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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十五章 『雪花が彩る正義の形』
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第八百二十九話 『ふわりふわふわ、怪物登場』

 雪花氷祭り当日、ラーナフルーレには多くの人が集まっていた。祭りの数日前から国の周りは雪が強くなってきていたが、ここから一週間ほどは特に強く吹雪くことになる。視界を容易く奪うほど強烈な吹雪になるが、ラーナフルーレ周辺の街道は結界も完備されており祭りの最中は見回りの兵士の数も増える。国の防衛レベルは普段と比べられない程に高まっているが、想定している敵に常識は通用しない。



「そう、常識の通用しない相手程恐ろしい者は居ない……俺はそう思うんだ」



「間に合ったのですよ……ラーナの雪花氷祭り…………色々とお手伝いや日々更新されていく地獄のような修行を乗り越え……わたし達は未知の待つ新天地へ辿り着いたのですよっ!!! ひゃっはー!」



「すまないクロノ、常識の通用しないバカがまた一人増えちまう」



 祭り当日ギリギリで滑り込んで来たのは、クロノの友達であるエルフ二人組、レラとピリカだった。裏側で流魔水渦を手伝いつつ、エルフの英雄であり最近は鬼か悪魔なんじゃないかと疑っているカムイの元で修行を重ねている向上心の奴隷だ。今日に至るまで地獄の中で過剰な未知を摂取し続け、未知を求める怪物と化したピリカだったがそれはまた別のお話……今回は珍しくカムイの許可が出たのでクロノ達の助けになる為に馳せ参じた次第だ。



「ギリギリになっちまったけどな……それでも国の守りに加わるくらいの事は出来るよな」



「花咲く雪が吹雪く国っ! 銀世界にお祭りに人に魔物に悪魔が退治屋っ! 未知が未知で未知を未知してっ!」



「久しぶりの自由でピリカが壊れちゃったよ」



「はっはっは、エルフしてんなぁ」



 挙動が完全に不審者と化した哀れなピリカを見てカムイは笑っていたが、地獄のような修行の合間に世間話みたいなノリでやべぇ知識や話を流し込んで脳を破壊してきたのは他でもないこの怪物エルフだ。もはや存在自体が禁書の類であり、レラは生きてきた中で今のところこの男が一番恐ろしい。この男が本気を出せば、国一つ秒で消し飛ぶような禁術や呪いが乱れ飛ぶ事になる。弟子の身で変な話だが、絶対に目を離しちゃいけない男だ。



「俺を見る目が変わったねぇお前も……弟子の成長が嬉しいぜ俺は」



「俺は悲しいよ、我が種族の英雄がまさかこんな危険人物だったなんてな」



「安心しろ、我が弟子よ…………いつかお前もこうなるさ、長生きすればな」



「ゾッとする事を言わないでくれ……っていうか普通についてきてるけど、まさか手でも貸してくれるのか?」



「いや? 俺は祭りを個人的に楽しみに来ただけさ、弟子の成長とクロノ君の観察も兼ねてね」

「そもそも俺達の時代じゃねぇんだ、世界を動かすのは若いもんに任せるさ」



「時に若者は先輩に助けて欲しいもんなんだがな」



「それはそれで、興味深い」



 三度笠を被り直し、カムイは何処かへ飛んでいってしまう。多分本当に祭りを楽しみに来ただけなのだが、あのレベルの怪物が人の国に解き放たれた事自体がレラにとっては冷や汗モノである。



(共存とは本当に難しい、強くなればなる程に『上』を理解出来てしまう……差があればある程に共存の難度は上がるように思う……警戒や恐怖を与えない強さなんてないんじゃないか……)



「レー君レー君レー君! ほら見て! 雪!」



「……おう」



 手のひらいっぱいの雪を見せられ、レラの悩みが押し流される。友の夢を様々な角度から考え、レラは日々頭を悩ませていた。そしてそれと同じくらい、ピリカの挙動にも頭を悩ませていた。



「ピリカ、クロノの手伝いも大事だが貴重な修行から解放された時間だ……少しくらい心と身体を休めるのも」



「うん、思う存分未知を吸い込んで回復しようと思う……」



「もういいよ好きにしてくれ、お前はそれでいいよ」



「それにしても人が多いねぇ、お祭りの雰囲気って好きだなー」



「急に冷静になるんだもんなぁお前は……けど同意見だし意外でもある」

「正直、今回の作戦を聞いて俺は天焔闘技大会の時以上に正気を疑ったぜ」



 人の国を囮にする、しかも多くの者が楽しみにしているであろう祭りのタイミングにだ。訪れる人は減り、国の者からは不満が溢れる……そんな想像をした。しかし周りを見渡してみても人の数が減っている様子は見られない、今も国の外から人が沢山やってきているくらいだ。



「魔物や悪魔が祭りに参加する旨は、かなり前から各国に知らされてたよな」



「流魔水渦が各地に情報流してたしね、神聖討魔隊サンクチュアリナイトの耳にも届くように」

「色々事前に準備してた天焔闘技大会の時ですら、参加者はかなり減ってたのにね」



「その天焔闘技大会、後は討魔紅蓮の一件から世界の考え方は変わった……その影響を考えてもちょっと受け入れすぎじゃ……」



「……レー君、しっ」



 ピリカが指を立て、口を閉じろと合図をしてきた。咄嗟に口を閉じ、ピリカと同じく周囲の音に集中する。



「悪魔やら魔物やら、今年の祭りはどうなる事やら」



「噂じゃどこぞの退治屋を誘い込む罠とか? 巻き込まれる方は堪ったもんじゃねぇよなー」



(……国の者か、やはり不満は隠せな……)



「まぁ、今に始まった事じゃないかぁ」



(ん?)



