表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十四章 『星の海、想い散りばめ』
871/876

第八百二十話 『スタートを同じくして』

 帰り道、マーキュリーは終始無言だった。一言も発せず、ただ先頭を歩いて(泳いで?)いた。クロノはまるで警戒をしていないが、行きの道中散々な目に遇わされたセツナはクロノを盾に警戒態勢を解かない。



「物凄く静かになったぞ、一体何を企んでいるんだあいつは……」



「色々感情の整理が必要なんだろ、俺もそうだったし」



「クロノも? 今一切り札はピンとこないぞ」



「ピンと来ない方がいいんだよ、大事な奴が居なくなる……そんな経験しない方がいいに決まってる」



 辛くて、悲しくて、苦しいから思い出したくもない。だけど、いつまでも忘れられずに胸を締め付け続ける。そんな思い、しない方がいいに決まってる。



「……でも、私は忘れて、思い出せなくて、きっとそれに似た痛みを沢山の奴に与えてる」

「私自身、忘れて自覚できてないだけで……数えきれないくらいそれと似た経験してると思う」



「そう思うときっついなぁ……」



「それに、クロノはその痛みを抱えてるんだろう?」



「畳みかけるように一気に来たんだよ、最近さ……そりゃもう一気に……」

「きっと、大人になっても忘れない」



「……なら、この先で私が同じような経験をしても頑張って顔上げる事にするぞ」

「クロノがあの暴力野郎と戦ってるの見て、なんとなく私もそう頑張ろうって思ったんだ」



「えらいえらい、立派な切り札になるんだぞー」



 雑に切り札の頭を撫でまくり、色彩が変わり続ける虹のような髪をボサボサにしてやる。オマケで頭にエティル、背中にティアラを装備させ、クロノの甘やかしは完遂した。



「ちょっと待て何だこいつ等は!」



「サービスだよサービス、精霊使いの苦労を体験できる無料サービス」



「苦労って聞き捨てならないけど……とりあえずエティルちゃんはサービスで髪を編み編みしてあげましょう」



「じゃあ……私は……サービスで、背中、冷やすね……」



「海中でひんやりさせるなぁ! っていうかこいつ秒で寝息立て始めたぞ!?」



「平和だね」



「平和か? まぁ我等が契約者も満足そうだしいいけどよ」

「んで、王の条件は結局達成出来たのか? そいつに認められることが条件だったろう」



 フェルドはわざとマーキュリーに聞こえるように話す。認められるの定義が曖昧過ぎる為、実際どうなのかはマーキュリーに委ねられているのが現状だ。



「俺がぶち殺されてないのが答えじゃないか? まぁなんとでも伝えようはあるけど」

「なんせマーキュリーさん、口喧嘩弱そうだし」



「喧嘩売ってるなら買ってやるぜ、今ディープに考え事してんだから黙ってろ」



「いつでもお買い得だよ、サービスもしちゃうかも」



「口の減らねぇクソガキだな、俺がテメェに心を許す事は絶対にねぇよ」

「ただ、このまま帰ってお前の好き勝手に脚色されるのは不快だ」



 そう言って振り返ると、マーキュリーは勢いよく何かを投げ渡してきた。受け止めると、クロノの手のひらには魔核が収まっていた。目を凝らして見れば、明らかにマーキュリーの纏う力は小さくなっている。



