表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十三章 『エイムグルカの精霊学校』
98/876

第九十一話 『一緒に、前へ!』

 疾風の力を纏い、一瞬でギリアムの背後に回ったクロノ。正直かなりイラついている為、手加減なんてするつもりは微塵もない。そのままギリアムに殴りかかったが、そんなクロノにギリアムの裏拳が叩き込まれた。



 振り向き、クロノの拳をいなすと同時に、その側頭部に裏拳を叩き込んできたのだ。




「痛ぇっ!?」




「ん~! 速度など無意味さ! 全て感じ取れるのだからっ!」




 空中で体勢を崩したクロノに、ギリアムは右手を構える。水の球が空中に浮かび、クロノの体に向けて放たれた。触れると同時に水球が炸裂し、クロノは大きく吹き飛ばされてしまう。




「どわあああっ!」




「どれだけ速かろうが、動けば波紋は必ず広がる! 動き出しの波紋が君の次の動きを僕に伝えてくる!」


「ウンディーネの力は君を捕らえて逃がさない、何をしようと無駄なのだよ!」




 ウンディーネの力、それは心を包み、心で感じる感知の力だ。ティアラからはそう聞いている。水の力はどれだけ心に深く潜るかが肝心らしく、深く潜れば潜るほど、自分より浅い心を強く感じられるらしい。



 風の感知に近いが、相手の動きを水に広がる波紋のように感じることが出来、そこから次の動作を予測、予知できると言っていた。そういった波紋を見切る目を鍛える事で、最終的には相手の考えまで先読みが可能となるようだ。




(何だ……あの男のリンクは……酷いなんてものじゃない!)

(完全に精霊を道具のように使ってる、精霊の力を無理やり表に出してるだけの物だ!)




精霊技能エレメントフォースの扱いは褒められた物じゃないけど、確かに水の力は凄い精度だよぉ)

(多分、契約してるウンディーネちゃんが強力なんだよぉ……)




 確かに、目の前の男の纏った力は非常に強力な物だ。だが、それと同時に感じるのは……冷たく暗い心。



「……お前、本当に精霊を道具と思ってるんだな」

「俺は水の精霊技能エレメントフォースを使った事ないから、心の力に関しては素人だけどさ」



「それでも、お前の精霊が悲しんでるのは、伝わってくるよ」





「はぁ? それが何だって言うんだ」

「道具が泣こうが、悲しもうが、契約者には関係ないだろう」



「大事なところで役に立てば、道具としては本望だろう?」

「契約者の力になれれば、それでいいだろう?」




「何が間違っている? 何もおかしくないだろうに」




 その言葉を聞く度、自分の中でティアラが泣きそうになるのを感じていた。ティアラの最初の契約者も、こんな男だったのだろう。





「本当に、嫌になるなっ!」





 今度は金剛を発動し、ギリアムに真正面から向かって行くクロノ。ギリアムは右手の上に水球を生み出し、クロノを迎え撃った。



「ノームの肉体強化だね! それも無駄なんだよ!」



「水の力が教えてくれるよ、君の急所を!」



 クロノの攻撃をヒラヒラと避けるギリアム、体が流れた瞬間、クロノの右脇腹に水の槍が突き刺さった。貫通こそしなかったが、護りの隙間を貫くような攻撃に酷い痛みを感じる。



 一瞬痛みで動きを止めたクロノを、ギリアムが殴り飛ばす。そのまま何発も水の槍をクロノに飛ばしてきた。疾風の速度で距離を取り、攻撃を避け続けるクロノだったが、その足が水の槍に撃ち抜かれた。



「どれだけ肉体を頑丈にしようが! その防御の隙間を通す事は容易なのさ!」

「どれだけ速く動こうが! 水の力は君へ攻撃を導いてくれる!」



「何をすれば避けられるのか、何をすれば当てられるのか!」

「全てはこの目と力が教えてくれるのさ!」



 ギリアムの水の魔法が、徐々にクロノを捕らえ始めていた。もう一発も避け切れていない。



「もう一回言ってみろよ! 絆の力で僕を超えて見せるってさ!?」



「現実を見て物を言え! これがウンディーネの力だ!」



「君の大嫌いな、道具としての力だよっ!」



 一際大きな水の槍が、クロノに直撃した。その体が校舎の壁に激突する。




「何とも他愛無いね、どうだい分かっただろう生徒諸君」




「甘さを持った精霊使いの弱さが、良く分かっただろう?」

「ウォーリー少年、君もこれに懲りたら精霊はお友達なんて戯言、もう止めるんだね」



 戦闘の一部始終をグラウンドの端で見ていた生徒達は、各々が教師の言葉に頷いていた。中には『あの兄ちゃん弱ぇ~』とか言ってる生徒もいる。だが、ウォーリーだけは、その言葉に屈しなかった。




