プロローグ-臨む彼女の憂い-
上を見れば、澄んだ青い空。
下を見れば、荒んで見える人の世界。
世界を見渡せる程高層の建造物の屋上に、長い黒髪をなびかせて彼女は立っていた。
何故そこに居るか、と自問したところで、彼女は自答出来る自信が無い。
ただ、暇だからそこに居る。
「あっ……暇だからっていう理由があるのか」
この暇はいつまで続くのだろうーーと、自問。
その答えを彼女は知っている。余裕を持って行動するとして、あと数十分も無いくらいだ。
「また、私はあそこに行くのか……」
彼女は見下ろす地面を見て、憂う。なんの変哲も無い世界に見える筈だったのに、彼女にはこの世界が汚く荒んで見えるのだ。
まるでゴミを見るような視線を彼女は下界に向ける。
その時、彼女の頬を撫でる風。
彼女はここで浴びる風が好きだ。理由は、下界の荒んだ空気に染まっていないから。
「いつから、こんな風に感じるようになったっけ」
フラッシュバックしそうになる記憶。それを彼女は寸前で辞めた。
彼女の世界を汚く見せている要因の根本を思い出してしまったら、彼女の唯一のベストプレイスまで汚く染まってしまう。それを避けたかったのだ。
「神に、妖に祈っても……人はまた、戦いに落ちて行くのか」
全てを悟っていても、彼女は剣を取る。
目的を果たせば、世界が綺麗になってくれると信じて。