Episode:カルディナ ① 『踏み出せない勇者』
マークセージのとある一軒家、その中で壁に頭を擦り付けている一人の女性が居た。名前はカルディナ、一応クロノの命の恩人の一人だ。
クロノがコリエンテ大陸へ旅立つその日、カルディナ自身も旅立ちを決意していた。クロノと握手を交わし、再会を誓い合ったカルディナだったが、彼女は未だにマークセージから踏み出せないでいた。
「その理由が、自信がないからとは……」
「クロノ殿と比べて、何とも情けないな、カルディナは……」
壁に頭を擦り付けながら落ち込んでいるカルディナ、そんな彼女を冷たい目で見ているのはセントールだ。
同盟を結んでからケンタウロス族もウルフ族も、マークセージを訪れる事が多くなった。セントールもロニアの護衛として、度々マークセージを訪ねてきていたのだ。カルディアも一応は勇者、何度も顔を合わせる機会があり、今では友人と呼んでも問題ないほど仲良くなっていた。
「そんなの自分が一番分かってるんだよーっ!」
「けど、いざとなったら不安でさぁ……クロノ君は凄いよ……やっぱ……」
自分より年下だというのに、勇者でも無いのに、あの少年は前を向き続けていた。ずっと踏み出せないでいる自分とは大違いだ。
「クロノ殿は素晴らしい方だ、我等ケンタウロス族の中では英雄扱いだしな!」
「今こうして、カルディナと私が同じ場所にいられるのも、クロノ殿の頑張りあっての賜物」
「銅像の一つや二つ、建ててもいいくらいだと思わないか?」
あの一件から、ケンタウロス族の一部にはクロノのファンクラブらしき物が出来上がっているらしい。自分達の為にあの『黒き狂狼』ガルア・リカントに立ち向かった姿、何度倒れても立ち上がった勇姿は涙無しには語れないとの事だ。
その話に触れるととんでもなく長い美談が始まってしまう為、カルディナは適当に流す事にする。
「あははは……そうだねー……」
「……まぁ、ウルフ族も……ユリウス王も……クロノ君に感謝の言葉が尽きないみたいだしね」
「英雄って言っても、あながち間違ってないと思うよ」
「あたしなんかより、よっぽど勇者らしいしね」
「そのクロノ殿を見習い、カルディナも旅立ちを決意したのでは無いのか?」
「いつまで燻っているつもりだ?」
「あう……」
ずっと目を逸らし続けていた事、カルディナが気がついても見ないフリを続けていた事。それは、自分の両親の死についてだ。10年前、両親が死んだ直後は気がつかなかったが、両親の死には不自然な箇所があるのだ。
自分の両親は退治屋だ、いつ死んでもおかしくなかった。それでも、今考えると何かがおかしい。
死亡場所や、相手の魔物の情報は知らされたが、死体が未発見で済まされた事。そして、両親が死んだのは土の日だ。土の日は、両親が決まって休みを取っていた日なのだ。週に一回、家族で過ごしていた日なのだ。
あの両親が、土の日に仕事に出たのも不思議だったが、その前の晩にさらに不思議な物を見たのをカルディナは覚えている。深夜に目が覚め、両親の部屋から声がするのに気がついたカルディナが見たのは、涙を流す母親の姿だ。
狂ったように魔を退治していた両親、その両親が、狩った魔物からの戦利品を前に、泣いていたのだ。
両親を失ったカルディナは、当時は魔物を憎んだ。その憎しみを超え、疑問を持てたのは、カルディナが魔物と戦う退治屋を良く見ていたからかも知れない。多くの退治屋を見てきたカルディナが抱いていた考えは、『大きな違和感』だった。
魔物に対する被害もある、倒さなきゃいけない魔物もいる、それは分かる。けれども、『どうしてそこまで?』といった、言葉では言い表せない『違和感』が、退治屋である人にはあったのだ。
それを感じていたカルディナだからこそ、気がつけたことがある。両親の死を知らせてくれた退治屋が、おかしかった事だ。まるで、魔物に罪を擦り付けようとしているような、魔物を憎ませようとしているような……違和感……。
