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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十五章 『雪花が彩る正義の形』
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第八百四十一話 『品性死亡』

「魔核を生んだクソ雑魚ボディで見事勝利し、ネーレウスが出来なかったテメェ守り切るというミッションも達成した、これは誰がどう見てもそう……この俺の完全勝利というわけだ! 俺は間違いなく奴の一歩、いや二歩先に到達した、どうだ見たかこの俺の雄々しき姿を!」



「マーキュリー! 頭から噴水みたいに血が出てる!」



「黙れ掠り傷だボケナスが! まずは心配とか俺様を舐めてやがるな人間風情が!」

「俺は勝者だ! 確かな成長を感じている時に余計な水を差すんじゃねぇ!」



 誰がどう見てもボロボロの重傷なのに、なんでこうも威勢が良いのだ。タフネスは認めたいが、そろそろ目の焦点が怪しくなってきているし、なんならフラフラと左右に揺れ始めてる。



「重傷だ!」



「軽傷だ!」



「なんだよその無駄な意地は! でも、助かったよありがとう」



「誰が誰を助けたって!? 礼なんざ言ってんじゃねぇテメェなんかついでだついで!!」

「そもそも祭りに誘ったのはテメェだろ! なんで吹雪の中こんな雑魚に苦戦してんだ!? テメェなら秒殺出来るだろこんな雑魚人間!」



「いやそれが……詳しく説明してる時間は無くてさ……かくかくしかじか、精霊封印って感じで……」



「あ?」



(通じない側、か……? それともまだ俺の力量不足……?)



「つまりなんだ、今のテメェは精霊無しの雑魚以下ってわけか」



「通じたけど腹立つ伝わり方! いやそうなんだけど!」



「じゃあ今ならテメェを殴り放題って事だよなぁ」



「どうぞどうぞ、本調子じゃない俺相手に勝ち誇れる立派な王族像をどうぞ地上にお晒しくださいませ」



「やっぱテメェ大嫌いだわ……将来テメェの為の殺意がどんだけ溜まってるか今から楽しみだぜ」



「悪いけど口喧嘩に付き合う暇もないんだ……急いで戻らなきゃ……けど吹雪が強すぎて方向が……」



「あ? ラーナフルーレとかいう国は向こうだろ」



 そう言ってマーキュリーは吹雪の中指差してみせる、地上の知識なんてほぼ無い筈なのに一切迷いが無い。



「…………なんでわかるんだ?」



「あ? そりゃあ……」



 実はネプトゥヌス達と一緒に来たくなかったので、単独でも迷わないよう地形をしっかり頭に叩き込んで来たのだ。海中から陸の地形を確認し、大体の位置情報を把握すれば国のような大きな目的地の場所を間違える事はない。だが、勿論予習をしっかりしてきたからなんて口が裂けても言えるわけがない。



「俺様がスゲェからだ!」



「今ふざけてる場合じゃないんだよ!」



「うるせぇんだよ精霊使いの精霊抜き野郎が! いいから行くぞボケカスが!」



 何故か片手で担がれるクロノ、ボロボロの怪我人に運ばれるほど消耗はしていない為流石に抵抗する。



「なになに! 精霊抜きでも自分で歩くくらいの体力は……」



「体力温存したいって言ったのはテメェだ助けられるなら最後まで助けられとけカスがぁ!」



「えぇ……」



「大体俺様の残り体力は中途半端なんだよ、だったらテメェの消耗をゼロにして使い切るのが効率的だろうが」



「じゃあついでにそのぶっ倒した奴も運んでくれないか? 放っておいたらこの吹雪の中凍死しちゃうよ」



「なんて図々しい奴だ……つうか敵だぞ、しかもクズの犯罪者じゃねぇか……助けたところで感謝なんかされねぇぞ」



「対立した相手を、邪魔だからって叩き潰して進むだけじゃやってる事こいつ等と変わらないだろ」



「ハッ、勝者の特権……綺麗ごとじゃねぇか」



「いいや、それ未満の、俺のエゴだよ」

「けど、真正面からぶつかり合うならさ……違いはあって当然だろう」

「こいつ等の正義を否定するなら、それなりの在り方で反発するさ、俺なりの綺麗ごとで」



「あぁそうかい、勝手にしろよ」

「さっさと終わらせて、飯でも奢れや」



 マーキュリーは片手でクロノを担ぎ、片手でブリッツクロスの片足を掴む。そのまま勢いよく地面を蹴り付け、足の裏から水流を放ち地面を滑る。ブリッツクロスの巨体が引きずられている気もするが、今はそこまで気に掛ける暇はない。一刻も早く、戦場となっているラーナフルーレに戻らなければ。



(けどどうしたもんか、この状態じゃ俺は戦力として役立てるか怪しい……俺をこの状態にした奴は、多分同じチームに潜んでた奴、飛ばされる直前後ろから男の声がした……多分あいつの能力……)



 あの時近くにはスピネルが居た、性格上スピネルが黙っているわけもないし、少なくても飛ばされる直前スピネルに何かされた様子はなかった。つまり高確率で自分を飛ばした能力者とスピネルは対峙したはずだ。この手の能力は能力者を倒せば、解除される可能性が高い。



(俺が受けた能力は大きく分けて、あの場所からの分断、そして精霊達との継続的な分断……能力者を倒せば、精霊達とのリンクは復活する……なら元の場所まで戻ってスピネルと協力し能力者を倒すかって話だけど……)