「…………お前」



「勘違いするな、テメェの為じゃねぇ……それを見れば他の奴等は都合よく納得するだろう、今回はそれでいい」

「俺はやり直す、ネーレウスと同じように魔核を生み、弱化したこの身で一から鍛え直す、心も身体も一からだ」

「そして満足出来たら、またテメェをぶっ飛ばしにいく、人が海に来るのは不快だから俺が地上に行く……テメェはそれまで魔物が変な目で見られないように場を整えておけ」



「……あぁ、共存の世界を成すよ」

「けどいいのか? 有利な海でも勝てなかったのに、地上で俺に勝てるのかよ」



「舐めるなよ、鍛え直した新生俺様はテメェを凌駕してるさ」



「そっか、期待しておくよ」

「ネーレウスより強くならないと、相手になんねぇぞ」



「ハッ! 超越してやろうじゃねぇか! 俺はあいつの全てを超えてやるよ!!」

「魔核を生んで身体がクソ重いしだるいが、この弱化感すら面白ぇ……これを乗り越え俺様は強くなる!」

「二度と俯かねぇ、そんな暇はねぇ、俺様は前に進むんだ!!」



「そっか、良いんじゃないか?」



「なに他人事みてぇに落ち着いてんだぁ!? テメェも気合い入れろやクソが!」

「共存の世界とかアホみてぇな理想が、そんな腑抜けた感じでやれると思ってんのかぁ!?」



「噛み締めてたとこだよ、襟元正して気合も入れてたところだ」

「また繋がりが増えたから、俺の原動力がまた増えた」



 何やらハイテンションなマーキュリーと辛口を叩き合いながら、クロノ達は帰路についた。出迎えてくれたネプトゥヌス達は、マーキュリーが魔核を生んだことに対しひっくり返るくらい驚いていた。



「嘘よ! 大荒れの前兆だわ!」



「嵐が来ます、クロノ君すぐに城の中へ……!」



「え、魔核って事は……今度こそしっかりお兄ちゃんより弱くなったってこと!?」



「いや、それよりも医者を……腐っても北の王族、病の類が見つかれば大事に……」




「無礼も大概にしろやクソ共があああああああああああああああああああっ!!」

「あと地味に心配の欠片もしてねぇ奴が一匹いるんだがっ!?」




 ある意味で大荒れかもしれない、日頃の行いもあるだろうが愉快な反応を貰ったものだ。口論を続けるマーキュリー達を引き連れ、クロノは再び西の海を治める王の御前に辿り着く。



「戻ったか、随分と賑やかなものだ」

「その様子だと、マーキュリーとは決着がついたのかな」



「言いたい事はお互い言えたかなって……未来への投資もしてもらった」



 そう言って、魔核を見せる。それだけで伝わる、それだけ魔核生み、託す事は特別なんだ。



「そうか、マーキュリーがここまでするとは」



「勘違いするなよな、俺様は俺様の為にやったんだ」



「未来の喧嘩の為だもんな」



「そうだ、そいつをぶっ飛ばす予約みてぇなもんだぜ」



「俺をぶちのめす為に今後努力は惜しまないそうだ」



「そうだ、テメェをぶっ飛ばす為に俺様は今まで以上に鍛錬を重ねるぜ」



「そうだ、俺達は後日ラーナフルーレのお祭りに行くんだけど……共存も兼ねてどう? 来ない?」



「行くわけがねぇだろうがぁっ!! 気安いんだよテメェはっ!!」



「そっかぁ、知り合い沢山誘ってんだけどなぁ……人も魔物も関係なく集まるんだけどなぁ、天焔闘技大会の時みたく世界に与える影響も大きくなると思うんだけどなぁ、共存の世界に近づくと思うんだけどなぁ」



「気が向いたら行ってやるよぉっ!! 滅茶苦茶にされても文句言うなよクソガキッ!!」



「と、このように仲良くもなりましたよ」



「なってねぇっ!!!」



 実際ラーナフルーレでは神聖討魔隊サンクチュアリナイトを誘き寄せ、戦闘が予測されている。大罪達が最大の囮ではあるが、魔物が集えばその分可能性は上がる。流魔水渦を核として多くの者に誘いがかかっているが、クロノ個人で知り合いに声をかけるのも悪くはない。魔核を生んだマーキュリーは戦力にはならないが、いざという時は絶対に守り通す。失うことを恐れ、足を止める事はない。そんな事をすれば、地獄から触手でぶん殴られる。もう二度と零さない、そう決めたんだ。



「流石、ネーレウスが選んだ人間だ」



「ただの変人ですよ」



「さて、認める認めないの話は終わったわけだが……君は何をしにここに? ネーレウスの件なら……」



「そうですね、ネーレウスの話をしに来たのもあるけど……一つお願いがあって来ました」



「はて?」



「何かあったら、ここに遊びに来ても良いですか?」

「これからも、何度でも」



 この先どれだけ時が進んでも、想いを繋ぐために。誓いを、忘れないために。



「…………あぁ、いつでも来なさい」

「誰にも文句は言わせない、歓迎しよう」



「ありがとうございます」



「いつか正式に地上と盟約を結べる日が来ることを、楽しみにしているよ」



 言葉と想いを交わし、クロノは心残りを未来への希望に変えた。原動力を手に入れ、心は速度を上げていく。決戦を前に、準備は万端だ。



あ、こいつ祭りに来ます。見せ場もあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