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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十三章 『エイムグルカの精霊学校』
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第八十九話 『今、出来る事を』

 ウンディーネの泉近くの森で、精神統一をしているクロノの姿があった。ティアラに身も心もボロボロにされた為、数日間休息を取っていたのだ。



「うん、もう大丈夫そうだ!」



精霊技能エレメントフォースも問題ない精度に戻ったね、良かったよ」



 試しにアルディとリンクしたが、前と同じくらいには扱えるほど回復している。これなら次の町までは歩けそうだ。



「砂漠の時のように、倒れられては迷惑だからな」



「分かってるよ……」



「えへへ~、それじゃ『ラベネ・ラグナ』を目指して出発だねぇ」



「いやいや、流石に一気に行くのは遠すぎるよ」

「食料も心許ないし……中継を挟まないとな」



「それは、一大事……」



 何だかんだ言って、ティアラはクロノの料理は気に入ったようだ。食事の時間になると、クロノに食わせろと催促してくるほどに。



「ティアラ、まだリンクダメか?」



「自惚れ、るな……バーカ……」



「意外に口悪いよね……」



「水は、染まりやすい……私も染まり、やすい」

「純粋な、証拠」



 ウィンクするティアラだったが、クロノは肩を落とす。ティアラは契約後、一度も精霊技能エレメントフォースに応じてくれていないのだ。



「ティアラ? 仮にも契約してるんだ、契約者には従わないと」



「聞こえ、ない」

「しつこいと、-10ポイント」



「マイナスの倍率おかしいだろ!?」



「いつまで漫才を続けるつもりだ、貴様等」

「食料がピンチなのだろう、さっさと行くぞ」



「行くぞぉ~! あははははっ!」



 前にも言ったが、随分賑やかになったものだ。クロノは軽くなった荷物を背負い、ウンディーネの泉を後にするのだった。


















「で? まずはどこを目指すのだ」



 しばらく歩き、セシルが聞いてきた。クロノはゲートに貰ったコリエンテ大陸の地図を広げる。



「んー、一番近いのは……エイムグルカって町だな」



「ん? そこって確か……」



 クロノの言葉にアルディが反応する、修行中にゲートから聞いた話にその名前が上がっていたのだ。



「うん、精霊学校がある町だ」



「何々? そのエティルちゃんの興味をツンツンするものは!」



「……ツン、ツン」



「ひゃあ! 物理的に突っつかないでよぉ!」



 空中を泳ぐように進むティアラが、エティルを背後から突っついている。じゃれ合う2人を微笑ましく思いながらも、クロノが口を開いた。



「世界で唯一の、精霊使いの為の学校らしいぞ」

「何でも数年前に出来たばかりらしくてな、熟練の精霊使いが教師やってんだと」



「精霊使いに教えが必要とは、思えんがな」



 セシルが鬱陶しそうに顔を背けた。



「……やっぱ、そう思うか」



「何だ、貴様も馬鹿タレなりに感じていたか」

「精霊使いは、契約者と精霊、一組一組に形がある」




「信頼関係と言う物は、他者にどうこう言われて得る物では無い」




 長い間、精霊使いの型を教える場所が存在しなかったのは、必要がなかったからだと思う。精霊技能エレメントフォースは契約者の精神力も大事だが、最も大事なのは精霊との絆だ。互いを理解し、信じあう力を形にする、それが精霊技能エレメントフォースの真髄だと、クロノは信じていた。



「少しは興味あるけどさ、学んでみたいとは思えないよな」

「俺達は、俺達のペースがあるんだし」



「クロノのそういうとこ、好きだよぉ~?」



「あぁ、いつかは実を結ぶさ」

「少なくても、僕はそう信じてる」



「へへっ……いつかはティアラも応えてくれるんだろ?」



「…………さぁ、どう、だろ」



 自分達なりのやり方で、今は進んで行きたい。クロノはそう思っていた。



「だが、そのエイムグルカとか言う町が一番近いのだろう」

「食料の補充はそこでいいだろ、時間をかける事でもないしな」



「あぁ、2時間も歩けば着くと思うよ」



「クロノ、クロノ! 追いかけっこしようよ!」



「えぇ……まだ俺本調子じゃ……」



「ふむ、クロノ、私と競争してみるか」



 不意にセシルがそんな事を言った。



「セシルと?」



「どんな手を使っても構わん、エティルとリンクしようが、私を妨害しようがな」

「ただの戯れだ、1分走って前にいた者が勝ちでどうだ」



「いやいやセシルちゃん、ちょっと待っ……」



「へぇ、面白そうだな」



「……今、ここに……一人の馬鹿が、生まれた」



 後ろでティアラが何か言った気がするが、クロノは純粋に面白そうだと思っていた。なにせセシルと何かを競うのは初めてだ、底知れない強さを持つセシルに挑んでみたいと思うのは、男として当然の感情だろう。