その違和感が、どうしても気になって、確かめたくなったのだ。……本当に、両親が魔物に殺されたのかどうかを。
「だから、旅に出ようって決めたんだ、迷うのは、目を背けるのは止めようって決めたんだ!」
「その話はもう聞いた、その決心は見事だ」
「……で? それでなんでお前はまだここにいるんだ?」
「あぁーん! だって不安なんだもん!」
「大体確かめるって言ってもどうしろってのさぁー!」
どうしても、あの少年のように踏み出す勇気が持てなかった。
「クロノ殿に大きな口叩いて再会を誓い合ったくせに、情けない勇者だな」
「証を刻んだその靴も、泣いているぞ」
「うるさいやいっ!」
「やれやれ、信念の無い生き物など、いつかは腐る生物に同義」
「呆れて助言も出てこないな、私はもう行く、ロニア様が待っているからな」
「ふんだっ! 本当はハーミット君に会いたいだけの癖にー」
顔を背けたカルディナだったが、首筋に冷たい感触を感じ、その動きを凍らせる。
「……私の耳がおかしくなったか? 今とてもつまらない冗談を聞いた気がするんだが」
「もも、もう一度言ってみてくれないか? えぇ!?」
顔を赤くしたセントールが、その愛剣をこちらの首筋に押し付けていた。ロニアの護衛としてマークセージによく来るようになったセントールは、ガルアの護衛をしているハーミットと良く顔を合わせている。最初こそ憎まれ口を叩き合っていたが、最近は結構仲が良いのだ。
「や、やだなぁセントールさん……素直が一番だと思うけどなぁ……」
「極刑、覚悟っ!!」
「ひゃあああああああっ!!」
冗談抜きで斬られそうになり、慌ててカルディナは【機翔靴】の出力を上げる。間一髪で剣を避け、カルディナは天井近くまで飛び上がった。
「逃げ足の速い人間だっ!!」
「馬鹿、馬鹿、馬鹿っ!! 同盟に他族に危害を与える事を禁ずるってあったでしょうがぁっ!!」
「クロノ君が命を賭けてくれたチャンスの上に成り立ってるこの同盟! セントールさんが無駄にしていいのっ!?」
「……っ!? ぐ……あっ……!?」
「わた……しは……何と愚かな……事を……」
「我が忠義に反する愚かな愚考っ!! 悔やんでも悔やみ切れん!」
「カルディナ! 私の剣で……愚かな私を切り裂いてくれ……」
「……いやいやいや……」
崩れ落ちるセントールを5分かけて立ち直らせる、少し面倒くさいが、こんな所も可愛らしい。立ち直ったセントールが、改めて席を立った。
「では、私はロニア様達の元へ戻るとする」
「カルディナ、お前の耳には入れておいたほうが良いと思うから話すが……」
「ん? 何?」
「病魔に倒れていたウルフ族が回復してきているらしい、その中には、不満も抱いている輩もいる」
「ガルア・リカント曰く、反乱を企てようとしている馬鹿もいるらしい」
「近々荒れるやも知れん、気をつけろ」
その目は真剣な物だった、カルディナも真面目に頷く。
「では、またな」
「うん、お仕事頑張ってね」
セントールの後ろ姿を見送り、その姿が見えなくなった所で、カルディナも出かける準備をし始めた。
「えへへっ、今日も元気かなぁ♪」
その顔は、親に隠れて何かをしようとする子供のようだ。
ユリウス王の城へ入っていくセントール、謁見の間ではロニアとウルフ族達が待っていた。
「セントールちゃん、お友達はお元気でしたか?」
「はい、ロニア様、お待たせしてしまい申し訳ございません……」
「種の長より遅い到着とは、随分だな」
「ふん、器の小さな男だなハーミット、ロニア様の海より深い器を少しは見習ったらどうだ」
「器量が良くても、使いこなす力量がねぇとなぁ」
「ほぉう? 私の前でロニア様を侮辱するか? 蹴るぞ犬コロ風情が……」
「誰もそちらの長の事とは言ってねぇけどなぁ!? やるなら闘んぞ馬面女が」