「何だい? その目は」




「……約束、してくれたんです」

「証明、してくれるって……」




「はぁ?」




「間違ってないって、言ってくれたんです……」

「……僕は、クロノさんを信じてます」



「真の精霊使いだって、信じてます!」




「あのゴミのように倒れてる子が、真の精霊使い?」

「ついに頭おかしくなっちゃったかなぁ? 泣いちゃって見っとも無いなぁ」




「あの子は負けたんだよ、それを認め……」




 言いかけたギリアムの背後に、立ち上がっているクロノの姿があった。




「……まだやるの? ドMか何か?」




「お前みたいなクズに、負けたくないし」

「俺みたいな奴を、真の精霊使いとか言ってくれる子の前で、ダサい姿見せられないだろ」





「寒いねぇ、そういうのはやんないんだよ」

「格好付けたいならさ、君もウンディーネの力を使ったほうがいいんじゃないの?」



「君もウンディーネを持っているんだろ? その力を使わないと勝負にならないよ?」

「まぁ水の力使った事ないとか言ってたし? 練度の差でも勝負にならないだろうけどさ」




「シルフやノームみたいな、時代遅れの力じゃ、僕に触ることすら出来ないよ?」




 ニヤニヤしながら余裕ぶっているギリアムだが、クロノは気にせずに立ち上がる。そのまま疾風を纏い、真正面から突っ込んで行った。




「無駄だって言ってんだろっ!」




 突っ込んでくるクロノに水の槍を投げつけるギリアム、当たる瞬間、風の流れを生み出し、クロノは自分の体を上に跳ね上げた。その勢いを利用し、弾丸のようにギリアムに突っ込む。




(分かってんだよ、そう来る事もさぁ)




(次の瞬間、僕が左手で水の槍を撃つ、そうすれば君は避けれない)

(どう動いても、どう風を操っても、100%直撃だ)




(あーあ、馬鹿は何しても馬鹿なんだよねぇ……)




 自分に向かって突っ込んでくる馬鹿に、ギリアムは水の槍を放った。予想通り、水の槍はクロノの顔面に直撃した。そろそろ気絶でもするかな? そう思いながらギリアムは笑っていた。






 そして、金剛・・を纏ったクロノが、水の槍をぶち抜いてきた。






「……なぁっ!?」





「アルディ・直伝! 金剛ヘッドバットッ!」




 完全に油断していたギリアムに、クロノが金剛の力で頭突きを叩き込む。ギリアムはそれをまともに喰らい、後方に吹き飛んで行った。




「……で? 時代遅れの……なんだって?」




「……つぅ!?」




「エティルの力も、アルディの力も、俺にとって大事な力だ」

「俺を助けてくれてきた、大事な力なんだ」



「それを否定なんてさせない」

「お前がウンディーネの力より劣ると蔑んだ力で、吹っ飛ばされた気分はどうだ! あ!?」




「……この、クソガキが……!」

「調子に乗ってんじゃねぇぞっ!」




 苛立ちを隠しきれない様子で、ギリアムが立ち上がってくる。クロノは目を逸らさず、真っ直ぐ向き合った。



「シルフやノームの力、それがウンディーネの力に劣った物じゃない証明はした」

「次は、精霊は道具じゃないってことを教えてやる」




「……ティアラッ!」




 クロノの呼びかけに応じて、ティアラがその力を貸してくれる。クロノを中心に水の膜が張られ、周りの動きを強く感じるようになる。




精霊技能エレメントフォース・心水」




「おいおい、舐めてるのかい?」

「水の力を使った事はないんだろう? ぶっつけ本番で僕と正面からやる気かい?」




「昨日今日水の力を使ったような奴に、僕が負けると思ってるのかっ!?」




 咆哮と共に水の槍を放ってくるギリアム、その槍が通る軌道が、目に映るように感じられる。クロノはその場で体を横向きにする、それだけで全ての攻撃が外れてしまった。



「お前が本当に精霊の力を使えてるなら、そりゃ無理だろうな」


「けど、お前は全然精霊の力を使えてないし」



 そう言いながらクロノはゆっくりと距離を詰めていく。何発も何発も水の槍が放たれるが、もう当たる気がしなかった。



(何故だっ! 動きを先読みして、絶対に当たるように撃ってるんだぞ!)


