第八百三十一話 『集う七チーム』
結局ピリカに押し切られ、レラは雪像フェーズとやらに強制参加させられた。流魔水渦の手が加わっている為、てっきりチーム編成は裏で細工されているのかと思ったが結構ランダムらしい。
「あくまで大罪七人がバラバラになるようにしてるだけなのか、そして思ったより参加者が多いな」
役員に案内され、レラは割り当てられたチームの控室に来ていた。国の勇者が口調は荒くそれ以外は丁寧に案内してくれた。見渡してみると、国の外から来た者や雰囲気からして慣れていそうな者、祭りの空気でテンション上がってる者など様々だ。
(……魔物絡みだというのに、それも敵を招く囮に等しい作戦なのに……純粋に祭りへの楽しみ、期待を感じ取れる……迂闊過ぎる気もするけど……それだけこの祭りが大勢に期待されてるんだろうな)
作戦への責任感はあれど、それ以上にこの祭りを成功させたい気持ちが強くなる。これだけ多くの人が楽しみにしているのだ、全てを良い方向に持っていきたいと願わずにはいられない。そしてそんな事を考える自分に少し笑ってしまう。
「少し前まで森が全てと思い込んでた偏屈エルフだったってのに……今は頭の中滅茶苦茶だな」
「やれやれ……変な友を持つと苦労する……そういえばこのチームに顔見知りとか居ないのかな……」
知り合いの一人や二人居そうなので少し真面目に探してみる事にする。目だけじゃなく耳も凝らし、なんなら魔力で周囲を感知してみる。すると部屋の隅に何やら人が固まっているではないか。
「なんだ? みんな何を見て……」
「者共、平服せよ……我がこのチームを率いる傲慢の悪魔である」
「我が居る以上勝利は揺るがぬ、勝利以外は不要、敗北は有り得ぬ」
「うわあ……」
物凄い傲慢な奴が小さな神輿の上で偉そうにしていた。しかも神輿を担いでるのは見知った切り札だ。
「私は切り札なのに……なぜこんなことを……」
「黙れ、切り札ならば何をすべきかすぐに見定めろ」
「※セツナに怪しい視線を向けつつ、一緒に神輿を担いでいる」
「わっしょいわっしょいっ! 素直にお祭り楽しいですっ! 張り切って行きましょうっ!」
「あれ流魔水渦の絵札じゃないか……?」
セツナと一緒に神輿を担いでいるのは、絵札でありケルベロスの一体であるロスと、同じく絵札のアズだった。アズに至っては触手を使って神輿の後方を一人で支えている。
(絵札も参加しているのか……アホみたいな絵面だけど戦力的に本気で迎え撃つって気概が伺える……)
「繰り返す、絶対的な勝利を掲げよ……祭りの主役は我が貰う」
「うおおおおおおなんか知らねぇが凄い自信だ!」
「もう細かい事はどうでもいい! 祭りは盛り上がってなんぼだぜええええっ!」
「一番偉そうな大罪だ! この勝負はもらったっ!!」
「そうだ、我こそが頂点に相応しい」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
「なんだこりゃあ、宗教か……?」
僅かに引くレラと、神輿を担ぐ切り札の目がこのタイミングで合ってしまう。
(…………助けてくれ…………!)
「うわー声が聞こえてくるー」
チーム傲慢、士気上々で準備万全。一方、他のチームでは……。
「えっと……今回もクロノ君のお力になれればと参加させて頂いたのですが……」
妹のマリアーナを兄に任せ、シーは姉のアクアと共に雪像フェーズに参加していた。シーのチームは憤怒、マルスのチームだ。
「そうか、クロノは別チームだ残念だったな」
「いえ、志は同じですので!」
「ところで大罪以外にも悪魔の方が参加しているのですね、少し驚きました」
シーの視線の先には、壁にもたれかかっている悪魔が居た。なんて言うか、凄く疲れている様子だ。
「一応面識があるが、どうしてここにいるのかは不明だな」
「え、そうなんですか? 今にも倒れそうなので声をかけた方が良いのかなって……」
「どうしてこんな目に……クソが……」
今にも死にそうな悪魔の名はインク、ケーランカの姫であるヨナを攫った事になっている悪魔だ。祭りの匂いに誘われたヨナに引きずられるようにラーナフルーレを訪れた彼は、好奇心の怪物であるヨナに振り回され体力と気力を極限まで削り取られていた。挙句ヨナが雪像作りに参加しようとした為、なんとか止めようと頑張った際に何故か入れ替わるように参加させられた次第である。
(頑張ってね! 応援してる、ずっと見てるからね!)