バチバチと睨み合うセントールとハーミットだが、両者の背後に立つ影が一瞬、赤いオーラを発した。
「セントールちゃん? この先は言わせないでくれますよね?」
「ハーミット、3秒待つ、いいな」
両種族の長の冷たい声、セントールとハーミットは借りてきた猫のように静かになってしまった。
「あらあら……ガルア様も理性が戻ってきたご様子ですわね?」
「テメェ、喧嘩売ってんのか」
「俺達は仮にも種の長、俺達が表面上ピリピリしてんのはやべぇだろうが」
「ふふっ、この数日で随分丸くなりましたわね」
「だと思うなら、その挑発的な笑みを止めとけ、いつまでも我慢はしねぇぞ」
「挑発的? 嫌ですわ、そんな風に見えてます?」
「嬉しいのですよ、本当に……」
「昔からテメェはやりづれぇ、マジでやりづれぇ……」
「で? そのやりづらいガルアが何の頼みだって?」
獣人種の長が話す中、ユリウス王が廊下を歩いてきた。
「一番の遅刻は人の王ってか、つかテメェの城なんだから王座に居ろよ」
「この所色んな所に引っ張りダコでな、それも叶わないわけだ」
「それでも、大事な話があるって聞いたからよ、それくらいは直に聞きてぇと思ってな」
「なら単刀直入に言うが、ウルフ族の一部がテロを起こそうとしてやがる」
その言葉に、その場の全員が固まった。
「テロ?」
「病魔から開放されたウルフ族の中にな、同盟に納得できねぇ奴が何匹かいるんだよ」
「ボスである俺の決定だ、従わない奴は居ない、普通はな」
「だが、どうしても一匹だけ、理解も納得もしねぇ馬鹿がいてな」
「あぁ、あの子ですか」
ロニアが目を細めた。
「あぁ、リウナ・リカント……俺の娘だ」
「リウナの母親は……退治屋に殺されたんだ」
「人との同盟なんて冗談じゃないって飛び出してな、今もこの町のどこかに潜んでる」
「……あいつは、人を襲う気だ」
「馬鹿なっ! 今この国は同盟を組んで間もない、一番不安定な時期なんだぞっ!?」
「今この国で、ウルフ族が人を襲う事件が起こったら……」
セントールが声を荒げる、その言葉にガルアは目を閉じて答えた。
「間違いなく、同盟は揺らぐ」
「ついでに、俺が抑えてる反同盟を訴える馬鹿共も抑えれなくなっかもしれねぇ」
「長である俺の娘が起こした事件だからな、それに乗っかろうとするだろう」
「本来なら、長であり父親である俺が何とかするべきなんだがな」
「あのクソガキ……国に飛び込んでから匂いが追えねぇ」
「こーすいとかいうのを使って、匂いを消しやがったんだ」
「あいつは何度かこの国に来て、機会を伺っていた」
「……ここに来る前、あいつを見かけてな、結局止められなかった」
そこまで言って、ガルアは悔しそうに歯を食いしばった。
「……情けねぇことに、俺はまたしくじったかもしれねぇ」
「このままじゃ、あの馬鹿が作ったチャンスを無駄にしちまうかもしれねぇ」
「……また助けられる事になるが、テメェらに力を借りてぇ」
「今日はそれを頼みに来た、文句あるか」
「無いな、早速探そう!」
ユリウス王は笑い、踵を返した。ガルアはその言葉に目を丸くしていた。
「おいこら、テメェ! 少しは他に何かねぇのか!?」
「同盟を結んだ仲なんだ、助け合うのは当然だろうが」
「俺達ウルフ族は、まだ何も返せてねぇんだぞ!」
「だったら、俺達が困ったときに助けてくれ」
「それが、同盟だろ?」
「ほらほら、娘さんの特徴を教えてくれよ」
「こーゆうのは専門家が居るんだ、頼りになる奴がな!」
そう言って前を行くユリウス王、ロニアも笑顔でそれに続いた。
「今更、迷うのなんて無しですわよ? ガルア様?」
その笑顔が、非常に憎たらしい。
「……うるせぇっ!」
それでも、ガルア自身は気が付いてないのだろう。自分も笑っている事に。
住宅街から遠く離れた場所、壁の中の端っこの部分、森のように木が集まっている場所にカルディナは居た。賑やかな中心部分と違い、とても静かなこの場所はカルディナのお気に入りポイントだ。
