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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十四章 『星の海、想い散りばめ』
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第八百十六話 『大荒れを招いて』

「あ、お兄さん……」


「起きたとは聞いていたけど、とうとうここまで来ちゃったのね」


「よりにもよって、部外者が私達の領域を荒らしている最中にですか」



 城にはネプトゥヌスの妹達がいた。彼女達は揃ってクロノの後方にいるマーキュリーを睨んでいる。



「礼儀ってもんがなってねぇなぁ、俺はテメェ等の主に客人として招かれてる立場だぜ?」



「なら貴方自身がその客人としての立場というものを理解し慎むべきでは、そもそも我等は主に礼儀を欠く事に定評がありますので」



「威張れた事じゃねぇんだが!?」



「至極真っ当な意見だ……そういえばネプトゥヌスさんもアクアさん達もネーレウスと遠慮なく喧嘩してたよな」



「ははは、お恥ずかしい」



「友達みたいな距離感だったな」



「…………本当に、お恥ずかしい限りだ」

「結局、僕等は役目も責任も果たせず、全てを君に背負わせた形になった」

「クロノ君、ここに君を恨む者はいない、責める者もいない、変に緊張とかはしないでくれ」



「してないし、大丈夫」

「しなきゃいけない事を、しに来ただけなんだ」



(淡々と話が進んでいくが取り巻く空気についていけず沈黙を貫く切り札)



 極限まで存在を薄めつつ、セツナはクロノの袖を掴みながらついてく。油断するといつの間にか置き去りにされそうな空気を、切り札は正確に感じ取っていた。



「けっ、人間に気を遣うなんざ王家の恥だぜ」

「そうやって王の元へ人間を案内するなんざ、他の海のもんが見たら失神ものだぞ」

「王家の娘の死因である人間を、よぉ」



「口を慎んだ方が宜しいかと」



「ネーレウスは俺を守って死んだ」



「クロノ君……!」



「そこに間違いなんてないから、ネーレウス自身がそれを誇ってくれているから…………だから俺も目を逸らさない、偽らない、ずっと背負って進んでいく」



 廊下を抜け、王座の間らしき場所に辿り着く。こういった場に来るのも何回目だろうか、王様居そうだなって場所に察しがつくようになった。そもそも、ネーレウスに似た気配を感じていたのだ。だから、その主にも聞こえるように話したのだ。



「だから、俺は貴方に会いに来たんです」



「話は聞いている、娘は君の為に生き、死んだと」

「初めましてだなクロノ君、私は西の海を治める者、ケアノスの名を継ぐ者だ」



「…………」



 こう言っちゃなんだが、力の気配は似ているがそれ以外はあまり似ていない。ネーレウスは黙っていれば美人で気品すら感じたが、ほぼ常に暴走していた為色々ととっつきやすさもあった。目の前の男の人魚からは、威厳のような圧を感じる。



「君の話はネプトゥヌスの妹達から沢山聞かされたよ、彼女達の無茶にも随分付き合ってくれたようだな」



「そういえば三姉妹全員のあれこれに付き合った気もしますね、お兄さんの嫉妬にも」



「君も言うようになったな……」



「遠慮する方が失礼かなって」



「敵わないなまったく……」



「アクア達からお前の嫉妬騒動もちゃんと聞かされたからな、お前も昔から難儀な性格だ」

「その難儀な性格のお前に、私は昔から重荷を背負わせたな」

「血は争えん、娘も人と関わり、私と同じように狂わされたわけだ」



「狂ったなんて……」



「あぁすまない、言い方が悪かった」



「いいや狂ってるぜ、人の言葉に賭け海のあれこれを歪めてるあんたのやり方は他の海からすりゃ異常だ」

「ネーレウスはそいつを守って死んだだけじゃねぇ、聞けばそいつに魔核を託したらしいじゃねぇの」

「魔核さえ生んでなけりゃ、たかが人間の退治屋なんかにあいつが負ける筈ねぇんだ、そいつのせいで死んだんだぞ!」



「魔物にとって魔核を託すという行為自体が異常行為、魔王へ至る道を自ら差し出す事だからな」



「じゃあ俺の知り合いは魔物的に反逆者?」



 手元にある4つの魔核を見せ、クロノは王に意見を求める。マーキュリーは4つの魔核を見て絶句、王は目を細め、薄く笑う。



「私を狂わせた人間も、勇者でありながら魔物に対し距離が異常に近かったものだ」

「妻を失い、娘は自分の身体を嫌い夢を追う、私は激流のようにうねる環境に疲れ切っていた」



「ネーレウスのお母さんは亡くなってたのか……」



「自分より強い力を持つ子を産むと母体に負担がかかるのだ、魔物にはよくある話だがそれでも辛い」

「混血のリスクが高いのはそう言った理由もある、混血は力が増しやすいから母体にも生まれてくる子にも危険が孕む」

「種が離れていたり、力に大きな差がある夫婦には悲劇が待ち受けやすい……大きな力と共に受け継ぐことになる王や長の名を冠する者は特にそうなりやすい」

「妻はネーレウスを生んですぐに亡くなった、生まれてきたネーレウス自身は健康だったのが救いではあるが……強すぎる力は枷ともなった…………魔核個体にも差はある、あの子は強すぎた」



