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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十五章 『雪花が彩る正義の形』
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第八百二十七話 『信頼+』

「おうこらふざけてんのか、ふざけてんだなぁクソババアがよぉおおおおおお!」



 国の案内をしてくれるというので、クロノ達は専属勇者のリンクヘッジを頼る事にした。その数分後、専属勇者が通りすがりのご老人に絡んでいた。



「なんでだっ! クロノ止めるぞお婆ちゃんが危ない!」



「いやぁ多分止める必要は……」



「あらリンクちゃん、今日も元気ねぇ」



「元気ねぇ、じゃねぇんだよクソババアがっ! なんじゃその両手の荷物は重てぇだろふざけてんのかぁっ!? 頼れよ俺をっ! 俺以外にもいるだろ勇者がこの国に!」



「やぁねぇこのくらいなんてことないよ、いつも頑張ってくれてる勇者さん達の手を煩わせる程じゃ……」



「毎回毎回言ってんだろうが! 俺達の手はあんた等を助けるためにあんだってよぉっ! 水臭ぇ……けど親切心の押しつけもしねぇぜ俺は、あんたが平気だってんならこれ以上は何も言わねぇ、言わねぇがなっ!!! 俺は頼られた方が嬉しいんだよっ!!」



「はいはい、困ったときはちゃーんとリンクちゃんたちを頼りますからねぇ」

「今は、そっちのお客さん達のお相手をしっかりねぇ」



「言われるまでもねぇ……俺達の最高の国を最高以上に想ってもらえるようにしっかりとプレゼンしてやんよ」

「じゃあな婆さん、祭りも近いんだよく食ってよく寝ろよっ!」



 笑顔で手を振る勇者だったが、振り向いた拍子に子供にぶつかってしまう。動きを止めたリンクヘッジに追撃のように複数人の子供達が飛びつき、群がってくる。



「リンクヘッジだ! 倒せ倒せ!」



「不良勇者が出たぞー!」



「広場行こうぜ! 遊ぼう遊ぼう!」



「ガキ共ぶっ殺されたいのかっ!? 人通りの多い所ではしゃぐなっていつも言ってんだろうが危ないだろうっ! あぁそこ段差あるからっ!!」

「今は仕事中だクソがっ!! 後で行くから先広場言ってろっ! 転ぶなよっ!!」



 両腕に子供をぶら下げクルクル回り、慣れた様子で子供達を捌いていく。そして子供が去っていけば通行人が話しかけてきて、それが終わればまた別の人が寄ってくる。見ていれば分かる、この勇者は国のみんなに好かれている。心の波紋を読まなくても、裏表のない真っ直ぐな良い奴だと確信出来た。



「俺の理想の勇者像の一つだよ」



「ふん、嫉妬しちゃうな、嫉妬しちゃうよ、随分とまぁ好かれてるね」



「レヴィ駄目だぞ、ただでさえ小さいのに小さい事言っちゃ駄目だ」



「セツナの命知らずな言動にはもう慣れたよ、けど毎回毎回レヴィをイラつかせるその手腕は褒めるに値するよ」



 視界の端でレヴィに背後を取られ、くすぐり攻めを受けるセツナ。表情を一切変えぬ無表情切り札の笑い声が響く中、クロノはリンクヘッジの隣に並ぶ。



「全部聞いているんですよね、今回の作戦」



「無論だ、作戦会議にも何度か顔を出しているぜ」



「一番でかい囮は大罪の悪魔だけど、この国と大事なお祭りを利用してるのは間違いない……本当に良いのか?」



「王も承諾した、俺も納得した、今更そこを振り返る気はないさ」

「全部話した、全部ぶつけた、俺達はお前達を理解し認めた、考えも想いもだ」

「気遣ってくれるのはありがたいが、そう気を張る必要はねぇさ……お前は俺達を説得して手を繋いだお前の仲間を誇らしく思えば良い」

「『礼儀』の名に置いて、俺はお前達の味方だと誓う、そしてこの国の専属勇者として、全てを守り通すと誓うぜ」

「それでも背を預ける事に不安があるのなら、俺もお前個人と向き合おう、お前の根っこを聞かせてもらう」



 そう言って、リンクヘッジはクロノの額を指差した。正確には、ルーンの鉢巻を指差した。



「その鉢巻、死んだ勇者の証だな…………それだけじゃない、懐にもう一つ死んだ証を持っている」

「偽勇者であることを隠しもしねぇとは、後ろめたさはねぇのかよ」



 返答次第では、クロノは捕まる可能性がある。決まった罰があるわけではないが、取り締まる者が危険性を感じれば、明確な取り決めがない分どう裁かれるか分からない。だからこそ、偽らない。