「クソがぁ……」
「あれは放っておいた方が良いだろう、そっとしておこう」
「は、はぁ……」
「それより僕はお前の方が気になるが?」
マルスが話しかけたのは、何の変哲もない一人の人間だった。椅子に座り、随分とリラックスしている様子だ。
「お知り合いですか?」
「え? いやいや私は大罪の悪魔さんなんて知りませんよ?」
「白々しいぞ四天王、僕を侮るなよ」
「バッカ知らんふりするのが筋ってもんやろ! 声が大きいっちゅうねん!」
「四天王っ!?」
「人魚ちゃん声が大きいっ!」
「そこはこの俺、輝くダイヤがルト様直々の命により、キラリと目を光らせているのでご安心を」
「諸君っ! 俺こそ絵札が一人……煌めきのダイヤ……バロン・グリットラーですっ! 火傷に気を付けな?」
自ら紙吹雪をばら撒きながら、何処からともなくバロンが降り立ってきた。
「絵札か、随分と監視の目を緩めるものだな」
「彼にはルト様が温泉で身体を休められた恩義があるし、正直かなりの助けになっているんだ」
「俺自身温泉上がりのルト様のお写真を土産に貰っている、どうやって手に入れたかとか細かい事はどうでもいい、強い友情を感じているのさ」
(マイラちゃんに取引の事バレとるけど、黙っとこ)
「今回お忍びで遊びに来てんねん、こんな面白そうなお祭り放っておけんって」
「どいつもこいつも……遊びじゃないんだぞ」
「邪魔はせんよ、邪魔はな」
「ワイの本質は、楽しみたいだけなんやから」
へらへらと笑う四天王、警戒する大罪に煌めく絵札、視界の端で項垂れる悪魔。シーは瞬時に理解した、とんでもない所に来てしまったと。チーム憤怒は開始前からカオスな事になっていた。
その頃、マルスやツェンと一番付き合いの長いミライはと言うと……。
「キャー! じゃあじゃあその子の事が好きなんだね! 愛なんだね!」
「スピ君に対する思いは、愛を超えています! 胸を張ってそう言えます!」
ロベリアと恋バナをしていた。出会って二秒で愛の気配を察知したミライに捕まり、ロベリアはあれよこれよと欲を引き出されていた。
「でもでも、ロベリアちゃんはスピネル君の為に、スピネル君はクロノ君の夢に協力する為に、厳しい修行で頑張って強くなって……愛だねぇ泣けるねぇ」
「スピ君は良い子なんです……本当に良い子なんです……」
「馬鹿みたい……なんなのこの空気は……」
そして休暇と言う名の仕事でラーナに放り込まれたリリネアもまた、このチームに巻き込まれていた。ジェイクに作戦的に目立つ場所に魔物が居た方が効果的だと丸め込まれ、無理やり参加させられたのだ。
(そりゃあミクレムちゃんをこんな場所に放り込むわけにはいかないけどさ……! 嵌められたわ……大体全部魁人の馬鹿が悪いでしょ……ムカつく……!)
「ん~?」
「ひっ!?」
いつの間にかミライが顔を覗き込んできていた。アホな会話をしていたが相手は大罪、何を言われるか分かったものじゃない。
「愛だね?」
「何がっ!?」
「想い人の事を考えてる顔をしていたよっ!」
「的外れすぎて引くわっ!」
「大丈夫だよ、誰かの為に何かしてあげたいって想う気持ちは、愛は尊いものなんだからっ!」
「みんな頑張ろうっ! 愛の力は無敵なんだから、それを勝利で証明してあげる!」
「あの子本当に悪魔なのかねぇ」
「国を愛する力は俺も負けねぇぞー! あはは!」
「チーム色欲、ファイトー……おーっ!」
「「「おーーっ!」」」
瞬時に纏め上げ、ミライは既にチーム内で信用を勝ち取っていた。能力も使わず、持ち前の明るさだけでこれである。
「物凄く居心地が悪いわ……」
空気に耐え切れず、リリネアは輪から外れ距離を置く。よそ見をしていた為、丁度控室に入ってきた者とぶつかってしまった。
「あっ、ごめ……」
変な仮面とマントを装備した、変質者一歩手前の変なのがそこにいた。隣の女の子も目が死んでいる。
「うわあ!! なによあんたっ!」
「俺か? 俺の名前は……デビルヒーローっ! ルイン・ザ・ダークッ!!」
「死ねばいいとシャルは思うよ」
「辛辣っ!」
チーム色欲に変なのが乱入している頃、レヴィは深い、それはもうとんでもなく深いため息を吐き散らかしていた。
「セツナとチームが別れて、勝機を見たっていうのに……これはあんまりだよ」
「そんな事言わずにさぁ、仲良くしようじゃないかレヴィちゃんよぉ、長い付き合いじゃないのさぁ」