カルディナは5日前から、毎日ここに通っていた。その理由は……。
「シズクー! 今日も来たよー!」
その言葉に答えるように、頭上からテニスボールほどの大きさの何かが降ってきた。その正体は、水体種だ。5日前にここで昼寝していたところ、頭上から顔面に落下してきたのだ。
当然驚いたカルディナだったが、落ちてきた水体種は、その見た目から察するに下級の水体種だった。テニスボールに2つの目を付けただけの見た目をしている水体種からは、敵意は感じなかった。
出会った当初は何やら弱っていたのだが、水を与える事で元気になった。元々乾燥地帯のウィルダネスは水体種の住処には適していないのだ。元気になってからは、カルディナの周りをプルプルポヨポヨ跳ね回り、とても良く懐いてくれた。
その可愛らしさに、カルディナは骨抜きになっていたのだ。ちなみに今更だが、彼女は可愛い物に目が無い。
「あははっ! ちょっとちょっと! 足元に居たら踏んじゃうってばっ!」
カルディナの足元を跳ね回るシズク、あまりにも可愛かったので名前まで付けてしまっていた。シズクの体は液状というかは、ゴムに近い。かなり弾力があり、手で掴むととても気持ちが良かった。そんなプルプルひんやりなシズクを抱き締めるのが、最近のカルディアのお気に入りだ。
「おいで~シズク~! 水も持ってきてるよー!」
「!」
水と言う単語に反応し、カルディナの腹部に飛び込むシズク。軽そうに見えるが、実際は結構な衝撃がある。カルディナは少しバランスを崩し、尻餅を付いてしまった。
「おっとっと! ん~! ひんやり~!」
「ポワポワ」
カルディナの腕の中でクルクルと体を動かし、何かを催促するように上を見つめるシズク。
「あう~……可愛いなぁ……」
「えへへ~、はいお水だよ~♪」
シズクを地面に置き、持ってきた水をかけてやる。シズクは気持ち良さそうに目を細めていた。
「……シズクも、魔物なんだよねぇ」
「ポ?」
水をかけながら、カルディナは少し難しい顔をしていた。
「偶然なんだろうけど、クロノ君と出会ってから、あたしも魔物と接する機会が多くなったなぁ」
「そのせいかな、やっぱりおかしいって気持ち、強くなってきちゃうよ」
「シズクみたいに、セントールさんみたいに……仲良くできる魔物はやっぱり居るんだよね……」
クロノは言っていた、世の中の魔物に対する考え方が、不自然だって事を。
自分が、それに気づけている事を。
カルディナ自身、ずっとそれを考えてきたのだ、違和感を覚えてきたのだ。
(驚いたよ、それを主張して、頑張ってるクロノ君を見て……)
(私だって、変だって思う、共存の世界……出来ると思うよ……)
(けど、やっぱり……踏み出せないんだよ……)
そんな自分が情けなくて、嫌になってしまう。俯いてしまうカルディナだったが、その肩にシズクが登ってきた。
「ポー」
「んー? 何々? くすぐったいよぉ」
カルディナの頬に擦り寄ってくるシズク、もしかしたら心配してくれているのかもしれない。
「もぉ……何考えてるか分かんない水玉の癖に……心配してくれるの?」
「ポー?」
「ポー? じゃないよまったく……少しは懐いてくれてるの? あんたは……」
「それとも、水くれるから懐いてるだけ?」
「ポワポワ」
「言葉通じてるのかも分かんないなぁ……けど、ありがとね?」
手の平の上でプルプルするシズクにお礼を言うカルディナ、とても癒されるのを感じていた。そんなカルディナのすぐ隣に、何かが降り立った。
「……へ?」
この場所は木と木の間に出来た、少し開けた場所だ。この場所の上から降りてきたという事は、壁を越えて飛び降りてきた事になる。ボロ布を頭から被った『それ』は、カルディナのほうを睨みつけた。
その目は、人の物では無い。
(獣人種……っ!?)
