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神妖クルセイド  作者: いかろす
-神鬼邂逅ノ章-
17/32

十五章 動乱の戦場

 鮮音たちの部隊は、順調に魔術士を撃退していった。順調すぎて怖いくらいである。

 それにはちゃんとした理由がある。それは、今回投入された新戦力によるものだ。

 これまで汎用提携神装は腕甲とビット、近接と支援もしくは遠距離の二種類に限られていた。

 しかし、今回は新たに腕甲を扱いながら三つの簡易形ビットを操り、盾を展開することが可能になったのだ。

 これにより、一人一人の防衛性の向上と、多人数連携による更なる防御が可能となっている。

 そうなることで、三人一組での活動がより活発的に攻めて行けるようになったためである。

 それに、盾は防御のためだけにあるわけではない。

「鮮音隊長! 右方向から結構な人数来てます!」

 まだまだ余裕を残しながらも、綾が告げた。

「なら盾のやつ頼む!」

 鮮音が指示した盾のやつというのは、盾を利用した攻撃である。

 綾は自らの眼前に、出来る限り横幅を広くした盾を形成。そして拳を固く握り締めーー盾の中心にストレートを叩き込む。

 鋭いその一撃は身を守る筈の盾を吹っ飛ばした。拳の勢いを載せた盾は武器となり、集団に直撃。

 前方の数人はそれを喰らい、その場から大きく仰け反る者や吹っ飛ぶ者まで。

 普通ならこれで足止めになるのみ。上手くいけば気絶させるくらいは出来るかもしれないが、それは中々望めない。

 しかし、この三人一組には鮮音が居る。

 率先して前に出た鮮音は、両手に構えた刀を横薙ぎに一振り。

「C、蹴の太刀!」

 高らかに告げられた声と共に、鮮音の剣閃が金色の弧を形どった。

 その弧に蹴りを叩き込めば、それは神力の衝撃波となる。数人まとめて一気に撃退してみせた。

「よぉし! 連携決まったね鮮音隊長!」

「ああ……でも、流石に多すぎやしないか? 倒しても倒してもどっかから湧いて来て……うざい」

 無数に、というわけではないーーと信じたいが、魔術士はこの戦場を埋めている。

 地に倒れ伏せて戦力外と化した者が増えているのに、戦力となる魔術士の数はそれほど変わっていないのだ。

 秘李が居れば面倒だと言うに違いないこの戦場。

 しかし、数の暴力はそれ程鮮音たちに被害を与えられていなかった。それどころか、魔術士を蹂躙していると言っても過言ではない。

 鮮音は前にも魔術士と戦闘したことがある。その時も思ったが、個々の戦力は低い。数が増えればたしかに脅威ではあるが、今回はこちらも多人数。

 それに、鮮音は今回、自分の意識の変化を戦うことでひしひしと感じていた。

 キズカとの戦い。それが鮮音の中での一つの基準点になっているのだ。

 この戦いや、魔術士一人から数人までを見ても、全てにおいてキズカには劣っているという意識。

 それが呼び起こすのは、こんなもの越えられなくてどうするという自分への課題。

 いずれ、キズカをこの手でーーと、決意したのだから。

「鮮音ちゃん見てアレ!」

 突如綾が声を上げたと思いそちらを見ると、綾は空中を指差してなにかを示していた。

 速く速く、と急かしてくるので視線を投げてみるとーー人が、浮いていた。

 神術士が戦闘の中で飛び上がったのならわかるのだが、あの飛び方は明らかに下から吹っ飛ばされたような飛び方である。

「あっちは……メインゲートの方だ。てことは昏人さん?」

 昏人ははっきり言って只者ではない。男性でありながらSランクというそれだけでも頭一つ抜けた特徴を持っていながら、Sランク神術士の中でも飛び抜けた強さを持ち合わせている。