「しっかし人が多くてワクワクするねぇ、やっぱついてきて正解だったぜぃ」
「最低最悪なんだよ、女王としての自覚もないクソ害虫だよ」
「そこまで邪険にしなくてもさぁ、我にとっては外の体験は貴重なんだぞー」
周囲を飛び回り、レヴィの頭の上に着地したのはラズライトだった。祭りに参加した挙句、作戦にも飛び入りし、しまいにはレヴィと同じチームになった妖精女王だ。
「問題になるとか考えないの? 殺虫剤撒くよ?」
「妖精に殺虫剤は効きませーん! むしろ他のチームに特攻かもね?」
「問題にならないようにするってば、今は妖精女王じゃなくて一人の戦力としてみてくれても良いんだぜ?」
「性格終わってる奴は戦力として数えないよ、リスクすぎる」
「へいへいへいへーい! ちなみに今回飛び入り参加のラブリーエンジェルも戦力にはならないぜー! ポンポンダンスで応援はしたげるねー!」
そして何故かいるベルが後方で踊っている、早くもレヴィは頭を抱えていた。
「ピットちゃんと別チームになれて久々に解放されたラブリーエンジェルだぜーっ! イィィヤッハアアアアアアアアッ!」
「なんだあれ、天使ってあんなだっけ?」
「レヴィは嫉妬したいんだよ、ストレスで胃に穴が開きそうなんだよ……」
「ご安心を、全てを解決するメイドがここにおります故」
大ピンチのレヴィの元へ、メイドが現れた。
「お前は絵札の……」
「ここに足りない人材を至急調達して参りました、メイドですので」
「常識人枠兼……ツッコミ役です」
マイラに連れられてきたのは、アクアだった。
「なんなのっ!?」
「むぅ……こうなったらメイドと人魚でなんとかするしかないんだよ……」
「なんなのっ!!?」
チーム嫉妬は苦しい戦いを強いられていた。巻き込まれたアクアは可哀想だが諦めてもらうしかない。
「さァ……チーム暴食の力を見せてやろうじゃねェかァッ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
レヴィが苦しんでいる頃、ディッシュは意外にもチーム全体を鼓舞していた。自慢の頭脳を駆使し、上手いこと仲間達の士気を上げている。
「勝って豪華賞品とやらはボクのもんだァ……美味いもんなら美味しく頂き、どうでもいいもんは売り払って暴飲暴食だぜェ……」
「暴食の生みの親って感じの思考だねぇ」
「ちょちょちょラーネアさんっ! あんまりお近づきになっちゃ危ないですって!」
「んあァ? なんだお前等ァ……暴食の匂いがするなァ」
「暴食の森出身なんでね、宜しく頼むよ」
クロノの誘いに乗ったラーネアとティドクランは、二人してディッシュのチームに参加していた。何の縁か、暴食繋がりが纏まった。
「へェ……後ろの龍はヘタレの匂いがすんなァ」
「放っておいてもらえますっ!?」
「そこのガキの方が、まだマシな匂いだぜェ」
ディッシュの視線の先には、なんとノクスが居た。暴食の森の復興作業から一時的に外れ、祭りに参加していた。
「…………」
「餓えた目だなァ、ボクになんか用かァ?」
「…………暴食の、悪魔……」
ノクスが口を開こうとした瞬間、控室の扉が開け放たれた。そしてそこには、未知を喰らう悪魔が居た。
「さぁ……大罪ガチャの結果はどうですかっ! 未知は何処ですかっ!!」
「……なんだあいつ……」
「未知を喰らう化け物……未知の悪魔だなァ……! ある意味で暴飲暴食かァ?」
「未知の匂いがするのですよおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
チーム暴食+エルフ=未知IN暴走。
そしてチーム怠惰には、ラーネア達と同じくクロノの誘いに乗ったヒャクとシロガネが参加していた。
「さてさて、お祭りに来てみたはいいけど」
「肝心の大罪がこれか」
「ぐーぐー……すやすや……」
プラチナは布団に包まり睡眠態勢だ、参加者も正直困惑している。
「断固として働かないって意志だけは感じるねぇ」
「テーウやキリハが客側にいるのだ、不甲斐ない姿は見せたくないぞ」
「しかし最大戦力の大罪がこれじゃ、勝利は厳しいかもしれないねー……どうしたもんか」
「美味しそうだし、食べちゃおうか?」
「無理だろう、寝ているのに隙が無い……凄まじい怪物だよ」
「この怪物を動かせるのは、相当な怪物か理解の及ばぬアホだけだろう」