「どうせ今回も国民の怪我とかないんだろうなぁ、自分達は傷だらけの癖に……ご立派な勇者様達だよ」



「王様の方針にも慣れたわ、一々気にしてたらこの国じゃ生きてけないよ」

「こんだけちゃんと守ってもらってんだ、文句なんか言えないわな」



 信じ難い事に、国民からは不満や不安より国への信頼の方が強いらしい。一体どんな運営をしていれば、こんな評価になるというのだ。



「信じられんが……聞こえてくる不満が殆ど自己解決してるな……」



「うーん、空気も悪いとかないねぇ、なんかしょうがないよねーって感じ」



「おやエルフとは珍しい、もしやルトちゃんの知り合いかね?」



 背の低いお爺さんが話しかけてきた、凄く優しそうで不思議と警戒が緩んでしまう。



「ルトさんを知ってるんですかー?」



「一応知り合いと言えば知り合いです、今日の祭り、その裏側の事情も知っています」

「俺達はこの国の助けになれればと、加勢に来た者です」



「そうかいそうかい、ありがとうなぁわざわざ……」

「では折角じゃ、祭りが始まるまで少し案内でもしようかねぇ……我が国を」



「我が国?」



「…………お爺さん、血の匂い隠すのお上手なのですよ」



「はっはっは、そういうお嬢ちゃんはとんでもない魔力じゃ」

「申し遅れた、わしはバーガーマン……この国の王様をやっとるしがないじじいよ」



「王様が国の入り口に普通に立ってていいのか!?」



「我が国の祭りに遠路遥々訪ねて来てくれる、そんなお客様方を眺めているのがじじいの数少ない楽しみなんじゃよ」



「優しそうな笑顔はとっても素敵ですけど、血の匂いについて説明がないとお話全部信じるわけにはいかないのですよぉ」



「血生臭い世界も歩んできた、それだけの話じゃよ」

「此度の作戦も、国の者に心労をかけてしまうのが心苦しい……じゃが正義を語り滅茶苦茶しとる大馬鹿者を見てみぬフリは出来んのじゃ」

「わしもわしで、曲げられぬ正義を持ってしまった老害なのでな……」



「は、はぁ……」



「わしの国が人様の役に立つなら、囮にでもなんでも使ってくれればいいんじゃ」

「誰も傷つけさせん、正義も曲げん、老害は何も捨てられん」

「馬鹿者を叱ってやれん年寄りになーんの価値があるっちゅうんじゃ、責任も取れんじじいになんの価値がある?」

神聖討魔隊サンクチュアリナイト……来るなら来い、どっちの正義が正しいか白黒つけようじゃないか……その為の舞台、大いに結構……」

「演目が一つ増えるだけよ、万が一にも国民に迷惑はかけん、もし国民に何かあれば……」



「…………あれば?」



「腹を切って詫びよう」



(…………目がマジだ……)



「お爺さん一人がお腹を切っても、傷ついた人はきっと納得とかしないのですよぉ」

「お爺さんが死んでも、何も戻らないし帰ってこないのですよ」



「ピリカ、お前失礼にも程が……!」



「だから、そんな事にならないようにわたし達がいるのですよ」

「お祭り成功させましょう、絶対!」



「わっはっはっは、ラーナの雪は美しいぞ!」

「楽しんでいってくれ、みんなの笑顔はわしらが守る、保証する!」



 豪快に笑うじじいとピリカ、そんな二人を見てレラも呆れたような笑みを浮かべる。ようやく肩の力が抜けてきたエルフ二人だったが、そんな二人を上空から見つめる影があった。



「あのさぁ、殺気混じりで背後に浮かぶのやめてくんない?」



「弟子を淫らな目で見る変態に殺気をぶつけるのは師匠として当然だろうに」



「別に可愛い子がいるなーくらいの目でしょう、相変わらず鬱陶しいわね」



 上空から周囲を監視していたのは、テイルだった。その視線は今の今までピリカに注がれていたのだが、背後に浮かぶカムイによって阻止された。



「相変わらずお前はレズレズしてんなぁ、もう中身ババアだろうに」



「国を出入りする子を監視してただけですー、真面目にお仕事してるだけでーす」



「本当に変わってねぇ、アマテラスも苦労すんなぁ」



「数百年未知馬鹿に付き合ってるクトネシリカには負けるわよ」

「っていうか弟子? あんたが? どういう風の吹き回し?」



「老害が今の時代に出来る、最低限の干渉かねぇ」



 三度笠を被り直し、カムイは空中で胡坐をかいた。その視線は、地上のレラとピリカに向いている。



「ふーん、大事にしてんじゃん」



「エルフは同族に甘いのさ」



「託すの? どっちに?」



「まだ未定だよ、未来は不確定の方が面白い」



「私にもさー、可愛い弟子が出来たのよねぇ」

「風の噂じゃ、ピットの奴にも妹分が出来たとか……」



「はは、時の流れを感じるねぇ」



「やめてよ、爺臭い」

「私の弟子は、強いわよ」



「ほぅ、そりゃ興味深い」

「年寄りは首突っ込まず、弟子の活躍を肴に酒でも楽しむかぁ?」



「一応、私は万が一の時の為の控えなんだけど?」



「そうかそうか、それじゃあ俺は酒でも楽しみつつ…………」

「憶が一の時の為に、控えてやるよ」



 怪物が二体、国の上空へ配置された。



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