 それはもう人を軽く空まで吹っ飛ばすくらいに。

「へえーっ。化物なんて呼ばれてるのも頷けるかも」

 並大抵の神術士は、昏人の強さに憧れるものだ。

 しかし、実を言えば昏人は最強の神術士ではない。本当に最強の神術士の存在は昏人ほど有名ではなく、その存在を知っている者は知っているからこそそれに憧れようとしない。

 何故なら、並大抵の人間が辿り着けるような領域にその人ーー彼女は、居ないから。

「本当の化物は……あの人だと思うがな」

 聞こえるか聞こえないかくらいの声で鮮音は呟いた。

「ん? どうかしたの?」

 綾にははっきりと聞こえていなかったようで、呟きの内容を問いてきた。

「いや、別になんでもなーー」


「ハッハァッ! 神術士もこんなもんか!」


 その時、陽気な男の声が戦地に響いた。

 声の方へ視線を投げると、金髪の男が楽しそうに腕に雷を纏わせて暴れ回っている。

 金髪の男と戦闘している三人一組は、盾を形成し電撃を防いだ。

「こんなもんかって言ってんだッ!」

 瞬間、雷を纏った男の手刀が盾を割ってみせたのだ。同時に、腕から電撃を放ち、それは三人の神術士に襲いかかる。

 二人は少々のダメージを受けながらも回避。しかし一人は態勢を崩してたたらを踏んだ。そのまま金髪の男に首根っこを掴まれーー

「終われよ」

 雷撃が走る。

 解放された神術士は、その場で膝から崩れ落ちた。

 それを見ていた鮮音は、

「行ってくる」

 一言綾に言い残し、駆け出した。

「えっ!? ちょっと鮮音!」

 綾の声も聞かず、鮮音は戦場を駆け抜けて跳躍。同時に腕甲による推進力を噴かせることで空中を舞った。

 見据える先には金髪の男。潰すべき対象を捉えた鮮音の行動は早い。

 前方へと推進力を噴かせて鮮音は空中で静止。空かさず隙だらけの金髪の男に蹴の太刀を叩き込んだ。

 金髪の男は直撃の寸前で神力の衝撃波を確認。電撃噴き出す手の平を突き出して衝撃波を受け止めた。

「っ……俺の電撃で止まらねぇ!」

 電撃により威力減退された衝撃波が金髪の男に降りかかった。

 着地した鮮音は周囲からの攻撃に警戒しつつ金髪の男目掛けて直進。

 間合いに入ったことを見極めて、一閃。

「っぶねぇ!」

 見立てが狂っていたようで、金髪の男に刃はギリギリで届かず終わった。

「運が良いみたいだが、次は斬るッ!」

 もう一方の腕甲を刀に変換し、鮮音は暴れる獣のごとく刀を振るった。

 その一振り一振りは、上手く金髪の男には躱されてしまっている。だが、周囲に居る魔術士を斬っていた。

 金髪の男が避けることで、他の魔術士が切り伏せられていく。

 それを目にした男は、怒りを露骨に顔に映して鮮音の元へ。振るわれた刀を電撃の腕で受け止めてみせた。

「仲間が死ぬのは許せねえ……雷光のメロ、貴様を討たせてもらう」

「魔術士にも少しは出来るのが居るみたいだが……そのカッコ悪い二つ名はどうにかしといた方がいいんじゃねえか?」


 ◇


「数を減らしてーなんて軽く言っちまったが、ちょっと多すぎやしねえか!」

 数え切れないほどの軍勢を前にして、昏人は頭を掻き毟りながらぼやいた。

 ぼやきたくなるのも当然だ。昏人が率いる部隊の二倍、もしくは三倍以上の人数が敵として群れを成しているのだから。

「昏人隊長! ぼやいてないで働いてください!」

 今、昏人は前線で頑張っている者たちを後ろで見ているだけだ。これにも状況をしっかり理解するためという理由があるのだがーー

「あいよ。俺はやっぱこっちのが性に合ってるわ」

 やはり、昏人の真髄は戦ってこそ現れる。

 昏人の個提携神装は腕甲型。汎用形に多くの改良を加え、神力を多く載せた攻撃を放つことが可能になっている。

 前線まで歩を進めた昏人は、拳を鳴らしながら辺りを見回した。

「まずは景気付けにーっと」

 そこらに群がる手頃な魔術士に向かっていき、意気揚々とその男の髪の毛を掴んで手繰り寄せた。

 男はひどく怯えている。戦いに赴いているとは思えない形相だ。

「んな顔されたら罪悪感湧いちゃうなぁ。まあ……攻めてきたのはお前たちだから、悪く思うなよッ!」

 渾身のアッパーカットが男を空まで吹っ飛ばした。

 その場に居る誰もが、飛ばされた男に視線を向ける。やがて男の体は力なく地面に落下。

 そして、視線は自然とそのアッパーを放った男へと向けられた。

 誰もが思った。あいつは、ヤバイと。

「おぉう今日は調子いいぜ。さーて、動きますか!」

 恐怖は、戦場において強大な武器となる。

 圧倒的な力を見せつけることで、その者には勝てないだろうという恐怖が植えつけられる。さすれば、戦意は確実に減る。

 昏人は大胆に駆け出し、拳を構えた。しかし、魔術士たちは強張って攻撃をしてこない。

「おめーら、戦いにゃ向いてねえよ」

 一撃。

 突き出されたストレートが生み出した大きな衝撃が、数人の魔術士を逃れようもなくブッ飛ばした。

 一度拳を振るえば人が飛ぶ。

 二度振るっても人が飛ぶ。

