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神妖クルセイド  作者: いかろす
-神鬼邂逅ノ章-
12/32

十一章 招集

 澄んだ青空が広がる昼時の、国会議事堂前。

 議会を終えた議員が疎らに見えるそこで、一人の女がタバコを吹かせていた。

 黒のショートヘアは少しばかり地味な印象を持たせるが、身につけた黒のスーツと合間って、クールな印象を持たせる。

 しかし、タバコを吸っていることが別の意味でクールな印象となっており、だらしない大人の一例となってしまっている。

 気だるそうな表情のそんな女が、日本を支える巨大な柱の一つ、神術士という存在の上に立つ者だとは、聞かなければ誰でも理解出来ないだろう。

 彼女の名は秘李(ひめり)。神術士の総指揮官であり、国の中でも高い地位を持つ。

 空を眺めながら、秘李は煙混じりのため息を一つ。

 気だるそうな態度はいつものことなのだが、今の秘李は気分を落としている。

 ただでさえ、今は色々と抱え込んでいる時期だというのに、先程の議会でまた色々とーーそれもわかっていることが大半ーー言われてきたからなのだ。

 魔術士の問題が、その色々である。

 空港制圧を迅速に。

 それは兼ねてから考えていることだが、今は抱え込んだ厄介事の処理で頭がいっぱいだ。

 日本を跋扈する魔術士について。

 それは西の妖術士にだけ言ってくれ。神術士はちゃんと働いている。

「はぁっ……千羅め、ずーっとニヤニヤしてやがって。真面目にやってんのに怒られるこっちの身にもなれや」

 基本、神術士と妖術士の問題は連帯責任となっている。そのため、妖術士側がなにかやっていればついでに神術士側も怒られる。とは言っても、直接怒られるのは総指揮を務める者だけなのだが。

「ったく……あのおっさん、戦えもしないくせに、指図はしてくる。当たり前のことだけど……まあ、鎖国の判断をざっくり決めたってことぐらいは評価してやってもいいか」

 鎖国。

 かつての日本が江戸の時代にやってのけた、他国との繋がりをほぼ断ってしまうという荒技である。

 それを、技術発展を遂げて、自国だけでもやっていけるようになった日本がわざわざやる理由はーー魔術士の存在にある。

 どれだけバカだからといって、なにかあってからでは遅いのだ。現時点で、魔術士に襲われたことによる犠牲が出ている。

 空港による他国との繋がりを避け、ほとぼりが冷めるのを待つ。

 領海、領空への監視と攻撃網の展開で、完全なる孤立国家になる準備を進めている。

 後先を考えない政策ではあるが、現状をなんとかするにはこれがベスト。それに、秘李はこの政策に乗じて、内輪にある大きな問題の対処に当たろうと考えていた。

 その問題とはーー

「こんな所で愚痴ってたら、そのおっさん共に聞かれちまうぞ?」

 その時、秘李に向けられた男の声。覚えのあるその声に振り向くと同時に、秘李は顔を歪ませた。

「げげっ……こ、これはこれは国防長官様。お声がけ、光栄の至り……」

「なに言ってんだ気持ち悪い。そんなキャラじゃないだろあんた」

 スキンヘッドに強面サングラスの、明らかに一線越えた世界を歩んでいそうな人。そんな見た目ながら、彼はこの国の国防長官を務める男なのだ。

「……レディのジョークにも付き合えないの? 本当に政治家ってのは頭が硬い。んで、なんの用?」

「いや、ちょっと聞きたいことがあってな……妖術士が変な動きを見せてるって噂、どこまで本当なんだ?」

「それは……」

 言いかけて、秘李は周囲に視線を向けた。その先に、人はほぼ見えないと言っていい。

「ま、聞かれても大丈夫かな……。どこまで、なんて無い。全部マジよ」

 その言葉に、国防長官は頭を抱えた。

「そうか……そのこと、詳細に教えてくれないか。俺の役職的に、それは知っとかなきゃいけないことだからな」

「詳細? そんなもん、一言でも済むわ。あたしの下から犠牲が出てる」

「それは把握してる。空港での……」

「それだけじゃないの。完全に意図的な殺人が起きちゃった」

 静音の一件、妖術士の仕業と知っているのは神術士の中でも数少ない。そのため、国防長官という神術士の外側の存在は、知る由もないのだ。

「なっ……そんなん知らされてないぞ!」

「声が大きい! ……内輪だけでどうにかしていい問題じゃないのはわかってる。でも、まだ世に出すべき問題じゃない」

「いや、それは……」

「あんたそれでも国防長官? 魔術士とかいうバカテロリストがもし爆発的に行動を始めたと仮定する。そんだけでも日本は大混乱よ。そんな中で妖術士が云々の問題が大きく発展したら、西は崩れるわ」