「ほう、中々ノリがいいな」

「よし、位置に着け」



「待って待って、セシルちゃん何考えて……」



「うっし、エティル! リンクだっ!」



「あぅあぅ……どうなっても知らないよぉ……?」



「アル、賭け……しよ」



「悪いが、これは賭けにならないよ」



「バレ……てた……」



 疾風を纏い、クロノはセシルの横に並ぶ。勝負は勝負だ、全力で走るつもりだ。





「よし、スタートだ」





 合図と共に、クロノは地面を蹴りつける。その足が地面に着く前に、地面の代わりに空中を蹴り、さらに加速した。セシルの姿は、一瞬で見えなくなる。




「あれ、思ってたより楽勝か?」




(何馬鹿な事言ってるのさ! それよりもっと急いでよぉ!)




 エティルが心の中で騒いでいるが、背後にセシルの影は見えない。しばらく走り続けるクロノだが、セシルが追いついてくる気配がない。



「おいおい……これ大丈夫か?」



(アル、今……何、秒?)



(ん、55秒だ)



 そろそろ止まらないと不味い、そう思った矢先、何かがクロノの横をすり抜けた。




「へ?」




「何だ、大して進んでないな」


「拍子抜けだ、町まで突っ切るつもりだったのだが」




 瞬間移動でもしたのだろうか、クロノは一瞬で現れたセシルに抜かれていた。




「私の勝ちだ」




「えっと…………はぁ!?」




 間抜けな声を上げるクロノだが、セシルは汗一つかいていない。




「嘘だろ、どんだけ速いんだよ……」




「勝てると少しでも思っていたのが、貴様がまだ未熟な証拠だ」

「まぁ戯れと断っていたしな、挑戦したその心意気は褒めてやる」




「まぁなんだ、いつかは追いついて見せろ」




 そう言って再び進み始めるセシル、その表情はどこか楽しそうだった。



「結果は分かってたけど、やっぱ悔しいなぁ……」

「クロノとあたしが、もっと強くリンク出来ればなぁ……」



「ほら、賭けにならなかったろ?」



「まぁ、当然……でしょ」



「お前らさ、俺を虐めて楽しいか?」



「クロノにはクロノのペース、だろ?」



 少し凹むクロノだったが、アルディが背中を叩いてきた。



「セシルなりの、優しさだよ」

「何があっても、焦らず自分らしくってね」



「そうなのか?」



「風はマイペースだしねぇ、焦っても良い事ないよぉ」



「どうでも、いいけど、……置いてかれる」



 セシルはズンズン先導していく、相変わらず待っていてはくれないようだ。




「ははっ……追いつくのは大変そうだな……」




 苦笑いを浮かべながら、クロノはセシルを追いかけ始めた。それでもいつかは追いついてみせる、そう胸に誓いながら。

















 しばらく他愛無い話を続けていると、遠くに何かが見えてきた。




「あれがエイムグルカか、コリエンテの町はやっぱ都会って感じだなぁ」




「石やら鉄やらで出来た家は、私達魔物には少し落ち着かん」

「私達は自然が好きだからな、多少整備されてないほうが落ち着く」



 見えてきた町影は、角ばった印象を与える町だ。コリエンテは他の大陸より技術が進んでおり、その町や国は完全整備されている。水場が多く、綺麗な自然が多く存在するコリエンテでは、そういった人の手が深く入っている地域は丸分かりなのだ。




 それはつまり、自然を愛する魔物達との住処と完全に切り離されているという事でもある。それどころか、開発の影響で環境を破壊し、魔物と対立している場所も存在する。




「水の汚染問題で水体種スライムと、草花への影響は妖精種フェアリー虫人種インセクターと……挙句には山を切り崩して巨人種ギガンテス地人種ドワーフと……」



「……コリエンテ大陸は表の顔は技術大陸だけど、裏の顔は魔物との関係が一番悪い国だろうからな……」



 自分達の発展の為、魔物達を犠牲にし続けてきた国は多く存在するだろう。クロノにとっては、頭の痛い話だ。



「それが分かっても、今の貴様に出来る事はないだろう」

「出来る事からやっていけ、今貴様が出来る事は……」




「分かってる、サラマンダーの元へ急がないと……」




「いや、食材の確保だ」




「…………」




 分かっていた、分かっていたのだ。それでも言って欲しくなかった、やる気は一瞬で消え去ってしまった。新しい町だというのに、どうにも盛り上がらない状態でクロノは進んで行った。
















(うわぁ、人がいっぱいだねぇ!)



