きょとんとした表情で鮮音を見ていた響歌は、すぐに笑顔に変わった。

「うん、そだよ」

 さも当たり前かのように響歌は言う。

 その笑顔は凄く可愛らしくて、凄く憧れてしまう。

「……優しいな、響歌は」

「ど、どしたの急に? って、顔赤くしちゃって! かわいいなぁ」

「……こんな優しさ、初めてかも」

 顔を覗き込まれるのが恥ずかしいので、顔を俯かせてみる。すると、響歌は床に座り込んで鮮音の顔を更に覗き込んできた。

「……惚れた?」

 なにも言えない。自分の気持ちがはっきりと理解出来なかったからだ。

「じゃあ、疲れは吹っ飛んだ?」

「これだけで疲れがとれるなら、笑えちゃうな」

「そりゃそうだ! なんか嫌なことあったんでしょ? 顔を見てればわかった。あたしに話して楽になるなら、そうして」

 鮮音には簡単に惚れた割に、響歌も相当な女たらしである。


 色々話したが、なにを言っても結果論だということに話は落ち着いた。なにも思わないことは問題だが、考えすぎて引きずってしまうのもまた問題だ。

 その後、響歌の手作り料理。めちゃくちゃ美味しかった。

 響歌と一緒にお風呂。二度目のお風呂で悪いと思ったが、響歌はなんだか嬉しそうだった。

 そして響歌と一緒に寝た。


 ◇


 血だまりの中心に立つ少女が一人。

 綺麗、とは少しばかり言い難い白の髪。返り血で汚れている。

 白い肌も、衣服も、返り血が付着している。

 そして、血とは一切関係ない赤が、少女の頭から生えていた。

 角だ。血のように真っ赤な角。

 影だけ見れば、鬼のそれだ。

 少女ーーキズカは虚空を見上げ、憂う。

 そして、笑った。

「……もうそろそろ会えそうな気がするね、鮮音ちゃん」


 全ての空港が制圧されたという話がニュースに上がったのは、その明後日のことだ。


<tobecontinued>

「ラブラブじゃねーか!」と思ったあなた、書いてる私も思ってたのでだいじょーぶです

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