「いや……西だけの問題じゃ済まないかもな。とにかく、魔術士以上の不安要素は国民に見せちゃいけない、か」

「神術士も妖術士も、絶対正義。どんな行動であろうと、その先には平和を求めてまーすってことで、国民には勘違いしてもらうしかない。騙すようで悪いけど、印象操作も仕事の内ってね」

「……国民も、政治家も、思ってる以上に日本って国は危ねーんだな」

「神術妖術を理解してないと、その危ねーがどれだけの危ねーなのかわかんないわ……胸糞悪い話。あたし、人を騙すのは好きじゃないの。話を戻しましょう」

「妖術士がちゃんと働いてないってのは、具体的にどれくらい働いてないんだ?」

「ゲームの雑魚敵みたいに街をうろちょろしてはブッ飛ばされてるような魔術士にも対応が遅れてる。国の方針ではさっさと終わらせろってことなのに、明らかにあいつらやる気無いわ。空港の件も、一個制圧して見せてあと二つはあたしたち神術士に任せっきりだし」

「それで戦線保ってるんだから神術士スゲーよ……。もう軍隊じゃ敵わねえな」

「凄くなんかないわ。軍が日本を守ってくれる世界なら、どれだけいいか。術なんてもん……いや、妖怪とか神とかのおかげで、もう世界のバランスはメチャクチャね」

「まったくその通りだ」

 話題も尽き始めたころ、国防長官は次の仕事が、ということでその場を後にした。

「……そろそろ、始動時かね。皆集めて、言うだけ言っとかないと」

 その時、携帯が電話の着信を告げた。

「んっ……珍しいな。もしもし?」

『もしもし、秘李さん? 』

「おーどした? 電話かけてくるなんて珍しーー」

『時間を作ることが出来たので、明日妖術士本部に出向いて千羅とかいう人に直談判してきますね。結果、期待しといてください!』

「は? お前なに言ってーー」

 会話がはっきりと成立するより前に、電話は無残にも切れてしまった。

「な、なにをやってんだ、あんのますらおお嬢様は!」

 曲げてしまいかねない力で秘李は手に持つ携帯を握りしめていた。

 そして秘李の元に、厄介案件になりそうな問題が降りかかろうとしている。

 タバコを踏みにじって火を消し、秘李もその場を後にした。


 ◇


 目を覚ますと、そこは見知った天井だった。

 いつもの朝とはなにか違うような違和感を感じながらも、鮮音は起床。

「……なんか変な感じだ。まだ眠いからか?」

 その変な感じは、昨日ーー響歌に出会ったときからなんとなくあったものだ。それは、カツ丼を食べてから家に帰って就寝するまでも、変わらない。

 身体の奥の方がもやもやするような、まったく新しい感覚。それがなんなのか、鮮音には理解出来なかった。

 顔を洗い、歯磨きをしーーと、朝の身支度を済ませても、そのもやもやは心に引っかかる。

 ふと、鮮音は干したままの洗濯物のことを思い出した。昨日、色々と適当なまま就寝してしまったのだ。

 ベランダに出て、朝一番の日光を浴びる。

 しかし、そこにも違和感。その違和感は、見える空の風景にあるものだった。

 朝にしては、太陽の位置が高いのだ。ベランダからは構造の関係上、現在の太陽の位置が見えないのだが、少なくとも朝なら見えるはず。

「……まさか」

 嫌な予感を感じ取り、洗濯物を取り込んで屋内へ。

 そして、デジタル時計をじっくりと見据えた。

 時計が映し出す時刻は、正午数分前。そして、今日は正午ごろに神術士本部へ赴かなければならない日だ。

「ヤバイッ!」

 声を上げている時間すら惜しい。最高記録を更新する勢いの速さで準備を済ませ、鮮音は家を飛び出した。

 神術士本部までは軽く駆け足で行っても三十分はかかる。

 終わったーーと内心思いつつ、鮮音は諦めない。携帯を取り出し、時刻を確認する。

 すると、またまた違和感。

 携帯は、11時10分という時刻を映していた。なんの弊害も無ければ、走らずとも正午には間に合うような時刻だ。