その目から何か危険な物を感じ取ったカルディナは、シズクを抱き締め、後方に飛んだ。良く見ると、ボロ布を被った獣人種は黒い毛に覆われた尻尾がある。
「……ウルフ、族?」
カルディナを睨む獣人種は、ゆっくりとした動作で被っているボロ布を脱ぎ捨てる。その四肢は黒い毛で覆われており、黒い髪の間からは犬耳がピョンと立っていた。
どこかあの黒狼を思い描くが、目の前の獣人種はまだ幼い少女だ。どうにも愛らしさが際立ち、狼と言うよりは子犬に見える。
(え、可愛い……モフモフしたい……)
願望が一瞬過ぎるが、少女がこちらを凄い形相で睨んでくるのに気がついた。
「あ、の? あたしに何か御用で……?」
「テメェ、勇者だな?」
思ったよりも口が悪い、可愛い顔なのに非常に勿体無いとカルディナは思う。
「え、っと……そうだけど……」
「なら、テメェは一般人よりはこの国に必要だな?」
それはどうかと思う、ウダウダしているが、自分は旅立とうと思っている身だ。
「えぇ~……それはどうかなぁ……」
「ウダウダうっせぇっ! とりあえずテメェに決めたっ!」
「オレはリウナ・リカント! テメェを引き裂く事に決めたっ!」
「同盟をぶっ壊す為、ここで大人しく殺されろっ!!」
リウナと名乗った少女が、物騒な事を言いながら襲い掛かってきた。
「え、ちょ、待っ!?」
とんでもない速さで突っ込んでくる少女、カルディナは【機翔靴】を使い、何とかその突進を避けた。少女の蹴りが、木を一本へし折るのが見えてしまう。
(無理無理無理っ!! 獣人種の子となんて戦えないっ!!)
(戦えたとしても、同盟で危害を加えるのはご法度だし……)
(つかやばいっ! 逃げないと殺されるっ!?)
体勢を立て直し、町の方へ駆け出そうとするカルディナ。そんなカルディナに、リウナは声を上げた。
「逃げんのかぁ? 別にオレはあんたじゃなくてもいいんだけどぉ!?」
「町に行くならさぁ、あんた以外の奴が死ぬ事になるぞぉ!?」
その言葉に、カルディナは足を止めた。そんな事になったら、同盟がめちゃくちゃになる。
「止まったな、それでいいんだ」
「こんな場所で一人になった自分を恨め、そしてオレに殺されろっ!」
飛び掛ってくるリウナ、カルディナは背を向けたまま止まっていた。
「死ねっ!!」
「……っ! 加速……!」
リウナの爪が、空を切った。
(あっ!?)
一瞬でリウナの射程外に逃れたカルディナ、その【機翔靴】が、唸るような音を発していた。
「あたしは、あなたより弱いかもしれないけど……」
「に、逃げるのだけは……負けないよっ!」
震える手でシズクを抱え直し、カルディナは精一杯の啖呵を切った。
「……っ! 面白ぇ……ぶっ殺してやるっ!!」
逆に相手のやる気が上がってしまったが、どうやっても自分に勝ち目は無いだろう。自分に出来る事は、助けが来るまで逃げ続ける事だけだ。
(同盟後、この国はこんな事件が起こった時の為、魁人さんが国中にセンサーを貼ってくれてる……)
(国中に貼り付けられた、2500枚の札による、対魔物感知の結界術……)
(魔物の発する敵意や殺気を感知し、その発信地を特定する広範囲探知術っ!)
(それまで逃げ続ける……だから、誰か早く来てええええっ!)
襲い掛かってくる少女に待ては通用しない、カルディナの命がけの戦いが始まった。