(流石に発展してるなぁ)



(ガタガタ……)



 一人コミュ障がいるのはさておき、精霊達は皆姿を隠していた。基本的に精霊が自分をさらけ出すのは、親しい者か契約者だけだからだ。



「この町では食料確保が最優先だ、いいな」



「分かってるよ、別にこの町でやることはそれしかないんだしさ」



 そう話しながら道なりに進んで行くと、大きな建物が目に付いた。



「あれが精霊学校かな、立派な建物だなぁ」



「なんかローの通ってた剣術指南所みたいだなぁ」



 自分は剣の扱いがからっきしだったが、護身術はそこでローと共に学んだのだ。懐かしい気持ちを抱き、出来心でクロノはグラウンドを覗いてみる。そこには数人の子供と、一人の大人が居た。



「覗き見は感心せんぞ」



「少しだけ、ちょっと見るだけだよ」



 どんな授業をしてるか、興味が無いと言えば嘘になる。これでもクロノだって精霊使いなのだ。金網ごしに覗き込むクロノだったが、その耳に教師と思われる男の声が届いた。




「良いかなみんなっ! 精霊の力は強い精霊を持つ事が全てだ!」

「剣や鎧も同じ事、どうせ使うなら強力な、丈夫な物のほうがいいに決まっている!」




「君達も強い精霊使いを目指すというのなら、契約する精霊はウンディーネ一択だろう!」




 耳を疑う暴論、クロノは金網を握り潰しそうになった。



(感じ悪~い……)



(なんだあれは、あれが教師か?)



(…………)



 精霊達も一気に不機嫌になる、ティアラに至ってはクロノの心に引き篭もって行ってしまった。




「ウンディーネの水の力は、心は深く感じる力!」

「簡単に言えば先読みの力だ、戦闘において、動きの先を見るウンディーネの力は最強と言ってもいいだろう!」



「シルフの速度強化? ノームの身体強化? サラマンダーのブースト効果?」

「そんなものはナンセンスッ! 100%避けれて100%当てられる! ウンディーネの力が最も優れている!」




 尚も続ける教師らしき男、クロノ自身も苛立ってきたが、それ以上に精霊達が不機嫌になっていた。



(クロノクロノッ! もう行こうよぉ!)



(顔の形を変えてやりたい所だが、所詮は戯言だ)

(あの男はティアラの一番嫌いな、精霊を道具扱いするタイプだ)



(聞くにも、聞かせるにも耐えない、早くここを離れよう)



 アルディの言うとおり、ティアラの心は冷たくなっていっている。この場を速く離れたほうがいいだろう。背を向けて歩き出したクロノだが、背後から少年の声が響いた。




「先生っ! それは、本当に正しいんですか!?」




 一人の少年が、手を上げて立ち上がっていた。



「当然だ、精霊の力において、ウンディーネ以外の選択は悪手だよ」




「けど……そんなの……!」




「ウォーリー少年、君はこの学校の生徒では唯一の精霊持ちだがね」

「君は選択を間違えているよ、生徒の選択を否定するなどしたくはないがねぇ」



「どんな綺麗事を述べようが、力が全ての世の中では強い力を選ぶのが最善!」

「どこまで行っても、精霊は道具以上にはなり得ないのだよ」



「君は精霊を……なんだっけ? 友達とか言っていたねぇ」

「全くもってくだらないっ! 絆だ友情だ……そんなもので強くなれるなら誰も困らないよ!」




「けど……僕にはどうしても納得できませんっ!」

「だって……道具なんて……」




「うぅ~ん! ナンッセンス! 考え方からしてナンセンス!」

「君の精霊はサラマンダーだったね? ただでさえ使えない精霊が、そんな心構えじゃクソの役にも立たないよっ!?」




「……ッ!」




「道具は正しく使えないとダメじゃないかっ!? 折角の才能もそれじゃ無駄になるよ!」

「いい加減、君も大人の考え方を身に付けたほうが……」




「……僕は、ルビーを道具だなんて思えませんっ!」



「思いたくも……ありませんっ!!」



 そう叫んだ少年は、学校の敷地内から飛び出して行った。



「はぁ、まったく……はいはい騒がないで、授業を進めようじゃないか」



「彼はまだ分かっていないのだよ、みんなはあんな風にはならないようにね」



 教師と思われる男は、飛び出した少年を無視し、授業を続け始めた。



「…………なんて顔をしている、馬鹿タレが」




「……セシル、出来る事からって言ったよな」



「出来るかは分からないけど、やりたい事から優先して良いかな」



 少年が走り去って行った方向を見ながら、隣のセシルに聞いてみる。



「はぁ……好きにしろ」

「どうせ、放っておけないのだろう?」



「ありがとう、ちゃんと後で肉は買うからさ」

「よし、あの子を追いかけよう」



 あの子の考え方は間違っていない、少なくてもクロノはそう思う。彼もまた、精霊を道具などとは思っていないのだから。




 精霊使いとして、譲れない戦いが始まろうとしていた。



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