 出会ってすぐネーレウスは魔核を託してくれた為、彼女の本気は最初の一戦でしか味わっていない。それも泣き叫び、自棄になっていた状態のネーレウスをなんとか無茶をして止めた形だ。クロノは、ネーレウスの全力を知らない。だけど魔核を生んだ後でも彼女の再生力の異常性は目にしている。今のクロノはあの時よりずっと強いが、それでもこう思うのだ。全力のネーレウスに勝てるかどうかで言えば、今のクロノでも怪しいと。四天王や大罪の悪魔、かなりの大物と出会ってきたから比較できる。ネーレウスは恐らく、クロノの出会ってきた強者の中でも相当な上澄みだ。



「苦しみ、悩み、私は人間に、友に救われた」

「同じように苦悩した娘が、人に憧れ、その果てに救われた事を悪く言える筈もない」

「君は娘の最後を目の当たりにしたそうだな、辛そうにしていたか?」



「最後のその瞬間、ネーレウスは笑ったんだ」

「地獄まで会いに行っても、謝る事すら許してくれなかった、むしろあっちが謝ってきてさ」

「俺のせいなのに、俺のせいで死んだのに、幸せだった、救われたって……ありがとうって……」

「だから嘘にするわけにいかないんだ、背中を押してもらってウダウダしてらんない、人と魔物の共存の世界、俺の夢を絶対に叶える…………あいつに対してのありがとうを、絶対に形にしてみせる」



「……最後に笑えたか、あの子の笑顔なんてずっと見ていなかったのにな」

「なら私から言える事は……」



「浅い浅い浅いっ!!! 嘘か真か確かめようのない言葉で何を納得しようとしてる!!」

「何が笑っただ、何がありがとうだっ!! 何の証明にもならん、何も帰ってこない、失っただけだっ! あいつは異常者だが、強者だったのは確かだ! 人の為に海の力が失われた!!」

「海の者として、お前はそいつを裁く義務があるっ!!」



 声を荒げるマーキュリーだが、後方で控えていたネプトゥヌス達が殺気に近いモノを纏い始めた。部外者を力尽くで引っ込めようと動くが、それより早くクロノが動く。



「あぁ、だからここに来た」



「はぁ!?」



「…………確かにネーレウスの生き方について、私から言える事はもうない」

「親として、私はネーレウスの意思を尊重しよう……ここからは王としての言葉」

「マーキュリーの言う通り、損失の件はある、真偽の有無もだ……ネーレウスが信じるのと私が信じるかは別の話……君が信じるに値するか確かめなければ話は進まない」



「…………実は今回、俺は恩人の為に海の観光も兼ねて来たんだ」



 そう言って、クロノはすぐ隣で袖を掴みながら存在を消していたセツナを引っ張り出す。



「ぎゃあ!? なんでここで切り札!?」



「星の海に、行ってみたいんだ」

「けど場所が分からない、案内が欲しいんだ」



「テメェ狂ってるのか!!? この流れで観光だぁっ!?」



「なるほど、そういうわけか」

「よしマーキュリー、その案内役を其方に任せよう」



「なぁんでだよっ!!? そもそも俺は北の王子、西の命令なんざ受けるわけが……」



「『今』の星の海は北に近い、それに道中は好きにするがいい」



「…………! へぇ……何が起きても、どうなっても構わねぇってのか?」



「君の納得出来る方法で、存分に試すといい」

「これでいいな? クロノ君」



「あぁ、ありがとう」



 お礼を言うクロノに対し、ネプトゥヌスが声を上げる。



「クロノ君! その無礼者が素直に案内するわけがない! 危険です!」



「お前の口の利き方の方が危険だってんだよぉっ!!」



「良いんだ、むしろ好都合だよ」

「ネーレウスの事で俺を嫌う奴が居てくれて、本当にありがたいんだ」



「…………はぁ?」



「あいつは優しすぎて、周りも優しすぎて、ダメなんだ」

「俺自身が許せてないのに、周りが許していく、あいつ自身も怒ってくれなかった」

「そう簡単に許されちゃ、ずっとずっと残るから、前を向いても、背負い直しても、どうしても残る物があるから……思いきりぶん殴ってくれる奴も、必要なんだ」

「マーキュリー、北の王族って言ったよな……俺が嫌いか」



「死ぬほど嫌いだね」



「じゃあ、俺はお前と共存する」

「夢の為に一歩を進める、それが出来れば信じるに値すると……王にも示せる」



「あぁ、マーキュリーを納得させることが出来れば私も認めよう」



「それを目の前で言われて、俺が認めると思ってるのか?」

「ディープじゃねぇな人間、ぬるい、ぬるいぜ考え方も生き方も相容れねぇ……精々観光気分でおちゃらけてろよ、無事に陸には戻れねぇぞテメェ」



「ならディープなプランを期待するぜ」



「抜かせ」



 視線がぶつかり、火花が散る。星の海を目指し、穏やかじゃない道中が確定する。それを理解し、セツナは思う。




(私、完全にとばっちりなのではっ!?)




 こうして切り札を巻き込み、クロノにとって避けられぬ戦いが始まったのだった。



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