 スピネルも同様に飛ばされている、能力者は既にその場から離れている、現場がどう動いているか不明な以上不測の事態は幾らでも想像できる。そもそも最悪なのが復帰した後またどこかに飛ばされる事だ。精霊との隔離は敵の討伐で解除されるだろうが、転移は流石にリセットされないだろう。再度戦場から飛ばされれば、自分はお荷物どころじゃない戦犯クラスの役立たずと化す。初手で自分を狙ってきた以上、お相手はクロノを処理する事に重きを置いているらしい。そもそも敵の数が分からない以上、色んな敵に対応出来て機動力もある自分が一か所に固まるのも考え物だ。



(各チームの配置は頭に入ってる……敵は俺を処理できたと思ってる筈……なら合流は想定外、不意を突けるチャンス……一番効率的なのは、戦場に風穴を開ける一手は……)

「…………はは、やっぱ切り札なんだよなぁ」



「なんだテメェ一人で笑って気持ち悪いな」



「いやぁ、なんだかんだピンチの時切り札に頼ってるなぁって」

「まぁ、そもそもな話俺には勿体ないくらいの頼もしい仲間が沢山なわけでね」

「合流前に、ケリ付けてくれる可能性まであるんだよね」



「あぁ?」



「たまに疑わしい時もあるけど、俺はきっと多分恐らく願わくばあの子に信頼されてると信じているわけで……」

「不甲斐ない俺の為に、怒り狂っているなんて想像しちゃうわけですよ」



 力無く笑うクロノに怪訝な顔をするマーキュリーだったが、クロノの想像は想像以上で現実のモノになっていた。怒りを超えた殺意のままに、スピネルは子供とは思えない動きでアランに襲い掛かる。己の感情を正確にコントロールし、第一優先反転を難なくすり抜け、対象隔離すら見切り剣無しで互角以上の戦いを繰り広げていた。



「今時の子供怖すぎじゃない?」



「ならさっさと降参してくれませんか?」



「またまた……降参したところで優しく拘束程度じゃ済まないんだろ?」



「えぇまぁ……殺しますかね」



「今時の子供怖すぎだろ……さっきの精霊使い同様どっかに隔離したいまであるが……嫌だねどうも……」



 スピネルと目を合わせ、アランは深いため息をつく。スピネルがどう動いても対応できる距離を保ち、隙あらば攻めに転じる、振舞いから相当なやり手なのが伺える。



「触れて能力を発動する、一秒にも満たない一瞬でその指が千切られそうだ」



「その程度で済めば良いですね」



「君みたいなバイオレンスショタがいるって情報が抜けてたのは、俺の落ち度だなぁ……完璧ミスだよ……安全策を取るならさっさとこの場から離脱するのが一番なんだけどね」



 それはスピネル的に最悪の一手だ、隔離の力を逃げに使われると追撃は正直難しい。この場からの離脱なんて一手で済むし、追いかけようにも阻まれる可能性が極めて高い。厄介な能力者を戦場で自由にさせれば、他の戦況も一瞬で覆り兼ねない。その最悪は最悪ではあるが想定はしている、だからこそ離脱されるその瞬間、音より早く飛びつき首元を噛み切ってでも仕留める覚悟をしている。



「まるで狂犬だな……その目……子供のしていい目じゃないし、勇者としても相応しくない」



「正義狂いの犯罪者に勇者を説かれるなんてビックリです」



「俺達に正義を説く方が間違っているよ、特に君みたいな世を知らないガキはね」



「これでも汚いところは普通の子供より見てきた自信ありますけど」



「…………そういうところだよ」

「安心して良い、俺が逃げを選ぶことはない……重要な仕事中でも俺達は自分の正義を優先する事を許されているんだ」

「俺は君みたいな奴が嫌いなんだ、それに加えて勇者が大嫌いなんだ」

「仕事より、君みたいな不快な奴を己が正義のまま下す事が大事だ」



「感情優先ですか、社会不適合者の素質ありますね」

「大人ならさ、子供の手本になってくださいよ」



「俺達はあの方の飾りに過ぎない、俺達なんて失敗しようが成功しようがどっちでもいいのさ」

「結局過程はどうでもいい、何がどうあろうとも、あの方の正義は不変不滅」

「最後には必ず、正義は勝つんだよ」



「あぁそうですか、勉強になりました……ところで僕をぶちのめすのがあんたの正義とか数秒前にほざいてたけどさぁ……」

「負けた時の言い訳とか、ちゃんと用意してますか?」



「……君に勇者の名は、相応しくない」



「相応しいと思った事なんて、一度もねぇんだわ」



 両者同時に飛び出し、その拳が激突する。後方に弾かれたスピネルだったが、何もない場所に背をぶつけた。



「これは……」



「認識だけじゃない、空間から俺達を隔離した」

「小細工は抜きだ、暴力で君を潰す」



 狭い空間に、敵対する男が二人。空気が血と殺意の匂いで埋め尽くされる。アランの蹴りがスピネルの脇腹に突き刺さるが、怯むどころかスピネルは拳を振り上げアランの顎を打ち抜いた。



「随分と物理的で荒々しい正義ですね、勉強になります」



「将来が心配になるな、早々に勇者を引退するべきでは?」



「恵まれた小賢しい能力を持っているのに、感情任せの戦術で来るなんて……仕事人としてはクソゴミですけど僕的には助かりますよ……感謝するんで死んでください」



「気が利くついでに、勇者引退の手間も省いてやろう……将来も考えずにここで幕を下ろせ」



 両者引かない、口も閉じない、殴る、蹴る、殴る殴る殴る蹴る殴る蹴る、血が流れ、飛び散り、狭い隔離空間が赤く染まる、止まらない、両者一切、引くことを知らない。



「クソが、その高い頭を踏み潰してテメェの正義へし折ってやる」



「勇者以前に口が悪い、教育し直してやる」



 隔離されている故、誰一人止める者が居ない。ヒートアップは止まらない、最悪の民度の戦いは誰にも止められない。



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