 よく見れば、地を照らす太陽もギリギリで天頂には届いてないように見える。

「な、なんだよ……急いで損した」

 安堵と落胆の混じったため息が、一つ。


 11時50分ーー神術士本部到着。

 四階構成の建造物で、外から見るだけでも相当に広いことがよくわかる。

 思ったよりも脚が疲れてしまい、右脚への負担が気になるところであったが、ここで止まっているわけにもいかない。

 鮮音は歩を進め、中へ入ろうとしたーーその時。

「もしかして……鮮音ちゃん?」

 確実に、聞き覚えのある声が、鮮音を呼び止めた。

 まだ鮮明に残る記憶の中に、はっきりと刻み込まれたその声の主はーー

「……響歌?」

 振り向けば、そこにはギターケースを背負った赤髪の少女ーー響歌が居た。

「ま、また会っちゃったね……しかも昨日の今日だなんて。運命、とか感じちゃ」

 しかし、鮮音の言葉が響歌の小言を遮る。

「響歌って神術士だったのか!?」

「そだよ。そう言う鮮音ちゃ……鮮音も。やっぱり運命的な」

「凄い偶然だな! 改めてよろしく!」

 またも響歌の言葉は遮られ、二人は腕を振り回すような激しい握手を交わした。

 いつの間にか、身体の奥のもやもやが消えていることに鮮音は気づいた。

 それがなんだったのかと自問したところで結論も出ないので、歩き出そうとした。しかし、響歌と繋がれた手は未だそのままだ。

「なあ響歌……このまま手繋いで行くか?」

「うわわっ、ご、ごめん! あたしはそれでも構わないけど、鮮音は嫌だよね。じゃあ行こっか!」

 それでも私は構わないーーと言おうとした鮮音だが、先導するように響歌は歩き出してしまったので、鮮音はそれに急ぎ足で着いていった。

 神術士本部は外からの見た目通り、相当広い。そして、一階はその広さを十二分に理解できる広間になっている。

 もちろんのこと、ここには多くの人が労働の時間を過ごしている。鮮音も、見渡せば数人は見知った顔が見えた。

 怠惰に過ごす者も居るが、それにはそれで休息という理由があるのだ。疲労が溜まりやすく、いつ仕事が舞い込むかわからないという仕事上、ここでの休息はよくあること。

 鮮音が目指す会議室は二階に位置する。歩いて三、四分ほどなので、集合時間には優に間に合うだろう。

 だが、歩く中で一つ気がかりなことがある。それは、響歌のこと。

 彼女は、先ほどから異様なまでに鮮音と近い距離を歩いている。少しでも横に動けばぶつかってしまう程に。

「響歌、お前今どこに向かってるんだ?」

「会議室だよー。鮮音は?」

「同じ……ってことは、そっちも秘李さんから呼ばれた口か」

 秘李から呼ばれたのは自分だけではない。ならば、自分たちになにか共通点があるのではーーと考えていると、

「鮮音は神術士のランクはなに?」

 と、質問を投げかけてきた。

「私はAランクだ」

「A!? じゃああたしと同じだね!」

 共通点を発見。

 しかしーーそんなことを探っていても仕方が無いと思い、鮮音は話題を移し替えることにした。

「……響歌はいつでもギター持ち歩いてるんだな。やっぱり、肌身離さず持ってないとダメなのか?」

「いや、そんなギター病みたいなんじゃないよ……それに、これはあたしが昨日弾いてたやつとは違うんだ。ギターなんだけど、ギターじゃなくて……」

 響歌の言う意味がよくわからず、鮮音は頭を抱えた。

「要するに、というかこれ神装なんだ。あたしの。ギター型神装、面白いでしょ!」

「ギター型!? そんなもの扱えるってのが凄い……てか、ギターって戦えるんだな」

「秘李さんに頼んだときは驚かれたよ。でもさ、あたし他の皆みたいに肉体労働に強くないから。だから自分の出来ることで戦えるならーってこれにしたんだよね。そしたら本当に出来上がっちゃったからびっくり」