 その拳に載せられるのは、昏人の腕力と神力だけではない。経験値も、その一撃に拍車をかけているのだ。

 正に一騎当千。昏人の勢いは留まることを知らない。

 それでも、敵は多すぎた。

 こちらで処理し切れず、鮮音や薙姫たちの方へも流れ出ている可能性が高い。

 昏人たちの比較的規模の大きい部隊で処理しきるつもりなのだが、このままでは全体への負担が向上するばかり。

 どうにか解決しなければならない状況。しかし、ひっくり返せるだけの材料が足りないのだ。

 なにか、なにかないかーー


「ガハハッ! 楽しそうなことしてるじゃん昏人チャン! あたしも混ぜてよ!」


 随分と可愛い声だ。ガハハ、なんて笑い声は似合わない。

 その声の主は、今まさに空中を舞っていた。

 ピンクの髪を結わえたツインテールに、出るところは出て締まるとこは締まったナイスバディ。

 手に持つ物はハルバード。それを大仰に構えてーー

「ウラァーッ!」

 落下。

 その地点を囲む何人もの人間は容易く薙ぎ倒された。

 昏人はその女を知っていた。少なくとも、こんな女は世界中探しても中々居ないだろう。

「お前……ローリエじゃねえか! 妖術士がなにしに来た!」

「うーん……それは言えないな。その代わりってわけじゃないけど、この乱戦に加担してあげるよ。利害は一致してるだろう?」

 この数日で謎めいた存在へと成り果てた妖術士との出会いに、昏人は若干であるが戸惑っていた。

 本来なら、頼るべきではないのかもしれない。色々と問い詰めるべきだ。しかし、勝機を掴めるならばそんなことを気にしていられる余裕も無いだろう。

「……仕方ねえ。全部終わってから問い詰めてやる」

「よしオッケー! じゃ、暴れますかね!」


 ◇


 雷光のメロとかいう男は鮮音が容易く切り伏せてしまった。

 事は思ったより順調に進み、鮮音の部隊はそれほど時間をかけずに戦闘可能の魔術士を減らしてみせた。

 そこで結界維持隊を投入。ビットによる拘束で数人まとめて縛っていく。

 そうしてその場の制圧はほぼ終了。戦闘出来る者を数人残して鮮音たちはサイドゲートから中へ突入していった。

「いやぁ戦える奴らはスゲーよな」

 結界維持ーーもとい、拘束部隊の一人が呟いた。

「俺たちはあそこまで運動出来ねーもん。どうすればあんな動き出来るんだか」

「中でも隊長やってる……鮮音ちゃん、だったか。飛び回って戦ってんのは見応えあったよな! 違う世界生きてるのかと思ったぜ……」

 既にこの場では神術士同氏の雑談が始まっていた。どこかから魔術士が寄って来ても、この人数では相手も逃げて行く。闇雲に来ても簡単に撃退出来てしまうためだ。

「けどさぁ……最近、なんかおかしいと思わねーか?」

 一人の神術士が声を上げた。すると、それを聞いた数人は頷いてみせた。

「妖術士のこととか、この戦いが早まったこととか……」

 おかしいと思う理由まで話せば、その場の全員が頷いた。

「俺たちどうなるんだろーな……」


「うーん……どうなるだろうねぇ」


 その時、この場に居る者の誰もが聞きなれない可愛らしい声が返事を返した。その声の方に視線は向けられーーそこには、女の子が佇んでいた。

 奇抜な緑のストレートヘアが悪目立ちしており、自然とそこに目がいってしまう。服装は白のワンピースに黒のカーディガンと可愛らしく、脚はニーハイソックスで隠されている。

 はっきり言って、美少女だ。

 彼女を見て、一人の男が声を上げた。

「か、かわいいな……」

 それを聞いた途端、少女は目を輝かせて飛び上がった。態度や表情が全力で嬉しそうなのを表している。

「嘘! ボクかわいい!? やったーっ! 皆さん良い人たちですね!」

 彼女は直前までの悩みなど簡単に吹き飛ばしてしまった。ある意味ではどんなに強い術士の攻撃よりも、可愛らしさというのは最強の攻撃手段なのかもしれない。

「えーっと……鮮音ちゃんって人はここに居るかな?」

 きょろきょろと少女は辺りを見まわす。その一挙一動が女の子らしさを兼ね備えており、わざとやっているのではないかと思わされるがーーやはり可愛い。

「うん、居ないみたいだね。だってここにはかわいい人が居ないもん」

「あ、鮮音ちゃんになにか用? なにかあるなら僕から伝えておくけど……てか、君は何者? 部外者はここにはーー」

「あー、別にいいです。ボクが会わないと意味ないですから。それに、あなたたちにも用がありますし」

 声のトーンを低くして告げた彼女は、カーディガンの右袖を捲り、白い肌の華奢な腕を晒した。

「着装ーーーー」

 まさか、この少女が全てを食い散らかして行くなんて、誰も思うまい。


「はぁっ。鮮音ちゃんは中に行ったのかな? 早く追いかけないと!」

 少女は足早にサイドゲートから中へ。

 少女のワンピースは、いつの間にか赤い水玉模様が数え切れない程描かれていた。


<tobecontinued>

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