(何故っ! 何故当たらないんだっ!)




「お前は精霊の力を、道具として扱っている」

「精霊の声に、耳を傾けようとしない」




「お前も精霊も、それじゃ一人で戦ってるのと一緒だよ」




 何十発と弾幕のように放たれる水の槍、その中をクロノは真っ直ぐと突き進む。肌で攻撃の波紋を感じる、目を瞑っても避けられると確信できた。



「精霊の力は、1と1の足し算じゃない」



「精霊の声を聞いて、心を重ねれば、1と1が10にだってなる」



「俺はまだまだ素人だけど、それくらいは分かるよ」



 心の近くにティアラを感じる、彼女が導いてくれる。まだまだ深く潜れそうだ。ギリアムとは比較にならないほど深く心に潜ったクロノ、その深さは既にギリアムの感知できるレベルを超えていた。




「一人で戦ってるお前には、絶対負けない」




 その瞬間、クロノの姿がギリアムの視界から消えた。





「消え……っ!?」





無心舞踊むしんぶよう飛沫しぶき





 消えたように錯覚させる体捌き、相手の死角に潜り込んだクロノは、そのまま4発の連撃を叩き込む。両肩と両膝を別々の角度から殴りつけ、相手の体勢を崩す。そのまま強烈な肘撃ちで吹き飛ばした。





「がはぁっ!?」





精霊こいつらは、俺の友達だから」

「俺は精霊こいつらと一緒に、前に進んで行きたい」




「きっと、そのほうが楽しいしさ」




 そう言って笑うクロノ、ウォーリーには微かに見えた、クロノの周りで笑顔を浮かべる精霊達が。




(……そうだ、僕は……あんな精霊使いに憧れたんだ)



(僕も、ルビーと……あんな精霊使いに、なりたかったんだ)




 忘れかけていた理想の姿、それを思い出した少年は僅かに笑みを浮かべた。



 だが、その視界の端でギリアムが立ち上がっていた。




「! クロノさんっ!」




 その声でギリアムに気がついたクロノ、だが、震える足で立ち上がったギリアムに勝ち目があるようには、戦闘の初心者である生徒達にも思えなかった




「もう無駄だよ、お前に勝ちはない」




「あぁ……そうだなぁ」

「勝ちはない、勝ちはないかぁ……」




「……知ってるかい? クロノ君? 水の力にだってさ、弱点はあるんだよ」




 そう言うギリアムの横に、ウンディーネが姿を現した。




(……ギリアムの、精霊?)




 その行動に疑問を感じる前に、ギリアムが自分の精霊をクロノ目掛け、蹴り飛ばした。





「なっ!」





 咄嗟にウンディーネを抱きとめるクロノ、その瞬間に見たギリアムの顔が、大きく歪んでいた。それと同時、水の感知で次に起こる場面が浮かんでくる。





「……ッ! テメェッ!!」





「予知できても、避けれなきゃ意味ねぇんだよっ! クソガキがぁああああっ!!」




水壊の渦フラッド・シュトロームっ!!」




 ギリアムの放った魔法により、クロノが水の渦に飲み込まれる。ギリアムは自分の精霊ごと、中級魔法を放ったのだ。当然だが、クロノは勿論、ギリアムの精霊もズタズタになる。