 神装を作るにあたって、ベースとなる神の力の更に根端にある神の存在が面倒になってくる。

 ある程度の実力を持つ神術士が女性ばかりというのは、神が女好きだからとあるように、神装にも面倒なルールがまとわりつくのだ。

 一度、銃型の神装を開発しようという試みがあった。しかし、銃という存在はいとも容易く人の命を奪えすぎる。

 同じ遠距離武器の弓と比べても、技量がなくとも引き金を引けば簡単に命が消せる。その点を、神は何故だか気に入らない。

 結果、出来上がった神装はSランク神術士が扱ってもまともに御せない物だったという。

 個提携神装でなく、汎用提携神装として扱うための試みだったため、その話はボツとなった。

 つまるところ、響歌の音楽は神も認めたということになる。長年神事に用いられる音楽だが、それは現代音楽でも受け入れられるようだ。

「じゃあ……響歌の音楽は神様も気に入ったってことなのかな」

「そんなにビッグスケール!? ……あたしは、そんな遠い存在なんかよりも、身近な存在に気に入られた方が嬉しいな」

 そう言って、響歌は上目遣いで鮮音を見据えた。純粋な輝きを秘めた瞳は、なにかを求めるような視線を放っている。

 それを感じた鮮音は、響歌の求めるなにかを察した。

「ああ……私は、昨日も言ったけど凄く良かったと思うよ。なんかこう……心に染み込んできた」

「心に染み込む! そういう具体的というか、精神的というか、とにかくそんな感想言われたの初めて! じゃあさ、鮮音はバラードみたいなしっとりした曲のが好き?」

「いや……私は音楽とかあまり聞かないんだ」

「へえ……ならさ、あたしが鮮音に、色んな音楽の世界を見せたげるよ」


 話を続けている内に、二人は会議室の前に到着した。

 厳格な雰囲気を醸し出す木製の扉を開けると、そこにはソファに座り、腑抜けた顔で眠りこける金髪の女性が。

 ドアの開閉音で起きたようで、金髪の女性ーー優機は、よだれを拭きながら視線をあっちこっちに投げた。

「ああ……おはよーッス。って、もう時間的にこんにちはか。鮮音ちゃん、お久しぶりッスねー。響歌ちゃんはもっとお久しぶり」

「おはこんにちはです、優機さん!」

 元気良く挨拶をかました響歌に続いて、鮮音も流すように挨拶をした。

「鮮音ちゃん、もう足は大丈夫なんスか?」

「はい。思ったより早く治ったとかで、もう余裕で歩けますよ」

「へえ……それは良かった。なら、そろそろ頃合いッスかね……」

 優機は、衣服のポケットから手のひらサイズの箱を取り出した。それを見て、一瞬だけ悲しむような表情をちらつかせるも、すぐに鮮音の方に視線を戻す。

「これを鮮音ちゃんに。できれば……じゃないや。絶対に、一人の時か信頼出来る人と一緒に居る時に開けて。あと、今はやめといた方がいいッス」

 真剣な面持ちで、優機はそう告げた。

 普段では見ないようなその表情に困惑気味になるも、鮮音は箱をポケットに。

 そして、視線を戻す合間に見えた、赤面の響歌。

「そ、それはまさか……優機さんから鮮音への、その……」

 人差し指同士をいじくり回してもじもじする響歌。

 鮮音にはその意図がわからないがーー

「ははっ! 私には百合百合趣味はないッス。私が好きなのは、ロボットアニメに出てくる熱血主人公のような人ッスよ!」

 なにかを察したような優機。その言葉を受けて、響歌は安堵の溜息を吐いた。

「しっかし……来てるのはまだ私たちだけみたいッスね」

「呼んだ張本人がまだ来てないのはどうかと思う……けど、秘李さんが時間ピッタリに来ててもそれはそれで変だな」

 鮮音の言葉に共感したのか、響歌が声を上げた。

「そだねー。あの人怠惰の塊みたいな人だし!」


『誰が怠惰の塊だって?』


 扉の奥から聞こえる、小声なのにはっきりと聞こえる一言。

 それに呼応して、会議室のドアが開かれた。

 会議室に入って来た二人の女性。片割れは女性と称するには少しばかり若く見える。だが、二人には黒のショートへアという共通点があった。

 一人は気だるそうな。

 一人は快活そうな顔立ち。

 双方正反対の顔で現れたツインブラックショートへア。

 神術士の上に立つ女、秘李。そして、メキメキと成長を続けるAランク神術士、邁華の二人だ。

「ういっす。とりあえず響歌にはこいつをくれてやる」

 入ってきて早々に響歌の元へ来ると、秘李のデコピンが響歌のおでこにクリーンヒット。

「うぐっ! デコピンとは思えない!」

 涙目で悶絶する響歌を尻目に、秘李はお誕生日席な位置のソファに座り込み、タバコを吸い始めた。

「こんにちは!」