「どっちも友達との約束なんだ、そこに後ろめたさは感じない」

「偽勇者と呼ばれても、俺はこれと歩んでいく、戒めとして、覚悟としてな」



「ほぉ……」



 目は逸らさない、視線がぶつかり合い、数秒後にリンクヘッジは笑ってみせた。



「友に胸を張れない生き方は、しないってか」



「だからここにいる」



「なるほど、狂ってやがる」

「俺も正義に狂ってる、だからこそキマっちまってる奴は目で分かる……全てとは言わないがお前の事は理解出来たぜ」

「俺のでかい背中を、預けるに値する男だ」

「正義を振りかざして大暴れするバッカ野郎共に、拳骨してやろうぜ」



「……あぁ!」



 互いに拳をぶつけ合い、互いの信頼度をプラスする。クロノ達はその後もリンクヘッジの案内で楽しい時間を過ごすのだった。





「ラーナは良い国一度はおいでっ!! って話ならここは外せねぇんだよなああああああああああっ!」





 そしてひとしきり街の案内が済んだ頃、リスクヘッジに連れられてきたのは大きな広場だった。街の中央に位置する広場は不思議な淡い光に包まれている。



「ここは地面の下に特殊な魔法陣が仕込まれたラーナ仕様の特別な広場さ、祭りの時はここに特殊ステージが組まれる」

「聞いて驚け見て騒げ、だけど転ぶなお身体大事に、そんな広場さ一度はおいで」



「ふぎゃあ!」



「転ぶなって言ってんだよ! っていうか何もないとこでなんで転んだ!?」



「セツナは何処でも転ぶし目を離すと死にかける異常体質だから放っておいていいよ」



「良くねぇがっ!? 気になるがっ!?」



「私も流石に毎回毎回こうだから自分で慣れてるけど、それはそれとして横で鼻血出してるのにスルーされると泣きそうになるぞ」



「一応俺も感知力の半分くらいはセツナに割いて危ない時フォロー出来るような距離にいるんだけど、それでも対応しきれない速度と頻度で転ぶのもう才能だぞ?」



「そんな困った顔されても一番困ってるの私だが?」



 涙目の無表情切り札の鼻血をティッシュで吹きながら、クロノは本気で悩んでいた。自分でも結構強くなってきたと思ってるし、常人の数倍の速さで動けるし反応出来る自信もある。なのにラーナに来てからセツナは十回以上転び、四回も救う事が出来なかった。ここまで来ると流石に何かがおかしいと思うし、今後雪祭り中にセツナを無傷で守り切れる自信が無くなってくる。



「困ったな……セツナは死んじゃうかもしれない……」



「鼻血を拭いながらなんてことを言うんだお前は、そんな真剣な顔で……」



「だって雪祭りだよ? 滑ったりして危ないんだぞ、それに寒いし」



「ふっふっふ……ご新規さんだな少年、ラーナフルーレは初めてかい」

「さっき言ったがこの広場は魔法陣の影響下なんだ、効果はこの広場内の雪に反応して発動する」

「雪の特性を書き換える魔法陣でな、まぁ詳細は長くなるから省くが……この広場内は外に比べて滑りにくいし寒さも軽減される、そしてここの雪は溶けにくいから祭り中は雪像が沢山並んで壮観だぜ?」



「それは楽しそうだけど……雪が無くてもセツナは転ぶから……」



「お、おう……なんかすまねぇな……俺も気にかけておくからよ」



「これはセツナのお墓を雪で作らないと駄目かもね、レヴィ頑張る」



「もっと違う方向で頑張ってくれ」



「でもセツナの記念すべきファーストダウンはレヴィの雪玉で達成したいよ、それまで死なないようにして欲しいよ」



「頑張る方向の軌道修正が難しいぞ」



「なら軌道修正も兼ねて、そろそろ良い時間だし向かうかね」



「ん? 何処にだ?」



「まだまだ案内し足りねぇが、この後予定がな」

「お前等も関係者だ、一緒に行こうぜ……大事な大事な作戦会議の時間だからな」



 楽しい時間に一区切りし、真面目な時間がやってくる。戦いに向け、備える時だ。



「お前等の仲間達も観光がてら、国を見て回ってる……祭りの時は人の巡りも変わるし流れが変われば死角も変わる」

「俺含め国の勇者も目を光らせるが、死角をゼロには出来ねぇ、どうしても隙間は生まれる……そこを流魔水渦の数で埋める……祭りで膨れ上がる一般人達に被害を出さねぇ為に手は抜けない」



 どれだけ綺麗に言っても、国全体を囮のようにしているのは変わらない。被害は絶対にゼロにする、しなければならない、それは最低限の必須事項だ。それが保証できねば、この作戦は決して通らない。



「どこも手が足りねぇこの状況、我が愛弟子はどこをほっつき歩いてんだか……」



「愛弟子? リンクヘッジさんに弟子なんて居たっけ?」



「大っぴらにはしてないけどな……何年か前に子供を保護してなぁ」

「酷いもんだったぜ、村中ボロボロ、人はみんな殺されてた……そんな中見つけたたった一人の生き残りの女の子だ、惨いことにまだ小さいのに片目まで失っててよ」

「放っておけずにいたが……その子もまた俺の後をついて回ってきてなぁ……気づけば弟子と呼んでいた」

「世間一般じゃ良い目で見られない闇魔法の使い手だったが、何処に出しても恥ずかしくない正義の子に育ったよ……いや、別の方向性でちょっと恥ずかしいが……」



(片目で闇魔法使い……ん?)



「腕試しに天焔闘技大会に出てから帰ってこねぇんだあの馬鹿弟子、いや手紙は滅茶苦茶送られてきてるから元気にしてんのは分かんだが……」



「あれ、それってレフィアンさんじゃないか?」



「おぉ流石大会準優勝、知ってくれてるか?」

「友達が出来たって聞いてんだが、今は流魔水渦と一緒に活動してるんだろ? この際一回戻ってきて欲しいんだが……」



「なるほど……連絡しようと思えば出来ると思いますよ」

「ちょっと後でやってみますね、来てくれるなら頼もしいし」



「元気にしてんのは分かる、分かるんだが……たまには顔出せってんだ全く……あの厨二馬鹿が……全く……」



 隣で頭をガシガシしている勇者が父親の様で、なんだか面白い。縁が絡まり、この地に集う。大きなうねりとなって、世界を揺らす。花咲く吹雪の中、最後に残るは誰の正義か。



 その目が映すのは、陰りか輝きか。



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