いい考えが浮かばず、蟲コンビは頭を悩ませる。そんな二人の間を抜け、いつの間にか何者かがプラチナの前に立っていた。ヒャクとシロガネは反応出来ず、そいつは驚く暇も与えずにプラチナの耳元で息を吸い込み……。
「プラチナさああああああああああああんっ!! 時間です祭りですお仕事ですっ!! 貴方の友達ケールがわおーんと来ましたよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ぎぃいええええええええええええええええええええええええええええええっ!!?」
凄まじい音量で叫んだ、悪魔じゃなかったら鼓膜が消し飛んでいたかもしれない。
「殺す気かアホ犬っ!! ふざけんなっ!!」
「はいっ! 呼ばれなくても飛び出るでお馴染みのケールです! お久しぶりです今日も頑張っていきましょう!」
「俺とは一番無縁の言葉だよそれっ! 俺は頑張るとか真面目とかが一番嫌いなのっ!」
「一期一会の素晴らしいお仲間が集まっていますっ! どうせやるなら目指すは勝利っ! 張り切っていきましょう!」
「嫌だって言ってんだろ勝手にやってろっ! 大体寝てる間に勝手に参加させられてただでさえイラついて……」
プラチナの声を遮るように、凄まじい力が控室を埋め尽くす。暴食の森でも実力者であるヒャクやシロガネはただ圧倒され、絵札の一人であるケールも言葉に詰まり、大罪の悪魔であるプラチナですら意識の大半を警戒に割かれた。凄まじい存在感を纏ったそれは、部屋の中心にいた。
「チーム戦……そして真剣勝負……ふふ、腕が鳴ります」
「ベルさん、手加減はしませんよ」
そこにはベルに付き合い、何故か祭りに参加したピットが居た。伝説の勇者と共に旅をした化け物が、真面目故に力の限りを尽くし暴れようとしている。悪意無き暴力から一時解放されたベルは、嵐の前の静けさにまだ気づいていない。チーム怠惰は、怠惰出来ない可能性が出てきた。
「なんだろう、悪寒がするな……」
「なんですかお兄さん、大事な作戦前に風邪ですか? だらしないですね」
(訳・大丈夫ですかお兄さん、何かあったら僕が力になりますからね)
スピネルと同じチームになったクロノは、謎の悪寒を感じていた。再会早々スピネルから嵐のような暴言を叩き込まれているのだが、ずっと笑顔でご機嫌なので多分嫌われてるわけじゃないと思いたい。ロベリア曰く久しぶりに会えて嬉しいらしいので、とりあえず暴言に関してはどうにか気にしないようにしている。
「ロベリアさんとチーム別れて、不安とかない?」
「お姉ちゃんが誰かに迷惑かけてないか、割と心配ですね」
「そ、そっか……」
「おれも他の大罪が心配だな、どいつもこいつも癖があるからな」
「僕は目の前の大罪がまともすぎて逆に不安ですよ、僕の短い人生で見てきたどんな大人よりもまともだ」
クロノとスピネルが参加したのは、ドゥムディの強欲チームだ。癖の強すぎる大罪の中でも、飛び抜けて話が通じるまともな悪魔である。
「ドゥムディさんが一人一人丁寧に接したおかげか、チーム内の空気も凄く良いですしね」
「おれは強欲だから欲しかっただけだ、チームの結束って奴がな」
「勿論勝利も手にしたい、やるからにはあいつらが相手でも勝ちに行くつもりだ」
「僕もやるからには勝ちたいですね、作戦云々除いても」
「当然だが、あたしもやるからには勝ちに行くぜ」
人をかき分けながら近寄ってきたのは、ルベロだった。今回、絵札は全員参加らしい。
「ケルベロスも三人分かれて参加してるんだよな?」
「あぁ、ケールもロスも別チーム……絵札の目を増やす為にな」
「あたし等の目指すところは敵をぶっ飛ばし、祭りも成功させる全取りだ……なら真の全取り……全勝の為にはここの勝ち星だって欲しいじゃねぇか!」
「おれは強欲だからな、譲るつもりはないさ」
「修行の成果を見せてやりますよ、足を引っ張るなよお兄さん」
(訳・頑張りましょうねお兄さん!)
チームの雰囲気が凄く良い、十分勝ちを狙えると思わせてくれる。当然だがクロノ自身、手を抜くつもりはない。しかしこのチームの安定性の高さを見れば見る程、他のチームが不安でならない。
「さて、無事に終わってくれるかな……」
チーム強欲、開始前から凄まじい安定感。しかしクロノは気づいていない、悪寒の正体は他チームへの不安だけではない事に。チーム内から向けられる、一つの暗い視線に、気づけていない。
第一フェーズ開始まで、あと僅か。