 少し固い動きでありながら、元気の良いあいさつが飛び出した。一緒に出て来た秘李にはインパクトで負けるかーーと思われた、その時。

 邁華の視線が、鮮音に向けられた。

「……もしかして、鮮音先輩ですか」

「ああ、私が鮮音だけど」

 そこまで鮮音が言った刹那、邁華の身体は鮮音の懐へ。そして、鮮音の手はいつの間にか握られていた。

「鮮音先輩ずっと憧れてました! 今度手合わせお願いします一緒に任務行きましょうご飯食べに行きましょう色々お話聞かせてください! あと、えっと」

 波のように押し寄せる邁華の言葉に鮮音は飲み込まれそうになる。

「わ、わかった! 一つ一つゆっくりな!」

「はいっ!」

 輝く笑顔で、邁華は返事をした。

 そして、コインの裏表をひっくり返したかのように静かになった邁華。

「邁華はな、鮮音に憧れて神術士になったんだよ。頑張れ鮮音先輩!」

 秘李がそう言うと、響歌と優機が「せんぱーい!」などと囃し立て始めた。

「わ、私に憧れて……?」

 場の空気に当てられ、鮮音は照れたような仕草を見せた。

「照れてる鮮音先輩!」

「う、うるさいぞ邁華後輩っ!」

 勝手に高まり出してる邁華に、鮮音の優しいチョップが決まった。

 えぐぅっ、という呻き声と共に、静まった邁華。

 笑いが溢れる会議室だったが、ドアの開く音で静まり返る。

「おーっす。見事に若いのが揃ってんなぁ。一人を覗いて」

 平均的な数値よりは確実に高い背丈。強面、と称しても当てはまりそうな顔立ち。

 その全身からは、長年培ってきた経験が作り出す風格が、嫌でもと言わんばかりに溢れ出していた。

「あら、自分で自分を若者離れ扱いなんて、らしくないわね昏人(くれひと)?」

 秘李はその男を昏人と呼んだ。その秘李の言葉を受けて、昏人は首を傾げる。

「なーに言ってんだ? 若くないのはおめーのことよ、総指揮官様」

「なんですってー!?」

「よーく考えてもみろ。俺みたいな年季の入って出汁の染み込んだいいオジサマは例外として、おめーみたいな年季と魅力の釣り合わない準アラサーじゃあここにゃ」

「うるっさいわねー!」

 風のように現れて年齢論を語り出した昏人。その男が何者か、他の者は噂程度でしか知らない。

「もしかして、あの昏人さん……?」

 恐る恐る、というような態度で響歌が声を上げた。

「おう。神術士の昏人さんは俺のことだ。巷じゃ化物とか言われてたっけか?」

 神は女好き。そのため、ある程度を超えた神力を扱えるのは女性のみ。

 だが、この昏人という男は、その制約をブチ壊し、Sランク神術士の中でも一、二を争う実力者にまでなった。

 Aランクなりたての頃は、オカマ野郎だと思われたなんて噂もあった様だが、今となっては人間を超えている、などと言われている。

「じゃー揃ったわね。若者とおっさんが揃ったとこで、話始めよっか」

 タバコを口に咥えたまま、秘李は立ち上がった。

「なあ、ここに集まる面子は本当にこれだけでいいのか?」

 話出そうとする秘李を、昏人の言葉が遮る。鮮音たちにはその言葉の真意がわからず、秘李にはそれが理解出来ているようだ。

「……察しの通り。ここに呼ぶべき人は足りてないわ。てか来れないの。一人は今……妖術士の本部に出向いてる」

「妖術士の本部……私が行きたいって言っても、秘李さん許可くれませんでしたよね。どういうことッスか」

「それは……優機ならわかる筈。なんたって、行ってるのはあの雄嬢様よ」

「お嬢様……ああ、なるほど……」

 勝手に会話が進んでしまっており、事情を知らない鮮音と響歌は話に着いていくことが出来ていない。

「そのことも踏まえて、話を始めるよ。心して聞きなさい。今日が、全ての始まりになるかもしれないんだから」


 ◇


 午前10時。

 妖術士本部前を、部下を引き連れて彼女は優雅に歩く。

「こんな早朝から、しかも三十分だけだなんて……おふざけにも程がありますわね」

 厳格さを見せる黒のスーツに身を包み、長く伸ばした金の髪を靡かせて、歩む。スーツを着ていることが関係あるかはわからないが、胸は面白い程に絶壁だ。

 キリッとした双眸や、整った姿勢。まさに、クールビューティのそれである。

「でもまあ……逆境の方が俄然やる気が出るというものです。やれる限り、やってやりますわ」

 彼女の名は薙姫(なき)

 これより、妖術士の上に立つ者ーー千羅との直談判に臨む者。



<Tobecontinued>

評価やブックマークありがとうございます……でも、率直な感想も欲しいのっ///


活動報告に次回予告載っけてるので、よければどうぞ。

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