「あぁあぁ……君のやり方はよぉく分かったよ」

「とっても痛かったよ、友達? 絆? 大したもんだねぇ」



「だったらよぉく体に刻めよ、これが俺のやり方だ」

「精霊を道具として使う奴の! やり方だ! ひゃはははははははっ!!」



「おいこら外野のガキ共っ! テメェらも良く見ておけ!」

「これが強さだっ! これが強いってことだっ!」



「結局全てを決めるのは、甘さも何もかも飲み込んじまう、非常な心だっ!」

「オラァッ! 何寝てんだウンディーネッ! さっさとリンクに戻れよっ!」




「そのうぜぇクソガキに、止めをくれてやんだからよぉっ!」




 ギリアムの暴行に、呆然とする生徒達。ギリアムのウンディーネは無言で姿を消し、ギリアムに水の力が宿った。



「よぉし、それでいいんだよ」



「全水の力を集中させた水壊の渦フラッド・シュトロームで、汚物洗濯して終わりだな」



 魔力を集中し始めるギリアム、標的となったクロノは立ち上がれそうもない。





「クロノさんっ!!!」





 ウォーリーの悲痛な叫び、その声自体はクロノに届いている。届いてはいるが、その体は動いてくれない。




「…………く…………そっ……」




 拳を握り締めるクロノ、途切れそうな意識をどうにか保っている状態だが、それも限界が近い。



(クロノ! クロノォ! 立ってよぉ!)



(立ちたいよ、立ちたいけどさ……)



(あんな奴に負けるなんて、許さないぞっ! 立ってくれ!)



(俺だって……立ちたいけどさ……体が……動かないよ……)



 精霊の声もはっきり聞こえる、頭の中は意外に冷静だった。体だけが、言う事を聞いてくれない。



(自分の精霊ごと、攻撃するとか……絶対に許せない……)

(許せないのに、体が、動かない……悔しいよ……)



 不甲斐無い気持ちで一杯だったクロノの手に、ティアラが触れた。



(大丈夫、私達が、一緒だから)



(え……)



(契約者の気持ち、想い、守って、届けさせる)

(それが、私達の、役目)



(アル、エティ、こんなに馬鹿で、真っ直ぐなんだもん)

(クロノなら、出来る、そう……でしょ?)



 その言葉に、エティルとアルディは何かに気がついたような顔をした。




(……うん! クロノなら、きっと出来るよ!)




(僕達がついてるんだ、簡単には負けさせない!)

(クロノ、良く聞け!)




(僕達を信じろ、お前の言う絆の力で、あいつに勝つんだっ!!)




 頭に響く、最後の策、クロノはその言葉に従い、全てを込めた。











「さぁ、ぶっ飛べクソガキがっ!」


水壊の渦フラッド・シュトロームっ!!」



 ギリアムの放った魔法は、先ほどとは比べ物にならない大きさだった。ウンディーネの力も乗せたそれは、クロノの体を飲み込み、ズタズタに傷つけていく。







 ……筈だったギリアムの魔法は、次の瞬間に内から吹き飛ばされた。







「なっ!?」



 自身の最大の魔法が打ち破られた事に、驚きを隠せないギリアム。その背後に、何かが着地した。






「……ひっ!?」






 前にクロノはエティルとアルディ、両方と同時に精霊技能エレメントフォースを結ぼうとした事があった。あの時は精神力不足から失敗したが、理由は他にもあった。



 風の力と大地の力は、本質的に真逆の力。同じ身体の強化だが、静と動でまったく扱いが異なるのだ。当然正反対の事を同時にやるのは難しく、ただでさえ難しい二重接続デュアルリンクがさらに難しくなっていた。



 だが、ティアラの力は心の、精神の力だ。身体強化の風と大地の力とは、その本質が大きく異なる。精霊技能エレメントフォースを重ね合わせる二重接続デュアルリンクは、異なる性質同士の方が、重ね合わせやすく、難易度が低い。





 後は、クロノ自身の精神力が問題だ。





(出来る、よ……大丈夫……)

(私達の事、こんなに、大事に想ってる、クロノ……なら……)




(私の、感じてる、この心なら……出来る、よ……)




 水の力で弱所を見抜き、大地の力で吹き飛ばす、そのまま大地の力を風に切り替え、一瞬でギリアムの背後に回った。心の力である水と、肉体の力である風か大地のどちらか、クロノは今、二重接続デュアルリンクを成功させていた。



(そうだよ、一緒に前に進みたいと思ってるのは、あたし達だって一緒だもん!)



(立てないのなら、肩だって貸すさ、僕たちは契約者を信じてる!)



 力が湧いてくる、心に強い物を感じてる。やはり、自分の信じた精霊使いのあり方は、間違いなんかじゃない。




「足し算なんかじゃないんだよ、俺たちは、こうやって強くなっていけるんだっ!!」



精霊技能エレメントフォース二重デュアル!! 疾風&心水!」



「そんなに先が見たいなら、見せてやるよっ! お前の敗北って未来をなっ!」




 もう、負ける気がしない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